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23話
記憶を失ったわたしがやっと安定した生活になった頃、王都から今度は「お兄様」と「お父様」がやってきた。
「初めましてジェシカと申します」
「ジェシカ……」二人はわたしを見て言葉を失っていた。
記憶のないわたしにとってやはり二人は他人でしかない。
「お父様」はとても無愛想な人。でも変にわたしの顔色を窺わないし、淡々と接してくれる。
なぜか親近感が湧いて一緒にいても苦にならない人だった。
「お兄様」はわたしをとても可愛がってくれてわたしも懐いていたそうだ。その話はお母様やティム達が教えてくれた。
今のわたしに対しても慈愛に満ちた瞳でわたしを見ている。不思議に警戒することなくすぐに仲良くなれた。
「ジェシカ一緒にお茶でもしよう」
毎日のようにわたしに声をかけては幼い頃のわたしの話を聞かせてくれる。
毎日のようにお兄様に我儘を言って泣いていたこと。夜眠るのが怖くてお兄様と一緒に眠っていたこと。
わたしってすごくお兄様に迷惑をかけていたらしい。
ティムやセルジオ様と三人で仲良く遊んでいた頃の話も聞かせてもらった。わたしは結構お転婆で二人と一緒に駆け回って遊んでいたらしい。
特にセルジオ様とは仲が良く、わたしはセルジオ様が大好きでその頃は「セルジオ」と呼んでいたと聞いた。
あとわたしはみんなが口を閉ざす殿下とのことも教えてもらった。
殿下とわたしはとても仲が良かった。でも婚約してからのわたしは婚約を受け入れられなくてだんだんと笑顔がなくなり王子妃教育もなかなか上手くいかなくて殿下との関係も少しずつ距離が開いていったらしい。
殿下に恋人ができたと知った時、わたしはとても羨ましがっていたらしい。愛する人と一緒にいる二人をわたしは妬くことなく見守っていたのだと。
それを聞いてわたしは殿下に恋心がなかったのだと改めて知った。
殿下のわたしを見る目はなんだったのかわからないけどわたしが何も感じなかったのはやはり恋心すらなかったからなのだろう。
お兄様が一番驚いていたのはわたしとお父様の関係だった。
お父様とは上手くいっていなくてお互いあまり話すことがなかったらしい。でも今のわたしはお父様と話すのがとても楽だ。
「ジェシカ、ジルと散歩にでも行かないか?」
「はいお父様との散歩、ジルがとても喜ぶのですよ」
ジルとは最近拾ってきた野良の子犬だった。
雨の中ずぶ濡れで震えて道に蹲っていたのをわたしとお父様が拾ったのだ。
お父様が領地での仕事の帰り道に時間が合うからと学校に迎えにきてくれた。
そして突然馬車が停まったと思ったら御者が
「ったくこんな所にいたら轢いてしまうだろう、あっちへ行け」
と野良犬を追い払おうとしていた。
わたしが窓を開けて見ていると野良犬はまだ小さくてこのままだと死んでしまいそうだった。
雨に打たれて動けない子犬。
わたしは思わず馬車の扉を開けて「その犬をわたしに渡してください」
と御者に叫んでいた。
「汚いし濡れています。汚れてしまいますよ?」
「いいの、ここにタオルがあるわ。早く頂戴」
わたしは少し怒った声で御者に命令するとお父様が横で言った。
「渡してやりなさい」
「はい、かしこまりました」
仕方なさそうに子犬を渡してくれた。
震えて虚な目をした子犬の体をタオルで拭いてあげた。寒いのか震えていた。
「おうちに帰ったらあったかくしてあげるから今はわたしの体で少しでも温まってね」
わたしは汚れることなんて気にもせずに子犬を抱っこして少しでもと温めてあげた。
お父様は「帰ったら体を洗ってあげるといい、体が冷えているだろうから」と言ってくれた。
屋敷に帰ると汚い子犬を抱っこしているわたしを見て侍女達が少し嫌な顔をしていたけど、たらいにお湯を張ってもらい子犬の体を洗ってあげた。茶色の犬だと思っていたら真っ白い子犬だった。
人肌に温めたミルクにパンをちぎって柔らかくして食べさせるとお腹を空かせていた子犬は美味しそうに食べてくれた。
満足すると私の顔をペロペロと舐めた。そのあと近くにいたお父様のところへ駆け出して、お父様の足元にスリスリとして、お父様が抱き上げるとやはりペロペロと舐め回していた。
お父様は困った顔をしながらも子犬の好きにさせていた。
「貴方って動物がお好きだったのですね」
お母様は意外なお父様の姿を見て微笑ましくしていた。
それからのわたしとお父様は子犬をジルと名づけ、一緒に散歩に行くのが日課になっている。
お兄様はそんなわたしとお父様の姿を見て驚いていた。
「以前のジェシカは父上が苦手だったんだ。父上もジェシカにどう接していいのかわからずに不器用で愛情表現が下手で勘違いされていたんだ」
「わたしはお父様と仲が悪かったんですか?」
驚いているとお父様も苦笑いをした。
「わたしは君に対して母親を無理やり取り上げて悲しませてしまったから泣いているジェシカの顔をまともに見る事ができなかったんだ。気がついたらジェシカとの距離は開く一方でどうしたらいいかわからなくて…」
「そうだったんですね、わたしには記憶がないのでお父様は不器用だけどとても優しい人にみえますよ?」
「……ありがとう、そしてすまなかった」
「以前のジェシカが聞いたら喜んでいると思います」
わたしは以前のジェシカのことを知らないのでそう言ってあげるしかなかった。
お父様は一月ほど領地で過ごして王都へと帰っていった。
「ジルまた来るからな」と少し寂しそうにジルの頭を撫でて帰って行った。
お兄様はそんなお父様の後ろ姿を見送りながら
「父上があんなに寂しそうに帰る姿を初めて見たよ、ずっとこっちにいたかったんだろうな」と言っていた。お兄様はこちらの領地で半年ほど仕事をするらしくわたしとジルの散歩はお父様からお兄様へと変わった。
お兄様が忙しい時はいつの間にかセルジオ様が一緒に散歩に行ってくれる。
「セルジオ様?騎士団のお仕事は大丈夫ですか?」
と気になっていたことを尋ねると
「これも護衛騎士としての仕事だから気にしないで」と言ってくれた。
「初めましてジェシカと申します」
「ジェシカ……」二人はわたしを見て言葉を失っていた。
記憶のないわたしにとってやはり二人は他人でしかない。
「お父様」はとても無愛想な人。でも変にわたしの顔色を窺わないし、淡々と接してくれる。
なぜか親近感が湧いて一緒にいても苦にならない人だった。
「お兄様」はわたしをとても可愛がってくれてわたしも懐いていたそうだ。その話はお母様やティム達が教えてくれた。
今のわたしに対しても慈愛に満ちた瞳でわたしを見ている。不思議に警戒することなくすぐに仲良くなれた。
「ジェシカ一緒にお茶でもしよう」
毎日のようにわたしに声をかけては幼い頃のわたしの話を聞かせてくれる。
毎日のようにお兄様に我儘を言って泣いていたこと。夜眠るのが怖くてお兄様と一緒に眠っていたこと。
わたしってすごくお兄様に迷惑をかけていたらしい。
ティムやセルジオ様と三人で仲良く遊んでいた頃の話も聞かせてもらった。わたしは結構お転婆で二人と一緒に駆け回って遊んでいたらしい。
特にセルジオ様とは仲が良く、わたしはセルジオ様が大好きでその頃は「セルジオ」と呼んでいたと聞いた。
あとわたしはみんなが口を閉ざす殿下とのことも教えてもらった。
殿下とわたしはとても仲が良かった。でも婚約してからのわたしは婚約を受け入れられなくてだんだんと笑顔がなくなり王子妃教育もなかなか上手くいかなくて殿下との関係も少しずつ距離が開いていったらしい。
殿下に恋人ができたと知った時、わたしはとても羨ましがっていたらしい。愛する人と一緒にいる二人をわたしは妬くことなく見守っていたのだと。
それを聞いてわたしは殿下に恋心がなかったのだと改めて知った。
殿下のわたしを見る目はなんだったのかわからないけどわたしが何も感じなかったのはやはり恋心すらなかったからなのだろう。
お兄様が一番驚いていたのはわたしとお父様の関係だった。
お父様とは上手くいっていなくてお互いあまり話すことがなかったらしい。でも今のわたしはお父様と話すのがとても楽だ。
「ジェシカ、ジルと散歩にでも行かないか?」
「はいお父様との散歩、ジルがとても喜ぶのですよ」
ジルとは最近拾ってきた野良の子犬だった。
雨の中ずぶ濡れで震えて道に蹲っていたのをわたしとお父様が拾ったのだ。
お父様が領地での仕事の帰り道に時間が合うからと学校に迎えにきてくれた。
そして突然馬車が停まったと思ったら御者が
「ったくこんな所にいたら轢いてしまうだろう、あっちへ行け」
と野良犬を追い払おうとしていた。
わたしが窓を開けて見ていると野良犬はまだ小さくてこのままだと死んでしまいそうだった。
雨に打たれて動けない子犬。
わたしは思わず馬車の扉を開けて「その犬をわたしに渡してください」
と御者に叫んでいた。
「汚いし濡れています。汚れてしまいますよ?」
「いいの、ここにタオルがあるわ。早く頂戴」
わたしは少し怒った声で御者に命令するとお父様が横で言った。
「渡してやりなさい」
「はい、かしこまりました」
仕方なさそうに子犬を渡してくれた。
震えて虚な目をした子犬の体をタオルで拭いてあげた。寒いのか震えていた。
「おうちに帰ったらあったかくしてあげるから今はわたしの体で少しでも温まってね」
わたしは汚れることなんて気にもせずに子犬を抱っこして少しでもと温めてあげた。
お父様は「帰ったら体を洗ってあげるといい、体が冷えているだろうから」と言ってくれた。
屋敷に帰ると汚い子犬を抱っこしているわたしを見て侍女達が少し嫌な顔をしていたけど、たらいにお湯を張ってもらい子犬の体を洗ってあげた。茶色の犬だと思っていたら真っ白い子犬だった。
人肌に温めたミルクにパンをちぎって柔らかくして食べさせるとお腹を空かせていた子犬は美味しそうに食べてくれた。
満足すると私の顔をペロペロと舐めた。そのあと近くにいたお父様のところへ駆け出して、お父様の足元にスリスリとして、お父様が抱き上げるとやはりペロペロと舐め回していた。
お父様は困った顔をしながらも子犬の好きにさせていた。
「貴方って動物がお好きだったのですね」
お母様は意外なお父様の姿を見て微笑ましくしていた。
それからのわたしとお父様は子犬をジルと名づけ、一緒に散歩に行くのが日課になっている。
お兄様はそんなわたしとお父様の姿を見て驚いていた。
「以前のジェシカは父上が苦手だったんだ。父上もジェシカにどう接していいのかわからずに不器用で愛情表現が下手で勘違いされていたんだ」
「わたしはお父様と仲が悪かったんですか?」
驚いているとお父様も苦笑いをした。
「わたしは君に対して母親を無理やり取り上げて悲しませてしまったから泣いているジェシカの顔をまともに見る事ができなかったんだ。気がついたらジェシカとの距離は開く一方でどうしたらいいかわからなくて…」
「そうだったんですね、わたしには記憶がないのでお父様は不器用だけどとても優しい人にみえますよ?」
「……ありがとう、そしてすまなかった」
「以前のジェシカが聞いたら喜んでいると思います」
わたしは以前のジェシカのことを知らないのでそう言ってあげるしかなかった。
お父様は一月ほど領地で過ごして王都へと帰っていった。
「ジルまた来るからな」と少し寂しそうにジルの頭を撫でて帰って行った。
お兄様はそんなお父様の後ろ姿を見送りながら
「父上があんなに寂しそうに帰る姿を初めて見たよ、ずっとこっちにいたかったんだろうな」と言っていた。お兄様はこちらの領地で半年ほど仕事をするらしくわたしとジルの散歩はお父様からお兄様へと変わった。
お兄様が忙しい時はいつの間にかセルジオ様が一緒に散歩に行ってくれる。
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