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新婚生活。

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 スティーブ様との結婚生活はとても……気楽だった。
 何も求めていない………から。

 お義母様はわたしに仕事を押し付け楽しく社交に精を出す。

 ーーしっかりと公爵夫人になるための勉強はしていたので難なくこなせる。

 お義父様は公爵としての仕事をこなしながら愛する人の元へ。

 ーーわたしには全く支障がない。ま、おっさんのくせにとは思う。わたしのお父様だったら許せないけど他人なのでどうでもいい。

 エディ様はまだ学生なので勉強に励む。

 ーー休みの時はわたしとたわいもない会話をしてくれる。おかげで気分転換になる。

 スティーブ様は………お義父様に仕事を教わりながら公爵家お抱えの騎士団で剣術に励んでいた。

 ーーほとんど接触しないのでこちらもわたしには支障はない。だけど一応夫なので仕事上会話はある。

 そして週に一度はイザベラ様が屋敷に来て楽しそうにお義母様と過ごしている。そして「スティーブ!」とやはり学院にいる頃と変わらない光景がそこにある。

 ーーこっちはかなりストレスになる。
 毎回わたしに対してマウントを取ってくる。

「あらセレン様?おしゃれする暇もないの?スティーブが悲しむわよ?」わたしの姿を見てクスッと笑う。

「おしゃれしても仕事は捗りませんから。それよりも動きやすくて働きやすいのが一番です!」
 シンプルなワンピース。これがこの屋敷で仕事をするわたしに取っては一番いい。

「スティーブ、あなたの奥様って愛想もないのかしら?あなたの幼馴染が遊びに来ているのに笑顔もないのよ?怖いわ」

「セレン様ぁ、このイヤリング素敵でしょう?スティーブに誕生日のプレゼントでいただいたの」

 髪の毛を掻き上げてわたしに嬉しそうに見せる。


 ーースティーブ様とは白い結婚でイザベラ様との再婚までの繋ぎ。


 そう思ってこの屋敷では「無」になって過ごす。


 そんなわたしにいつも侍女のサリーは花を飾ってくれる。
 最近はずっとブルースターの花。そこに可愛いかすみ草。

 お母様が大好きだった青い花。

 心遣いにいつも感謝した。

「サリーありがとう」

「………あ、いえ、喜んでいただけて嬉しいです」

 お礼を言っても彼女は謙虚ですぐに口籠ってしまう。だけど、わたしはとても嬉しい。

 強がっていても心は疲れているみたい。

 わたしは執務室から持って来た残りの仕事を終わらせるべく、自室で帳簿と睨めっこをしていた。

 公爵夫人であるお義母様が予算以上にお金を使いすぎだとわかっているのに、これを止めることができない。

 しかし使い過ぎたお金の皺寄せが使用人達の給料に出始めている。このままでは使用人から不満の声が出る。

 これはわたしの落ち度ではない。

 公爵家自体はかなり裕福で蓄えもある。

 しかし莫大な税金の支払い、いざという時のお金の蓄えもとても大事。

 あるからと使いまくるわけにはいかない。

 予算内に収めることは公爵夫人としての力量でもある。それすら出来ていないと言うことは……能力すらないと使用人からも侮られることになる。

「お義母様はわかっていてわざとお金を使われているのよね」
 帳簿を見ながら思わず心の声が出てしまった。

 使用人達の給料を減らした状態でわたしに全ての仕事を投げた。

「うーん、どうしよう。お飾りの妻が出来ることって少ないのに」

 とりあえずわたしに使われる予算を使用人達の減らされた給料に回すことにした。

 別に新しいドレスも宝石も必要ない。

 でも、新妻の予算なんて大したことはない。

 これを離縁するまで続けても足りない。

 スティーブ様に泣きついたところで助けてもらえるか?

 わたしはお義父様の執務室へと向かった。

 お義母様も嫁が公爵家当主に直談判するとは思わないだろう。


「失礼致します」

「うん?セレン?どうした?何かわからないことがあるのか?」

「はい」

「公爵家内で使われる帳簿に目を通していたのですが、以前よりかなり金額がオーバーしていまして、わたし自身の予算を補填しても間に合わない状態になっています。
 調べてみますと使用人の給金の額が減らされております。今はまだわずかな減りですがこのままいくとみんなからの不満は増えていくと思います。
 まだ嫁いで三月しか経たないわたしでは抑えることは難しいかと……」

「見せてみなさい」
 わたしはお義母様の無駄遣いのわかる帳簿を見せつつ、別紙にわかりやすく全て書き出したものも見せた。

 しばらく黙ったままお義父様は見ていた。

「………妻の予算を増やそう」

 ーーあ、そっちの対処をするのね。注意はしないんだ。

「ありがとうございました」

「スティーブとは仲良くしているのか?妻が君たちは早く結婚をしたいと急かしたと聞いている。愛するもの同士結婚させてあげられてわたしもホッとしているよ」

「はい⁈」

 思わず変な声が出てしまった。

 わたしはお父様に無理やり嫁ぐように言われたのに。

 とりあえず適当に愛想笑いをしてその場を去った。











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