お題【迷子の赤ちゃん編】

綺羅 なみま

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可愛い寝顔が二つ

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学校に連れてきたはいいものの、授業中どうするかまでは考えていなかった。

「大丈夫だ、お前らの子どもはオレ達みんなの子どもだ」
意味不明だ。
意味不明だが、そういうことで各所から何故か熱烈な歓迎を受けたため授業は赤子を抱いたまま受けることとなった。

クラス中の男共がうっとりした目でこちらを見てくる。なんだよ、やめろ。気持ち悪い。
ぼくが美しいのは分かっているが、そのぼくが天使の赤子を抱いているのだ。そりゃあうっとり見てしまうのもやむを得ないということだろうか。

前の席の浩人も、授業を無視してこちらを振り向き赤子とぼくの頬をつついている。
先生悲しそうだぞ。ちゃんと授業は聞け。

「シオンは赤ちゃんみたいにもちもちだな」
「当たり前だろ、ぼくだぞ」
ぼくがそんじょそこらの赤子に劣るわけがない。
いや、正直赤子という生き物は抱いてるだけで心地がいいし、もちもちでぷにぷにで引き締めていなければ顔が緩んでしまう。
人間の赤子もこのように優しい気持ちにさせてくれるのだろうか。

「うぎゃああああ」
突如断末魔の叫びが教室に響き渡る。ちがう、赤子が初めて泣いた!!

「な、泣いた!」
「赤ちゃんは泣くのが仕事だぞ」
冷静に言うな!今まで一度も泣かなかったのに!
「眠いんじゃないか?」
「保健室行ってくるか?」

教室中から、赤子を心配する声が上がる。
先生も「保健室で寝かせてきてあげなさい」と言ってくれたので、いきなりの騒音でパニックになりながらも、ぼくは飛び出すように教室を後にした。

「失礼します」
伺うように声をかけたが、反応はなく。保健室には今誰もいないようだ。

勝手に入っていいんだろうか。
実家にある医務室に黙って入り寝ていたら、ものすごく叱られたことがあった。あの時は、天界中がぼくに何かあったと勘違いして騒いでいただけなのだが。
母様に泣きながら「立場を考えなさい」と抱き締められたことを思い出し、少し実家が恋しくなった。

流石にあんなことにはならないだろう。
静かに保健室に足を踏み入れる。
教室とはちがう匂い。薬と布の匂いがする。

窓辺のベッドが一番暖かそうに見えた。
パーテーションのカーテンをそっと開け、中に誰もいないのを確認するとゆっくりと横になる。

赤子はとても暖かくて、ぼくはすぐに眠りの世界へと堕ちていった。

シオンが保健室に行き、オレは真面目に授業を聞く以外にやることがなくなってしまった。
高校の授業なんてまともに聞かなくても、テストで点さえ取れれば大人にちやほやされる。
簡単なことだ。この薄い本以外から問題は出ないのだから。

授業が終わったことを示す音楽が鳴った。
「ふぅ」
吸い込んだ息をそっと吐き出し、教科書をつついた。

「浩人、そんな顔してると先生が恋に落ちちゃうよ」
「先生結婚したおっさんだぞ」
冗談だよ、とケラケラ笑いながら信二が寄って来た。

「シオンがいなくてもちゃんと授業受けれんだね」
「どうせ放課後までいるしな」
「迎えに行くから?」
「ああ。それに途中で起きてくるかもしれないし」

いつからか、あいつ中心の生活になってしまった。
嫌な気はしない。寧ろ以前より毎日が輝いて見える。
シオン自体が物理的に輝いてはいるんたが。たまに発光している。自分では気付いていないかもしれないけど。

「起きてこなかったね」信二がシオンの机を見やる。
「そうだな、迎えに行くか」
信二が自分も行くか行かないべきか迷っている。そんな顔をしている。
彼もシオン程度には分かりやすい。そこが良い。

「行くぞ」信二に声をかける。
「おう」
信二は答えが聞かずに分かって良かったと思っているに違いない。

「まだ寝てんのかね」
「どーかね」

保健室のドアをノックする。
「どうぞ」
中から、不機嫌そうな保健の先生の声が聞こえる。
信二のお気に入り、みっちゃん先生の声だ。

「みっちゃん!」
まるで尻尾でも生やしたかのよう。
みっちゃん先生は「だー。お前らだと思ったよ」と、ひっつき虫の信二を引き剥がそうとしている。

「お前の天使、多分一番奥」みっちゃん先生は親指で窓際のベッドを指した。
「多分?」
「部屋空けてる間に来たんだよ。そこだけ日の差し方異様だから、多分」

多分、シオンだろう。

パーテーション越しに声をかける。
が、返事はない。
みっちゃん先生に引き剥がされた信二がすぐ後ろにいる。
後ろを振り返り、口に人差し指を当て「しー」とジェスチャーしながらカーテンをそっと開けた。

中に入っていく。
どんな有名絵描きでも描き表せないだろうほど、美しい光景だった。
ここは本当に保健室だろうか。

白く柔らかな布地に包まれた二人の美しい天使。安らかで世界一可愛い寝顔が二つ。落ちかけた陽のひかりが降り注ぎ、二人の金色の髪の毛に暖かな輝きを纏わせている。
そのひかりは肌にも光と影を落としているが、それがまた洗練されたもののように魅せ目が離せない。

「わぁ……か、わい」
「奇跡みてーな絵面だな」
オレも信二も感嘆の声をもらした。オレ達の声で目覚めてしまえば可哀想に思えて、二人とも無意識下で手で口を覆っていた。

「写真撮っとくか」
これを逃しては勿体無い。
スマホを開き、朝待受に設定した写真のことをすっかり忘れていたオレは驚いてスマホを落としそうになる。
なんて素晴らしい写真なんだ。びっくりした。

静かに迅速に。
色々な角度から二人の愛らしい天使をカメラに収めた。

「ん、あれ、何時だ」
未だ覚醒しない脳みそを駆使し、やっとのことで発した言葉はこれだった。

「もう放課後だぞ」
「放課後。……放課後!?起こしてよ!」
「よく寝てたから」
あれ?信二だ。
あいつは?

「そいつも、寝た」
信二が指差す先には、ベッド横の椅子にかけベッド置いた腕に顔を突っ伏し寝ている浩人。
どうして寝ているんだ?

「珍しいな。撮っとくか」
なんとなく、ぼくの前でこんなにすやすや寝ている浩人が珍しくて写真に収めた。

「なぁ、シオン。お前ら段々似てきたな」
「は?どこがだ」

信二は「いや」と笑うと、浩人を叩き起こした。

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