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姫。
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記憶喪失は使用人達にとっては『病』として扱われた。
「お部屋でごゆっくりと寝ていてください」
「どうぞ体をお安めになっていてください」
そう言って部屋から出してもらえない。
この世界に来て一度も部屋からでていない。状況を把握できずにもう1週間以上軟禁状態だった。
窓から外を見ると、ここはなかり高い部屋なのだろうと思う。
たくさんの人たちが城の中で働いているのが小さく見える。
忙しそうに働く人々を遠く眺めながらなんとかこの状況を打破しなくてはと考え始めた。
夢の中の王妃はとても実家のリシャ国を大切に思っていたように感じた。だからこそ自分が犠牲になり我慢をしてでもあの国に嫁いだ。
でも今のわたしの状況はこの国で大切にされているとは思えない。
食事はそれなりに美味しくいただいてはいるけど、豪華な食事とまではいかない。部屋は確かに豪華な家具が置かれているけど、よく見れば10代の少女の部屋というより、大人の重厚感のある部屋で、可愛らしさのかけらもない。
ぬいぐるみや可愛らしい小物など見当たらないし、今着ている寝巻きも質はとてもいいのだろうと思うが、レースや飾りもないシンプルな寝巻きで、『姫様』らしさはどこにもない。
囚われている。
こっそりと部屋を抜け出すことにした。
鍵は外から閉められているのは知っている。
使用人達は部屋に入るたびに鍵を使っているのだもの。
でも抜け出せないわけではない。
城なんだから隠れ通路くらいありそう。そう思ってここ数日夜中になると天井や床板を触りまくった。
そして見つけた。
クローゼットの中のマットに隠れた床下の扉。そこは階段になっていて通路があった。
部屋のランプを持ち出して少しずつ通路の中を散策した。
そして外に出る通路を見つけた。
知らない世界。逃げ出しても生きて行けない。でも、知ることは大事。
使用人達は上からの命令で質問しても答えてくれない。
ならば動かなきゃ。
数日間で使用人達の部屋の出入りの時間は確認済み。
やはり思った通りだった。
使用人達は決められた時間に食事を届け決められた時間に部屋に顔を出して仕事をして出ていく。
わたしが色々と質問することに困ったのかみんな目を合わせようとしない。
「ねぇ?」と声を出したらビクッとしてあたふたと部屋を出ていく。
ふふっ。
「わたし昼寝をするから静かに寝させてほしいの」
「かしこまりました」
侍女は頭を下げていそいそと部屋を出て行った。
上手くいった。
しばらくは部屋に入ってこない。
クローゼットにはドレスがたくさん入っている。それが高級なのかよくわからないけど。
でも姫としてはどうなのかしら?と思えるワンピースやブラウス、スカートもいくつか隠すように奥にあった。
この部屋の中ではわたしはずっと寝巻きだった。一応記憶喪失という病気なので。
寝巻きを脱ぎ捨てワンピースに着替えた。
窓から外を見て使用人達が着ている服に近いワンピースを選んだ。これならすぐには姫だとはバレないだろう。
隠し通路から外に出た。
そこはいつも窓から見ている景色とは違いたくさんの木々のある場所だった。
「裏庭?森?」
とりあえず人気がないのを確認して扉を開けて外へ出た。
たぶん城の裏だろう。
あまり手入れされていないようで草もたくさん茂っていて整地されていない。
よかった。安心して出入りできそう。
今日はあまり時間がない。
とりあえず久しぶりの外の空気と太陽の光を浴びて大きく伸びをした。
少しだけ周囲を歩いてみた。
あ……話し声が聞こえる。
慌てて木の裏に隠れた。
「姫様のご病気はなかなか治らないわよね」
「ずっと寝込まれていらっしゃるものね」
「もう半年お顔を見ていないわ」
「でもオリーブ様のお披露目があるから姫様は出てこれないのかもよ?」
「オリーブ様はこの国を守ってくださる聖女様だもの。国王も養女にされてこの国の姫として大切にされているから、娘の姫様が邪魔なのかもね」
この国でも、『王妃』であった姫は邪魔なのね。
「お部屋でごゆっくりと寝ていてください」
「どうぞ体をお安めになっていてください」
そう言って部屋から出してもらえない。
この世界に来て一度も部屋からでていない。状況を把握できずにもう1週間以上軟禁状態だった。
窓から外を見ると、ここはなかり高い部屋なのだろうと思う。
たくさんの人たちが城の中で働いているのが小さく見える。
忙しそうに働く人々を遠く眺めながらなんとかこの状況を打破しなくてはと考え始めた。
夢の中の王妃はとても実家のリシャ国を大切に思っていたように感じた。だからこそ自分が犠牲になり我慢をしてでもあの国に嫁いだ。
でも今のわたしの状況はこの国で大切にされているとは思えない。
食事はそれなりに美味しくいただいてはいるけど、豪華な食事とまではいかない。部屋は確かに豪華な家具が置かれているけど、よく見れば10代の少女の部屋というより、大人の重厚感のある部屋で、可愛らしさのかけらもない。
ぬいぐるみや可愛らしい小物など見当たらないし、今着ている寝巻きも質はとてもいいのだろうと思うが、レースや飾りもないシンプルな寝巻きで、『姫様』らしさはどこにもない。
囚われている。
こっそりと部屋を抜け出すことにした。
鍵は外から閉められているのは知っている。
使用人達は部屋に入るたびに鍵を使っているのだもの。
でも抜け出せないわけではない。
城なんだから隠れ通路くらいありそう。そう思ってここ数日夜中になると天井や床板を触りまくった。
そして見つけた。
クローゼットの中のマットに隠れた床下の扉。そこは階段になっていて通路があった。
部屋のランプを持ち出して少しずつ通路の中を散策した。
そして外に出る通路を見つけた。
知らない世界。逃げ出しても生きて行けない。でも、知ることは大事。
使用人達は上からの命令で質問しても答えてくれない。
ならば動かなきゃ。
数日間で使用人達の部屋の出入りの時間は確認済み。
やはり思った通りだった。
使用人達は決められた時間に食事を届け決められた時間に部屋に顔を出して仕事をして出ていく。
わたしが色々と質問することに困ったのかみんな目を合わせようとしない。
「ねぇ?」と声を出したらビクッとしてあたふたと部屋を出ていく。
ふふっ。
「わたし昼寝をするから静かに寝させてほしいの」
「かしこまりました」
侍女は頭を下げていそいそと部屋を出て行った。
上手くいった。
しばらくは部屋に入ってこない。
クローゼットにはドレスがたくさん入っている。それが高級なのかよくわからないけど。
でも姫としてはどうなのかしら?と思えるワンピースやブラウス、スカートもいくつか隠すように奥にあった。
この部屋の中ではわたしはずっと寝巻きだった。一応記憶喪失という病気なので。
寝巻きを脱ぎ捨てワンピースに着替えた。
窓から外を見て使用人達が着ている服に近いワンピースを選んだ。これならすぐには姫だとはバレないだろう。
隠し通路から外に出た。
そこはいつも窓から見ている景色とは違いたくさんの木々のある場所だった。
「裏庭?森?」
とりあえず人気がないのを確認して扉を開けて外へ出た。
たぶん城の裏だろう。
あまり手入れされていないようで草もたくさん茂っていて整地されていない。
よかった。安心して出入りできそう。
今日はあまり時間がない。
とりあえず久しぶりの外の空気と太陽の光を浴びて大きく伸びをした。
少しだけ周囲を歩いてみた。
あ……話し声が聞こえる。
慌てて木の裏に隠れた。
「姫様のご病気はなかなか治らないわよね」
「ずっと寝込まれていらっしゃるものね」
「もう半年お顔を見ていないわ」
「でもオリーブ様のお披露目があるから姫様は出てこれないのかもよ?」
「オリーブ様はこの国を守ってくださる聖女様だもの。国王も養女にされてこの国の姫として大切にされているから、娘の姫様が邪魔なのかもね」
この国でも、『王妃』であった姫は邪魔なのね。
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