【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ

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5話。

 朝起きると身支度を整えて調理場へ。

 普段のわたしは野菜の皮を剥いたり大きな鍋を洗ったり、たまに簡単な料理も作ったりする。



 だけど今日は……

「おい、ダリア!力を入れろ!」

 料理長に大きな声で気合を入れられる。

 頑張って今パンの生地を捏ねているところ。

 ちょっと体力がないわたしはヒーヒー言いながら必死に力一杯捏ねている。

 えっ?普通そんなに力はいらない?

 そうだよね。だけど、何種類ものパンを焼くのでパン生地を作るだけでもかなり大変。だんだん腕が疲れてくる。

 さっきからどれだけのパン生地を作ったことか……

 いじめられているわけではない。無理やりさせられているわけでもない。

 だけど、明日は坊っちゃまの誕生日。

 お金がないわたしがお金持ちの坊っちゃまにあげられるもの……それは知力と体力を使うしかない。

 なので必死でパン生地を捏ねて美味しいパンを作っている。

 3歳の坊っちゃまが食べるパンなんてほんの少し。だけど出来れば旦那様とお二人で食べて欲しい。いろんな種類のパンを焼いてお二人で楽しくおしゃべりをしながら食べる姿を想像してつい気合が入ってしまう。

 甘いクリームの入ったパンや干し葡萄を入れたパン。チーズのパンに、ふわふわの食パン。ロールパンにクロワッサン。

 料理長に提案したら「おっ、いいな。余ったらみんなの賄いで食べたらいいし、やってみるか!」と快く賛成してくれた。

「じゃあ、心を込めてパン生地を作ってみろ!」
 と言われて今に至る。

 坊っちゃまがパンを見て嬉しそうにしている姿を想像しながら普段使わない腕の筋肉を必死で使い頑張って捏ねている。

「ふー、流石に腕がきつい」
 思わず口からこぼれた言葉に料理長が笑った。

「そろそろ代わろうか?」

「だ、ダメです!パンは上手に作れないけど生地くらいは愛を込めて作らせてください!」

 パンはパン屋さんで買うもの。が今までのわたし。
 だから指導してもらわないと何もできない。とりあえずパンの生地を捏ねて発酵させる。

「よし!よく頑張ったな。しばらく休憩だ」

「はい!」

 今日は仕事がお休みの日。ていうかお休みをもらってパン作りをしている。


 天然酵母から作られるので発酵にも時間がかかるーーーらしい……

 その間わたしは街に買い物へ行った。

 絵本を書くために、足りなくなった絵の具を買い足すつもりだ。

 のんびり歩いているとわたしを見つけたいつもの人たちが嬉しそうにやってきた。

「あら?最近は見かけなかったけどまだこの街にいたのね?」

 ーーーそりゃいるわよ!何が言いたいの?

 と思っていてもわたしは何も言わず黙っている。
「…………」

「ほんとこんな暗い子がロードさんの彼女なんて信じられないわよね」

「ふふふっ、だけど今は食堂で働いているカリナ様に夢中だもの」

「惨めね?恋人を盗られて!」

 クスクス笑いながら言いたいことだけ言って去って行った。

 わたしが何も返事をしないものだから、飽きてどこかへ行ってしまった。

「ふー、わたしの顔を見たら何か言ってくるけど、みんな暇なのね」

 彼女達の背中に向かってボソッと呟いた。

「ぶはっ!」

 ーーーうん?

 思わず笑いを堪える声が聞こえた方へと視線を向けた。

 そこに立っていたのは……以前ロードと一緒に食事をしていた食堂にいた警備隊の騎士の人だった。

 お互い目が合った。そして慌てて目を逸らしてしまった。

 ーーー失礼だったかな?

 笑われてしまっているけど、やっぱりわたしに対してだよね?
 だけど目が合ってしまったので、一応頭を下げた。

「ご、ごめん、ごめん。君は、ロードの恋人のダリアちゃんだよね?一度会ったことがあるんだけど覚えてる?」

「はい………一応ロードの(仮)恋人のダリアです」
 人見知り発生中のわたしは小さな声で返事をした。

「君さぁ、あれだけ酷いことを言われたのに全然へこたれていないんだね?」

 ーーーだって言われ慣れてるんだもん。

「まぁそうです……かね?」

「今日はロードとデート?あいつも仕事が休みだったよね?」

「……………」

 ーーーそうなんだ。知らないや………


「……あーー、ごめん。違ったみたいだね?ロードが朝から出かける用意をしてたから……あ、うん、いや、俺また発言間違えた?」

 頭をぽりぽり掻きながら項垂れている姿を見て、

「気にしないでください」となんとか小さな声で言ってみた。

「ダリアちゃんってもしかして人見知りが激しいタイプ?」

「………慣れてしまえば平気なんです」

 ーーーうん、慣れるのにかなり時間がかかるけど………

「そっか、じゃあもう俺には慣れたかな?俺の名前はジャック。ロードと同じ歳で同僚で友達なんだ。よろしくね?」

「………はあ……」

 ーーーいや全く慣れていませんけど?

 そう言いたいけど人懐っこい笑顔に確かに他の人よりも話しやすいと思ってしまったのも本当だった。


「で、どこに行くの?買い物?また変な女達に絡まれたらいけないから一緒に買い物付き合うよ。今日は俺も暇だし」

「えっ?ええ??い、いいです、大丈夫です、遠慮させてください!」

「まぁまぁ、遠慮はいらないから。ほら行こう」

 強引に手を取られ歩き出した。

「あっ!どこに行くの?」
 ふと立ち止まってジャックさんがわたしの顔を覗き込んだ。

「どこに行くのか知らないのに歩き出したんですか?」
 呆れながらジャックさんに言うとジャックさんも笑い出した。

「ほんとだよね」

 ーーーさっきの彼女達のせいで少し気が重くなっていたのに、ジャックさんの軽さになんだかもういいかと言う気持ちになった。

 そしてロードのことで爆弾発言してたけど、それはもう聞いてなかったことにする。

 だってロードがわたしの家を訪ねるわけがないし、考えられるのは『彼女』とのこと。会う約束をしているのかもしれないし、『彼女』の働く食堂へ行くために着替えていたのかもしれない。

 ロードの好きな元貴族令嬢。

 わたしなんかと違って明るくて可愛くて人気者。

 あんまり考えすぎるとまた落ち込みそうなのでやめた!

 首を横に振って「ふう!」っと気合を入れた。

「絵の具を買いに行くんです」

「おっ、やっと声が出たね?じゃあ画材屋さんかな?」

「はい」

「ダリアちゃんが絵を描くの?」

「はい……誕生日プレゼントにちょっと……」

 絵本を書いているなんて恥ずかしくて言えないので口籠もってしまった。

「ロードって誕生日だったかな?」

「違います!ロードへのプレゼントではないんです!」

「友達、かな?」

「………いえ、違います」

 ーーーもう聞かないで!詳しく説明するほどの知り合いでもないのに……

「あーーつい色々聞いてごめん。画材屋さんかあ、じゃあ行こう」




 この時、離れたところにロードがいたことにわたしもジャックさんも気が付かなかった。

 そのことをわたしが知ったのはずっと先のことだった。
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