366日の奇跡

夏目とろ

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[第3章]リコール

10 絢人side (同室者)

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 隣を歩くルームメイト兼クラスメートの顔をこっそり盗み見る。

(こいつ、本当に羽柴か?)

 確かに無駄に長い前髪とだっさい眼鏡に隠れてはいたが、よく見りゃ整った顔をしてるなとは思っていたけど。
 人間って、髪を切って整えて。眼鏡を外しただけでこうも変わるもんなのか。羽柴が髪を切るまでは俺の方が目立っていたのに、今は間違いなく羽柴の方が注目を浴びている。

「……槙村?」
「ん、ああ。どうだ? コンタクト」
「んー、まだ異物感あるかな。けどよく見える。それに身軽だし」

 無意識に生まれ変わったNew羽柴をガン見してしまっていたようで、そんなどうでもいいことを聞いてごまかした。金持ち校のうちの制服を着ているのもあり、羽柴の見た目は見た目も麗しい王子様そのものだ。さっきまでは俺の方をちらちらうかがっていた女の子達の視線も、今は羽柴に一身に注がれている。
 今の羽柴なら抱かれたいランキングの上位にランクインするかも知れない。つか、抱きたいランキングでもトップ10入りするかもな。羽柴がまだ会長をやっていたら、間違いなく直ぐに親衛隊も出来ただろう。

 何度か二人組の女の子に逆ナンされつつ、俺達は俺の行きつけのショップへと向かった。

「よかった。普通のとこで」

 店に着いて開口一番、そう言った羽柴に思わず笑ってしまう。

 うちの学校に隣接する学生寮の一画はちょっとしたショッピングモールになっていて、わざわざ外出しなくても洋服や靴、生活雑貨なんかの生活用品が一通り揃うようになっている。当然だけど全ての店がセレブ御用達で、洋服一つ取っても高級ブランドのものでン十万とかの世界だが。
 ショッピングモールがあるのにわざわざ外出したいと言うことは、羽柴は普通のものが着たいんだろうなと推測出来た。実際、羽柴の部屋着は無地のシャツやTシャツで、パンツもウニクロで買ったであろうシンプルなものだ。

 俺は洋服は好きだがセレブ感溢れるブランドのものは着る気にならず、街へ出るついでに街で好みのものを買っている。食べ物一つ取ってもバカ高いだけで、個人的に美味いと思う店は外にある。

「どんなのにする?」
「んー、槙村のセンスに任せるからいくつか選んでくれない? 俺、この一年間で15センチ近く背が伸びちゃってさ。この際、何着かまとめ買いしときたいし」

 今の羽柴の身長は175センチ程で、これ以上はそれほど伸びることはないだろう。だからこの際、まとめ買いしとこうってわけか。
 もしかして、待ち合わせした時に羽柴が言ってた着て行く服がなかなか決まらなくて云々って全部サイズが合わないってことだったんだろうか。
 だったらなんかガッカリだ。いや、何がガッカリなのかよくわからんが。

「羽柴、どうだ。着れそうか?」
「うん。サイズもぴったり」
(――シャッ)
「どうかな?」
「……っっ、いいんじゃね」
「さんきゅ。槙村が選んでくれるのって、普段俺が着ない服だからなんか新鮮だわ」

 悔しいことに羽柴は何を着せてもよく似合って、羽柴はその中から3パターンのコーデ一式を買った。早速、その中の一つのコーデに着替え、買った服は即日宅配で寮に送って貰う。
 その帰りに行きつけのラーメン屋で麺をすすりながら、そう言えば最近、彩夏とデートしてないことを不意に思い出したりなんかして。羽柴との買い物はまるでそのデートのように楽しくて、ことほか満喫した自分に苦笑った。

 行きつけの店で俺も何着か服を買い、羽柴同様に買ったものに着替えて帰路に着く。羽柴と二人で逆ナンされた数が、それまでの俺の一日の記録をあっさり塗り替えたのは言うまでもない。
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