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癒しの魔法。
最近は仕事が落ち着いてきた。
大きな予算を組む仕事もなく通常通りの仕事だけこなせばいい。
「リィゼ、休憩しましょう」
「そうね、ひと段落ついたし食堂に行っておやつの時間にする?」
「うん」
お昼の休憩の後のおやつタイム。
これも第二王子のおかげ。
殿下があまりにも『人手が足りない』『予算が足りない』と言うのを知って、現状をなんとかしようと財務大臣に掛け合って来年度からの予算を引き上げてもらえるようになったのだ。
今年度は予備費から足りない分のお金を出してもらえることになった。
もちろんたくさんの資料と帳簿を提出して目を通してもらった結果でもある。
殿下と仲良くなってよかった。
室長も最近はご機嫌。人員も増えて休憩時間も貰えるようになった。
おかげで、わたしの癒しの魔法も治療の時痛みがさらに軽減された。
騎士団員は生傷が絶えない。
いくらでもわたしの練習相手がいる。
いや湧き出てくる。
今日も今日とて、せっかくのおやつタイムを奪われた。
「セレン、頼む。こいつの肩を治療してくれ」
「わかりました」
団長達数人で運んできたのは酷い裂傷でお腹から血を流している騎士だった。
わたしはすぐに治療に取りかかった。
「すぐに治りますからね。少しだけ痛いけど我慢してくださいね」
完全に治療の時の痛みを取り除くことまではできないけど、かなり改善されたと思う。
剣で刺されて開いた傷口に手を翳してそっと魔力を流していく。
怪我をした騎士さんは流石に痛そうにはしていたけど声を出すほどではなかったみたい。
「うん、もう大丈夫です」
「セレン休憩中にすまなかった……もしよければ……」
途中で口籠る団長に「何かあったのですか?」と聞くと
「街中で暴動があったんだ」
「えっ?」
「今騎士団が応援に向かっているんだが、怪我人が増えそうなんだ。医者達も向かってくれているんだが、何せ君のその力はこの国では珍しい。本当に必要な人だけでいいんだ、助けてはもらえないだろうか」
隣で話を聞いていたリィゼが不安そうに聞いてきた。
「セレン、いくの?」
わたしはとりあえず話を聞いた。
「暴動とは……どうして起きたのですか?」
「今年は北の領地の気温が異常に低かったせいで農作物の育ちが悪くなる冷害が起きたんだ。それだけでも大変なのに、そこにストマの感染が流行して亡くなった人もいる……国の対応の悪さに怒った領民達が王都にやってきて暴動を起こしたんだ」
「暴力はいけないわ……だけど原因があるのね。わかりました。ただ……たくさんの人前では……」
「わかっている、野営のテントを張るように手配している。もし顔を知られたら君の力を利用しようとする者もいるだろう。すまないが君には布をつけてもらい顔を隠してもらう」
「ありがとうございます」
わたしは今まで力を使う時は決まった人達の前でしか治療をしていない。
人の目に晒されるのは少し怖かった。
それに多少治療にはまだ痛みも残っている。それによりイザベラ様の時のように痛がられて文句を言われるかもしれない。そう思うとつい気が重くなる。
馬車に乗り込んでからわたしは言葉を発しないでいた。
どこまで治療が出来るのか。
流石に不安が募る。
団長も声を掛けずにわたしの考え込んでいるのを黙って見守ってくれた。
「着いたぞ、セレン、一人で背負わなくていい、命に関わる者だけを連れてくる。完全に治さなくてもいいんだ、死なない程度に治療してやってくれ」
「わかりました」
馬車を降りて野営テントまで行く間に目に映るのは、あっちこっちで怪我して倒れている人達。
まだ暴れている人たちを取り押さえている光景もあった。
暴動に巻き込まれた子供がいた。
「団長、待ってください」
わたしが足を止めると「セレンどうした?」とわたしを振り返った。
「あそこに子供が倒れています」
指を差した方向には、10歳くらいの女の子が怪我した弟を庇い建物で動けなくなっていた。
「行くぞ」「はい」団長とわたし、そして数人の騎士達と子供達のところへ向かった。
途中激しい小競り合いをしている横を通り過ぎた。
「こぉのぉ、クソ野郎、お前達のせいで俺たちは何人死んだと思うんだ」
「みんな俺たちと同じように苦しまないとわからないだろう」
そんな悲しい辛い声が聞こえてくる。
暴動を起こすことは悪いこと。だけど限界まで必死で耐えてもうどうしようもなくなり暴力に訴えたのだろう。
そして子供達のところへ行くとぐったりした小さな男の子が頭から血を流していた。
「どうしてこんな酷いことに……」
思わず口に出してしまうと
「逃げようとしたんです。そしたら大人が邪魔だ退け!と言って弟を蹴ったんです、それで壁に頭を打ちつけて…」
泣きながら必死で「だれか助けてください」と訴えてきた。
「弟くんの名前は?」
「クリスです」
「わかった、クリス、すぐに治してあげるからね」
わたしは出来るだけ優しくそっと力を流した。
『この子の怪我が治りますように』そう願いながら。
意識がなくぐったりしていた男の子は顔も青ざめていた。出血が酷く今医者に診てもらってもこのままでは助からないだろう。
緊張しながら治療をして数分……
ぐったりしていた男の子の顔色に赤みがさしてきた。
傷も塞がり目を開けた。
「おねえちゃん……」弱々しく姉を呼ぶ声に女の子は大泣きしながら「クリス!」と言って抱きしめた。
「おねえちゃん苦しい」と言っている二人の姿を見てホッとした。
「団長急いでテントに向かいます」
わたしは騎士一人をその場に置いてテントへ向かった。
テントにはもう何人もの怪我人が運ばれてきていた。
街の人、暴動を起こした人、騎士といろんな人が怪我をしていた。
その中に豪華なドレスを着て「わたしを早く治しなさい」と威張ってわたしに命令する人がいた。
イザベラ様とよく一緒にいた友人の一人だった。
確かに足を怪我しているようだ。痛いだろうとは思う。だけど目の前にはもっと酷い怪我をした人がいる。
特に血が流れている人は危険だ。
わたしはその威張っている令嬢は無視して
「怪我のひどい人から始めます」と言って治療を始めた。
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