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- ファンタジア王国と王都フィル -
古代魔法と疑惑の眼差し
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「……それにしても、軽すぎる」
見目麗しいエルフ様はそう言ってその端正な眉をひそめた。
家では何も食べさせてもらえないのか?と言われて慌てて首を振る。
「ち、ちが…!残飯だけど、コックに貰って…」
言ったのがまずかったのかもしれない。
「アクラス家ではご飯も満足に食べさせて貰えないのか?」
自分がやったしまった失態にサッと青ざめる。
「…まだ顔色が悪いな。なにを勘違いしているか想像するに容易いが、別にお前に怒っているわけじゃない」
「え?」
「いや、なんでもない。気にするな」
もしかして、実は… いい人?
「……あの、自分で歩けます」
「その脚でか?」
さっき、派手に転んだだろう?と言われて初めて足から血が出ていることに気が付いた。
ズキズキと急に痛み出す脚の怪我に顔をしかめていると、クラウド様はふぅ、と小さく息を吐いて僕の傷口にそっと手を翳し、
『щпожЫЭЖξδεζι――… 』
「(これは… 古き言葉!)」
エルフの言葉とは違う古代魔法の詠唱に目をぱちくりとさせる。淡く光がその手の平から放たれると瞬く間に傷口が塞がっていて…
「どうだ?」
「痛くない…です」
「あ、ありがとうございます」
古代魔法は今、この世界では失われつつある文明の一つである。…というのも、その名のとおり、古き時代に使われていた魔法が主であり、今現在使われている現代魔法よりも遥かに力が凌ぐからだ。
遥か昔の大戦により、多くの書物が焼失した…。その多くのものが古代魔法の禁術書だと聞く。それにより、師から弟子へと口伝による方法で… ごく一部の、限られた者にしか伝わっていないそれはまさしく秘術に近いものだった。そしてそれは大抵、精霊が視える者で・・・
それは即ち、
(く…っ!)
そう、不本意ながら私にも扱えるんです…!それも、師もいないというのに、何の因果か、頭にスラスラと知識が入っていて… 本当この世界の神様の嫌がらせとしか思えません!!
ただでさえ、魔法が使えるというのが厄介な上に、精霊まで視える… あげく、限られた者しか扱えることが出来ない古代魔法を扱えるということが公にバレてしまったら… 破滅です!!!身の破滅という未来しか見えないんですがっっ!!
それに、あの根の腐った親にこれがバレてしまえばどんな悪事に利用されるか、たまったものじゃありません!!だから、ずっと魔法を使えることを隠してきました。練習も周りに人がいないことを確認した上でやってきましたが、ハッキリ言ってその練習も必要性が感じられないほど自分で言うのもあれですが、完璧で…
だから、エルフが、クラウド様が古代魔法を使っているのを目の当たりにしても特に驚きもなにも感じませんでした。
…そう、それが、
「古代魔法を見ても大して驚かないんだな?」
まさか自分の未来をある意味、変えることになるだなんて… 誰も思わないじゃないですか!
「え、っ」
ハッとして自分の犯した失態にようやく気づく。
「普通の人間は古代魔法を使えない。目の前で見せても驚かないなんて大したものだな」
「え、あっ…!お、驚いて声が出なかったんです!!その魔法は使える人がいないという話なのに、目の前でお目に掛かれるなんて…」
慌てて苦し紛れに咄嗟に思いついた私の言い訳に、気のせいでしょうか… エルフ様のその瞳が何もかもを見抜くように細く細められたのは──。
……どうしてか。このとき、嫌な予感が背中を駆け抜けた。
見目麗しいエルフ様はそう言ってその端正な眉をひそめた。
家では何も食べさせてもらえないのか?と言われて慌てて首を振る。
「ち、ちが…!残飯だけど、コックに貰って…」
言ったのがまずかったのかもしれない。
「アクラス家ではご飯も満足に食べさせて貰えないのか?」
自分がやったしまった失態にサッと青ざめる。
「…まだ顔色が悪いな。なにを勘違いしているか想像するに容易いが、別にお前に怒っているわけじゃない」
「え?」
「いや、なんでもない。気にするな」
もしかして、実は… いい人?
「……あの、自分で歩けます」
「その脚でか?」
さっき、派手に転んだだろう?と言われて初めて足から血が出ていることに気が付いた。
ズキズキと急に痛み出す脚の怪我に顔をしかめていると、クラウド様はふぅ、と小さく息を吐いて僕の傷口にそっと手を翳し、
『щпожЫЭЖξδεζι――… 』
「(これは… 古き言葉!)」
エルフの言葉とは違う古代魔法の詠唱に目をぱちくりとさせる。淡く光がその手の平から放たれると瞬く間に傷口が塞がっていて…
「どうだ?」
「痛くない…です」
「あ、ありがとうございます」
古代魔法は今、この世界では失われつつある文明の一つである。…というのも、その名のとおり、古き時代に使われていた魔法が主であり、今現在使われている現代魔法よりも遥かに力が凌ぐからだ。
遥か昔の大戦により、多くの書物が焼失した…。その多くのものが古代魔法の禁術書だと聞く。それにより、師から弟子へと口伝による方法で… ごく一部の、限られた者にしか伝わっていないそれはまさしく秘術に近いものだった。そしてそれは大抵、精霊が視える者で・・・
それは即ち、
(く…っ!)
そう、不本意ながら私にも扱えるんです…!それも、師もいないというのに、何の因果か、頭にスラスラと知識が入っていて… 本当この世界の神様の嫌がらせとしか思えません!!
ただでさえ、魔法が使えるというのが厄介な上に、精霊まで視える… あげく、限られた者しか扱えることが出来ない古代魔法を扱えるということが公にバレてしまったら… 破滅です!!!身の破滅という未来しか見えないんですがっっ!!
それに、あの根の腐った親にこれがバレてしまえばどんな悪事に利用されるか、たまったものじゃありません!!だから、ずっと魔法を使えることを隠してきました。練習も周りに人がいないことを確認した上でやってきましたが、ハッキリ言ってその練習も必要性が感じられないほど自分で言うのもあれですが、完璧で…
だから、エルフが、クラウド様が古代魔法を使っているのを目の当たりにしても特に驚きもなにも感じませんでした。
…そう、それが、
「古代魔法を見ても大して驚かないんだな?」
まさか自分の未来をある意味、変えることになるだなんて… 誰も思わないじゃないですか!
「え、っ」
ハッとして自分の犯した失態にようやく気づく。
「普通の人間は古代魔法を使えない。目の前で見せても驚かないなんて大したものだな」
「え、あっ…!お、驚いて声が出なかったんです!!その魔法は使える人がいないという話なのに、目の前でお目に掛かれるなんて…」
慌てて苦し紛れに咄嗟に思いついた私の言い訳に、気のせいでしょうか… エルフ様のその瞳が何もかもを見抜くように細く細められたのは──。
……どうしてか。このとき、嫌な予感が背中を駆け抜けた。
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