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2話
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「お母様、おはようございます。体調は如何ですか?」
朝起きると服を着替えて、お母様の部屋をノックしてお水を持っていく。
もちろんメイドの仕事なのだけど、ずっとそばにいることが出来なかったわたしは、お母様のために何かしてあげたかった。
「ええ、今日は気分がいいわ。いつもありがとう。ジェシカ、学園に行く時間は大丈夫?」
「もう用意は出来ているから大丈夫です。それよりも、お水です。少し喉を潤してください」
お母様にコップを渡す。
「美味しい」
お母様の嬉しそうな微笑みがわたしに1日の活力を与えてくれる。
「はい、お母様タオルでお顔を拭いてください」
水で濡らしてしっかり絞ったタオルをお母様に渡した。
「もう少ししたら朝食を届けますね」
「なんだかわたしが子どもみたいね」
「お母様と一緒に過ごせる時間を少しでも増やしたいのです」
お母様はふふッと笑いながら
「まだ甘えん坊さんなのね」
「やっとお母様のそばで暮らせるようになったのです」
わたしの言葉を聞いたお母様はポツッと呟いた。
「そうね、貴女は忘れてしまったのね」
わたしはよくわからずに笑って誤魔化した。
◇ ◇ ◇
高等部の入学式。
中等部からの入学者がほとんどでわたしのような転校生は少ない。
だから全くわからないわたしのために、ティムが案内してくれることになっている。
「お母様、行って参ります」
ティムと一緒に馬車に乗り、学園へと向かった。
学園でのことをティムは色々と話してくれた。
食堂でのおすすめメニュー、図書室のおすすめの席、しっかり真面目に授業を受けた方がいい先生の名前、優しい先生、サボってもいい授業。
王都にいる時は、心を殺して表情は一切変えてはいけないと言われ、生真面目に生きてきた。
『他人に隙を見せるな、弱みを見せれば足を掬われる。
だから笑顔など必要ない』
いつもこの言葉がわたしを支配していた。
そんなわたしにティムは「楽しく過ごさないと損だよ」と言ってくれる。
グリス領に来て、1ヶ月半。
わたしは少し、笑えているだろうか?
「ティム、アドバイスありがとうございます。これから毎朝同じ馬車に乗せていただくことになります、ご迷惑をおかけしないようにしますのでよろしくお願い致します」
「うん、ジェシカ。そこはね、『よろしく』だけでいいんだよ」
「……よろしく?」
「そう、俺こそよろしくね」
ティムの屈託のない笑顔を見てわたしは羨ましく思った。
わたしにもあんな笑顔ができる時が来るのだろうか?
学園につき馬車を降りると、周りの学生がわたし達をジロジロ見ている。
新参者のわたしが珍しいのかしら?
それともティムが有名人?
わたしはドギマギしていた。
「ジェシカが可愛いからみんな注目してるんだよ」
ティムがニコニコしながらわたしの耳元で囁いた。
「え?」
キョトンとしたわたしのおでこを指で押して、
「ジェシカは可愛くてとても綺麗。そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
ティムは周りをキョロキョロしてから
「あ!いた!マリーナ!」
大きな声を出して手でこっちに来て!と合図をしている。
わたしもティムの目線の方へ顔を向けた。
「あの子はマリーナ、君と同じ年なんだ、俺の幼馴染」
マリーナ様という女の子が走ってわたし達の前に来ると、
「わたし、マリーナ・バンシーです。男爵家の娘です」
「わたしはジェシカ・フォーダンと申します。よろしくお願いいたします」
頭を深々下げてご挨拶をすると、マリーナ様はクスクス笑いながら言った。
「この学園では平民も貴族も関係なく友人関係を築いているの。だから様のことも公爵令嬢としてではなくて同じ学園の友人として接してもいいかしら?」
「………う、嬉しいです」
初めて公爵令嬢としてではなくただのジェシカとして話しかけてもらえた。
王都では殿下の婚約者、公爵令嬢としていつも気が張って品行方正でなくてはいけなかった。
こんな風にわたしに自然に笑顔を向けてくれる女の子なんていなかった。
「ではこれからはわたしのことをマリーナとお呼びくださいね。わたしも……ジェシカ…と呼んでもいいかしら?」
手を差し出された。
わたしも手を差し出し握手をした。
マリーナの手は小刻みに震えていた。
たぶん本当は公爵令嬢のわたしに話しかけるのが怖かったのだろう。それなのに一生懸命普通に話してくれた。
「よろしくね、マリーナ」
わたしは頑張って笑顔で声をかけた。
……つもりだったが、ティムが後で教えてくれたけど、わたしの顔は笑顔が引き攣っていて怖かったらしい。
「じゃあ、俺はここまでだね。マリーナ、ジェシカを頼む。ジェシカはおれが言った通りの子だろう?見た目は無愛想だけど素直でいい奴なんだ」
ーーぶ、無愛想?
わたしはその言葉がショックでティムを呆然と見た。
「ジェシカ、君、全く自覚なしの無愛想だったんだ」
「ティム、女の子にそんなこと言うものではないわ」
マリーナが嗜めてくれたけど、わたしの頭の中は「無愛想」がずっと離れなかった。
「マリーナ、わたし無愛想ではないように頑張るから怖がらないでください」
「ふふ、ティムからとても優しいいい子だと聞いていたの。
会ってすぐにティムの言う通りだと思ったから大丈夫よ、さあ、入学式に遅れるわ。会場へ行きましょう!同じクラスだからみんなに紹介するわ」
これからのわたしの高等部での生活はなんとかうまくいきそうな予感。
お母様に今日のことをお話ししようと思った。
たぶん楽しんで聞いてくださると思うの。
朝起きると服を着替えて、お母様の部屋をノックしてお水を持っていく。
もちろんメイドの仕事なのだけど、ずっとそばにいることが出来なかったわたしは、お母様のために何かしてあげたかった。
「ええ、今日は気分がいいわ。いつもありがとう。ジェシカ、学園に行く時間は大丈夫?」
「もう用意は出来ているから大丈夫です。それよりも、お水です。少し喉を潤してください」
お母様にコップを渡す。
「美味しい」
お母様の嬉しそうな微笑みがわたしに1日の活力を与えてくれる。
「はい、お母様タオルでお顔を拭いてください」
水で濡らしてしっかり絞ったタオルをお母様に渡した。
「もう少ししたら朝食を届けますね」
「なんだかわたしが子どもみたいね」
「お母様と一緒に過ごせる時間を少しでも増やしたいのです」
お母様はふふッと笑いながら
「まだ甘えん坊さんなのね」
「やっとお母様のそばで暮らせるようになったのです」
わたしの言葉を聞いたお母様はポツッと呟いた。
「そうね、貴女は忘れてしまったのね」
わたしはよくわからずに笑って誤魔化した。
◇ ◇ ◇
高等部の入学式。
中等部からの入学者がほとんどでわたしのような転校生は少ない。
だから全くわからないわたしのために、ティムが案内してくれることになっている。
「お母様、行って参ります」
ティムと一緒に馬車に乗り、学園へと向かった。
学園でのことをティムは色々と話してくれた。
食堂でのおすすめメニュー、図書室のおすすめの席、しっかり真面目に授業を受けた方がいい先生の名前、優しい先生、サボってもいい授業。
王都にいる時は、心を殺して表情は一切変えてはいけないと言われ、生真面目に生きてきた。
『他人に隙を見せるな、弱みを見せれば足を掬われる。
だから笑顔など必要ない』
いつもこの言葉がわたしを支配していた。
そんなわたしにティムは「楽しく過ごさないと損だよ」と言ってくれる。
グリス領に来て、1ヶ月半。
わたしは少し、笑えているだろうか?
「ティム、アドバイスありがとうございます。これから毎朝同じ馬車に乗せていただくことになります、ご迷惑をおかけしないようにしますのでよろしくお願い致します」
「うん、ジェシカ。そこはね、『よろしく』だけでいいんだよ」
「……よろしく?」
「そう、俺こそよろしくね」
ティムの屈託のない笑顔を見てわたしは羨ましく思った。
わたしにもあんな笑顔ができる時が来るのだろうか?
学園につき馬車を降りると、周りの学生がわたし達をジロジロ見ている。
新参者のわたしが珍しいのかしら?
それともティムが有名人?
わたしはドギマギしていた。
「ジェシカが可愛いからみんな注目してるんだよ」
ティムがニコニコしながらわたしの耳元で囁いた。
「え?」
キョトンとしたわたしのおでこを指で押して、
「ジェシカは可愛くてとても綺麗。そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
ティムは周りをキョロキョロしてから
「あ!いた!マリーナ!」
大きな声を出して手でこっちに来て!と合図をしている。
わたしもティムの目線の方へ顔を向けた。
「あの子はマリーナ、君と同じ年なんだ、俺の幼馴染」
マリーナ様という女の子が走ってわたし達の前に来ると、
「わたし、マリーナ・バンシーです。男爵家の娘です」
「わたしはジェシカ・フォーダンと申します。よろしくお願いいたします」
頭を深々下げてご挨拶をすると、マリーナ様はクスクス笑いながら言った。
「この学園では平民も貴族も関係なく友人関係を築いているの。だから様のことも公爵令嬢としてではなくて同じ学園の友人として接してもいいかしら?」
「………う、嬉しいです」
初めて公爵令嬢としてではなくただのジェシカとして話しかけてもらえた。
王都では殿下の婚約者、公爵令嬢としていつも気が張って品行方正でなくてはいけなかった。
こんな風にわたしに自然に笑顔を向けてくれる女の子なんていなかった。
「ではこれからはわたしのことをマリーナとお呼びくださいね。わたしも……ジェシカ…と呼んでもいいかしら?」
手を差し出された。
わたしも手を差し出し握手をした。
マリーナの手は小刻みに震えていた。
たぶん本当は公爵令嬢のわたしに話しかけるのが怖かったのだろう。それなのに一生懸命普通に話してくれた。
「よろしくね、マリーナ」
わたしは頑張って笑顔で声をかけた。
……つもりだったが、ティムが後で教えてくれたけど、わたしの顔は笑顔が引き攣っていて怖かったらしい。
「じゃあ、俺はここまでだね。マリーナ、ジェシカを頼む。ジェシカはおれが言った通りの子だろう?見た目は無愛想だけど素直でいい奴なんだ」
ーーぶ、無愛想?
わたしはその言葉がショックでティムを呆然と見た。
「ジェシカ、君、全く自覚なしの無愛想だったんだ」
「ティム、女の子にそんなこと言うものではないわ」
マリーナが嗜めてくれたけど、わたしの頭の中は「無愛想」がずっと離れなかった。
「マリーナ、わたし無愛想ではないように頑張るから怖がらないでください」
「ふふ、ティムからとても優しいいい子だと聞いていたの。
会ってすぐにティムの言う通りだと思ったから大丈夫よ、さあ、入学式に遅れるわ。会場へ行きましょう!同じクラスだからみんなに紹介するわ」
これからのわたしの高等部での生活はなんとかうまくいきそうな予感。
お母様に今日のことをお話ししようと思った。
たぶん楽しんで聞いてくださると思うの。
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