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第25話
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ロバート様の家に来て二ヶ月が経った。
ウランは驚くほどの回復ぶりで今は走り回ることができる。
「お母様、セルマ君と遊んできてもいいですか?」
「あまり走り回らないでね」
わたしは心配しながらも、あんな嬉しそうに駆け回る姿をまた見ることが出来ただけで十分幸せだ。
結局ウランは、ロバート様の本邸には行かずにずっとアイリス様のそばで治療をしてもらった。
薬の効果が絶妙に合ったらしく回復のスピードは凄まじかった。
本当はもう藁にも縋りたい気分で、半信半疑でこの場所に来た。
ワルシャイナ王国の医療技術ですら助かるのは五分五分だと言われていた。
覚悟はしておきなさいと言われた時に、ウランが死ぬ時はわたしも一緒に死ぬつもりでいた。
そんなわたし達親子をロバート様とアイリス様、そしてセルマ君が救ってくれた。
セルマ君はウランのために子供しか入れない小さな洞窟に入って薬草を山の奥まで採りに行ってくれたと聞いた時、わたしはセルマ君に何度も頭を下げてお礼を言った。
そしたらセルマ君は
「二人が元気になることがぼくは一番嬉しいよ。
あ!でもウランが元気になったら一緒に走り回って遊びたいな!」
「その時はぜひウランと遊んであげてください。よろしくお願いします」
そして本当に二人で走り回れるようになった。
細くなった体はまだ元の体重には戻れていないけど、少しずつ食欲も戻って来た。
でも一番はウランの笑顔が戻って来たことがとても嬉しい。
アイリス様とも仲良くなった。
アイリス様は伯爵令嬢だったと知った。
わたしも侯爵令嬢だった時もあった。
お互い訳があって平民になった。
それぞれの事情を話せるまでの仲になるとは思わなかった。
(この方は辛い思いをしてそれでも逃げないで幸せを掴んだのね、わたしは逃げてばかりの人生……逃げないで彼と正面から向き合えば何か変わっていたかしら?)
セルマ君はお二人の子供ではないけど、縁あって二人の子供になったと聞いた。
でも本当の親子よりも仲が良い。
四人の仲の良い姿を見て、ウランが初めてわたしに聞いた。
「お母様、僕のお父様はどんな人だった?」
わたしが、ウランから父親を奪ってしまった。その後ろめたさからいつも父親の話は避けてきた。
でも逃げるのはやめてウランにもきちんと伝えよう。
まだ全てを話して受け入れてもらえる年齢ではない。
それでも彼にわかるように伝えることはできる。
「ウランのお父様は、ワルシャイナ王国でもこの国、モーリス国でもない、違う国にいるの」
「ふうん、なんて言う国?」
「ペルサイトという国よ。モーリス国のように精霊も信じられていないし、ワルシャイナ王国のようにいろんなものが発達した国でもないわ。
でもね、みんな優しい人よ。
貴方のお父様は優し過ぎたのかもしれないわ、でもね、わたしは彼を愛していたの、愛し過ぎて信じることができなかった。
捨てられるのも愛されていないとわかってそれを認めることも怖くて貴方を連れて逃げてしまったの」
ウランはキョトンとしてわたしに聞いた。
「お母様はお父様が大好き過ぎたんだね。仕方ないな、お父様がいつかお母様を探しに来てくれるよ。お母様はかくれんぼしてるんでしょう?だったらいつか見つけ出してくれるよ」
「かくれんぼ……子どもの頃ライアンとよく遊んだわ。
わたしが上手に隠れたつもりでも必ずライアンは見つけてくれた……懐かしいわ」
そんな昔のことなんか忘れていた。
いつも二人で仲良く遊んだ日々、ずっと二人で一緒にいられると思っていた。
わたしはあの頃からずっとライアンが大好きで、ライアンもわたしに優しくしてくれた。
他の人には少し冷たく見えたライアンだったけどわたしにはとても優しくていつも手を差し出して
「ミシェル、行こう」
わたしが追いつくまで待ってくれて、手を握ってくれた。
ライアンの手があったかくて、この手を握っていればわたしはずっと安心してこの人の横にいられるんだと思っていた。
あのルシア様が現れるまでは……
ルシア様とライアンの関係は誰が見ても恋人同士だった。
わたしは何度もこの恋を諦めようとしたのに、婚約解消をしてもらえない不安とでも彼の手を最後はわたしが取れるのだと思う嬉しさで、わたしの心はずっと不安定だった。
それは結婚してからも続いた。
彼に愛されるのは抱かれる時だけ。
それも偽りの愛。
わたしが彼の手を最後は自分がとれるのだと思った、そのずるい考えが、この冷めた結婚生活をしないといけない罰なんだと思った。
もちろんウランにはそんな大人の話は出来ない。
「ウラン、もしも貴方がお父様に会いたいのなら貴方の体調が落ち着いたらペルサイト国へ連れて行ってあげるわ」
「駄目だよ!お母様は隠れているんだから、お父様が探しに来ないと!いつになるかわからないけど僕は待つよ」
(ああ、この子はわかっているのね、もう会えないことを、わたしが望んでいないから無理に会おうとしないのね、我慢ばかりさせて……)
「ウラン、かくれんぼってね、時間が経って見つけてもらえなかったら自分から鬼さんに会いに行くこともあるのよ」
「え?そんなルールがあるの?知らなかったよ」
(うん、わたしも知らないわ。今初めて作ったから)
ウランは驚くほどの回復ぶりで今は走り回ることができる。
「お母様、セルマ君と遊んできてもいいですか?」
「あまり走り回らないでね」
わたしは心配しながらも、あんな嬉しそうに駆け回る姿をまた見ることが出来ただけで十分幸せだ。
結局ウランは、ロバート様の本邸には行かずにずっとアイリス様のそばで治療をしてもらった。
薬の効果が絶妙に合ったらしく回復のスピードは凄まじかった。
本当はもう藁にも縋りたい気分で、半信半疑でこの場所に来た。
ワルシャイナ王国の医療技術ですら助かるのは五分五分だと言われていた。
覚悟はしておきなさいと言われた時に、ウランが死ぬ時はわたしも一緒に死ぬつもりでいた。
そんなわたし達親子をロバート様とアイリス様、そしてセルマ君が救ってくれた。
セルマ君はウランのために子供しか入れない小さな洞窟に入って薬草を山の奥まで採りに行ってくれたと聞いた時、わたしはセルマ君に何度も頭を下げてお礼を言った。
そしたらセルマ君は
「二人が元気になることがぼくは一番嬉しいよ。
あ!でもウランが元気になったら一緒に走り回って遊びたいな!」
「その時はぜひウランと遊んであげてください。よろしくお願いします」
そして本当に二人で走り回れるようになった。
細くなった体はまだ元の体重には戻れていないけど、少しずつ食欲も戻って来た。
でも一番はウランの笑顔が戻って来たことがとても嬉しい。
アイリス様とも仲良くなった。
アイリス様は伯爵令嬢だったと知った。
わたしも侯爵令嬢だった時もあった。
お互い訳があって平民になった。
それぞれの事情を話せるまでの仲になるとは思わなかった。
(この方は辛い思いをしてそれでも逃げないで幸せを掴んだのね、わたしは逃げてばかりの人生……逃げないで彼と正面から向き合えば何か変わっていたかしら?)
セルマ君はお二人の子供ではないけど、縁あって二人の子供になったと聞いた。
でも本当の親子よりも仲が良い。
四人の仲の良い姿を見て、ウランが初めてわたしに聞いた。
「お母様、僕のお父様はどんな人だった?」
わたしが、ウランから父親を奪ってしまった。その後ろめたさからいつも父親の話は避けてきた。
でも逃げるのはやめてウランにもきちんと伝えよう。
まだ全てを話して受け入れてもらえる年齢ではない。
それでも彼にわかるように伝えることはできる。
「ウランのお父様は、ワルシャイナ王国でもこの国、モーリス国でもない、違う国にいるの」
「ふうん、なんて言う国?」
「ペルサイトという国よ。モーリス国のように精霊も信じられていないし、ワルシャイナ王国のようにいろんなものが発達した国でもないわ。
でもね、みんな優しい人よ。
貴方のお父様は優し過ぎたのかもしれないわ、でもね、わたしは彼を愛していたの、愛し過ぎて信じることができなかった。
捨てられるのも愛されていないとわかってそれを認めることも怖くて貴方を連れて逃げてしまったの」
ウランはキョトンとしてわたしに聞いた。
「お母様はお父様が大好き過ぎたんだね。仕方ないな、お父様がいつかお母様を探しに来てくれるよ。お母様はかくれんぼしてるんでしょう?だったらいつか見つけ出してくれるよ」
「かくれんぼ……子どもの頃ライアンとよく遊んだわ。
わたしが上手に隠れたつもりでも必ずライアンは見つけてくれた……懐かしいわ」
そんな昔のことなんか忘れていた。
いつも二人で仲良く遊んだ日々、ずっと二人で一緒にいられると思っていた。
わたしはあの頃からずっとライアンが大好きで、ライアンもわたしに優しくしてくれた。
他の人には少し冷たく見えたライアンだったけどわたしにはとても優しくていつも手を差し出して
「ミシェル、行こう」
わたしが追いつくまで待ってくれて、手を握ってくれた。
ライアンの手があったかくて、この手を握っていればわたしはずっと安心してこの人の横にいられるんだと思っていた。
あのルシア様が現れるまでは……
ルシア様とライアンの関係は誰が見ても恋人同士だった。
わたしは何度もこの恋を諦めようとしたのに、婚約解消をしてもらえない不安とでも彼の手を最後はわたしが取れるのだと思う嬉しさで、わたしの心はずっと不安定だった。
それは結婚してからも続いた。
彼に愛されるのは抱かれる時だけ。
それも偽りの愛。
わたしが彼の手を最後は自分がとれるのだと思った、そのずるい考えが、この冷めた結婚生活をしないといけない罰なんだと思った。
もちろんウランにはそんな大人の話は出来ない。
「ウラン、もしも貴方がお父様に会いたいのなら貴方の体調が落ち着いたらペルサイト国へ連れて行ってあげるわ」
「駄目だよ!お母様は隠れているんだから、お父様が探しに来ないと!いつになるかわからないけど僕は待つよ」
(ああ、この子はわかっているのね、もう会えないことを、わたしが望んでいないから無理に会おうとしないのね、我慢ばかりさせて……)
「ウラン、かくれんぼってね、時間が経って見つけてもらえなかったら自分から鬼さんに会いに行くこともあるのよ」
「え?そんなルールがあるの?知らなかったよ」
(うん、わたしも知らないわ。今初めて作ったから)
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