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トゥーリの片想い
2.午前2時30分
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こんこんこん。
眠っていたアキの耳に不可思議な音が聞こえてきた。
こんこんこん。
音は間断なく静まり返った部屋に響いている。
こんこんこん、かん!
甲高い音が部屋にこだました。
アキは渋々とした面持ちでゆっくりと目を開け、ベッドサイドテーブルへと手を伸ばしスマホを取る。ぼーっとしたまなこで明るい画面を見て時間を確認する。深夜2時半を過ぎていた。先程から聞こえてくる音は今もなおアキの耳に届いていた。仕方なくアキは上体を起こすとベッドに腰掛ける。手で目を擦りながら立ち上がり、数歩歩いて壁まで行くと部屋の電気をつけた。
明るくなった部屋を見渡すアキであるが、部屋に変わったところはなかった。ところが、
「まぶしいヌー!」
この時間帯に聞こえるはずのないヌーッティの声が聞こえてきた。
「これでは儀式がうまくいきませんわ!」
リュリュの声も耳に入ってきた。
アキは視線を落として床を中心に目を配る。すると、ベッドヘッドの足元にヌーッティとリュリュの姿があった。
リュリュは小さな釘と銀のスパチュラを手に持っていた。ヌーッティは何枚もの小さな紙片を抱え持ち、リュリュの側に立っていた。
「何してんの?」
アキは訝しげな表情で二人に尋ねた。
「見ればわかるでしょう? 丑の刻参りという儀式ですわ」
リュリュの返答を聞いたアキはまじまじと二人の様子を見た。言われてみれば、人の姿を象った紙片が何枚もベッドの足に釘で打ちつけられていた。
「丑の刻参り? どこでそんなの知ったんだよ?」
アキの問いかけにリュリュはふんっと鼻を鳴らした。
「動画で見ましたわ」
「そうじゃなくって、丑の刻参りって何だか知ってるの?」
リュリュはドヤっとした顔つきでアキを見据えると、
「日本の呪い100選でトップ5に入るほどの有名な呪術ですわ。呪いたい相手の枕元で、その人物を心に思い浮かべ、心静かに99枚の紙を釘で打ちつける。時間は午前2時が最も効果の上がる時間帯。ご存じないのですか?」
アキは眉間に皺を寄せ、目を細めた。アキの知っている丑の刻参りとは微妙にズレた説明を流暢に語ったリュリュを見て、アキは嫌な予感がした。
「それで、誰を呪いたいんだよ?」
リュリュはヌーッティと顔を見合わせて首を傾げた。そして、ぷっと吹き出すように笑った。
「そんなのあなた以外にいるわけないでしょう?」
「アレクシはのろわないヌー?」
呪いの意味がわかってなさそうなヌーッティがリュリュに尋ねた。
「呪いたいものリストにアレクシも入れておきましょう。さて……」
そういとリュリュはアキのほうを向き、手を差し出した。
「さあ、続きを行いますから、寝てください。あ、そうだったわ。その前に釘を数本取っていただけるかしら? ちょうどなくなったところですわ」
アキは溜め息一つ吐くと、
「呪いをかけてるって知って手を貸すわけがないだろ」
リュリュとヌーッティからスパチュラと紙片をひょいっと取り上げた。そして紙片はゴミ箱に、スパチュラはデスクの引き出しの中に入れた。
「なぜ取り上げるのですか! 手伝いもせず人のものを奪うとは、なんという人でなしですか!」
アキの足元でぴょんぴょん跳ねているリュリュに、ヌーッティも返してと言わんばかりにアキの太ももにしがみつく。
「リュリュは真剣にのろいをしていたヌー! ちゃんと評価してあげるヌー!」
呆れた表情を浮かべているアキはヌーッティを見やる。
「ヌーッティ、呪いって何かわかってる?」
ヌーッティはきょとんとした顔でアキを見た。そんなヌーッティの間の抜けた表情を見たアキは思わず溜め息を零した。
「呪いって相手を不幸にしたり厄災に見舞わせたりする魔術の一つなんだよ。で、今回、その対象がおれだったの。気づいてた?」
やや間があった。そして、
「知らなかったヌー! のろいって美味しいものをいっぱい食べられるようにするお願いのことじゃないヌー⁈」
驚き慌てふためきながら尋ね返すヌーッティの体をアキは片手でがっしりと掴み、太ももから引っぺがす。
アキは視界の端に、そろりそろりとドアへ向かって這いずっていくリュリュの姿を捉えた。
「リュリュ。まさか逃げようとしてないよな?」
アキの一言でリュリュの動きが止まる。
恐る恐るリュリュは上体を捻って背後にいるアキをちらりと見やった。アキはじっとリュリュを見つめていた。アキはリュリュと目が合うと、開口した。
「2人とも今日のおやつはなし! 以上! 寝る!」
アキの一言でヌーッティとリュリュの顔面は蒼白になる。
「いやだヌー! ヌーは悪いことしてないヌー! のろいでお願いをいっぱいしたヌー! おやつを増やすヌー!」
ヌーッティはわんわんと泣きながら両手足をばたつかせてアキに抗議した。そんなヌーッティを無視しながらアキは部屋の電気を消して、ベッドへ入った。
他方、リュリュはというと、無言で床に置いてあったクッションに拳を何度もぶち込んでいた。
しばらくするとヌーッティの泣き声が止んだ。同時に、ずりずりとベッド下にあるヌーッティの寝床へヌーッティが這っていく音が聞こえた。リュリュがクッションをぼすぼす叩く音も聞こえなくなった。
それから数分間、部屋はいたって静かであった。
ひとまず眠れる、そう思ったアキはゆっくりと目を閉じ、再び眠りに落ちた。
眠っていたアキの耳に不可思議な音が聞こえてきた。
こんこんこん。
音は間断なく静まり返った部屋に響いている。
こんこんこん、かん!
甲高い音が部屋にこだました。
アキは渋々とした面持ちでゆっくりと目を開け、ベッドサイドテーブルへと手を伸ばしスマホを取る。ぼーっとしたまなこで明るい画面を見て時間を確認する。深夜2時半を過ぎていた。先程から聞こえてくる音は今もなおアキの耳に届いていた。仕方なくアキは上体を起こすとベッドに腰掛ける。手で目を擦りながら立ち上がり、数歩歩いて壁まで行くと部屋の電気をつけた。
明るくなった部屋を見渡すアキであるが、部屋に変わったところはなかった。ところが、
「まぶしいヌー!」
この時間帯に聞こえるはずのないヌーッティの声が聞こえてきた。
「これでは儀式がうまくいきませんわ!」
リュリュの声も耳に入ってきた。
アキは視線を落として床を中心に目を配る。すると、ベッドヘッドの足元にヌーッティとリュリュの姿があった。
リュリュは小さな釘と銀のスパチュラを手に持っていた。ヌーッティは何枚もの小さな紙片を抱え持ち、リュリュの側に立っていた。
「何してんの?」
アキは訝しげな表情で二人に尋ねた。
「見ればわかるでしょう? 丑の刻参りという儀式ですわ」
リュリュの返答を聞いたアキはまじまじと二人の様子を見た。言われてみれば、人の姿を象った紙片が何枚もベッドの足に釘で打ちつけられていた。
「丑の刻参り? どこでそんなの知ったんだよ?」
アキの問いかけにリュリュはふんっと鼻を鳴らした。
「動画で見ましたわ」
「そうじゃなくって、丑の刻参りって何だか知ってるの?」
リュリュはドヤっとした顔つきでアキを見据えると、
「日本の呪い100選でトップ5に入るほどの有名な呪術ですわ。呪いたい相手の枕元で、その人物を心に思い浮かべ、心静かに99枚の紙を釘で打ちつける。時間は午前2時が最も効果の上がる時間帯。ご存じないのですか?」
アキは眉間に皺を寄せ、目を細めた。アキの知っている丑の刻参りとは微妙にズレた説明を流暢に語ったリュリュを見て、アキは嫌な予感がした。
「それで、誰を呪いたいんだよ?」
リュリュはヌーッティと顔を見合わせて首を傾げた。そして、ぷっと吹き出すように笑った。
「そんなのあなた以外にいるわけないでしょう?」
「アレクシはのろわないヌー?」
呪いの意味がわかってなさそうなヌーッティがリュリュに尋ねた。
「呪いたいものリストにアレクシも入れておきましょう。さて……」
そういとリュリュはアキのほうを向き、手を差し出した。
「さあ、続きを行いますから、寝てください。あ、そうだったわ。その前に釘を数本取っていただけるかしら? ちょうどなくなったところですわ」
アキは溜め息一つ吐くと、
「呪いをかけてるって知って手を貸すわけがないだろ」
リュリュとヌーッティからスパチュラと紙片をひょいっと取り上げた。そして紙片はゴミ箱に、スパチュラはデスクの引き出しの中に入れた。
「なぜ取り上げるのですか! 手伝いもせず人のものを奪うとは、なんという人でなしですか!」
アキの足元でぴょんぴょん跳ねているリュリュに、ヌーッティも返してと言わんばかりにアキの太ももにしがみつく。
「リュリュは真剣にのろいをしていたヌー! ちゃんと評価してあげるヌー!」
呆れた表情を浮かべているアキはヌーッティを見やる。
「ヌーッティ、呪いって何かわかってる?」
ヌーッティはきょとんとした顔でアキを見た。そんなヌーッティの間の抜けた表情を見たアキは思わず溜め息を零した。
「呪いって相手を不幸にしたり厄災に見舞わせたりする魔術の一つなんだよ。で、今回、その対象がおれだったの。気づいてた?」
やや間があった。そして、
「知らなかったヌー! のろいって美味しいものをいっぱい食べられるようにするお願いのことじゃないヌー⁈」
驚き慌てふためきながら尋ね返すヌーッティの体をアキは片手でがっしりと掴み、太ももから引っぺがす。
アキは視界の端に、そろりそろりとドアへ向かって這いずっていくリュリュの姿を捉えた。
「リュリュ。まさか逃げようとしてないよな?」
アキの一言でリュリュの動きが止まる。
恐る恐るリュリュは上体を捻って背後にいるアキをちらりと見やった。アキはじっとリュリュを見つめていた。アキはリュリュと目が合うと、開口した。
「2人とも今日のおやつはなし! 以上! 寝る!」
アキの一言でヌーッティとリュリュの顔面は蒼白になる。
「いやだヌー! ヌーは悪いことしてないヌー! のろいでお願いをいっぱいしたヌー! おやつを増やすヌー!」
ヌーッティはわんわんと泣きながら両手足をばたつかせてアキに抗議した。そんなヌーッティを無視しながらアキは部屋の電気を消して、ベッドへ入った。
他方、リュリュはというと、無言で床に置いてあったクッションに拳を何度もぶち込んでいた。
しばらくするとヌーッティの泣き声が止んだ。同時に、ずりずりとベッド下にあるヌーッティの寝床へヌーッティが這っていく音が聞こえた。リュリュがクッションをぼすぼす叩く音も聞こえなくなった。
それから数分間、部屋はいたって静かであった。
ひとまず眠れる、そう思ったアキはゆっくりと目を閉じ、再び眠りに落ちた。
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