あなたを守りたい……いまさらそれを言う?

たろ

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「お姉様、では放課後、ちゃんと馬車乗り場に来てくださいね?いつも来ないから心配しているのよ?」
 リリアンは心配そうに節目がちにファナを見た。

「リリアン、帰りは気にしなくていいわ。わたしは自分で勝手に帰るから。あなたはあなたで好きに帰っていいのよ」

 頬をぷくっと膨らませて可愛らしく怒ったふりをしながらリリアンが言った。

「もう!これでも心配してるのよ?それにわたしの宿題を誰が他にしてくださると言うの?お姉様しかいないのよ?」

 ファナは呆れながら優しく諭すように言った。

「宿題は自分でするものよ?リリアンは成績だって悪くないのだし、自分で出来るはずよ?」

「お姉様ったら酷いわ!わたしだって自分でしたいと思っているわ。でも忙しくて時間が取れないの!」

 リリアンはファナから意地悪を言われたと悲しそうに瞳を潤ませた。

 ファナはリリアンがいつも遊んでばかりいることを知っている。だけど敢えてそのことを言うつもりはない。

「そう……でもわたしも自分の宿題もあるし、お父様に頼まれた仕事もあるの。あなたの宿題まで手が回らないこともあるわ」

 宿題を毎回代わりに出来ないと告げたつもりが……

「お父様のお仕事は朝早くしたらいいじゃない?わたしの宿題は帰ってからすぐしてくれたらいいわ。ふふっ、わたしってエラい?」

 嬉しそうに手を叩くリリアンをただ黙って見つめて、ファナは「授業が始まるわ。急ぎましょう」とリリアンに早く教室へ行くようにと促した。

「じゃあ、今日もお願いしてもいいかしら?明日までの提出が二つあるの」

 友人を見つけると嬉しそうに友人に手を振るとファナを置いて去って行く。

 ファナは溜め息すら出ない。

 実は馬車酔いをして気分が悪い。

 睡眠不足と今朝の父のことで精神的な疲労がたまりフラフラとしていた。リリアンの前で体調が悪いことを知られたくなくて、なんとか頑張って立っていたがホッとしたのか目が回る。

 そのまま地面にしゃがみ込むと後ろからドンっと誰かの足が背中にぶつかってきた。

「邪魔なんだよ」
「うわっ、汚ねぇ。俺の足がぶつかってしまった」

 彼らはリリアンを慕う男の子達だった。

 いつもお姉様に意地悪をされ、宿題を押し付けられたり、お姉様の仕事を押し付けられて学校に来るのが遅くなってしまうとか、食事も一緒に食べたくないと言われ一人で食べていると悲しそうに友人達に話しているリリアン。

 おかげで学校でのファナの評判はとても悪い。

「………」

 ファナはあと少しだけ我慢すればいいと、いつも何も言い返さない。

 父や妹に内緒で薬師の勉強もしているし、飛び級をして早期卒業を目指し、こっそりと早めに単位を取っている。あと少しで2年早く卒業する資格が取れそうだ。

 薬師の師匠が校長に頼み込んで、父にはファナの卒業資格が取れそうなことは伝えないようにと圧力をかけてくれている。

 師匠のおかげであと少しの辛抱……そう思いつつも今のこの状況……

 ーーどうしよう……邪魔と言われても…フラフラして立てないし……

「………」

「おい!何か言えよ!」

 ニヤニヤと笑いながら男子生徒二人はファナの背中をまた足で蹴った。

 あまりの痛みで、そのまま地面に倒れこむと流石に周囲で見ていた別の生徒が「やめてあげて!」「酷い!」と庇う声が聞こえてきた。

「うるせぇ!こいつが意地悪だからだろう」
「そうだ、リリアンに意地悪する悪女だぞ」

 その言葉に止めに入った女子生徒は一瞬躊躇した。
「……でも……体調が悪そうよ?か弱い女性にそんなことをするなんて、男なら守ってあげるのが紳士ではないのかしら?」

 勇気を出して女子生徒が男子生徒に意見を言うと、周りの学生達も「うんうん」と頷いていた。

 バツが悪くなった男子生徒二人はファナの真っ青な顔を見てハッとなった。

「お、俺……間違ったことはしてない」
「君がリリアンを虐めるから、こんなことされるんだ!」

 自分たちは悪くないと肯定して急いで立ち去った。

 女子生徒はファナに近づくと「大丈夫?」と声をかけた。

 そしてファナの肩にそっと手を置いた。

 するとファナは倒れたまま意識を失ってしまっていた。

「え?だ、誰か手伝って!!ファウステリナ様の意識がないわ」



 ✴︎ ✴︎ ✴︎


 とても気持ちが良かった。

 久しぶりにたくさん眠って体も頭もスッキリとして目が覚めた。

「ふああああ、よく寝た」

 ベッドの上で大きく伸びをして呑気にあくびをしていたら、エリーナ先生が顔を覗かせた。

「やっと目が覚めた?もう昼休みだよ?」

「…………えっ?う、うそ!」

 ファナは急いで起き上がりベッドから降りて靴を履く。

「こら、ファナ嬢。そんな格好で保健室を出て行ったら大騒ぎになるわよ」

「え?」

 ファナは下を向いて自分の服を見て青ざめた。

「し、下着??」

「倒れてここに運ばれたの。制服は誰かさん達のせいで靴で汚れてるし、ベッドで横になるには制服は窮屈だから、わたしが脱がせたの」

「エリーナ先生……ありがとうございました」

「はい、制服の替え。汚れているのは洗っておくから着替えなさい」

「はい」

 ファナはここにもう一枚制服を置いてもらっている。

 リリアンのおかげで、悪い噂が絶えないファナはなぜか制服を汚されてしまう。

 ジュースがどこからか飛んできたり、剣術の授業や魔法の授業の後、制服に着替えようとするとなぜか制服が汚れていたりどこか破られていたりする。

 そのためもう一枚代えの制服を保健室に用意させてもらっている。

 これも師匠がエリーナ先生に頼んでくれた。

 ファナは今日の昼休みの間に、薬草の手入れをするため温室に行く予定にしていた。

 学校には師匠専用の温室がある。そこには許可がなければ勝手に入れないのだが、弟子であるファナは許可をもらっていた。

 そこは、許可をもらった者しか扉は開かない。
 なので薬草の手入れは、ファナの仕事だった。もちろんファナ自身も喜んでお手伝いをしていた。

 枯れた葉や茎ですら薬として使える大切な薬草のお世話をさせてもらえることは、薬師を目指すファナにとっては何よりも代え難いものだった。

 ファナの今の目標は、母の心臓の薬を作ることだった。

 今のところ、症状を抑える薬は完成させた。

 だけど、出来れば完治させてあげたかった。

 ファナは母が自分のせいで今も療養していることがとても気がかりだった。

 今日は放課後図書室に行かずに、温室へ行こう。
 急いで制服に着替えて、保健室で持ってきたサンドイッチを頬張った。

「リリアン嬢のことだけど、少し痛い目に遭わせた方がいいんじゃないの?」

 ファナは「ゴホッゴホッ」とむせてしまった。

「先生がそんなこと言っては駄目ですよ?あの子にも良いところがあるんです」

「へえ?どこがかしら?」

「………明るくて………自分の意見を……はっきりと……言えるところ?」

「ただのわがままなお嬢様なだけじゃない」

 エリーナはファナの言葉に呆れてため息をついた。

 ファナも苦笑いするしかなかった。

「そういえば、ファナ嬢に手を、いや足を出したあの二人の生徒は停学になったから!」

 ファナは学校の動きの早さに驚きながらも、師匠がここでも動いてくれたのだろうと心の中で感謝した。







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