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蘭くん 前編
しおりを挟む「今日からバイトに入る事になった小西蘭です!よろしくお願いします!」
蘭は元気よくそう言うと、勢いよく頭を下げた。蘭は猫が大好きで、大学に入ってバイトするなら猫に関わる仕事と決めていたのだ。そして、念願叶って、やっとこの猫カフェで働けるようになったのだ。そのため、蘭のやる気は漲っていた。
「蘭くん、彼が先輩の宇佐美さん。分からないことあったら宇佐美さんに聞いてね」
「宇佐美です。よろしく」
宇佐美は爽やかな笑みを浮かべて手を差し出す。
「こちらこそよろしくお願いします!」
蘭はその手を握ると元気にそう言った。
「じゃあ、早速よろしくね。頑張って」
「はい」
店長はそのまま去っていく。宇佐美は蘭に向き直った。
「蘭くん、行こうか。まずは、ここの従業員を紹介するね」
「はい!」
宇佐美は猫のゲージがあるところまで蘭を連れていく。
「右から、青龍、朱雀、白狐、玄武。まだ、いるんだけど、今日はこの子たちがお客様の相手をするんだ」
「わぁ~」
蘭は目を輝かせて、ゲージの前に座り、猫を見つめ、幸せそうに笑う。宇佐美はその姿にクスッっと笑うと青龍をゲージから出す。
「この子が一番人懐っこいんだよ。はい」
宇佐美は蘭に青龍を差し出す。
「良いんですか!?」
「もちろん!この子達と仲良くなるのも仕事の内だよ」
「よっしゃ!おいで~!」
蘭は青龍を宇佐美から受け取る。ふわふわとした毛がとても気持ちいい。蘭は青龍の体に顔を埋めた。
「ふふっ、蘭くんは猫が本当に好きなんだね」
「はい!めちゃくちゃ可愛いです!」
「蘭くんも可愛いよ」
蘭はキョトンとした顔で宇佐美の顔を見る。宇佐美ははんなりと微笑んだ。
「俺は可愛くないですよ」
「そんな事ないよ」
蘭は宇佐美が天然なのだろうと思った。黒髪で基本的に地味な蘭は可愛いとは言えないと自覚している。
「本当に可愛くないですよ。俺的にはかっこいいって言われた方が良いっす」
「あ、そうだね。つい、可愛くて」
天然タラシだと思った。宇佐美の整った顔であんなに爽やかな笑みを浮かべ、そんな事言われたら赤面してしまうのは仕方ないっと自分に言い聞かす。
「そう言う宇佐美さんはかっこいいですね」
「ふふ、ありがとう」
宇佐美は蘭の頭を撫でる。
「宇佐美さん、青龍はこっちです//」
「そうだね、青龍も良い子良い子」
「にゃー」
青龍は気持ち良さそうに鳴いた。他の猫も宇佐美さんに撫でてもらいたいのかにゃーにゃー鳴き出した。
「よしよし、ちょっと早いけど出してあげようね。蘭くんお願いできるかな?」
「はい!」
蘭はゲージを開けて猫を出していく。猫は嬉しそうに宇佐美の周りに集まる。
「宇佐美さん、猫にすごく懐かれてますね!」
「まぁ、長い間一緒にいるからね。蘭くんにもすぐ懐いてくれるよ。ほら」
「にゃー」
蘭の足元に青龍が擦り寄る。蘭はしゃがんで、青龍を撫でる。
「もう!本当に可愛いなぁ」
まるで恋する乙女のような顔で青龍を撫でる。宇佐美はそんな蘭に近寄る。すると、残りの猫も蘭のそばに来た。
「わぁ~、おいでおいで!」
蘭は1人ずつ撫でて行く。けれど、朱雀と紹介された猫だけは蘭のそばではなく、宇佐美の後ろに隠れたままだった。
「お前は、宇佐美さんが良いのか…」
しょぼんとした表情をする蘭の頭を宇佐美は撫でた。
「この子は僕が拾って来たんだけど、僕も最初は懐いてもらえなかったんだよ」
「そうなんですか。俺も頑張ろ!」
「懐いたら甘えん坊なんだよ」
宇佐美は朱雀を撫でながら言った。
「俺にも早く懐いてね」
「大丈夫だよ。蘭くんなら」
「はい!」
蘭は元気よくガッツポーズをして返事をした。
------------------
蘭がバイトをし始めてしばらく経った。仕事もだいぶ覚えた。ただ、蘭は悩んでいた。朱雀がどうしても懐いてくれないのだ。
「朱雀~」
プイっ
朱雀は蘭から顔を背ける。
「う"~」
「落ち込まないで、蘭くん。ゆっくり懐いてもらおう」
「はい…」
「にゃー」
宇佐美が来た途端、朱雀は嬉しそうに鳴いた。宇佐美が撫でるとゴロゴロと喉を鳴らす。
蘭はその姿を見ながら、どうして懐かないのか観察する。蘭自体結構、宇佐美の触り方を真似をしてみたつもりだ。
「にゃー」
朱雀は宇佐美の腕にすがりつく。その姿を見て、蘭は匂いかもしれないと思った。
「宇佐美さん、宇佐美さん!」
「どうしたの?」
「手を貸して下さい!」
「いいよ?」
宇佐美が手を差し出すと、蘭はその手を両手で握って、自身の手に匂いをつけるように動かし始める。
「蘭くん?」
「いや、宇佐美さんの匂いがついてたら俺が触っても安心するんじゃないかと…」
「なるほど」
犬じゃないが、猫もそこそこ匂いとかに敏感なはず…
グイっ
宇佐美は自身に匂いをつけようとしている蘭の手を引っ張って、蘭を自身の胸の中に収めた。
「じゃあ、こっちの方が良いね」
「う、宇佐美さん/////」
びっくりして赤面する蘭をよそに宇佐美はぎゅーと少し強く抱きしめる。
「蘭くんって良い匂い」
「っ/////」
蘭は恥ずかしさに目を瞑る。蘭は宇佐美の匂いを意識してしまう。猫の匂いがするが、それとは別に石鹸の良い香りがする。
「宇佐美さん、もう良いです/////」
「もうちょっと」
ぎゅーっと蘭を離さない宇佐美に蘭は戸惑う。男同士で恋人みたいに抱きつくのは、側から見たら異様だろう。誰かに見られたら大変だ。誤解されてしまう。っと蘭は少し抵抗する。何より、自分の早まる鼓動を悟られたくなかった。
「宇佐美さんってば/////」
「…じゃあ、僕と明日デートしてくれるって約束してくれたら離してあげる」
明日は日曜日。学校もバイトも休みだ。何も問題はないため、蘭は了承した。
「ふふ、ありがとう。明日、楽しみにしてるね」
宇佐美はそう言って仕事に戻って言った。
「はぁー、胸が張り裂けるかと思った…。朱雀ー!」
「にゃ"」
蘭は朱雀が油断しているのを良いことに朱雀を撫でる。朱雀はブサイクな声を出すと、不機嫌そうな顔をした。
「にゃー」
朱雀は宇佐美の後を追っていく。蘭はそれを寂しそうに見送った。
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