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72_決着
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俺は目を強く瞑る。門の中の闇を見たくなかった。飲み込まれそうだ。
「開け!精霊門!」
ラビが高らかに宣言した。
「開かねぇよ」
落ち着く声が聞こえた。俺は目を開けて、声のした方を見る。
「…フィルさん」
「よぉ、ボロボロだな。リトルをこんなにしていいのは俺だけだぞ?少しムカつくな」
フィルさんは鋭い眼光でラビを見た。そして、唇をひと舐めする。
「深き闇、光の側で眠れ。精霊たちの国に幸多きことを」
もう少しで完全に開いてしまいそうだった扉は閉じて行く。
「ちっ。厄介なのが来ちゃった。どうせ、赤の王も一緒なんでしょ」
「まぁな。他の奴らの保護をしてるぜ」
「ほんと、つまんない」
ラビはため息をついて冷ややかな目をした。
「そうか。創成の光は崩壊を望み、恩恵は与えられぬ-ロスト」
一瞬あたりが眩しくなったと思ったら、ラビの体はボロボロと崩れ始めた。
「君は嫌いだよ。君だけじゃない。王様はみんな嫌いだ。あの人以外の人間は嫌い。リトル。君は嫌いだよ。バイバイ」
手を振られて、思わず振り返した。あまりにも寂しそうな顔で、泣きそうな顔で消えてしまった仕方ないことだとわかっている。しょうがないことだとわかっている。それでも心のどこかで納得できない自分がいる。
「リトル、」
フィルさんがゆっくり俺に近づく。
「なんて顔してんだよ」
俺はどんな顔をしているんだろうか。俺は俺の感情が分からない。分からないんだ。この感情に名前をつけることができない。
「我、天命の罰に繋がれし咎人なり願わくば、我…苦しみの海に消えることを…」
フィルさんが続きを言うことはなかった。息を飲んで、俺をゆっくり抱きしめた。
「優しくなりすぎるのも問題だ。お前はお前のことだけ守ってろ」
「主…」
2人の声が虚しく耳を通り過ぎる。
「俺は…一体何を望んだんだろう」
「それはお前にしか分からないさ。俺にもケットシーにもわからない」
「きゅー」
自分とは違う体温にざわめく心が落ち着いていく。
「フィルさん…クロ…ありがとう」
「たく、トラブルメーカーめ。ここから出るぞ」
「うん。でもどうやって?」
フィルはニヤッと笑って俺を離すと、魔力を解放し始めた。凄まじい魔力だ。体が重く、息ができなくなりそうになる。
「来い…」
バリンッ
ラビが作り出した世界は鏡のように割れた。そに先にはいつもの学園の景色と学園長に助け出されたであろうヒルエ、セルトがいた。そして、倒れている姐さんとギルがいた。
「「リトル!!」」
ヒルエとセルトは俺に駆け寄る。セルトはその勢いで俺に抱きついた。
「いだぁあ」
「ご、ごめん!でも僕心配で心配で…」
今にも泣きそうなセルトの頭を撫でる。
「俺より身長高いくせに泣くなよ」
「だって…」
セルトはシクシクと泣き出してしまった。俺はよしよしと頭を撫で続ける。
「あ、そういえば、ギルと姐さんは大丈夫なの!?」
「ルクスリアさんは媒介にされただけでありんすから問題ないでござんしょう。ギルさんの方は少々厄介でありんす…」
「それって、目を覚まさないってこと!?」
「そうじゃないでありんす。今ギルさんは誰かと精神世界で対話中なのでありんす。通常この魔法は術者が解除するまでとけんせん。外側からはどうすることもできないのでありんす」
「ギル…」
俺は痛い体に鞭を打ってギルの側に向かおうとする。しかし、ヒルエに邪魔された。
「ヒルエ?」
「お前、本当に死ねばいいのに」
そう言ってヒルエは自分の背中に乗れという風に俺の前でしゃがむ。俺はお言葉に甘えることにした。
「なんだかんだ言って優しいよね」
「うぜえ」
「平凡最高…」
ヒルエは俺をギルのところに運ぶと優しく降ろしてくれた。
「ギル…」
呼んでも返答がない。
「…リトル、そのままギルに魔力を流してみろ」
「…フィル」
フィルさんの言葉に理事長が反応した。2人の間に異様な空気が流れる。
「大丈夫だ」
「フィルさん…?」
「リトル、やれ」
「でも、俺、魔力譲渡なんてできない…」
俺にはそんな高等魔術を行う技量はない。それどころか、下手すれば俺の魔力を全部渡してしまう。
「大丈夫だ。傷を癒す感覚で手のひらに魔力を込めろ。それでいい」
「わかった…」
俺は慎重に手のひらに魔力を集めて行く。
「いい感じだ。おい、レルク」
「あい。わかっていんす」
理事長は俺の手のひらに手を重ねる。そこに大量の魔力を流し込まれる。
「ぐぅ…」
息が詰まりそうになる。俺を介して理事長が魔力を流して行く。
「おい!リトルのキャパを超えてるぞ」
「大丈夫だ。レルクの属性はリトルと違うから、同じ魔力である俺の魔力を取り入れるより、ギルへ流れやすい」
「あい、けれど、感心しないやり方でいんす」
「知ってるよ。でも、確実だ」
「うぐぅ…はや、く」
「白の王、もうリトルが限界です!」
「レルク、どうだ」
フィルさんは理事長に問う。理事長は少し魔力を弱める。
「あい」
「リトル、ゆっくり魔力を弱めていけ。レルク、合わせろよ」
「任せるでありんす」
魔力をゆっくり弱めて行く。理事長もそれに合わせて魔力を弱めてくれる。
「はぁ、はぁ、お、わった…」
「ああ、ゆっくり休め」
「う、ん…」
俺は目を閉じて眠りについた。
「開け!精霊門!」
ラビが高らかに宣言した。
「開かねぇよ」
落ち着く声が聞こえた。俺は目を開けて、声のした方を見る。
「…フィルさん」
「よぉ、ボロボロだな。リトルをこんなにしていいのは俺だけだぞ?少しムカつくな」
フィルさんは鋭い眼光でラビを見た。そして、唇をひと舐めする。
「深き闇、光の側で眠れ。精霊たちの国に幸多きことを」
もう少しで完全に開いてしまいそうだった扉は閉じて行く。
「ちっ。厄介なのが来ちゃった。どうせ、赤の王も一緒なんでしょ」
「まぁな。他の奴らの保護をしてるぜ」
「ほんと、つまんない」
ラビはため息をついて冷ややかな目をした。
「そうか。創成の光は崩壊を望み、恩恵は与えられぬ-ロスト」
一瞬あたりが眩しくなったと思ったら、ラビの体はボロボロと崩れ始めた。
「君は嫌いだよ。君だけじゃない。王様はみんな嫌いだ。あの人以外の人間は嫌い。リトル。君は嫌いだよ。バイバイ」
手を振られて、思わず振り返した。あまりにも寂しそうな顔で、泣きそうな顔で消えてしまった仕方ないことだとわかっている。しょうがないことだとわかっている。それでも心のどこかで納得できない自分がいる。
「リトル、」
フィルさんがゆっくり俺に近づく。
「なんて顔してんだよ」
俺はどんな顔をしているんだろうか。俺は俺の感情が分からない。分からないんだ。この感情に名前をつけることができない。
「我、天命の罰に繋がれし咎人なり願わくば、我…苦しみの海に消えることを…」
フィルさんが続きを言うことはなかった。息を飲んで、俺をゆっくり抱きしめた。
「優しくなりすぎるのも問題だ。お前はお前のことだけ守ってろ」
「主…」
2人の声が虚しく耳を通り過ぎる。
「俺は…一体何を望んだんだろう」
「それはお前にしか分からないさ。俺にもケットシーにもわからない」
「きゅー」
自分とは違う体温にざわめく心が落ち着いていく。
「フィルさん…クロ…ありがとう」
「たく、トラブルメーカーめ。ここから出るぞ」
「うん。でもどうやって?」
フィルはニヤッと笑って俺を離すと、魔力を解放し始めた。凄まじい魔力だ。体が重く、息ができなくなりそうになる。
「来い…」
バリンッ
ラビが作り出した世界は鏡のように割れた。そに先にはいつもの学園の景色と学園長に助け出されたであろうヒルエ、セルトがいた。そして、倒れている姐さんとギルがいた。
「「リトル!!」」
ヒルエとセルトは俺に駆け寄る。セルトはその勢いで俺に抱きついた。
「いだぁあ」
「ご、ごめん!でも僕心配で心配で…」
今にも泣きそうなセルトの頭を撫でる。
「俺より身長高いくせに泣くなよ」
「だって…」
セルトはシクシクと泣き出してしまった。俺はよしよしと頭を撫で続ける。
「あ、そういえば、ギルと姐さんは大丈夫なの!?」
「ルクスリアさんは媒介にされただけでありんすから問題ないでござんしょう。ギルさんの方は少々厄介でありんす…」
「それって、目を覚まさないってこと!?」
「そうじゃないでありんす。今ギルさんは誰かと精神世界で対話中なのでありんす。通常この魔法は術者が解除するまでとけんせん。外側からはどうすることもできないのでありんす」
「ギル…」
俺は痛い体に鞭を打ってギルの側に向かおうとする。しかし、ヒルエに邪魔された。
「ヒルエ?」
「お前、本当に死ねばいいのに」
そう言ってヒルエは自分の背中に乗れという風に俺の前でしゃがむ。俺はお言葉に甘えることにした。
「なんだかんだ言って優しいよね」
「うぜえ」
「平凡最高…」
ヒルエは俺をギルのところに運ぶと優しく降ろしてくれた。
「ギル…」
呼んでも返答がない。
「…リトル、そのままギルに魔力を流してみろ」
「…フィル」
フィルさんの言葉に理事長が反応した。2人の間に異様な空気が流れる。
「大丈夫だ」
「フィルさん…?」
「リトル、やれ」
「でも、俺、魔力譲渡なんてできない…」
俺にはそんな高等魔術を行う技量はない。それどころか、下手すれば俺の魔力を全部渡してしまう。
「大丈夫だ。傷を癒す感覚で手のひらに魔力を込めろ。それでいい」
「わかった…」
俺は慎重に手のひらに魔力を集めて行く。
「いい感じだ。おい、レルク」
「あい。わかっていんす」
理事長は俺の手のひらに手を重ねる。そこに大量の魔力を流し込まれる。
「ぐぅ…」
息が詰まりそうになる。俺を介して理事長が魔力を流して行く。
「おい!リトルのキャパを超えてるぞ」
「大丈夫だ。レルクの属性はリトルと違うから、同じ魔力である俺の魔力を取り入れるより、ギルへ流れやすい」
「あい、けれど、感心しないやり方でいんす」
「知ってるよ。でも、確実だ」
「うぐぅ…はや、く」
「白の王、もうリトルが限界です!」
「レルク、どうだ」
フィルさんは理事長に問う。理事長は少し魔力を弱める。
「あい」
「リトル、ゆっくり魔力を弱めていけ。レルク、合わせろよ」
「任せるでありんす」
魔力をゆっくり弱めて行く。理事長もそれに合わせて魔力を弱めてくれる。
「はぁ、はぁ、お、わった…」
「ああ、ゆっくり休め」
「う、ん…」
俺は目を閉じて眠りについた。
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