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後編
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僕が知ったのはパトリーナが亡くなってから数日が経ってからだった。
「パトリーナが亡くなった?」
「父上?嘘ですよね?だってパトリーナはただ学園にいくのが面倒で休学していただけだと噂が流れていますよ?」
「彼女の余命は半年だったんだ……学園へ通う体力すら残っていなかった」
ーーそんな…信じられない。
いつも堂々としていて凛とした彼女の姿しか思い出せない。
「だって三ヶ月前は学園を休んでいるくせに夜会に出てきていましたよ?それにひと月前にパトリーナに会ったし………」
ーー思い出してみると確かに彼女はソファに座ったままだった。化粧をしっかりしていたけどきつそうにしていたかも……しれない。夜会の時だって、彼女の体はとても軽かったしほっそりとしていた。
「お前に会いたかったんだよ。覚えていないか?子供の頃何度かパトリーナと遊んだことを。彼女はお前が初恋だったんだ。そしてお前もパトリーナのことを好きだっただろう?
だから二人を婚約させた。だがお前は幼馴染のマーガレットを優先させて全くパトリーナのことを見ることはなかったがな」
「あの……女の子がパトリーナ?いつも静かに絵本を読んでいた女の子。一度だけだったけど声をかけると嬉しそうについてきて一緖に遊んだんだ。でもその後からはいくら遊ぼうと言っても嫌がられた。そして我が家にこなくなってしまった……」
ーーとっても綺麗な女の子だった。静かに微笑む姿がとても可愛らしくて僕はずっと目で追っていた。話しかけると恥ずかしそうに微笑んで、なんとか仲良くなりたくて必死だった。
屋敷に来なくなって寂しくて何度も父上に会いたいと頼んだけど「もう来ることはない」と言われた。
ーーまさかあの子がパトリーナだったなんて……
パトリーナとの婚約は嫌ではなかった。とても綺麗な女の子。学園では公爵令嬢で眉目秀麗で有名だった。高嶺の花だと言われていた。
そんな彼女との婚約は嬉しかったが荷が重かったのも確かだ。
ぼくの成績は中の上。顔もまぁ中の上。
すごい取り柄があるわけでもない。
侯爵令息ではあるがパトリーナの家格に比べれば見劣りする。
そんな僕には彼女は凄すぎて不釣り合いだと思った。
だからマーガレットに逃げた。好きなわけではない。だって幼馴染なだけだ。
彼女だって僕のことを好きなわけではない。
マーガレットは昔から男に対していい顔をする。
それを知っていたけど、僕にとっては彼女は幼馴染でいい子なので特に何も思わなかった。
好きなわけではないからマーガレットに関心なんかなかった。
ただそんなマーガレットにパトリーナが意地悪をしていたと聞いて、無性に腹が立った。
マーガレットがされたことを怒ったと言うよりもパトリーナがそんなことをすることが腹が立った。
僕に対して関わろうとせずあまり寄ってこないくせに婚約者としての地位を盾にマーガレットに対して意地悪をするなんて……彼女に惹かれていたからこそ許せなかった。
だからパトリーナのことを無視した。向こうが僕に関わろうとしないのだから向こうが悪い。
僕から敢えてご機嫌を取る必要なんてない。
そう思っていた。
だからマーガレットとわざと仲良くしていた。
彼女に見せつけるように。
パトリーナがマーガレットに意地悪をすると聞くとさらにマーガレットを守るためにパトリーナに対してキツく当たるようになった。
だってそれしかパトリーナと接することがなかったから。
「パトリーナは……本当に亡くなったのですか?嘘ですよね?嘘だと言ってください!」
「……彼女はお前が幸せになることを望んだ。お前とマーガレットと二人で……だから、お前はマーガレットと卒業と同時に結婚させることにした。婿に行ってもらう」
「マーガレットと?婿?」
ーーマーガレットの家は男爵家だ。母上の従兄弟の家で親戚でもある。
だから彼女は僕の家によく遊びにきていた。母上は女の子がいなかったのでマーガレットを可愛がっていたのだ。
「お前はパトリーナと婚約していた時彼女を蔑ろにしていた。パトリーナが何もしていないのにマーガレットを虐めたと何度も責めただろう?
一方的にマーガレットの話だけ聞いて責めただろう?何故きちんと調べて判断しなかったんだ?パトリーナはずっとマーガレットに嫌がらせをされてさらに悪い噂を流されてずっと辛い思いをしていた。それを一緒に責めたのはお前だ。
お前にパトリーナが亡くなったからと悲しむ資格はない」
「マーガレットがパトリーナに意地悪をしていた?マーガレットが言っていたことは嘘だったんですか?」
「パトリーナは何も言わなかったが、パトリーナの友人達が全て話してくれたよ。悪い噂が立ち彼女から離れていたがパトリーナが亡くなったと知って全て本当のことを話してくれたらしい。
公爵はかなり怒っているよ。お前とマーガレットにはぜひ何があっても添い遂げて欲しいそうだ。そう、何があってもだ」
パトリーナの友人達もぼくも一度も彼女のお墓に行かせてもらうことは出来なかった。
学園で彼女の悪口を散々言ったマーガレットの友人の数人はいつの間にか平民になっていた。
ーーーーー
卒業と同時に僕はマーガレットと結婚した。
「わたしは侯爵夫人になりたかったの!どうしてうちに婿に来たの?もううちは没落寸前なのに!」
そう、マーガレットの実家は借金だらけだ。でも逃げることはできない。これがパトリーナへの贖罪だから…………
彼女は純粋に僕とマーガレットの幸せを願ってくれた。そこに愛などなかったのに……
本当に好きだったのは……パトリーナ、君だった。
マーガレットは毎日のように文句を言って過ごした。
「ジェシーなんかと結婚するんじゃなかった!綺麗なドレスを着てたくさんの宝石に囲まれて暮らしたかったのに……こんな古臭い狭い家で使用人すらいない、お金も稼げない邪魔でしかない両親と一緒に暮らさないといけないのよ。もうこんな生活したくないわ」
そう言ってマーガレットは家を出て行った。
マーガレットの両親は、「すまない」と僕に言うが元々貴族の二人は何ができるわけでもなくただ家の中でのんびりと暮らしているだけだ。
僕は下っ端の文官として働きながら名前だけの男爵としてなんとか暮らし続けた。マーガレットは家を出たままどこへ行ったのかはわからない。彼女の両親は僕の枷にしかならないが、これが僕の運命なのだと思い受け入れるしかなかった。
パトリーナが僕の幸せを願ってくれたのだから僕はずっとマーガレットの旦那として一生を生きていくつもりだ。何があっても逃げることなく……
これが僕の幸せなのだから。
そしてこの一部屋しかない狭い汚い部屋で一生働きながら借金を返し続けるのが僕の贖罪だ。
僕は決して死ぬことは許されない。生き続けるしかない。
ーー完ーー
◆ ◆ ◆
「パトリーナ……君が願った二人の幸せは俺が見届けてあげるよ」
ハリスはマーガレットがジェシーを捨てて家を出たことを知った。だからこの女には最高の居場所をプレゼントすることにした。
犯罪を犯した奴らが連れて来られた鉱山に慰み者としてマーガレットを連れて行った。
「い、いや、や、やめて」
マーガレットは震える声で逃げようとした。だが飢えた男達はマーガレットを離すことはなかった。彼女は死ぬまで男達に犯され続けるのだ。
ハリスは彼女の墓の前で静かに微笑んだ。
「……生まれ変わったら次は俺と恋をしよう。その時の君は悪役令嬢ではなくヒロインだ、君だけを愛しているよ」
「パトリーナが亡くなった?」
「父上?嘘ですよね?だってパトリーナはただ学園にいくのが面倒で休学していただけだと噂が流れていますよ?」
「彼女の余命は半年だったんだ……学園へ通う体力すら残っていなかった」
ーーそんな…信じられない。
いつも堂々としていて凛とした彼女の姿しか思い出せない。
「だって三ヶ月前は学園を休んでいるくせに夜会に出てきていましたよ?それにひと月前にパトリーナに会ったし………」
ーー思い出してみると確かに彼女はソファに座ったままだった。化粧をしっかりしていたけどきつそうにしていたかも……しれない。夜会の時だって、彼女の体はとても軽かったしほっそりとしていた。
「お前に会いたかったんだよ。覚えていないか?子供の頃何度かパトリーナと遊んだことを。彼女はお前が初恋だったんだ。そしてお前もパトリーナのことを好きだっただろう?
だから二人を婚約させた。だがお前は幼馴染のマーガレットを優先させて全くパトリーナのことを見ることはなかったがな」
「あの……女の子がパトリーナ?いつも静かに絵本を読んでいた女の子。一度だけだったけど声をかけると嬉しそうについてきて一緖に遊んだんだ。でもその後からはいくら遊ぼうと言っても嫌がられた。そして我が家にこなくなってしまった……」
ーーとっても綺麗な女の子だった。静かに微笑む姿がとても可愛らしくて僕はずっと目で追っていた。話しかけると恥ずかしそうに微笑んで、なんとか仲良くなりたくて必死だった。
屋敷に来なくなって寂しくて何度も父上に会いたいと頼んだけど「もう来ることはない」と言われた。
ーーまさかあの子がパトリーナだったなんて……
パトリーナとの婚約は嫌ではなかった。とても綺麗な女の子。学園では公爵令嬢で眉目秀麗で有名だった。高嶺の花だと言われていた。
そんな彼女との婚約は嬉しかったが荷が重かったのも確かだ。
ぼくの成績は中の上。顔もまぁ中の上。
すごい取り柄があるわけでもない。
侯爵令息ではあるがパトリーナの家格に比べれば見劣りする。
そんな僕には彼女は凄すぎて不釣り合いだと思った。
だからマーガレットに逃げた。好きなわけではない。だって幼馴染なだけだ。
彼女だって僕のことを好きなわけではない。
マーガレットは昔から男に対していい顔をする。
それを知っていたけど、僕にとっては彼女は幼馴染でいい子なので特に何も思わなかった。
好きなわけではないからマーガレットに関心なんかなかった。
ただそんなマーガレットにパトリーナが意地悪をしていたと聞いて、無性に腹が立った。
マーガレットがされたことを怒ったと言うよりもパトリーナがそんなことをすることが腹が立った。
僕に対して関わろうとせずあまり寄ってこないくせに婚約者としての地位を盾にマーガレットに対して意地悪をするなんて……彼女に惹かれていたからこそ許せなかった。
だからパトリーナのことを無視した。向こうが僕に関わろうとしないのだから向こうが悪い。
僕から敢えてご機嫌を取る必要なんてない。
そう思っていた。
だからマーガレットとわざと仲良くしていた。
彼女に見せつけるように。
パトリーナがマーガレットに意地悪をすると聞くとさらにマーガレットを守るためにパトリーナに対してキツく当たるようになった。
だってそれしかパトリーナと接することがなかったから。
「パトリーナは……本当に亡くなったのですか?嘘ですよね?嘘だと言ってください!」
「……彼女はお前が幸せになることを望んだ。お前とマーガレットと二人で……だから、お前はマーガレットと卒業と同時に結婚させることにした。婿に行ってもらう」
「マーガレットと?婿?」
ーーマーガレットの家は男爵家だ。母上の従兄弟の家で親戚でもある。
だから彼女は僕の家によく遊びにきていた。母上は女の子がいなかったのでマーガレットを可愛がっていたのだ。
「お前はパトリーナと婚約していた時彼女を蔑ろにしていた。パトリーナが何もしていないのにマーガレットを虐めたと何度も責めただろう?
一方的にマーガレットの話だけ聞いて責めただろう?何故きちんと調べて判断しなかったんだ?パトリーナはずっとマーガレットに嫌がらせをされてさらに悪い噂を流されてずっと辛い思いをしていた。それを一緒に責めたのはお前だ。
お前にパトリーナが亡くなったからと悲しむ資格はない」
「マーガレットがパトリーナに意地悪をしていた?マーガレットが言っていたことは嘘だったんですか?」
「パトリーナは何も言わなかったが、パトリーナの友人達が全て話してくれたよ。悪い噂が立ち彼女から離れていたがパトリーナが亡くなったと知って全て本当のことを話してくれたらしい。
公爵はかなり怒っているよ。お前とマーガレットにはぜひ何があっても添い遂げて欲しいそうだ。そう、何があってもだ」
パトリーナの友人達もぼくも一度も彼女のお墓に行かせてもらうことは出来なかった。
学園で彼女の悪口を散々言ったマーガレットの友人の数人はいつの間にか平民になっていた。
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卒業と同時に僕はマーガレットと結婚した。
「わたしは侯爵夫人になりたかったの!どうしてうちに婿に来たの?もううちは没落寸前なのに!」
そう、マーガレットの実家は借金だらけだ。でも逃げることはできない。これがパトリーナへの贖罪だから…………
彼女は純粋に僕とマーガレットの幸せを願ってくれた。そこに愛などなかったのに……
本当に好きだったのは……パトリーナ、君だった。
マーガレットは毎日のように文句を言って過ごした。
「ジェシーなんかと結婚するんじゃなかった!綺麗なドレスを着てたくさんの宝石に囲まれて暮らしたかったのに……こんな古臭い狭い家で使用人すらいない、お金も稼げない邪魔でしかない両親と一緒に暮らさないといけないのよ。もうこんな生活したくないわ」
そう言ってマーガレットは家を出て行った。
マーガレットの両親は、「すまない」と僕に言うが元々貴族の二人は何ができるわけでもなくただ家の中でのんびりと暮らしているだけだ。
僕は下っ端の文官として働きながら名前だけの男爵としてなんとか暮らし続けた。マーガレットは家を出たままどこへ行ったのかはわからない。彼女の両親は僕の枷にしかならないが、これが僕の運命なのだと思い受け入れるしかなかった。
パトリーナが僕の幸せを願ってくれたのだから僕はずっとマーガレットの旦那として一生を生きていくつもりだ。何があっても逃げることなく……
これが僕の幸せなのだから。
そしてこの一部屋しかない狭い汚い部屋で一生働きながら借金を返し続けるのが僕の贖罪だ。
僕は決して死ぬことは許されない。生き続けるしかない。
ーー完ーー
◆ ◆ ◆
「パトリーナ……君が願った二人の幸せは俺が見届けてあげるよ」
ハリスはマーガレットがジェシーを捨てて家を出たことを知った。だからこの女には最高の居場所をプレゼントすることにした。
犯罪を犯した奴らが連れて来られた鉱山に慰み者としてマーガレットを連れて行った。
「い、いや、や、やめて」
マーガレットは震える声で逃げようとした。だが飢えた男達はマーガレットを離すことはなかった。彼女は死ぬまで男達に犯され続けるのだ。
ハリスは彼女の墓の前で静かに微笑んだ。
「……生まれ変わったら次は俺と恋をしよう。その時の君は悪役令嬢ではなくヒロインだ、君だけを愛しているよ」
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