室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

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序章 英国フォルティア学院

聖杯の秘密ーー。

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「まずは聖杯に関わる歴史をお話しますね。

キリストが磔刑される前夜、彼はパンとぶどう酒を手にこう語りました…

『これは多くの人のために流す… わが契約の血だ』と。


イエスがぶどう酒を分けた杯、そしてキリストの血が注がれた杯…

その杯を使うと、人は永遠の魂と肉体を手に入れられると伝えられ― -

人はそれを“聖杯“と呼びました。



不老不死の力を持つ聖杯の魅力に取り憑かれ、命をかけて探し求めた者は数知れず…


それでも、聖杯の所在は謎に包まれていました。

それは聖杯を悪意持つ者の手に渡らぬ為にあえて所在を明らかにしなかったんです。

……預言者ヨハネの手から離れて約2000年… 聖杯はその間テンプル騎士団によって、一度は現在のイスタンブール――…

かつて東ローマ帝国の首都として繁栄したコンスタンチノープルで発見され、フランスに持ち帰られました」


昴の口から淡々と語られる言葉一つ一つをクリフェイドは真剣に聞いている。

「1099年7月、聖地エルサレム…


十字軍指揮官、ゴドフロワ・ド・ブイヨンは十字軍を率い、聖地エルサレムを攻略――

ユダヤ人やイスラム教徒7万人がたった3日で皆殺しにされました。

あぁ、十字軍というのは…

イスラム教徒によって奪われていた聖地を取り戻すため、当時の教皇ウルバヌス二世が聖地回復を諸侯に呼びかけて結成したものです」

昴は紅茶を二度三度と飲み、渇いた喉を麗せると興味津々に聞いている小さき主に思わず苦笑が漏れる。

「しかし、ゴドフロワ・ド・ブイヨンは全く違う目的を持ってエルサレムを目指していました。彼は… その地に眠るという聖杯を狙っていたのです。


エルサレムを侵略したゴドフロワは、1099年に聖杯の捜索と保護のためにシオン修道会を創立し、修道会はエルサレムに眠る聖杯を探すための捜索隊として、

『キリストとソロモン神殿の清貧騎士団』

通称・テンプル騎士団という武力集団を組織しました。やがて、テンプル騎士団は聖杯を見つけたのです…

聖杯はテンプル騎士団、200年の歴史の中で指導者の地位にあるメンバーだけが目にできました。後に彼らはこう呼ばれるようになりました…“聖杯の守護者“と。

しかし、1307年テンプル騎士団の解散時、聖杯は再び姿を消しました。テンプル騎士団あるいはシオン修道会によって隠された聖杯は今も尚、眠っています」


シオン修道会…?

あまりそっちには関心がないクリフェイドは聞き覚えのない名前に首を捻る。


「…キリスト教にはたくさんの会派があると聞いたことはあるが、シオン修道会もその一つなのか?」


「えぇ…。 シオン修道会は、1099年にイスラエルで結成された秘密結社です」

「坊ちゃんには少し難しいですかねぇ…」

くすりと小さく笑みを漏らし、昴はクリフェイドに違いがわかるように言った

「そうですねぇ、少し解りやすく申し上げれば・・


一般的なキリスト教、特にカトリックは純潔を尊び、快楽を悪として人を治めてきた長い歴史があります。

女性が生命を生み出すということは、古代から神聖なことと見なされてきましたが、教会は“イウ゛がアダムを唆して罪の実を食べさせた“という話から…


『原罪』の概念を作りました。

ですから、基本的にはカトリックにおいて女性は邪悪なモノであるとされているんです。

それに対し、シオン修道会は女神や女性を尊ぶことを第一とする集団です」

理解できましたか?と、ニッコリ笑顔で訊いてくる昴にクリフェイドは少し、ムッ… としつつ昴に質問する。


「それって、マリア信仰とかいうやつか…?」

「そうですね。マリアにはキリストの母としてのマリアとマグダラのマリアの二人がいますが、シオン修道会が重視しているのはマグダラのマリアのほうですよ。
マグダラのマリアはイエスと結婚し、子供を産んだという話があります。もちろん異端ですが、その秘密を伝え 続けてきたのが、シオン修道会。

それは発見された秘密文書にも書かれていることです」


「フランスのレンヌ・ル・シャトーもまた聖杯のゆかりの地なんですよ?

1886年に神父ベランジェ・ソニエールがフランスの小村、レンヌ・ル・シャトーの荒廃した教会で羊皮紙に書かれた文章と墓石に残る暗号を見つけた後、彼は莫大な財産を手に入れました。その金の総額は20万フラン、現在の3億円以上に及びます。

つまりですね、聖杯と共に眠るのは――… 地下の古代都市と財宝があるんですよ。そして、ソニエールは臨終の床で友人のリビエール牧師に秘密を明かしました。が…」


 が……?

「リビエール牧師は秘密を知ってしまったが為に諸聖人の祝日である11月1日の前日に惨殺されました。火ばさみで殴った痕に斧で4度も切りつける、という酷い殺し方で。

1956年にはソニエールの庭を発掘に来たと思われる3人が射殺され、ソニエールの秘密に迫った人間は、ことごとく奇妙な死を遂げています。――… なぜだか、わかりますか?」


昴の問いにクリフェイドは顔をしかめる

「口封じの為か…?」

くすっ


「正解です。聖杯は不老不死だけでなく、様々な秘めたる力を持っています。そんな聖杯を邪な人間の手に渡るわけにはいかない。 ですから、テンプル騎士団の末裔がずっと護っているんですよ。偽装したヒントを破り、必要以上に知ってしまった人間には死を…。

彼らはそうして今まで聖杯を護ってきたんです」


「では何故、聖杯と共に財宝が眠っているのか――… それはテンプル騎士団に大いに関わりがあるんです」

テンプル騎士団に…?


「そ――…って、坊っちゃん? まだ寝てはだめですよ!今から話すことは坊とヒューマン牧師にも関わりがあることなんですから」

少し難しい話の内容に、うつらうつら… 瞼が閉じてしまいそうなクリフェイドに困った表情で起こす昴は苦笑いを浮かべた。

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