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13話
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昼休み、シルヴィオ殿下との約束の場所へと行く。
そこは実は生徒会室と同じ並びにある王族のための部屋。
忙しい殿下達が仕事をするための机が置かれている。その隣の部屋には来賓室や殿下達の私室まである。
殿下の婚約者のわたしも入学してすぐに説明は受けている。ほぼ呼び出されない限りここに近づくことはないのだけど。
ドアをノックすると「どうぞ」中から声が聞こえた。
殿下は机に向かって仕事をしていた。
15歳になれば王族としての仕事を振り分けられる。優秀なシルヴィオ殿下は正確で早い仕事ができると評判も良く陛下からも高い評価を受け目をかけられているらしい。
息子とはいえ不要とみなされれば簡単に切り捨てられてしまう。それが王族の冷酷さでもありこの国の統治者として立ち続ける陛下にとっては、不必要なものを排除し国を守っているのだろう。
部屋に入ると重苦しい空気を感じた。
「失礼致します」
「少しだけ座って待っていてほしい」
顔を上げずにペンを忙しそうに動かしたまま殿下がそう言った。
殿下が休憩の時に座るソファとテーブルが置かれている。
わたしはとりあえずそこに座った。
すぐに側近の一人がお茶を出してくれた。
クッキーも一緒に出された。
よく見ると手作りらしいクッキーだった。
「これはミラーネ嬢がみんなにと焼いてくれたクッキーなんです」
側近であるポールがそう説明してくれた。
「まぁ、では、わたしが頂くわけにはいきませんわ」
「何故?」ボール様が眉間に皺を寄せた。
わたしが嫌味でも言ったと思ったのかしら?
「だって一人一人に気持ちを込めて焼いてプレゼントしたものでしょう?関係のないわたしが頂くなんてミラーネ様に失礼ですわ」
ーー本当は食べたくなかった。
だってミラーネ様はいつもわたしを見ると蔑んだ目をしていた。
クスッとバカにした笑いをみんなが見ていない時にわたしに向けるのはいつものこと。慣れたとはいえやはり彼女が作ったものを食べたいとは思えない。
「ふうん」
ポール様はシルヴィオ殿下がわたしをあまりよく思っていないことも知っている。だからなのかわたしのことを殿下の婚約者として見ることはなくいつも見下した態度をとられている。
もう慣れているので腹が立つことはないけど一応わたしは公爵令嬢、ポール様は伯爵子息で身分はわたしの方が上。
でもわたしの年は三歳下なのであまりキツいことを言うのも……と思っていると。
「アイシャ嬢は髪がピンクで見た目はふわふわした可愛らしいお嬢様なのに言うことは思った以上に辛辣なんだね」
ポール様の一言にわたしはカチンときた。
わたしの一番言われたくない言葉。ピンクの髪のこと。
お母様は髪の色が赤みがかったブロンドだった。お父様はシルバーブロンドでわたしは二人の色が混ざってシルバーブロンドに近いピンクブロンドの髪で、光に透かすとシルバーブロンドにも見える。
わたしの顔は自分で言うのも変だけど綺麗な顔立ちをしている。そしてこの髪色。
まるでお人形のようだとよく言われる。
でもわたしにだって心はある。嫌なことを言われれば腹も立つし気分が悪い。
泣きたくなる時だっていっぱいあるわ。
特に今はシルヴィオ殿下が近くにいると思うだけで変な汗が出ていると言うのに。
気分は悪いし、生汗が出て、逃げ出したい気分。
「ポール、君、僕の婚約者に何を言ってるんだ?」
冷たい殿下の声が聞こえた。
ポール様もわたしもハッとして殿下の方へと振り向いた。
さっきまであんなに忙しなくペンを動かしていたはずなのに、ペンを持ったまま両肘をつき手に顎を置いてこちらを見つめていた。
ポール様の顔色はだんだん青ざめてくる。
わたしだってどうしていいのかわからない。
「ねぇ?アイシャ?君さ、僕の婚約者だという自覚はあるの?伯爵子息のポールにこんなにバカにされているのに何にも言い返せないなんて。そんなんじゃこの先恥をかくのは僕なんだけど?」
ーー怖い……でも何も言い返せなかったのはわたし。
俯いたままでいるわたしに「ハァー」とため息をついた殿下。
「ポール、君、クビ。僕の前にもう姿は見せないで」
「えっ?そ、そんな……もうこんな態度は二度としません……ですからお許しください」
「二度と姿を見せるなと言ったのわからないの?」殿下がジロッとポール様を見た。
ポール様は震え上がり泣き出しそうな顔をしながらも急いで部屋を出て行った。
「アイシャ、僕、君を呼んだのは謝罪のためだったね?許してくれるよね?」
冷たい声がわたしの耳から離れない。
「わたし………」
ーー怖くて声が出なかった。
部屋の空気は凍りついたようで息をするのも辛い。
殿下の優しい笑顔しか知らない人は絶対今のこの光景を信じないだろう。
わたしのお父様も………
そこは実は生徒会室と同じ並びにある王族のための部屋。
忙しい殿下達が仕事をするための机が置かれている。その隣の部屋には来賓室や殿下達の私室まである。
殿下の婚約者のわたしも入学してすぐに説明は受けている。ほぼ呼び出されない限りここに近づくことはないのだけど。
ドアをノックすると「どうぞ」中から声が聞こえた。
殿下は机に向かって仕事をしていた。
15歳になれば王族としての仕事を振り分けられる。優秀なシルヴィオ殿下は正確で早い仕事ができると評判も良く陛下からも高い評価を受け目をかけられているらしい。
息子とはいえ不要とみなされれば簡単に切り捨てられてしまう。それが王族の冷酷さでもありこの国の統治者として立ち続ける陛下にとっては、不必要なものを排除し国を守っているのだろう。
部屋に入ると重苦しい空気を感じた。
「失礼致します」
「少しだけ座って待っていてほしい」
顔を上げずにペンを忙しそうに動かしたまま殿下がそう言った。
殿下が休憩の時に座るソファとテーブルが置かれている。
わたしはとりあえずそこに座った。
すぐに側近の一人がお茶を出してくれた。
クッキーも一緒に出された。
よく見ると手作りらしいクッキーだった。
「これはミラーネ嬢がみんなにと焼いてくれたクッキーなんです」
側近であるポールがそう説明してくれた。
「まぁ、では、わたしが頂くわけにはいきませんわ」
「何故?」ボール様が眉間に皺を寄せた。
わたしが嫌味でも言ったと思ったのかしら?
「だって一人一人に気持ちを込めて焼いてプレゼントしたものでしょう?関係のないわたしが頂くなんてミラーネ様に失礼ですわ」
ーー本当は食べたくなかった。
だってミラーネ様はいつもわたしを見ると蔑んだ目をしていた。
クスッとバカにした笑いをみんなが見ていない時にわたしに向けるのはいつものこと。慣れたとはいえやはり彼女が作ったものを食べたいとは思えない。
「ふうん」
ポール様はシルヴィオ殿下がわたしをあまりよく思っていないことも知っている。だからなのかわたしのことを殿下の婚約者として見ることはなくいつも見下した態度をとられている。
もう慣れているので腹が立つことはないけど一応わたしは公爵令嬢、ポール様は伯爵子息で身分はわたしの方が上。
でもわたしの年は三歳下なのであまりキツいことを言うのも……と思っていると。
「アイシャ嬢は髪がピンクで見た目はふわふわした可愛らしいお嬢様なのに言うことは思った以上に辛辣なんだね」
ポール様の一言にわたしはカチンときた。
わたしの一番言われたくない言葉。ピンクの髪のこと。
お母様は髪の色が赤みがかったブロンドだった。お父様はシルバーブロンドでわたしは二人の色が混ざってシルバーブロンドに近いピンクブロンドの髪で、光に透かすとシルバーブロンドにも見える。
わたしの顔は自分で言うのも変だけど綺麗な顔立ちをしている。そしてこの髪色。
まるでお人形のようだとよく言われる。
でもわたしにだって心はある。嫌なことを言われれば腹も立つし気分が悪い。
泣きたくなる時だっていっぱいあるわ。
特に今はシルヴィオ殿下が近くにいると思うだけで変な汗が出ていると言うのに。
気分は悪いし、生汗が出て、逃げ出したい気分。
「ポール、君、僕の婚約者に何を言ってるんだ?」
冷たい殿下の声が聞こえた。
ポール様もわたしもハッとして殿下の方へと振り向いた。
さっきまであんなに忙しなくペンを動かしていたはずなのに、ペンを持ったまま両肘をつき手に顎を置いてこちらを見つめていた。
ポール様の顔色はだんだん青ざめてくる。
わたしだってどうしていいのかわからない。
「ねぇ?アイシャ?君さ、僕の婚約者だという自覚はあるの?伯爵子息のポールにこんなにバカにされているのに何にも言い返せないなんて。そんなんじゃこの先恥をかくのは僕なんだけど?」
ーー怖い……でも何も言い返せなかったのはわたし。
俯いたままでいるわたしに「ハァー」とため息をついた殿下。
「ポール、君、クビ。僕の前にもう姿は見せないで」
「えっ?そ、そんな……もうこんな態度は二度としません……ですからお許しください」
「二度と姿を見せるなと言ったのわからないの?」殿下がジロッとポール様を見た。
ポール様は震え上がり泣き出しそうな顔をしながらも急いで部屋を出て行った。
「アイシャ、僕、君を呼んだのは謝罪のためだったね?許してくれるよね?」
冷たい声がわたしの耳から離れない。
「わたし………」
ーー怖くて声が出なかった。
部屋の空気は凍りついたようで息をするのも辛い。
殿下の優しい笑顔しか知らない人は絶対今のこの光景を信じないだろう。
わたしのお父様も………
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