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番外編①
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「ジェシー、マーガレットとの距離が近すぎるんじゃないか?」
父上が何度も兄上を諌めようとするのに
「マーガレットとは幼馴染です。別に変な関係ではありません。母上だってうちの屋敷にいるのを認めているでしょう?」
兄上はマーガレット姉さんのことになるとムキになる。
我が家は侯爵家。
地位も財産もあり裕福だ。マーガレット姉さんの家は男爵家なんだけど金銭的にかなり厳しいらしい。
母上の従兄弟の娘で、あまり余裕がないためなのか、娘のいない母上が可愛がっていた。
屋敷に遊びに来ては何かとプレゼントをして楽しむ母上。父上は母上に甘く、文句も言えず黙っていた。
俺はそんなみんなを黙って見ていた。
幼い頃は兄上とマーガレット姉さんと遊ぶのも楽しかった。二人について回れば楽しいことだらけ。
でも気が付いたんだ。
マーガレット姉さんは侯爵家の人間でもないのに侍女やメイドに対して横柄な態度で接していることに。
「ねえ、このお茶ぬるいわ淹れなおしてきてちょうだい」
「あー、足が疲れたわ、誰か足を揉んで」
「もう遅いのよ!呼ばれたらさっさと来なさいよ!」
俺たち家族がいる時は
「みんないつもわたしにまで優しくしてくれてありがとう」と微笑みお礼を言っているのに誰もいないところでは使用人達を自分の思いのまま扱っている。
「もしわたしのことバラしたらあんた達全員クビになるように仕向けてあげるんだから。わかったぁ?」
低い怖い声で使用人達を脅している。時には物を投げつけて時には使用人がした失敗を「言うこと聞かなかったらバラすわよ」
と脅して。
俺はマーガレット姉さんの姿をこっそりと覗いて確かめた。
そしてそのことを何度か父上に伝えた。
父上も多少は知ってはいたのに
「妻がショックを受けるだろう?マーガレットも自分の家では我儘が言えないんだ。少しは多めに見てあげなければいけないだろう」
なんて言って、マーガレット姉さんの問題に対応しようとしなかった。
たぶん母上がそのことを知ればショックを受けるしヒステリックになると自分がまた対応しないといけないので面倒臭いと思っているようだ。
母上は普段いい人なのだが自分が気に入らないと他人に当たる。あの性格は母上もマーガレット姉さんも似ているのかも知れない。
兄上にはそれとなく
「兄上にも婚約者がいるのだからマーガレット姉さんと一緒にいると勘違いされるんじゃない?」
とやんわりと言ったら
「パトリーナは僕に興味なんてないよ」
と冷たい返事が返ってきた。
確かに二人は政略的なものだと思う。
ーーでも……
兄上はパトリーナ様をかなり意識しているのがわかる。二人で会う日の前日はいつになくそわそわしているし当日もかなりご機嫌だ。
なのにパトリーナ様とお会いした夕方には不機嫌になっている。
たぶん思った以上に話が弾まなかったのか、何かやらかしたのか……
パトリーナ様の方もあまり表情を変えない人だけど俺は知っている。
兄上をそっと遠くから見つめていることを。その目には兄上を想う愛情がわかってしまう。
自分から話しかけることはない。でもいつも彼女は兄上の姿を探している。
なんで俺が知っているかって?
俺は幼い頃からパトリーナ様が大好きだった。
綺麗でおとなしい、人見知りなパトリーナ様。
俺は2歳年下で相手にされないけどずっと彼女が好きだった。
兄上はパトリーナ様が幼い頃遊んだ少女だと気が付いていない。兄上だって俺と同じで幼い頃パトリーナ様に恋をしていたくせに。
まあ、確かにマーガレット姉さんが邪魔して兄上はあまり彼女の姿を見れてはいなかったけどね。
俺は後ろからついていくだけだからいつもパトリーナ様が絵本を読んだりして過ごす姿を目で追っていた。
そして隣に座り
「パトリーナ様一緒に絵本を読もうよ」と声をかけた。
「ええ、いいわよ」
彼女は少し驚いた顔をしたけどすぐに微笑んで俺と一緒に絵本を読んでくれた。
マーガレット姉さんは兄上にベッタリで出来るだけパトリーナから遠ざけて外へと連れ出した。
その隙に俺はパトリーナ様の横にいることにしたのだ。
兄上とパトリーナ様の婚約を知った時、羨ましいと思った。
俺が長男だったらせめて同じ歳だったら、俺が選ばれたかも知れない。
だから兄上にはあの少女がパトリーナ様だと教えてあげなかった。
マーガレット姉さんベッタリなくせにパトリーナ様のことを気にしている兄上。そんな兄上にイライラする。
だけど……兄上は気が付いていない。
マーガレット姉さんは蛇のように兄上に巻きついて離れようとしないことを。
周りのみんなを巻き込んで自分のいいように操っていることを。
それをパトリーナ様は一度も否定せず甘んじて受け入れていることを。
本当ならパトリーナ様のためにマーガレット姉さんの悪事を全てバラしてしまえばいい。
だけど俺はしない。
だってマーガレット姉さんから離れないのは兄上なのだから、自分で選んだんだ。そんな奴にパトリーナ様はもったいない。
傷ついて可哀想だけど……パトリーナ様にはもっと相応しい人がいるはずだ。
そう思っていたのに……パトリーナ様は最期まで兄上だけを想って死んでいった。
俺は後悔しかなかった。
パトリーナ様の病気を余命を知っていたなら……兄上の本当の想いを、マーガレット姉さんの本当の姿を全てバラしていたのに………
今俺は兄上の代わりに爵位を継いで当主として暮らしている。
兄上はマーガレットの実家の爵位を継いだ。だがマーガレットの家は借金だらけで結局狭い家で肩を寄せ合って暮らしている。
父上は兄上のことを自業自得だと言う。母上は自分の行いのせいで長男がマーガレットと結婚したことを悔いて、部屋に閉じこもって出てこなくなった。
俺はそんな二人を領地の辺鄙な屋敷に押し込んでもう貴族社会には出てこれなくしてしまった。
俺も同罪だけど……両親はパトリーナ様にとって害でしかなかった。
彼女を苦しめた元凶でもあった。
彼女の死は止められない。仕方のないことなんだとわかっているのに……こんなに残された者達に影響を与えてしまった人はいないと思う。
彼女の純粋なまでの愛が……今も重くのしかかっている。
もう彼女へ詫びることも本当の事を伝えることも出来ない。
俺が当主になり家庭を持っても……パトリーナ様のあの優しい笑顔が忘れられなくて………一生片思いをし続けている。
父上が何度も兄上を諌めようとするのに
「マーガレットとは幼馴染です。別に変な関係ではありません。母上だってうちの屋敷にいるのを認めているでしょう?」
兄上はマーガレット姉さんのことになるとムキになる。
我が家は侯爵家。
地位も財産もあり裕福だ。マーガレット姉さんの家は男爵家なんだけど金銭的にかなり厳しいらしい。
母上の従兄弟の娘で、あまり余裕がないためなのか、娘のいない母上が可愛がっていた。
屋敷に遊びに来ては何かとプレゼントをして楽しむ母上。父上は母上に甘く、文句も言えず黙っていた。
俺はそんなみんなを黙って見ていた。
幼い頃は兄上とマーガレット姉さんと遊ぶのも楽しかった。二人について回れば楽しいことだらけ。
でも気が付いたんだ。
マーガレット姉さんは侯爵家の人間でもないのに侍女やメイドに対して横柄な態度で接していることに。
「ねえ、このお茶ぬるいわ淹れなおしてきてちょうだい」
「あー、足が疲れたわ、誰か足を揉んで」
「もう遅いのよ!呼ばれたらさっさと来なさいよ!」
俺たち家族がいる時は
「みんないつもわたしにまで優しくしてくれてありがとう」と微笑みお礼を言っているのに誰もいないところでは使用人達を自分の思いのまま扱っている。
「もしわたしのことバラしたらあんた達全員クビになるように仕向けてあげるんだから。わかったぁ?」
低い怖い声で使用人達を脅している。時には物を投げつけて時には使用人がした失敗を「言うこと聞かなかったらバラすわよ」
と脅して。
俺はマーガレット姉さんの姿をこっそりと覗いて確かめた。
そしてそのことを何度か父上に伝えた。
父上も多少は知ってはいたのに
「妻がショックを受けるだろう?マーガレットも自分の家では我儘が言えないんだ。少しは多めに見てあげなければいけないだろう」
なんて言って、マーガレット姉さんの問題に対応しようとしなかった。
たぶん母上がそのことを知ればショックを受けるしヒステリックになると自分がまた対応しないといけないので面倒臭いと思っているようだ。
母上は普段いい人なのだが自分が気に入らないと他人に当たる。あの性格は母上もマーガレット姉さんも似ているのかも知れない。
兄上にはそれとなく
「兄上にも婚約者がいるのだからマーガレット姉さんと一緒にいると勘違いされるんじゃない?」
とやんわりと言ったら
「パトリーナは僕に興味なんてないよ」
と冷たい返事が返ってきた。
確かに二人は政略的なものだと思う。
ーーでも……
兄上はパトリーナ様をかなり意識しているのがわかる。二人で会う日の前日はいつになくそわそわしているし当日もかなりご機嫌だ。
なのにパトリーナ様とお会いした夕方には不機嫌になっている。
たぶん思った以上に話が弾まなかったのか、何かやらかしたのか……
パトリーナ様の方もあまり表情を変えない人だけど俺は知っている。
兄上をそっと遠くから見つめていることを。その目には兄上を想う愛情がわかってしまう。
自分から話しかけることはない。でもいつも彼女は兄上の姿を探している。
なんで俺が知っているかって?
俺は幼い頃からパトリーナ様が大好きだった。
綺麗でおとなしい、人見知りなパトリーナ様。
俺は2歳年下で相手にされないけどずっと彼女が好きだった。
兄上はパトリーナ様が幼い頃遊んだ少女だと気が付いていない。兄上だって俺と同じで幼い頃パトリーナ様に恋をしていたくせに。
まあ、確かにマーガレット姉さんが邪魔して兄上はあまり彼女の姿を見れてはいなかったけどね。
俺は後ろからついていくだけだからいつもパトリーナ様が絵本を読んだりして過ごす姿を目で追っていた。
そして隣に座り
「パトリーナ様一緒に絵本を読もうよ」と声をかけた。
「ええ、いいわよ」
彼女は少し驚いた顔をしたけどすぐに微笑んで俺と一緒に絵本を読んでくれた。
マーガレット姉さんは兄上にベッタリで出来るだけパトリーナから遠ざけて外へと連れ出した。
その隙に俺はパトリーナ様の横にいることにしたのだ。
兄上とパトリーナ様の婚約を知った時、羨ましいと思った。
俺が長男だったらせめて同じ歳だったら、俺が選ばれたかも知れない。
だから兄上にはあの少女がパトリーナ様だと教えてあげなかった。
マーガレット姉さんベッタリなくせにパトリーナ様のことを気にしている兄上。そんな兄上にイライラする。
だけど……兄上は気が付いていない。
マーガレット姉さんは蛇のように兄上に巻きついて離れようとしないことを。
周りのみんなを巻き込んで自分のいいように操っていることを。
それをパトリーナ様は一度も否定せず甘んじて受け入れていることを。
本当ならパトリーナ様のためにマーガレット姉さんの悪事を全てバラしてしまえばいい。
だけど俺はしない。
だってマーガレット姉さんから離れないのは兄上なのだから、自分で選んだんだ。そんな奴にパトリーナ様はもったいない。
傷ついて可哀想だけど……パトリーナ様にはもっと相応しい人がいるはずだ。
そう思っていたのに……パトリーナ様は最期まで兄上だけを想って死んでいった。
俺は後悔しかなかった。
パトリーナ様の病気を余命を知っていたなら……兄上の本当の想いを、マーガレット姉さんの本当の姿を全てバラしていたのに………
今俺は兄上の代わりに爵位を継いで当主として暮らしている。
兄上はマーガレットの実家の爵位を継いだ。だがマーガレットの家は借金だらけで結局狭い家で肩を寄せ合って暮らしている。
父上は兄上のことを自業自得だと言う。母上は自分の行いのせいで長男がマーガレットと結婚したことを悔いて、部屋に閉じこもって出てこなくなった。
俺はそんな二人を領地の辺鄙な屋敷に押し込んでもう貴族社会には出てこれなくしてしまった。
俺も同罪だけど……両親はパトリーナ様にとって害でしかなかった。
彼女を苦しめた元凶でもあった。
彼女の死は止められない。仕方のないことなんだとわかっているのに……こんなに残された者達に影響を与えてしまった人はいないと思う。
彼女の純粋なまでの愛が……今も重くのしかかっている。
もう彼女へ詫びることも本当の事を伝えることも出来ない。
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