裏切りの悪女ですが、もう二度と裏切りません

朔良 逢

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12、帝都の街

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『今日は私と、街へお出かけしましょう』

ノアにそう言われて数時間後。
私とノアは、馬車に乗って街へ向かっている。
彼からの誘いを承諾したのだ。

公爵家に来てから約1ヶ月。
その間私はそこでの生活に慣れることに必死で、公爵邸から出る事はなかった。
私を街へ誘ってくれたのは、それを知ったノアなりの気遣いのようだ。
屋敷を出る際、アーロンとエリス、リズが玄関先まで出てきて見送ってくれた。
エリスだけそれはそれは悔しそうに「私もネージュちゃんとお出かけしたかった」と下唇を噛みながらの見送りだった。
丁寧に整備された石畳の上を進みカタカタと揺れる馬車の中で、向かい合って座っている。

「急に誘われたから、少し驚いたわ」
「すいません、でも、普段使用人達の手伝いを頑張っているシエラ様へのご褒美でもあるんですよ」
「……ありがとう、でも子供扱いしないで、恥ずかしいから」
「ふふ、すいません」

微笑ましそうにニコニコ笑いながら謝罪の言葉を口にするノア。
まるで反省していないようだ。
私は軽くため息を吐き、窓の縁に肘をかけて頬杖を付いてから外を見る。
青々と葉が生い茂る木々がズラリと並ぶ並木道。
少し離れた場所に皇宮が見えた。
相変わらず真っ白で綺麗な建物だ。
あそこにエレノアやアデルが住んでいるのだと考えると、何故だか少し感慨深い。

「……エリー、元気かな」

その言葉が本当に無意識に口からこぼれ落ちた。
ノアにももちろん聞こえていて、少し眉を顰める。

「……エレノア様に会いたいですか?」
「……会いたくないって言えば、嘘になるかな」

でも、会いたいって言っても嘘になる。

小さく、本当に小さく呟いた。
まだ、彼女達に会う準備が出来ていなかった。
覚悟も、まだ決まっていない。
会いたい。会って謝りたい。
でもやっぱり怖いのだ。
彼女に、彼女達に"裏切り者"と糾弾されるのが。

「……もう少しだけ、時間ほしい」
「……分かりました。あなたの意志を尊重します。でも、これだけは忘れないでくださいね。……ノア・ルアクインは、これからもずっとあなたの味方です」

ああ、この人は本当に私に甘すぎる。
私に味方がいていはずないのに。
それでも彼の言葉を嬉しく感じるのは、彼が私がその時1番欲しい言葉をくれるからだろう。
私は何も言わずに、ただただ頷いた。

馬車が停止する。
どうやら街に着いたようだ。
今の私たち2人の格好は、貴族の服より少し地味目だが、それでもどこかのお金持ちの主人とお嬢様に見えるような服だった。
私とノアは自分の髪と顔をなるべく隠すように深く帽子をかぶる。
自分達が公爵家の人間だとバレないようにするためだ。
公務で街に来る時は素性を隠すようなことはしないのだが、今回はお忍び。バレたら面倒な事になるんだと言う。
扉が開き、先にノアが降りた。
ノアは私に手を差し伸べ、降りやすいように支えてくれる。
ノアの手を掴んで馬車から降りると、目の前には活気溢れる明るい世界が広がっていた。
街の人々は皆明るく元気で、働いている者もそうでない者もとても楽しそうだ。
そこはもう私の知っている街ではなかった。
前はこんなに明るくなかったし、店ももう少し少なかったように思う。

「……すごい」

私は素直に感嘆した。
足が自然と動き、街中へと進んでいく。
後ろからノアの「危ないですよ」という声が聞こえたが、それでも私の足は止まらない。
まだ何もしていないし、何を買った訳でもない。
ただ街に来て、街の中を歩いているだけ。
それだけの事だけど、心の底から楽しいと思った。
そこかしこから出店の商品のいい香りがして、朝食はきちんと食べたはずなのにお腹がすいてしまう。

街には色々な店がある。レストランなどの飲食店、花屋に雑貨屋、本屋など。
リズの実家だというパン屋も見つけた。
街で評判と言うだけあって、昼前だというのに店の中はお客さんで溢れかえっている。
どうやら繁盛しているようだ。
きっとリズが聞いたら喜ぶだろう。

 視線を巡らせ、前とは違う所と同じ所を探しながら進んでいくと、大きな広場に出た。
真ん中に大きな噴水があり、周囲は綺麗な花々で彩られている。
噴水の前ではどうやら何か行われているようで、人だかりが出来ていた。

「……この噴水、前はなかったよね」
「はい、この噴水は、第1皇女誕生を祝って、街の者達が総出で作ったそうですよ」
「そうなの」

アルセナ帝国の皇族達は本当に民に愛されている。
この噴水も、皇族に向けての愛の証なのだろう。
そんなことを考えていると、急に大きな歓声が上がった。
私は噴水から目を逸らし、そのまま人だかりに目を向ける。
パチパチパチと拍手が起こり、所々指笛が鳴った。
私は横に立つノアのマントを掴み引っ張る。
ノアも他の人々と同じように噴水の前を見つめて拍手をしていたが、それに気付いて私に顔を向けた。

「どうしましたか?」
「噴水の前で何がやってるの?」
「大道芸ですよ。……あ、見えませんよね、気が利かずすいません」

申し訳なさそうな表情で謝ってくる。
そうしていつもみたいに私を抱き上げて腕に乗せた。
一気に視界が高くなり、噴水前が見えるようになった。
人だかりの中心にはお揃いの衣装を着た男女が4人ほどおり、それぞれが技を披露したり、協力しながら大技を繰り出したりしていて、私も思わず魅入ってしまう。
彼らの世界観が面白くて、パフォーマンスが終わる頃には彼らが作り出す世界に入り込んでいた。
大道芸人達が頭を下げる。
一際大きな拍手と歓声が上がった。
私も力いっぱい拍手を贈る。
暫くすると人だかりもなくなり、普段通りの広場に戻っていく。
ノアに地面に下ろしてもらうが、まだ余韻が抜けなくて足元がふわふわとしていた。

「ネージュ、大丈夫ですか?」
「……ん、平気」

心配そうにこちらを見つめてくるノアにそう返す。
少し休みましょうか、とノアに促されて、近くにあるベンチに座った。

「飲み物を買ってきますので、少し待っててくださいね。すぐ戻りますから」

そう言い、小走りで広場を後にするノアの背中を手を振りながら見送る。
ぽつんと、1人になった。
足をパタパタと動かしながらノアを待つ。
待っているだけというのは思いの外退屈で、軽く息を吐きながら空を見上げた。
雲ひとつない晴天。
太陽の光が眩しくて目を細めた。
その時だ。

「泥棒、泥棒!!」

女性の怒号ともとれるような叫び声が聞こえてきた。
その方向に目を向けると、人々を押しのけながら走る男がいる。
男の手には食べ物が沢山入っているカゴを持っていた。
女性の声を聞いてやってきた2人の衛兵が男を追いかけているが距離が遠いため中々追いつかない。
男が私の目の前を通る。
その瞬間に、私は周囲にバレないように氷魔法を男の足元に繰り出した。
靴が氷漬けになり、男が勢いよく倒れる。
男の手にあったカゴが放り出されて、辺りに食材が散乱した。
男は混乱し、焦ったように取り乱し始めた。
衛兵は少し驚きながらも男を捕える。
広場が騒然とする。
1人の衛兵が男を補導する中、もう1人の衛兵が盗まれた物を拾い集めると、キョロキョロと何かを探すように広場を見回していた。
多分男に魔法を繰り出した人間を探しているのだろう。
バレたら面倒な事になりそうだ。
ノアが戻ってくるのを待つべきなのだろうが、私は身を隠しながらこっそりとその場から離れた。
ノアはどこに行ったのだろうか。
確かこっちの方に走っていったはずなのだが。
貴族ほどではないが、それでも上質な服を身にまとっている幼い子供が1人で歩いているのだ。
人々から奇異の目で見られるのは当然と言えるだろう。
こんな人目に付くような場所で誘拐とか、犯罪を起こすような人間はそうそういないだろう。
チラチラと向けられる視線は多少気になるものの、それでも平然とノアを探す。

「……さっきのって……」

背後から私を見つめる視線に気付かないまま。
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