【完結】裏切られた私はあなたを捨てます。

たろ

文字の大きさ
63 / 116

62話

しおりを挟む
 いつもの生活に戻ってから私はまだ侯爵家に顔を出せずにいた。

 あの話を聞いて一応みんなと和解したのだけど、足がどうしても侯爵家には向かないでいた。

「無理に帰ってこなくていい」
 アレックス兄様がそう言ってくれたのでその言葉に甘えて、いつか行けばいい、そう思っていた。

 なのに……

「レイン!」

 王城にやってきたキース兄様。

 なぜここに?

 思わず唖然としてキース兄様を見た。

 私は仕事中、呼び出され応接室に行くとキース兄様がゆったりとくつろいでお茶を飲んでいた。

「キース兄様……何か急用でしょうか?」

「へっ?あ、いや、急用じゃない」

 目がキョロキョロとして私の方を見ようとしない。
 ーーうん?

「兄様?」
 少し声が低くなって兄様に問いかける。

「兄様?私は今仕事中なんです。兄様も今は授業中のはずでは?」

 やはりこちらを見ようとしない。

 兄様は手に持っていたカップをテーブルに置いた。
「サボってきた」

「は?どうして?」

「だってレインは仕事中呼び出さなければ俺に会ってはくれないだろう?」

「私は学生と違い働いております。責任と信頼の上で働かせていただいている身です。それをどうしてあなたはこんなことで呼び出すのですか?」

 苛立ちを隠せなかった。

「君の上司であるレイモンド殿下には許可をもらってる」

 お二人は、同級生で専攻は違うけどまだ学生同士だったことを思い出した。レイモンド殿下は学園に通いながら公務として私達の上司となり仕事をこなされていたんだった。

 よくお会いするから当たり前のことを忘れていた。

「レイモンド殿下が許可を?」

「うん、レインはきっかけがないと家に帰ってこないだろう?」

 ーーうっ……確かに。

「兄上はレインに心配かけたくなくて言わないだろうし父上ももうこれ以上レインに負担はかけたくないから言わない。だから俺が……」

 そう言って一瞬躊躇ったキース兄様は右手をギュッと握りしめているのがわかった。

「急用ではない……だけど……一度でいいから演技でいいから家に帰ってきてくれないか?」

「なぜ?」
 冷たい声が部屋の中に響く。

 いくら和解したとはいえ簡単に帰れるわけがない。

「………母上が……」

「お母様が?」

「…………レインのことを最近……亡くなった妹と君が違うと認識してしまったんだ」

「何を今更?」

「うん、ずっと妹が亡くなったことを認められなくてレインに縋ろうとしたりレインは自分の娘じゃないと暴れたりする母上に父上はずっと寄り添ってきた。父上はもうレインを解放してやりたいと何も言わないけど……母上は、自分が仕出かしたことを今更だけど自覚して今度は……後悔して……寝込んでいるんだ」

「………お母様が?」

 だっていつも精神的に不安定で……私のことなど……

「………母上は今食事も摂れず弱ってる……レインに頼むべきではないこともわかってる、だけど俺は……すまない、お願いだ。母上を助けてはくれないか?」

「……今会える状態なのですか?」

「ほとんどベッドから出られない状態だ……お前がこの前屋敷に来たのを見た母上は……なぜか妹のエミリアではなくはっきりとレインとしてお前のことを見て……全てを思い出したらしい。エミリアは死んだことを。そしてレインを苦しめたのは自分だと……だけど心の弱い母上は、今度はその現実を受け止められず寝込んでしまったんだ」

「……私はお母様に苦しめられていません。ううん、それほどお義母様に接してもいない」

 お父様があまりお母様と私を接しないようにしてくれたから。

 お父様に傷つけられたけどお母様には……

 お父様の不器用な優しさをとても感じる。

 一人悪者になって……

 今もわだかまりは取れないし素直にはなれないけど、でも……お母様に会って欲しいと頼もうとしないお父様の私への気遣いに嬉しくもあり恨みがましくも感じた。

 まるで家族ではないと一線引かれている。その優しさは私を惨めにさせるのに。

 それならキース兄様のように頼って話してくれる方がよっぽどいいと思う。

「兄様……私、仕事を急いで片付けますのでお待ちください」

 応接室に兄様を置いて部屋を出た。

 職場に戻り上司にお願いすると話を前もってレイモンド殿下に聞いていたらしく
「残りの仕事はこちらでやっておくから行ってこい」と言ってもらえた。

「お前は休めと言っても仕事ばかりしてるからな。まだ休みはたくさん残ってるから。たまには親孝行でもしてこい」

「……はい、ありがとうございます」

 みんなにお礼を言って休みを数日もらうことができた。

 待っていたキース兄様と侯爵家の馬車に乗り込み屋敷へと向かった。

 侯爵家は王城に近いところにある。

 すぐに帰れる距離なのに、私にとっては近寄り難い遠い距離に感じる。

 門番はすんなりと馬車を通してくれた。

 この門も私にとっては少しトラウマになっているのかも。

 何度もお母様に会いたいとお願いしたのに通してもらえなかった時のことを思い出す。


 私の今の瞳の色は茶色で紫ではない。

 お母様はどう思われるだろう。

 瞳の色を紫に戻しておけばよかっかなと少し後悔しながらお母様がいる部屋へと向かった。

しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

(完結)私が貴方から卒業する時

青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。 だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・ ※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

(完結)あなたの愛は諦めました (全5話)

青空一夏
恋愛
私はライラ・エト伯爵夫人と呼ばれるようになって3年経つ。子供は女の子が一人いる。子育てをナニーに任せっきりにする貴族も多いけれど、私は違う。はじめての子育ては夫と協力してしたかった。けれど、夫のエト伯爵は私の相談には全く乗ってくれない。彼は他人の相談に乗るので忙しいからよ。 これは自分の家庭を顧みず、他人にいい顔だけをしようとする男の末路を描いた作品です。 ショートショートの予定。 ゆるふわ設定。ご都合主義です。タグが増えるかもしれません。

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)

青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。 けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。 マルガレータ様は実家に帰られる際、 「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。 信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!! でも、それは見事に裏切られて・・・・・・ ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。 エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。 元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。

処理中です...