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貴方は?苦手な人。
魔導士様にお墨付きを貰い、晴れて診療所で『治療師』として働くことになった。
最近は以前働いていた騎士団のみんながよく治療という名の暇つぶしに顔を出しに来る。
「セレン、足を捻った」
「打撲で腰を打った」
「最近頭が痛いんだよな」
どうみてもわたしの治療対象ではない。
「それは普通に診療所で薬でももらってください」
と毎回治療をお断りしている。
「えー?せっかく会いに来たのに?ずっと意識が戻らない間みんな心配していたんだ」
「事務室に行ってセレンが居ないから寂しい、ここに来れば会えるんだ。いくらでも怪我して会いにくるよ」
「いやいや、そんな怪我ばかりしなくて結構です。みんな会いに来てくれるのはとても嬉しいですけど、お仕事に集中しましょう」
こんな会話が増えてきた。
最近は特に「付き合おう」とか「デートしよう」とか、わたしが平民だとハッキリと身分がわかった途端みんなが食い気味に言ってくる。
ま、そんな人は適当にあしらっているので特に困ることはない。
だけど一人熱心に言い寄ってくる奴がいた。
“ライオネル・ジャンクシャン”
騎士団の中でも有名な彼はスティーブ様とは違う意味で有名な人。
スティーブ様が元公爵令息で今は騎士として身を立てているが、いずれ騎士爵を受けるだろうと言われている人に対して、ライオネル様は伯爵家の次男坊だが、剣の腕前は優秀で顔も優男で目立つ。さらに女性に優しいのでいつも周りに女性がくっついているイメージの人。
ま、簡単に言えばただの女好き。
「セレン、好きだ」
「わたしは好きではないので」
「欲しいものがあるんだったら買ってやるよ」
「自分で買えるので結構です」
「セレンは何が好き?宝石?ドレス?」
「わたしが好きなものは……」
ーーわたしって……好きなものなんて思いつかない。
何も思いつかない。言葉が出てこなくて……
思わず固まってしまった。
「ごめん、セレンはいつも全力で生きてるように見えるけど、何かいつも追われているようにしか見えないんだ」
「追われてる?」
「何をしても完璧で隙がない。周りを寄せ付けないしいつも必死で頑張り過ぎてる。ねぇ?セレンは何かして欲しい事とかしたい事はない?俺なんでも付き合ってあげるよ」
「……何もない……です」
わたしは逃げるようにライオネル様の前から立ち去った。
ライオネル様のこの言葉がわたしの中で何度も何度も問いかけてきた。
わたしってずっと突っ走って生きてきたのよね。
スティーブ様と婚約して必死で公爵家に嫁ぐために勉強をして、いつも良い成績を取ることを求められた。
彼の横に並ぶ時馬鹿にされたくない、少しでも……スティーブ様にわたしの存在を必要として貰いたくて、振り向いて欲しくて自分なりに努力をしてきた。
結婚してからも離縁してやるなんて言いながらも、やっぱりスティーブ様に認めて貰いたくて頑張って過ごしてきた。
今は……離縁して、家族とも離れ、屋敷は無くなって………何も無くなって……自分が必要とされていないから誰かを助けていい顔をして、なんとか自分の居場所を作ってきた。
お父様を捨てた、お兄様とも連絡を取っていない。
自分が捨てたはずなのに……エリノアが父と家族になり本当は……ポッカリと穴が空いていた。
“わたしは誰からも必要とされていない。
ーーだからなんとか自分の居場所を必死で作ろうとしているだけ“
それからはライオネル様がわたしに絡んでくると、必死で避けるようになった。
彼の優しい話し方がわたしの心を抉る。
「セレン、どうしたんだい?俺悪いことした?なんで無視するの?」
ライオネル様が悲しそうな顔でわたしに問いかけてきた。
「……ライオネル様は………悪くありません……悪いのは……わたしなんです………」
ーーああ………ずっとガチガチに固めて必死で守ってきた心。
ライオネル様の言葉がわたしが見たくない認めたくない弱い心を守っていた壁を壊していく。
「セレンは一人で頑張りすぎなんだよ」
「………頑張らないと生きてこれなかったんです」
わたしは俯いたまま搾り出すように声を出した。
ーーこの人はわたしの弱い心に入ってくる。
最近は以前働いていた騎士団のみんながよく治療という名の暇つぶしに顔を出しに来る。
「セレン、足を捻った」
「打撲で腰を打った」
「最近頭が痛いんだよな」
どうみてもわたしの治療対象ではない。
「それは普通に診療所で薬でももらってください」
と毎回治療をお断りしている。
「えー?せっかく会いに来たのに?ずっと意識が戻らない間みんな心配していたんだ」
「事務室に行ってセレンが居ないから寂しい、ここに来れば会えるんだ。いくらでも怪我して会いにくるよ」
「いやいや、そんな怪我ばかりしなくて結構です。みんな会いに来てくれるのはとても嬉しいですけど、お仕事に集中しましょう」
こんな会話が増えてきた。
最近は特に「付き合おう」とか「デートしよう」とか、わたしが平民だとハッキリと身分がわかった途端みんなが食い気味に言ってくる。
ま、そんな人は適当にあしらっているので特に困ることはない。
だけど一人熱心に言い寄ってくる奴がいた。
“ライオネル・ジャンクシャン”
騎士団の中でも有名な彼はスティーブ様とは違う意味で有名な人。
スティーブ様が元公爵令息で今は騎士として身を立てているが、いずれ騎士爵を受けるだろうと言われている人に対して、ライオネル様は伯爵家の次男坊だが、剣の腕前は優秀で顔も優男で目立つ。さらに女性に優しいのでいつも周りに女性がくっついているイメージの人。
ま、簡単に言えばただの女好き。
「セレン、好きだ」
「わたしは好きではないので」
「欲しいものがあるんだったら買ってやるよ」
「自分で買えるので結構です」
「セレンは何が好き?宝石?ドレス?」
「わたしが好きなものは……」
ーーわたしって……好きなものなんて思いつかない。
何も思いつかない。言葉が出てこなくて……
思わず固まってしまった。
「ごめん、セレンはいつも全力で生きてるように見えるけど、何かいつも追われているようにしか見えないんだ」
「追われてる?」
「何をしても完璧で隙がない。周りを寄せ付けないしいつも必死で頑張り過ぎてる。ねぇ?セレンは何かして欲しい事とかしたい事はない?俺なんでも付き合ってあげるよ」
「……何もない……です」
わたしは逃げるようにライオネル様の前から立ち去った。
ライオネル様のこの言葉がわたしの中で何度も何度も問いかけてきた。
わたしってずっと突っ走って生きてきたのよね。
スティーブ様と婚約して必死で公爵家に嫁ぐために勉強をして、いつも良い成績を取ることを求められた。
彼の横に並ぶ時馬鹿にされたくない、少しでも……スティーブ様にわたしの存在を必要として貰いたくて、振り向いて欲しくて自分なりに努力をしてきた。
結婚してからも離縁してやるなんて言いながらも、やっぱりスティーブ様に認めて貰いたくて頑張って過ごしてきた。
今は……離縁して、家族とも離れ、屋敷は無くなって………何も無くなって……自分が必要とされていないから誰かを助けていい顔をして、なんとか自分の居場所を作ってきた。
お父様を捨てた、お兄様とも連絡を取っていない。
自分が捨てたはずなのに……エリノアが父と家族になり本当は……ポッカリと穴が空いていた。
“わたしは誰からも必要とされていない。
ーーだからなんとか自分の居場所を必死で作ろうとしているだけ“
それからはライオネル様がわたしに絡んでくると、必死で避けるようになった。
彼の優しい話し方がわたしの心を抉る。
「セレン、どうしたんだい?俺悪いことした?なんで無視するの?」
ライオネル様が悲しそうな顔でわたしに問いかけてきた。
「……ライオネル様は………悪くありません……悪いのは……わたしなんです………」
ーーああ………ずっとガチガチに固めて必死で守ってきた心。
ライオネル様の言葉がわたしが見たくない認めたくない弱い心を守っていた壁を壊していく。
「セレンは一人で頑張りすぎなんだよ」
「………頑張らないと生きてこれなかったんです」
わたしは俯いたまま搾り出すように声を出した。
ーーこの人はわたしの弱い心に入ってくる。
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