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3話 シェリーナは。
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「お迎え………?」
寒さと飢えで体に力が入らない。
震える手をおば様に向けた。
「まぁ、そんなに痩せて!それに顔色も悪いし、こんな薄暗い空気の悪い部屋に押し込められて!」
わたしの手を優しく握りしめるとその手を頬にあてた。
ーーあったかい。
「絶対に許せないわ!」
おば様は怒りを露わにすると近くにいた男の人に「バルト男爵はどこに居るの?」と厳しい口調で聞いた。
「だ、旦那様はただいま外出中です」
「そう、じゃあ待たせてもらうわ。シェリーナは先に我が家に連れて行ってちょうだい」
おば様の一声で「はい!」と別の男の人が慌ててわたしを優しく抱き上げてくれた。
「お可哀想に……こんなに痩せて」
男の人はわたしを労るように抱き上げて「もう大丈夫ですからね」と言って馬車に乗せてくれた。
わたしはその時まだ5歳。疲れて馬車の中で眠ってしまっていた。
その後気がつけば暗いあの部屋から以前のようなとても素敵な可愛らしい部屋に連れてこられていた。
「……ここは?」
キョロキョロと周りを見回した。
また叔父様が来て何か言われるかもしれない。
こんな綺麗な部屋にいることがバレたら今度はどんな目に遭うんだろう。
そう考えるとこの部屋にいるのが怖かった。でも声を出して泣くと『うるさい!』『このクソガキ!』と言って髪の毛を引っ張られたり頬を叩かれる。
だからどんなに辛くても悲しくても泣かないの。
だって人殺しは泣いたらいけないんだって叔父様が言ってた。
泣くことすら許されないんだって、苦しんで苦しんで生きればいいと言われた。
叔父様のわたしを見る目は怒りに満ちていた。本当にわたしのことを恨んでいて人殺しだと思っていた。
あの頃幼心に叔父様だけは怒らせてはいけないとずっと怯えていた。
あれから叔父様がどうなったかは分からない。ケイン様のお母様、テリーヌ様は何も話してくれなかったから。
従姉妹のマデリーン様ともお会いする機会はない。でももし叔父様や叔母様、マデリーン様にお会いしたらわたしはどんな態度を取るのだろう。
そんなことを考えるだけで体が震え上がり自分の体を自分で抱きしめることしかできなかった。
テリーヌ様のお屋敷は以前に比べてとても過ごしやすい。
ただ一つ年上のケイン様はわたしのことがお嫌いのようだ。
『お前きらい』
初めて会った時の言葉。
まだ人が怖くて、人と会話することができず、声を出すことすら怖くて……俯いてばかりだった。
そんなわたしの態度にケイン様は苛立ちを覚え、屋敷の中ですれ違うたびに『おい!』とか『挨拶くらいしろよ!』と言われた。
ーー挨拶しなきゃ。
心の中では焦って何か言わなきゃと思ってるのに、何故か言葉が出てこない。
ケイン様はわたしをとても嫌うようになった。
テリーヌ様と公爵様は、少しずつ慣れていけばいいと言ってくださって、わたしが声を出せずにいることも心配はしてくれても怒ったりはしなかった。
でもやはりわたしの態度が悪いのか、テリーヌ様達が領地へと旅立ってから、この屋敷でも少しずつ使用人たちの態度が変わっていった。
いつもの料理の品数が減っていき、たまに食事を忘れていたと言って出してもらえなかったり、外に出られないように外から鍵をかけられてしまうようになった。
わたしを助けてこの屋敷に連れてきてくれた執事のアルトさんがいる時は『普通』なのに、アルトさんがいない時はわたしに対する態度は『普通』ではなくなる。
だけどそれを誰かに言うつもりはなかった。
だってわたしは『人殺し』だから。
どんなことをされてもわたしはそれを受け入れなければいけない。
叔父様はそう教えてくれたから。
寒さと飢えで体に力が入らない。
震える手をおば様に向けた。
「まぁ、そんなに痩せて!それに顔色も悪いし、こんな薄暗い空気の悪い部屋に押し込められて!」
わたしの手を優しく握りしめるとその手を頬にあてた。
ーーあったかい。
「絶対に許せないわ!」
おば様は怒りを露わにすると近くにいた男の人に「バルト男爵はどこに居るの?」と厳しい口調で聞いた。
「だ、旦那様はただいま外出中です」
「そう、じゃあ待たせてもらうわ。シェリーナは先に我が家に連れて行ってちょうだい」
おば様の一声で「はい!」と別の男の人が慌ててわたしを優しく抱き上げてくれた。
「お可哀想に……こんなに痩せて」
男の人はわたしを労るように抱き上げて「もう大丈夫ですからね」と言って馬車に乗せてくれた。
わたしはその時まだ5歳。疲れて馬車の中で眠ってしまっていた。
その後気がつけば暗いあの部屋から以前のようなとても素敵な可愛らしい部屋に連れてこられていた。
「……ここは?」
キョロキョロと周りを見回した。
また叔父様が来て何か言われるかもしれない。
こんな綺麗な部屋にいることがバレたら今度はどんな目に遭うんだろう。
そう考えるとこの部屋にいるのが怖かった。でも声を出して泣くと『うるさい!』『このクソガキ!』と言って髪の毛を引っ張られたり頬を叩かれる。
だからどんなに辛くても悲しくても泣かないの。
だって人殺しは泣いたらいけないんだって叔父様が言ってた。
泣くことすら許されないんだって、苦しんで苦しんで生きればいいと言われた。
叔父様のわたしを見る目は怒りに満ちていた。本当にわたしのことを恨んでいて人殺しだと思っていた。
あの頃幼心に叔父様だけは怒らせてはいけないとずっと怯えていた。
あれから叔父様がどうなったかは分からない。ケイン様のお母様、テリーヌ様は何も話してくれなかったから。
従姉妹のマデリーン様ともお会いする機会はない。でももし叔父様や叔母様、マデリーン様にお会いしたらわたしはどんな態度を取るのだろう。
そんなことを考えるだけで体が震え上がり自分の体を自分で抱きしめることしかできなかった。
テリーヌ様のお屋敷は以前に比べてとても過ごしやすい。
ただ一つ年上のケイン様はわたしのことがお嫌いのようだ。
『お前きらい』
初めて会った時の言葉。
まだ人が怖くて、人と会話することができず、声を出すことすら怖くて……俯いてばかりだった。
そんなわたしの態度にケイン様は苛立ちを覚え、屋敷の中ですれ違うたびに『おい!』とか『挨拶くらいしろよ!』と言われた。
ーー挨拶しなきゃ。
心の中では焦って何か言わなきゃと思ってるのに、何故か言葉が出てこない。
ケイン様はわたしをとても嫌うようになった。
テリーヌ様と公爵様は、少しずつ慣れていけばいいと言ってくださって、わたしが声を出せずにいることも心配はしてくれても怒ったりはしなかった。
でもやはりわたしの態度が悪いのか、テリーヌ様達が領地へと旅立ってから、この屋敷でも少しずつ使用人たちの態度が変わっていった。
いつもの料理の品数が減っていき、たまに食事を忘れていたと言って出してもらえなかったり、外に出られないように外から鍵をかけられてしまうようになった。
わたしを助けてこの屋敷に連れてきてくれた執事のアルトさんがいる時は『普通』なのに、アルトさんがいない時はわたしに対する態度は『普通』ではなくなる。
だけどそれを誰かに言うつもりはなかった。
だってわたしは『人殺し』だから。
どんなことをされてもわたしはそれを受け入れなければいけない。
叔父様はそう教えてくれたから。
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