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取り違え?

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そして……わたし達はセントマザー病院へと急いで行った。

病院はもちろん認めなかった。

それならばとわたし達はそれぞれの夫婦と赤ちゃんを連れてもう一度病院へ行くと、病院は取り違えを認めた。
お互いの子供を交換したら、ロレンスそっくりの赤ちゃん。マーカスそっくりの赤ちゃん。

もう誤魔化しようがなかった。

赤ん坊の取り違えが起きていたのだ。

同時刻に生まれた二人の男の子の赤ん坊。

偶然の悲劇?誰かの故意?

わたしはライを彼らに返し、実の子のライを引き取る。

実の子のライはわたしに懐かなかった。
いつものようにあやしても泣き止まない。同じように抱っこしても居心地が悪いのかぐずってばかり。

わたしが産んだ子のはずが可愛いと思えない。
どうしたら良いのかわからない。こんな時ライならわたしの抱っこですやすやと寝てくれた。あの可愛い寝顔をもう見ることができない。

辛くてどうしてももう一人のライに会いたくてマーカスさんのところへこっそりと会いに行った。

遠くからでもいい、ライに会いたかった。

ライは……マーカスさんに抱かれてスヤスヤと眠っていた。奥さんもそんなライの顔を愛おしそうにみていた。
わたしは、我が子に愛情が持てずにどうしようもない自己嫌悪に陥ってもがいているのに、一方の家族は幸せそうに家族で過ごしていた。

「ミュゼ、向こうから苦情が来ている。君が彼らの周りをウロウロしていて落ち着かないと言ってきた。お互い元に戻ったんだ。もうあの子のことは忘れてライを大切に育てよう」
ロレンスはあれだけわたしを浮気者だとなじったくせに何を言っているのだろう。

「ロレンスはあの子のことを忘れられるの?毎日抱いて母乳を飲ませてふた月も一緒に過ごしたのよ?
あの子の温もりも寝息も全て覚えているの。なのにどうして忘れろと言うの?それに、あなたはわたしを浮気者だと罵ったのよ?」

ロレンスとの仲はもう壊れかけていた。
わたしの中で彼への信頼も愛情もなくなり、あるのは憎悪だけ。
わたしのライを取り上げた男、わたしを浮気者と罵った男。

あの頃わたしは精神的に病んでいた。

わたしに懐かない本当の息子のライ。
可愛いと思えなくて、マーカスさんのところのライを取り返したくて……

「わたしはライを取り返してくるわ」
そう言ってライを抱き抱えてわたしはマーカスさんのところへ向かおうとした。

「やめなさい、ライはこの子だ。あの子はライではなくジョセフ君なんだ」

ロレンスはわたし達を止めようとした……だけだった、なのに……

「きゃっ!」
ロレンスに掴まれた腕の痛みでライを落としそうになった。わたしはライを庇い抱きしめようとしたが、バランスを崩して倒れた。その時酷く頭を家具の角に打ち付けてしまった。

頭からは大量の血が流れて痛みが走った。でもライはわたしの腕の中でスヤスヤと寝ていた。

ーーよかった、ライに怪我ない
可愛くないと言ってたくせにライに怪我がないかと心配するなんて自分でもおかしくて………わたしはなんて酷い母親なんだろうと思った。

だんだん頭の痛みはひどくなりわたしはロレンスに

「ライをお願い」と言って彼に渡すとそのまま意識を失った。

そしてわたしは………………
何故かいつものように屋敷にいて夫の帰りを待っていた。

ロレンスは赤ん坊を抱き抱えて帰ってきたのだ。



お母様はわたしが倒れた後のことを話してくれた。

わたしはすぐに医者に診てもらい頭の傷を縫ってもらい入院した。

目が覚めた時には完全に赤ちゃんのことを忘れていたらしい。

それからわたしは領地で一人静養をした。
意識はあるのだが記憶が混濁していてわたしはただ領地で過ごしたことしか覚えていなかった。

そしてわたしの頭の中で新しい記憶が都合よく作られていた。

ーーーーー

そう、わたしの新しい記憶は……

心無い夫の親戚に何度も「子供は?」「嫡男は必ず必要よ」などと言われ続け、わたしの心は疲弊していた。

「しばらく領地で静養しないか?」
ロレンスの優しい言葉に頷いて、わたしは数ヶ月領地で過ごした。
気持ちも落ち着いてやっと本邸に戻って来たばかりだったのに、ロレンスは赤ん坊を連れて帰って来た。

ロレンスがわたしが浮気をしたと責めても言い訳しなかったのは、彼自身がわたしの浮気を疑い責めたから。
そして取り違えられた子供を受け入れられなくて、ライ(ジョセフ)を取り返そうとしたのを止めたことでわたしが大怪我をしたから。

そのことをロレンスは後悔していた。

だからわたしが記憶を失って、ロレンスが浮気したんだと責めても否定しなかったのだ。

だったらどうしてあんな脅しをしたの?
わたしが育てないならライは死ぬなんて……

それにロレンスは離縁はしないと言った。

我が子のことも忘れて、ロレンスを責めて、我が子に愛情すらかけてあげなかったわたし。

「ミュゼ、思い出した?」
お母様はとても心配そうな顔をしていた。

「はい、わたしはライの母親。なのに取り違えられたライのことを忘れられなくてこの子を捨てようとした酷い母親だったんですね」

「ミュゼ、自分を責めないで。あなたは今みたいに落ち込んでばかりで暗い表情をしている子ではなかったわ。いつも笑って周りを明るくさせてくれる子だったもの、今は無理やり記憶を思い出させたから混乱していると思うの…」

確かにわたしは記憶の奥にしまい込んでもう二度と引き出そうとはしなかった記憶を無理やりこじ開けたせいで、頭の中はパニックになっていた。

でもそれ以上に、わたしは母親として失格なのだと気がついた。

「お母様、わたしはもうここにはいられません……ライを置いて実家に帰ります」

「ライは何があっても手放したくないと言ったでしょう?」

「わたしはこの子を捨てようとした酷い母親でした」

「どうしてそんなことを思うの?」

「全てを思い出したんです、わたしが記憶をなくしたのは確かに怪我をしたからです。でもわたしはこの子を捨ててもう一人のライを取り戻そうとしていました。こんなわたしにこの子を育てる資格はありません」

ーーそう、今更だ。

わたしにはこの子の母親だと言う資格はない。だからロレンスはわたしに無理やり育てようとしたのかしら?母親失格だから、罰として?





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