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62話
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いつもの生活に戻ってから私はまだ侯爵家に顔を出せずにいた。
あの話を聞いて一応みんなと和解したのだけど、足がどうしても侯爵家には向かないでいた。
「無理に帰ってこなくていい」
アレックス兄様がそう言ってくれたのでその言葉に甘えて、いつか行けばいい、そう思っていた。
なのに……
「レイン!」
王城にやってきたキース兄様。
なぜここに?
思わず唖然としてキース兄様を見た。
私は仕事中、呼び出され応接室に行くとキース兄様がゆったりとくつろいでお茶を飲んでいた。
「キース兄様……何か急用でしょうか?」
「へっ?あ、いや、急用じゃない」
目がキョロキョロとして私の方を見ようとしない。
ーーうん?
「兄様?」
少し声が低くなって兄様に問いかける。
「兄様?私は今仕事中なんです。兄様も今は授業中のはずでは?」
やはりこちらを見ようとしない。
兄様は手に持っていたカップをテーブルに置いた。
「サボってきた」
「は?どうして?」
「だってレインは仕事中呼び出さなければ俺に会ってはくれないだろう?」
「私は学生と違い働いております。責任と信頼の上で働かせていただいている身です。それをどうしてあなたはこんなことで呼び出すのですか?」
苛立ちを隠せなかった。
「君の上司であるレイモンド殿下には許可をもらってる」
お二人は、同級生で専攻は違うけどまだ学生同士だったことを思い出した。レイモンド殿下は学園に通いながら公務として私達の上司となり仕事をこなされていたんだった。
よくお会いするから当たり前のことを忘れていた。
「レイモンド殿下が許可を?」
「うん、レインはきっかけがないと家に帰ってこないだろう?」
ーーうっ……確かに。
「兄上はレインに心配かけたくなくて言わないだろうし父上ももうこれ以上レインに負担はかけたくないから言わない。だから俺が……」
そう言って一瞬躊躇ったキース兄様は右手をギュッと握りしめているのがわかった。
「急用ではない……だけど……一度でいいから演技でいいから家に帰ってきてくれないか?」
「なぜ?」
冷たい声が部屋の中に響く。
いくら和解したとはいえ簡単に帰れるわけがない。
「………母上が……」
「お母様が?」
「…………レインのことを最近……亡くなった妹と君が違うと認識してしまったんだ」
「何を今更?」
「うん、ずっと妹が亡くなったことを認められなくてレインに縋ろうとしたりレインは自分の娘じゃないと暴れたりする母上に父上はずっと寄り添ってきた。父上はもうレインを解放してやりたいと何も言わないけど……母上は、自分が仕出かしたことを今更だけど自覚して今度は……後悔して……寝込んでいるんだ」
「………お母様が?」
だっていつも精神的に不安定で……私のことなど……
「………母上は今食事も摂れず弱ってる……レインに頼むべきではないこともわかってる、だけど俺は……すまない、お願いだ。母上を助けてはくれないか?」
「……今会える状態なのですか?」
「ほとんどベッドから出られない状態だ……お前がこの前屋敷に来たのを見た母上は……なぜか妹のエミリアではなくはっきりとレインとしてお前のことを見て……全てを思い出したらしい。エミリアは死んだことを。そしてレインを苦しめたのは自分だと……だけど心の弱い母上は、今度はその現実を受け止められず寝込んでしまったんだ」
「……私はお母様に苦しめられていません。ううん、それほどお義母様に接してもいない」
お父様があまりお母様と私を接しないようにしてくれたから。
お父様に傷つけられたけどお母様には……
お父様の不器用な優しさをとても感じる。
一人悪者になって……
今もわだかまりは取れないし素直にはなれないけど、でも……お母様に会って欲しいと頼もうとしないお父様の私への気遣いに嬉しくもあり恨みがましくも感じた。
まるで家族ではないと一線引かれている。その優しさは私を惨めにさせるのに。
それならキース兄様のように頼って話してくれる方がよっぽどいいと思う。
「兄様……私、仕事を急いで片付けますのでお待ちください」
応接室に兄様を置いて部屋を出た。
職場に戻り上司にお願いすると話を前もってレイモンド殿下に聞いていたらしく
「残りの仕事はこちらでやっておくから行ってこい」と言ってもらえた。
「お前は休めと言っても仕事ばかりしてるからな。まだ休みはたくさん残ってるから。たまには親孝行でもしてこい」
「……はい、ありがとうございます」
みんなにお礼を言って休みを数日もらうことができた。
待っていたキース兄様と侯爵家の馬車に乗り込み屋敷へと向かった。
侯爵家は王城に近いところにある。
すぐに帰れる距離なのに、私にとっては近寄り難い遠い距離に感じる。
門番はすんなりと馬車を通してくれた。
この門も私にとっては少しトラウマになっているのかも。
何度もお母様に会いたいとお願いしたのに通してもらえなかった時のことを思い出す。
私の今の瞳の色は茶色で紫ではない。
お母様はどう思われるだろう。
瞳の色を紫に戻しておけばよかっかなと少し後悔しながらお母様がいる部屋へと向かった。
あの話を聞いて一応みんなと和解したのだけど、足がどうしても侯爵家には向かないでいた。
「無理に帰ってこなくていい」
アレックス兄様がそう言ってくれたのでその言葉に甘えて、いつか行けばいい、そう思っていた。
なのに……
「レイン!」
王城にやってきたキース兄様。
なぜここに?
思わず唖然としてキース兄様を見た。
私は仕事中、呼び出され応接室に行くとキース兄様がゆったりとくつろいでお茶を飲んでいた。
「キース兄様……何か急用でしょうか?」
「へっ?あ、いや、急用じゃない」
目がキョロキョロとして私の方を見ようとしない。
ーーうん?
「兄様?」
少し声が低くなって兄様に問いかける。
「兄様?私は今仕事中なんです。兄様も今は授業中のはずでは?」
やはりこちらを見ようとしない。
兄様は手に持っていたカップをテーブルに置いた。
「サボってきた」
「は?どうして?」
「だってレインは仕事中呼び出さなければ俺に会ってはくれないだろう?」
「私は学生と違い働いております。責任と信頼の上で働かせていただいている身です。それをどうしてあなたはこんなことで呼び出すのですか?」
苛立ちを隠せなかった。
「君の上司であるレイモンド殿下には許可をもらってる」
お二人は、同級生で専攻は違うけどまだ学生同士だったことを思い出した。レイモンド殿下は学園に通いながら公務として私達の上司となり仕事をこなされていたんだった。
よくお会いするから当たり前のことを忘れていた。
「レイモンド殿下が許可を?」
「うん、レインはきっかけがないと家に帰ってこないだろう?」
ーーうっ……確かに。
「兄上はレインに心配かけたくなくて言わないだろうし父上ももうこれ以上レインに負担はかけたくないから言わない。だから俺が……」
そう言って一瞬躊躇ったキース兄様は右手をギュッと握りしめているのがわかった。
「急用ではない……だけど……一度でいいから演技でいいから家に帰ってきてくれないか?」
「なぜ?」
冷たい声が部屋の中に響く。
いくら和解したとはいえ簡単に帰れるわけがない。
「………母上が……」
「お母様が?」
「…………レインのことを最近……亡くなった妹と君が違うと認識してしまったんだ」
「何を今更?」
「うん、ずっと妹が亡くなったことを認められなくてレインに縋ろうとしたりレインは自分の娘じゃないと暴れたりする母上に父上はずっと寄り添ってきた。父上はもうレインを解放してやりたいと何も言わないけど……母上は、自分が仕出かしたことを今更だけど自覚して今度は……後悔して……寝込んでいるんだ」
「………お母様が?」
だっていつも精神的に不安定で……私のことなど……
「………母上は今食事も摂れず弱ってる……レインに頼むべきではないこともわかってる、だけど俺は……すまない、お願いだ。母上を助けてはくれないか?」
「……今会える状態なのですか?」
「ほとんどベッドから出られない状態だ……お前がこの前屋敷に来たのを見た母上は……なぜか妹のエミリアではなくはっきりとレインとしてお前のことを見て……全てを思い出したらしい。エミリアは死んだことを。そしてレインを苦しめたのは自分だと……だけど心の弱い母上は、今度はその現実を受け止められず寝込んでしまったんだ」
「……私はお母様に苦しめられていません。ううん、それほどお義母様に接してもいない」
お父様があまりお母様と私を接しないようにしてくれたから。
お父様に傷つけられたけどお母様には……
お父様の不器用な優しさをとても感じる。
一人悪者になって……
今もわだかまりは取れないし素直にはなれないけど、でも……お母様に会って欲しいと頼もうとしないお父様の私への気遣いに嬉しくもあり恨みがましくも感じた。
まるで家族ではないと一線引かれている。その優しさは私を惨めにさせるのに。
それならキース兄様のように頼って話してくれる方がよっぽどいいと思う。
「兄様……私、仕事を急いで片付けますのでお待ちください」
応接室に兄様を置いて部屋を出た。
職場に戻り上司にお願いすると話を前もってレイモンド殿下に聞いていたらしく
「残りの仕事はこちらでやっておくから行ってこい」と言ってもらえた。
「お前は休めと言っても仕事ばかりしてるからな。まだ休みはたくさん残ってるから。たまには親孝行でもしてこい」
「……はい、ありがとうございます」
みんなにお礼を言って休みを数日もらうことができた。
待っていたキース兄様と侯爵家の馬車に乗り込み屋敷へと向かった。
侯爵家は王城に近いところにある。
すぐに帰れる距離なのに、私にとっては近寄り難い遠い距離に感じる。
門番はすんなりと馬車を通してくれた。
この門も私にとっては少しトラウマになっているのかも。
何度もお母様に会いたいとお願いしたのに通してもらえなかった時のことを思い出す。
私の今の瞳の色は茶色で紫ではない。
お母様はどう思われるだろう。
瞳の色を紫に戻しておけばよかっかなと少し後悔しながらお母様がいる部屋へと向かった。
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