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夢の中。2話
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「いたぞ!」
王妃を見つけた反乱者達の中には数時間前まで側近として共に仕事をしていた者もいた。
王妃はその相手にフッと微笑んで見せた。
「何を笑っておられる?」
「そ、そうだ」
「貴女はもう終わりだ。この国の混乱を招いたのは他でもない貴女だ。貴女がこの国に嫁いでからこの国はたくさんの災難に見舞われた。王妃になるはずだったリリア様は側妃として辛い立場の中過ごされた」
「陛下は愛もない貴女を受け入れるしかなかった」
貴族達は不満や難癖をつけ始めた。
これも王妃にとってはいつものこと。
この国に無理やり嫁がされたのは自分の方。
幼い頃から姫として大切に育てられた。それなのに、ルワナ王国が小国で力が弱いリシャ国へ圧力をかけてきた。
自然豊かなリシャ国の農作物や石炭を狙ったのだ。軍事力の弱いリシャ国ではルワナ王国に対抗できるだけの力はなく、戦いを嫌う穏和なリシャ国は友好の証として姫を差し出すしかなかった。
『娘よ、国民のためにルワナ王国へ嫁いではくれぬか?』
父国王は悔しさと苦しみの中、父としてではなく国王として決断をした。
『はい』
姫は王妃として迎えられた。
しかし、結婚式のあと初夜を迎えることはなかった。
『俺はお前を妻とは認めない』
冷たく言い放ち国王は部屋を出て行った。
姫として大切に愛されて育った。
なぜ、それならわたくしを嫁がせたの?
彼女はそう問いたかった。
この国には誰も連れてきてはいけないと言われ、たくさんの持参金だけを持たされて嫁いできた。
一人心細く、優しく声をかけてくれる者はいない。それでも笑顔だけは絶やさぬように過ごしてきた。
結婚式ではリシャ国からは兄である王太子だけが参加した。
国王の結婚式なのに、寂しい結婚式だった。
これもルワナ王国からの指示だった。兄とはほとんど話すこともできず離れた場所でじっと兄を見つめることしかできなかった。
最初から幸せになれるとは思えなかった。
それでも夫婦として暮らすのだからほんの僅かな期待もあった。
たとえ夫と寝所を共にしなくても、ほんの少しでも心だけでも通いあえればと努力した。
なのに、国王はすぐに側妃を娶った。
二人の結婚式は国民達の祝福と華やかで豪華な結婚式とパレード、数日間の祝賀会が行われた。
他国からの来賓の中にはリシャ国の国王夫妻も呼ばれた。
事情を知る参加者達は夫妻を蔑視の目で見ていた。
侮蔑に耐える二人を遠くから見守ることしかできない王妃。
王妃もまたこの豪華な結婚式や祝賀会に質素なドレスを着せられて参加させられた。もちろんパートナーも付き人もおらずたった一人で立っていた。
「お父様、お母様……ごめんなさい」
声をかけることは許されず遠くから二人が絶える姿を悲しみの中見つめることしかできなかった。
結婚して三年が過ぎ、今、一人でなんとか崩れてしまいそうな国を支えながら王妃は帰らぬ夫を待ち続けたが、それも叶わず家臣に捕えられた。
「抵抗するな!」
抵抗などしていない。
引きづられ地面に体を押さえつけられた。
両腕を背中に回されロープで縛られた。
「逃げようなどと考えるな。お前が逃げたらリシャ国は簡単に攻め入れられ崩壊するんだからな」
王妃にとって耐え難い一番辛い言葉。
「わたくしは逃げようなどと思っておりませんわ」
王妃の声を聞くだけで癇に障る家臣が王妃の腹を蹴り上げた。
「……あっ……」
王妃はあまりの痛みに体を丸めた。
流石にやりすぎなのでは?と思う者もいたが、反乱の中、気は高まり興奮状態でことの良し悪しなど誰も気にはしなかったし、王妃への同情心などあるわけもない。
数人が王妃を蹴ったり踏みつけて楽しんだあと、王妃は地下の独房へと連れて行かれた。
「入れ」
まともに歩けるはずもない王妃は両脇を騎士二人に持たれたまま引きづられて地下へと運ばれた。
何度も石の階段に足や膝がぶつかっても誰も気にも留めないまま。
✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎
「うん?」
うん?って何?
怒りで睨みあげた。
「有紗が君のことを心配だって言うからちょっと見にきた」
「元気よ。じゃあね」
元彼は田所さんに頼まれて私の様子を見にきたらしい。
田所さんが私を心配?そんなわけない。
それはただ自分の方が上だとマウントを取っているだけでしょう?
そして、この男の前で『私はとても優しい女の子なのっ!』と思わせたいだけじゃない!
ほんっとムカつく!二日酔いの頭と体はそれじゃなくても辛いのに、このバカップルのせいでさらにイライラしてどっと疲れる。
「待って」
私の手首を掴んだ元彼。
「触らないで!気持ち悪い!!」
思わず大きな声が出て振り払った。
元彼は驚いた顔をしたが、唇を噛み複雑な表情でわたしを見た。
「貴方とわたしはもうとっくの昔に別れたの!貴方と話すことなんてないし、会いたくもない」
元彼に無表情で淡々と告げた。
玄関の鍵を閉めてすぐにエレベーターへ向かった。
うん?どうして彼はオートロックなのにこのマンションに入れたのかしら?
誰かの後ろをついて入ったとか?
エレベーターの中でそんなことを考えながら買い物へと出かけた。
道の途中、田所有紗に会うことはなかったし、玄関の前に元彼が待っていることもなかった。
「ああ、昨日から嫌なことばかり。夢のせいなのかなんだか寝心地悪いし、あんな夢みたくない……」
夢の話を思い出すだけで切なくなる。
まるで自分が王妃にでもなった気分だ。
王妃を見つけた反乱者達の中には数時間前まで側近として共に仕事をしていた者もいた。
王妃はその相手にフッと微笑んで見せた。
「何を笑っておられる?」
「そ、そうだ」
「貴女はもう終わりだ。この国の混乱を招いたのは他でもない貴女だ。貴女がこの国に嫁いでからこの国はたくさんの災難に見舞われた。王妃になるはずだったリリア様は側妃として辛い立場の中過ごされた」
「陛下は愛もない貴女を受け入れるしかなかった」
貴族達は不満や難癖をつけ始めた。
これも王妃にとってはいつものこと。
この国に無理やり嫁がされたのは自分の方。
幼い頃から姫として大切に育てられた。それなのに、ルワナ王国が小国で力が弱いリシャ国へ圧力をかけてきた。
自然豊かなリシャ国の農作物や石炭を狙ったのだ。軍事力の弱いリシャ国ではルワナ王国に対抗できるだけの力はなく、戦いを嫌う穏和なリシャ国は友好の証として姫を差し出すしかなかった。
『娘よ、国民のためにルワナ王国へ嫁いではくれぬか?』
父国王は悔しさと苦しみの中、父としてではなく国王として決断をした。
『はい』
姫は王妃として迎えられた。
しかし、結婚式のあと初夜を迎えることはなかった。
『俺はお前を妻とは認めない』
冷たく言い放ち国王は部屋を出て行った。
姫として大切に愛されて育った。
なぜ、それならわたくしを嫁がせたの?
彼女はそう問いたかった。
この国には誰も連れてきてはいけないと言われ、たくさんの持参金だけを持たされて嫁いできた。
一人心細く、優しく声をかけてくれる者はいない。それでも笑顔だけは絶やさぬように過ごしてきた。
結婚式ではリシャ国からは兄である王太子だけが参加した。
国王の結婚式なのに、寂しい結婚式だった。
これもルワナ王国からの指示だった。兄とはほとんど話すこともできず離れた場所でじっと兄を見つめることしかできなかった。
最初から幸せになれるとは思えなかった。
それでも夫婦として暮らすのだからほんの僅かな期待もあった。
たとえ夫と寝所を共にしなくても、ほんの少しでも心だけでも通いあえればと努力した。
なのに、国王はすぐに側妃を娶った。
二人の結婚式は国民達の祝福と華やかで豪華な結婚式とパレード、数日間の祝賀会が行われた。
他国からの来賓の中にはリシャ国の国王夫妻も呼ばれた。
事情を知る参加者達は夫妻を蔑視の目で見ていた。
侮蔑に耐える二人を遠くから見守ることしかできない王妃。
王妃もまたこの豪華な結婚式や祝賀会に質素なドレスを着せられて参加させられた。もちろんパートナーも付き人もおらずたった一人で立っていた。
「お父様、お母様……ごめんなさい」
声をかけることは許されず遠くから二人が絶える姿を悲しみの中見つめることしかできなかった。
結婚して三年が過ぎ、今、一人でなんとか崩れてしまいそうな国を支えながら王妃は帰らぬ夫を待ち続けたが、それも叶わず家臣に捕えられた。
「抵抗するな!」
抵抗などしていない。
引きづられ地面に体を押さえつけられた。
両腕を背中に回されロープで縛られた。
「逃げようなどと考えるな。お前が逃げたらリシャ国は簡単に攻め入れられ崩壊するんだからな」
王妃にとって耐え難い一番辛い言葉。
「わたくしは逃げようなどと思っておりませんわ」
王妃の声を聞くだけで癇に障る家臣が王妃の腹を蹴り上げた。
「……あっ……」
王妃はあまりの痛みに体を丸めた。
流石にやりすぎなのでは?と思う者もいたが、反乱の中、気は高まり興奮状態でことの良し悪しなど誰も気にはしなかったし、王妃への同情心などあるわけもない。
数人が王妃を蹴ったり踏みつけて楽しんだあと、王妃は地下の独房へと連れて行かれた。
「入れ」
まともに歩けるはずもない王妃は両脇を騎士二人に持たれたまま引きづられて地下へと運ばれた。
何度も石の階段に足や膝がぶつかっても誰も気にも留めないまま。
✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎
「うん?」
うん?って何?
怒りで睨みあげた。
「有紗が君のことを心配だって言うからちょっと見にきた」
「元気よ。じゃあね」
元彼は田所さんに頼まれて私の様子を見にきたらしい。
田所さんが私を心配?そんなわけない。
それはただ自分の方が上だとマウントを取っているだけでしょう?
そして、この男の前で『私はとても優しい女の子なのっ!』と思わせたいだけじゃない!
ほんっとムカつく!二日酔いの頭と体はそれじゃなくても辛いのに、このバカップルのせいでさらにイライラしてどっと疲れる。
「待って」
私の手首を掴んだ元彼。
「触らないで!気持ち悪い!!」
思わず大きな声が出て振り払った。
元彼は驚いた顔をしたが、唇を噛み複雑な表情でわたしを見た。
「貴方とわたしはもうとっくの昔に別れたの!貴方と話すことなんてないし、会いたくもない」
元彼に無表情で淡々と告げた。
玄関の鍵を閉めてすぐにエレベーターへ向かった。
うん?どうして彼はオートロックなのにこのマンションに入れたのかしら?
誰かの後ろをついて入ったとか?
エレベーターの中でそんなことを考えながら買い物へと出かけた。
道の途中、田所有紗に会うことはなかったし、玄関の前に元彼が待っていることもなかった。
「ああ、昨日から嫌なことばかり。夢のせいなのかなんだか寝心地悪いし、あんな夢みたくない……」
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