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第7話「岩石の迷宮」
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アルディアの街から徒歩で半日ほどの距離にある『岩石の迷宮』は、その名の通り、壁も床も全てが硬質な岩盤で構成された洞窟型のダンジョンだ。 内部は薄暗く、ひんやりとした空気が漂っている。
「本当にここでやるの? ゴーレムは刃物が通らないのよ」
先頭を歩くサラが、不安げに振り返る。 新品のフルプレートアーマーが擦れて、カシャンカシャンと金属音を立てていた。
「心配するな。お前の仕事は敵を倒すことじゃない。敵の攻撃を引き受けることだ」
「引き受けるって言っても……」
サラが言い募ろうとした時、通路の奥から重低音が響いてきた。 ズシン、ズシンという振動が床を伝わってくる。
「来るぞ」
俺が声をかけると同時に、曲がり角から巨大な影が現れた。 身長三メートルほどの岩の塊。ストーンゴーレムだ。 ごつごつした岩石が魔力で繋ぎ合わされ、人の形を成している。
「で、でかい……!」
サラが息を飲む。 前のパーティでは、こうした硬い敵は魔法使いが処理していたのだろう。物理職の彼女にとっては天敵のはずだ。 だが、サラは騎士としての習性か、反射的に大剣を構えて前に出た。
「や、やるしかないのね! うおおおおっ!」
気合の声と共に、サラが大剣を振り下ろす。 ガキンッ! 激しい火花が散り、サラの手から大剣が弾かれそうになった。 ゴーレムの岩肌には、浅い傷一つついただけだ。
「硬っ……!?」
サラが体勢を崩す。 そこへ、ゴーレムの丸太のような腕が裏拳で振るわれた。
「危ない!」
リーナが叫ぶ。 しかし俺は動かない。冷静に状況を見守る。 ドゴォッ! 鈍い音がして、サラの体が横になぎ払われた。壁に激突し、土煙が上がる。
「ぐっ……!」
普通の人間なら即死級の一撃だ。 だが、サラはすぐに体勢を立て直し、ふらつきながらも立ち上がった。 鎧は少し凹んでいるが、彼女自身の肉体に深刻なダメージは見当たらない。
「いっ……たぁ……。なによ今の馬鹿力……」
「無事か」
「なんとかね。でも、次は避けなきゃ……」
「避けるな」
俺は短く命じる。
「は?」
「避ける必要はない。真正面から受け止めろ。スキルを使え」
サラは信じられないという顔をしたが、俺の目は本気だ。 彼女は唇を噛み、再びゴーレムに向き直った。
「わ、わかったわよ! あんたを信じて死ぬなら本望よ! 【挑発】!」
サラがスキルを発動する。赤いオーラが彼女の体を包み、ゴーレムの注意が完全に彼女へと固定された。 ゴーレムが両腕を振り上げ、叩きつけるような攻撃を繰り出す。 サラは盾を構え、歯を食いしばって防御姿勢を取った。
ズドォォン! 凄まじい衝撃音が響く。 サラの足元の岩盤がひび割れた。 だが、サラは倒れない。膝を少し折っただけで、その場に踏みとどまっている。
「……あれ? そんなに、痛くない?」
サラが目を瞬かせる。 当然だ。彼女のHPと防御力は異常なのだから。
「よし、そのまま耐えてろ」
俺はサラの背後から飛び出した。 ゴーレムはサラを押し潰すことに夢中で、俺の接近に気づいていない。 俺の視界には、ゴーレムの左脇腹、岩と岩の継ぎ目に、強く輝く『赤い点』が見えていた。 魔力を供給する核の位置か、あるいは構造上の脆弱点か。 どちらでもいい。そこを突けば『落ちる』。
「そこだ」
俺は剣を突き出した。 岩の隙間に刃が吸い込まれる。 カチリ、という硬質な感触があった直後、ゴーレムの動きがピタリと止まった。
次の瞬間、巨体は音もなく崩れ落ち、光の粒子となって消滅した。 カラン、コロン。 地面には数個の鉱石が転がっていた。
【魔鉄鉱(上質)】
【ゴーレムの核石】
確定ドロップ。 俺はそれらを拾い上げる。
「え……?」
サラが盾を下ろし、自分の体と、消滅したゴーレムの跡を見比べる。
「倒したの? あの一撃で? それに私、あんな攻撃を受けたのに、ピンピンしてる……」
「言っただろう。お前は才能がある」
俺は拾った魔鉄鉱を放り投げてキャッチする。
「お前の耐久力は異常だ。普通の剣士なら死んでいる攻撃も、お前にとってはそよ風みたいなもんだ。だから攻撃なんてしなくていい。ただ突っ立って、敵の攻撃を引き受ける。それだけでお前は最強の盾になる」
サラは呆然としていたが、やがてその顔にじわじわと実感が湧いてきたようだった。
「私……役に立ってるの?」
「ああ。おかげで俺は攻撃に専念できた。最高の囮役だ」
言い方は悪いが、サラの顔は輝いていた。 これまで「動きが遅い」「攻撃が当たらない」と罵倒され続けてきた彼女にとって、「攻撃を受けること」自体が評価されるのは初めての経験なのだろう。
「すごいわ、サラさん! あのゴーレムの攻撃を正面から受け止めるなんて!」
リーナも駆け寄ってきて称賛する。 サラは照れくさそうに、しかし誇らしげに鼻の下をこすった。
「ま、まあね! これくらい余裕よ!」
調子のいい奴だ。 だが、これでパーティの戦術が確立した。 サラが受けて、俺とリーナが狩る。
「よし、次へ行くぞ」
俺たちは迷宮のさらに奥へと進む。
「本当にここでやるの? ゴーレムは刃物が通らないのよ」
先頭を歩くサラが、不安げに振り返る。 新品のフルプレートアーマーが擦れて、カシャンカシャンと金属音を立てていた。
「心配するな。お前の仕事は敵を倒すことじゃない。敵の攻撃を引き受けることだ」
「引き受けるって言っても……」
サラが言い募ろうとした時、通路の奥から重低音が響いてきた。 ズシン、ズシンという振動が床を伝わってくる。
「来るぞ」
俺が声をかけると同時に、曲がり角から巨大な影が現れた。 身長三メートルほどの岩の塊。ストーンゴーレムだ。 ごつごつした岩石が魔力で繋ぎ合わされ、人の形を成している。
「で、でかい……!」
サラが息を飲む。 前のパーティでは、こうした硬い敵は魔法使いが処理していたのだろう。物理職の彼女にとっては天敵のはずだ。 だが、サラは騎士としての習性か、反射的に大剣を構えて前に出た。
「や、やるしかないのね! うおおおおっ!」
気合の声と共に、サラが大剣を振り下ろす。 ガキンッ! 激しい火花が散り、サラの手から大剣が弾かれそうになった。 ゴーレムの岩肌には、浅い傷一つついただけだ。
「硬っ……!?」
サラが体勢を崩す。 そこへ、ゴーレムの丸太のような腕が裏拳で振るわれた。
「危ない!」
リーナが叫ぶ。 しかし俺は動かない。冷静に状況を見守る。 ドゴォッ! 鈍い音がして、サラの体が横になぎ払われた。壁に激突し、土煙が上がる。
「ぐっ……!」
普通の人間なら即死級の一撃だ。 だが、サラはすぐに体勢を立て直し、ふらつきながらも立ち上がった。 鎧は少し凹んでいるが、彼女自身の肉体に深刻なダメージは見当たらない。
「いっ……たぁ……。なによ今の馬鹿力……」
「無事か」
「なんとかね。でも、次は避けなきゃ……」
「避けるな」
俺は短く命じる。
「は?」
「避ける必要はない。真正面から受け止めろ。スキルを使え」
サラは信じられないという顔をしたが、俺の目は本気だ。 彼女は唇を噛み、再びゴーレムに向き直った。
「わ、わかったわよ! あんたを信じて死ぬなら本望よ! 【挑発】!」
サラがスキルを発動する。赤いオーラが彼女の体を包み、ゴーレムの注意が完全に彼女へと固定された。 ゴーレムが両腕を振り上げ、叩きつけるような攻撃を繰り出す。 サラは盾を構え、歯を食いしばって防御姿勢を取った。
ズドォォン! 凄まじい衝撃音が響く。 サラの足元の岩盤がひび割れた。 だが、サラは倒れない。膝を少し折っただけで、その場に踏みとどまっている。
「……あれ? そんなに、痛くない?」
サラが目を瞬かせる。 当然だ。彼女のHPと防御力は異常なのだから。
「よし、そのまま耐えてろ」
俺はサラの背後から飛び出した。 ゴーレムはサラを押し潰すことに夢中で、俺の接近に気づいていない。 俺の視界には、ゴーレムの左脇腹、岩と岩の継ぎ目に、強く輝く『赤い点』が見えていた。 魔力を供給する核の位置か、あるいは構造上の脆弱点か。 どちらでもいい。そこを突けば『落ちる』。
「そこだ」
俺は剣を突き出した。 岩の隙間に刃が吸い込まれる。 カチリ、という硬質な感触があった直後、ゴーレムの動きがピタリと止まった。
次の瞬間、巨体は音もなく崩れ落ち、光の粒子となって消滅した。 カラン、コロン。 地面には数個の鉱石が転がっていた。
【魔鉄鉱(上質)】
【ゴーレムの核石】
確定ドロップ。 俺はそれらを拾い上げる。
「え……?」
サラが盾を下ろし、自分の体と、消滅したゴーレムの跡を見比べる。
「倒したの? あの一撃で? それに私、あんな攻撃を受けたのに、ピンピンしてる……」
「言っただろう。お前は才能がある」
俺は拾った魔鉄鉱を放り投げてキャッチする。
「お前の耐久力は異常だ。普通の剣士なら死んでいる攻撃も、お前にとってはそよ風みたいなもんだ。だから攻撃なんてしなくていい。ただ突っ立って、敵の攻撃を引き受ける。それだけでお前は最強の盾になる」
サラは呆然としていたが、やがてその顔にじわじわと実感が湧いてきたようだった。
「私……役に立ってるの?」
「ああ。おかげで俺は攻撃に専念できた。最高の囮役だ」
言い方は悪いが、サラの顔は輝いていた。 これまで「動きが遅い」「攻撃が当たらない」と罵倒され続けてきた彼女にとって、「攻撃を受けること」自体が評価されるのは初めての経験なのだろう。
「すごいわ、サラさん! あのゴーレムの攻撃を正面から受け止めるなんて!」
リーナも駆け寄ってきて称賛する。 サラは照れくさそうに、しかし誇らしげに鼻の下をこすった。
「ま、まあね! これくらい余裕よ!」
調子のいい奴だ。 だが、これでパーティの戦術が確立した。 サラが受けて、俺とリーナが狩る。
「よし、次へ行くぞ」
俺たちは迷宮のさらに奥へと進む。
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