17 / 47
第17話 「山あかりロッジ」への変わった客
しおりを挟む
湯気の立つ朝食の香りが、まだ眠気の残る空気にやわらかく溶けていく。
一朗は椅子に腰を落ち着け、スープを一口すする。
真白は隣で背筋を伸ばして座り、まだ少し緊張したようにしている。
その様子を見ながら、美佐子がやさしく言葉を切り出した。
「そうそう、真白ちゃんにも一朗にも、知らせておかないとね。」
二人が顔を向けると、美佐子はスープの鍋をかき混ぜながら続けた。
「今日はね、ちょっと“変わった”お客さんが来るの。」
「変わった?」
一朗が眉を上げる。
「ええ。スキーのお客さんじゃなくて……写真集の撮影に来るんだって。」
真白は“写真集”という言葉に首をかしげる。
「写真……集?」
一朗は食器を置き、わかりやすく説明する。
「写真だけで作られた本みたいなやつだよ。モデルとか風景とか、テーマに合わせて作るんだ。」
真白は「モデル」という言葉に反応し、目をぱちぱちさせる。
「もでる……って、あの、えっと……すごく綺麗な人?」
「まあ、そういうことになるな。」
一朗は笑った。
美佐子は棚からメモ用紙を取り出し、視線を走らせながら続けた。
「今回ね、来るのは“雪山で女性モデルの写真集を作りたい”っていう撮影隊なの。森や斜面、雪原――ここらの景色を背景に撮りたいんだって。」
一朗がスプーンを止め、驚いたように眉を上げる。
「雪山で?写真集って……またずいぶんチャレンジするな。」
「そうなのよ。」
美佐子は小さく笑う。
「それもね、モデルさんは“少し薄着”で撮影するんだって。」
「薄着!?」
真白は目を丸くする。
寒さを知る者としては、思わず声が上ずる。
「そう。もちろん厚着のままじゃ絵にならないんですって。」
美佐子は肩をすくめながら、けれどどこか楽しそうな表情だった。
「だから、撮影が終わったらすぐに暖まれるように――ロッジはいつもよりしっかり暖かくしておいてほしい、って依頼されたの。」
一朗は納得したように息をつく。
「なるほど。じゃあ早めに薪割っとくか。ストーブも強めに焚いて。」
「それと、温かい飲み物もすぐ出せるようにね。」
「はい!」
真白は勢いよく手を挙げる。
「私、お茶淹れます!あと……スープも作れます!」
その言葉に、一朗も美佐子も同時に目を細めた。
その姿はまるで、ここに生まれ育った“ロッジの娘”のようだ。
「心強いわ。」と美佐子が優しく言う。
「雪は冷たい。でも、人の温かさで、それはずいぶん違うものになるのよ。」
真白は胸に手を当てて、丁寧に頷く。
「私……がんばります。寒い人を、あったかくできるように。」
その言葉は、不思議なほどしっかりした響きを持っていた。
そして――昼前。
ロッジの前の雪道に、四輪駆動のワゴン車がゆっくりと停まった。
白い息を吐きながら降りてきたのは、黒いダウンを着込んだスタッフらしき男女二人。
一朗と真白、美佐子は玄関まで出迎える。
「こんにちは。『山あかりロッジ』さんでお間違いないですよね?」
先に話しかけてきたのは、眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の男性スタッフだった。
後ろの女性スタッフは、大きなケースとカメラバックを抱えている。
「はい、ようこそ。」
美佐子が笑顔で答える。
「遠いところありがとうございます。」
一朗も頭を下げる。
男性スタッフは少し周囲を見まわし、声をひそめた。
「実は……今回の撮影、くれぐれも 内緒 にしていただきたくて。」
美佐子と一朗は目を合わせ、真白は首をかしげる。
「内緒……?」
一朗が聞き返す。
女性スタッフが、はっきりした口調で言う。
「はい。実は今回撮影するモデルは“とても有名な方”なんです。情報が漏れると、ファンやマスコミがここまで押し寄せてきてしまう可能性があります。」
真白は「マスコミ」という言葉に目を瞬かせる。
美佐子は、少し真剣な表情で頷いた。
「だから、撮影のことや、モデルさんの滞在については絶対に口外しないでいただきたいんです。」
男性スタッフは深く頭を下げた。
「もちろん、お客様同士の会話でもです。ご協力いただけませんか?」
一朗はすぐに答える。
「わかりました。ここは山奥ですし、外へ言うことはありません。」
真白も胸に手を当てる。
「約束します。言いません。」
美佐子は優しく微笑んだ。
「うちは小さなロッジだけど、信用は大事にしています。どうか安心してください。」
スタッフは二人とも、ほっとしたように息をついた。
「ありがとうございます。本当に心強いです。」
男性スタッフは続ける。
「モデル本人は、あと1時間ほどで到着します。その前に、撮影場所の候補をいくつか見せてほしいんです。」
真白がぱっと手を挙げる。
「案内できます。素敵な場所、いっぱい知っています。」
スタッフは驚いたように目を丸くしたあと、柔らかく笑った。
「それは心強い。よろしくお願いします。」
――そのとき。
外の風がドアを鳴らし、ロッジの中の空気がふわりと揺れた。
これから訪れる「特別な出会い」を、まるで山そのものが予感しているように。
一朗は椅子に腰を落ち着け、スープを一口すする。
真白は隣で背筋を伸ばして座り、まだ少し緊張したようにしている。
その様子を見ながら、美佐子がやさしく言葉を切り出した。
「そうそう、真白ちゃんにも一朗にも、知らせておかないとね。」
二人が顔を向けると、美佐子はスープの鍋をかき混ぜながら続けた。
「今日はね、ちょっと“変わった”お客さんが来るの。」
「変わった?」
一朗が眉を上げる。
「ええ。スキーのお客さんじゃなくて……写真集の撮影に来るんだって。」
真白は“写真集”という言葉に首をかしげる。
「写真……集?」
一朗は食器を置き、わかりやすく説明する。
「写真だけで作られた本みたいなやつだよ。モデルとか風景とか、テーマに合わせて作るんだ。」
真白は「モデル」という言葉に反応し、目をぱちぱちさせる。
「もでる……って、あの、えっと……すごく綺麗な人?」
「まあ、そういうことになるな。」
一朗は笑った。
美佐子は棚からメモ用紙を取り出し、視線を走らせながら続けた。
「今回ね、来るのは“雪山で女性モデルの写真集を作りたい”っていう撮影隊なの。森や斜面、雪原――ここらの景色を背景に撮りたいんだって。」
一朗がスプーンを止め、驚いたように眉を上げる。
「雪山で?写真集って……またずいぶんチャレンジするな。」
「そうなのよ。」
美佐子は小さく笑う。
「それもね、モデルさんは“少し薄着”で撮影するんだって。」
「薄着!?」
真白は目を丸くする。
寒さを知る者としては、思わず声が上ずる。
「そう。もちろん厚着のままじゃ絵にならないんですって。」
美佐子は肩をすくめながら、けれどどこか楽しそうな表情だった。
「だから、撮影が終わったらすぐに暖まれるように――ロッジはいつもよりしっかり暖かくしておいてほしい、って依頼されたの。」
一朗は納得したように息をつく。
「なるほど。じゃあ早めに薪割っとくか。ストーブも強めに焚いて。」
「それと、温かい飲み物もすぐ出せるようにね。」
「はい!」
真白は勢いよく手を挙げる。
「私、お茶淹れます!あと……スープも作れます!」
その言葉に、一朗も美佐子も同時に目を細めた。
その姿はまるで、ここに生まれ育った“ロッジの娘”のようだ。
「心強いわ。」と美佐子が優しく言う。
「雪は冷たい。でも、人の温かさで、それはずいぶん違うものになるのよ。」
真白は胸に手を当てて、丁寧に頷く。
「私……がんばります。寒い人を、あったかくできるように。」
その言葉は、不思議なほどしっかりした響きを持っていた。
そして――昼前。
ロッジの前の雪道に、四輪駆動のワゴン車がゆっくりと停まった。
白い息を吐きながら降りてきたのは、黒いダウンを着込んだスタッフらしき男女二人。
一朗と真白、美佐子は玄関まで出迎える。
「こんにちは。『山あかりロッジ』さんでお間違いないですよね?」
先に話しかけてきたのは、眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の男性スタッフだった。
後ろの女性スタッフは、大きなケースとカメラバックを抱えている。
「はい、ようこそ。」
美佐子が笑顔で答える。
「遠いところありがとうございます。」
一朗も頭を下げる。
男性スタッフは少し周囲を見まわし、声をひそめた。
「実は……今回の撮影、くれぐれも 内緒 にしていただきたくて。」
美佐子と一朗は目を合わせ、真白は首をかしげる。
「内緒……?」
一朗が聞き返す。
女性スタッフが、はっきりした口調で言う。
「はい。実は今回撮影するモデルは“とても有名な方”なんです。情報が漏れると、ファンやマスコミがここまで押し寄せてきてしまう可能性があります。」
真白は「マスコミ」という言葉に目を瞬かせる。
美佐子は、少し真剣な表情で頷いた。
「だから、撮影のことや、モデルさんの滞在については絶対に口外しないでいただきたいんです。」
男性スタッフは深く頭を下げた。
「もちろん、お客様同士の会話でもです。ご協力いただけませんか?」
一朗はすぐに答える。
「わかりました。ここは山奥ですし、外へ言うことはありません。」
真白も胸に手を当てる。
「約束します。言いません。」
美佐子は優しく微笑んだ。
「うちは小さなロッジだけど、信用は大事にしています。どうか安心してください。」
スタッフは二人とも、ほっとしたように息をついた。
「ありがとうございます。本当に心強いです。」
男性スタッフは続ける。
「モデル本人は、あと1時間ほどで到着します。その前に、撮影場所の候補をいくつか見せてほしいんです。」
真白がぱっと手を挙げる。
「案内できます。素敵な場所、いっぱい知っています。」
スタッフは驚いたように目を丸くしたあと、柔らかく笑った。
「それは心強い。よろしくお願いします。」
――そのとき。
外の風がドアを鳴らし、ロッジの中の空気がふわりと揺れた。
これから訪れる「特別な出会い」を、まるで山そのものが予感しているように。
2
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる