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プロローグ
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「もう!…う…う…るさい!」
スマホから鳴る目覚ましの音が二日酔いの頭にガンガン響く。
昨日は、後輩の仕事な失敗を庇ったせいで、上司にしこたま叱られた。
ほんと、最悪!
大学を卒業して中堅どころの会社に就職して3年。
後輩の指導に回された。
可愛らしい新卒の田所有紗さんはとても器用な子だ。そうとても……自分の失敗を教育係のわたしに押し付けた。
「わたしは先輩に言われた通りにしただけです」
いや、そんなこと言っていない。ちゃんと資料を渡したし、これを見ながら書類を作るように言ったのになぜか数字が全く違う。
彼女は1枚目と2枚目の資料を見間違い数字を適当に打ち込んでいた。
しっかり目を通せばすぐに気がつく間違いもいつも適当な彼女は適当にしか仕事をしない。
可愛さだけを取り柄に上司に瞳をうるうるさせて弱々しく泣いて見せた。
「楠木!お前はなんのための教育係なんだ!お前がしっかり教えてやらないのが悪い!これは全てお前がやり直せ!」
おかげで昨日は残業で終電を逃してしまった。
タクシー代は自腹。
あまりにも理不尽でマンションの近くにあるコンビニでしこたまお酒を買って家で空腹のお腹に浴びるほどのお酒を飲んでやった。
「頭………い…たい」
先週彼氏にフラれた。
土日はすることがない。
もう一度寝よう。
夢の中………
ああ、またこの夢だ。
わたし?(なのかな……)………はなぜかボロボロのドレスを着ていた。長く美しかっただろう髪はボサボサ、肌もガサついていた。
体は痩せこけてみるに忍びない姿だ。
そして城壁の上に立たされていた。
それも体と手を縄で縛られ、いつ落ちてしまうかわからない状態だ。
下を見るとたくさんの人々が石を投げてくる。
聞こえてくるのは怒声。
「死ね!」
「この悪女!」
「さっさと落ちてしまえ!」
悪意しか感じない、罵声の中、心の中が凍りつき、表情は暗く、体が震えていた。
この女性はわたしなんだと思う。
でもわたしじゃない。顔も服装もこの景色も知らない。
だけど……見ているだけで心が苦しくなる。石が当たると痛いと感じる。
突然後ろから剣で刺された。
血が滴る。
その後城壁の上から落とされた。
ドスンッ。
痛みすら感じなかった。
やっと……やっと……解放された。この苦しみから、嘲りから、そして彼の裏切りから……
「あっ」
頭の痛みが悪夢から目覚めさせてくれた。
額には生汗。
「はあああ、怖かった……」
いつも目が覚めるとぼんやりとしか覚えていない。
断片的な記憶……でも、ただ、とても怖い夢。
彼氏と別れてからこの2週間毎日見続ける。
「喉がカラカラ……」
ベッドからなんとか起き上がった。
冷蔵庫の中には水とビール、酎ハイ、チーズにソーセージしか入っていない。
「ああ、もう!ろくな食べ物が入ってない」
一人暮らしのわたしはつい独り言を言うしかない。
タンクトップとパンツというとても人には見せられない姿。
歯を磨き顔を洗いティシャツとGパンに着替えて近くのコンビニへ。
今日はお酒は買わない。ま……買わなくてもまだたくさん冷蔵庫に入っていた。
すぐに食べられるようにパンとカップスープを買って家に帰る……途中で思わず見てしまった。
あの後ろ姿は元彼?
そしてもう一人、横で楽しそうに元彼の腕に絡ませているのは横顔を見ただけでわかる、田所有紗!
元彼と田所さんを会わせたことがある。
ひと月半前、元彼とデートの約束をしていて急いで帰ろうとした時、田所さんが「今日少し相談があるんです」としつこく話しかけてきた。
「ごめんね、今日は用事があるの。明日でもいいかしら?」
「……先輩……わたしのことが嫌いなんですか?」
悲しげに俯き周囲の同情を買う田所さん。
「少しくらい時間を作ってあげたら?」
同僚にそう言われ断りきれなくて仕方なく元彼との待ち合わせの場所に連れていった。
元彼も彼女の話を聞き二人でアドバイスをした。
そしてその後なぜか三人で食事をしてやった田所さんを同じ方向だからと元彼が送ってあげた。
ああなるほど。
うん、そっか。
また、わたしは裏切られたんだ。
また?
どうしてそう思ったのかよくわからない。
二人から避けるように反対を向き遠回りすることにした。
なのに……
「先輩!!」
田所さんはなんの躊躇もなくわたしに話しかけてきた。
振り返ったわたしの目に映ったのは仲睦まじく寄り添う元彼と後輩。
「顔色悪いですけど大丈夫ですかぁ?」
勝ち誇った顔の田所さん。
「うん、(あんた達の顔見たから)ちょっと気分が悪いの。悪いけど帰るね」
元彼の顔を全くみることなく後輩に笑顔を向けた。
惨めに悲しい顔なんてしない。しっかり笑顔で!!
だって別れたのはわたしが選んだんだもの。
二人が付き合っているとは思ってもみなかったけど、彼が浮気しているのはなんとなくわかってた。
だからわたしから別れを告げた。
振り返って一言。
「田所さん、わたしのお古でごめんなさいね、ふふふ」
最高の笑顔を二人に向けた。
「なっ!」
後ろで何か言ってるけど、無視!
ああ、スッキリした。
また夢を見た。
スマホから鳴る目覚ましの音が二日酔いの頭にガンガン響く。
昨日は、後輩の仕事な失敗を庇ったせいで、上司にしこたま叱られた。
ほんと、最悪!
大学を卒業して中堅どころの会社に就職して3年。
後輩の指導に回された。
可愛らしい新卒の田所有紗さんはとても器用な子だ。そうとても……自分の失敗を教育係のわたしに押し付けた。
「わたしは先輩に言われた通りにしただけです」
いや、そんなこと言っていない。ちゃんと資料を渡したし、これを見ながら書類を作るように言ったのになぜか数字が全く違う。
彼女は1枚目と2枚目の資料を見間違い数字を適当に打ち込んでいた。
しっかり目を通せばすぐに気がつく間違いもいつも適当な彼女は適当にしか仕事をしない。
可愛さだけを取り柄に上司に瞳をうるうるさせて弱々しく泣いて見せた。
「楠木!お前はなんのための教育係なんだ!お前がしっかり教えてやらないのが悪い!これは全てお前がやり直せ!」
おかげで昨日は残業で終電を逃してしまった。
タクシー代は自腹。
あまりにも理不尽でマンションの近くにあるコンビニでしこたまお酒を買って家で空腹のお腹に浴びるほどのお酒を飲んでやった。
「頭………い…たい」
先週彼氏にフラれた。
土日はすることがない。
もう一度寝よう。
夢の中………
ああ、またこの夢だ。
わたし?(なのかな……)………はなぜかボロボロのドレスを着ていた。長く美しかっただろう髪はボサボサ、肌もガサついていた。
体は痩せこけてみるに忍びない姿だ。
そして城壁の上に立たされていた。
それも体と手を縄で縛られ、いつ落ちてしまうかわからない状態だ。
下を見るとたくさんの人々が石を投げてくる。
聞こえてくるのは怒声。
「死ね!」
「この悪女!」
「さっさと落ちてしまえ!」
悪意しか感じない、罵声の中、心の中が凍りつき、表情は暗く、体が震えていた。
この女性はわたしなんだと思う。
でもわたしじゃない。顔も服装もこの景色も知らない。
だけど……見ているだけで心が苦しくなる。石が当たると痛いと感じる。
突然後ろから剣で刺された。
血が滴る。
その後城壁の上から落とされた。
ドスンッ。
痛みすら感じなかった。
やっと……やっと……解放された。この苦しみから、嘲りから、そして彼の裏切りから……
「あっ」
頭の痛みが悪夢から目覚めさせてくれた。
額には生汗。
「はあああ、怖かった……」
いつも目が覚めるとぼんやりとしか覚えていない。
断片的な記憶……でも、ただ、とても怖い夢。
彼氏と別れてからこの2週間毎日見続ける。
「喉がカラカラ……」
ベッドからなんとか起き上がった。
冷蔵庫の中には水とビール、酎ハイ、チーズにソーセージしか入っていない。
「ああ、もう!ろくな食べ物が入ってない」
一人暮らしのわたしはつい独り言を言うしかない。
タンクトップとパンツというとても人には見せられない姿。
歯を磨き顔を洗いティシャツとGパンに着替えて近くのコンビニへ。
今日はお酒は買わない。ま……買わなくてもまだたくさん冷蔵庫に入っていた。
すぐに食べられるようにパンとカップスープを買って家に帰る……途中で思わず見てしまった。
あの後ろ姿は元彼?
そしてもう一人、横で楽しそうに元彼の腕に絡ませているのは横顔を見ただけでわかる、田所有紗!
元彼と田所さんを会わせたことがある。
ひと月半前、元彼とデートの約束をしていて急いで帰ろうとした時、田所さんが「今日少し相談があるんです」としつこく話しかけてきた。
「ごめんね、今日は用事があるの。明日でもいいかしら?」
「……先輩……わたしのことが嫌いなんですか?」
悲しげに俯き周囲の同情を買う田所さん。
「少しくらい時間を作ってあげたら?」
同僚にそう言われ断りきれなくて仕方なく元彼との待ち合わせの場所に連れていった。
元彼も彼女の話を聞き二人でアドバイスをした。
そしてその後なぜか三人で食事をしてやった田所さんを同じ方向だからと元彼が送ってあげた。
ああなるほど。
うん、そっか。
また、わたしは裏切られたんだ。
また?
どうしてそう思ったのかよくわからない。
二人から避けるように反対を向き遠回りすることにした。
なのに……
「先輩!!」
田所さんはなんの躊躇もなくわたしに話しかけてきた。
振り返ったわたしの目に映ったのは仲睦まじく寄り添う元彼と後輩。
「顔色悪いですけど大丈夫ですかぁ?」
勝ち誇った顔の田所さん。
「うん、(あんた達の顔見たから)ちょっと気分が悪いの。悪いけど帰るね」
元彼の顔を全くみることなく後輩に笑顔を向けた。
惨めに悲しい顔なんてしない。しっかり笑顔で!!
だって別れたのはわたしが選んだんだもの。
二人が付き合っているとは思ってもみなかったけど、彼が浮気しているのはなんとなくわかってた。
だからわたしから別れを告げた。
振り返って一言。
「田所さん、わたしのお古でごめんなさいね、ふふふ」
最高の笑顔を二人に向けた。
「なっ!」
後ろで何か言ってるけど、無視!
ああ、スッキリした。
また夢を見た。
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