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十五章
一方その頃
しおりを挟む一方その頃。
マシロが足を踏み入れた"谷の迷宮"の一室にて、金属のぶつかり合う激しい戦闘音が鳴り響いていた。
ガギンッ!ギンッ!と勢いよく大剣を振り回すのは、騎士甲冑を身にまとった骸骨の怪物、スケルトンだ。
自分の身の丈より大きな大剣を振り回し、獲物を狩るべく嬉々として突っ込んでいく。
スケルトンはアンデッドの中でも下級に位置する魔物で、死者の遺骨を媒介に動いているためその自我は乏しく、低級の冒険者でも大して苦労しない相手だ。
ただし光属性の魔法でとどめを刺すか、粉々にすり潰さない限り執拗に襲いかかってくる厄介性もある。
基本的に人の住まなくなった幽霊屋敷やダンジョンなどに生息しており、昼間は上手く活動できないが、対して夜には僅かながら力が増す。
現在外の時間帯はもろに昼だが、こうして俊敏に動けているという事は、この迷宮内が何か特殊な環境だと言うことだろう。
多少面倒くささは増すが、かと言って単体の強さはE級またはD級程度。
ランクC以上の冒険者であれば複数体を同時に相手取っても、心配することなく勝利することが出来るはずだ。
──────が、ここは伝説級の隠しダンジョン、"谷の迷宮"。
果たしてそんな簡単に攻略できるような相手が立ち塞がるであろうか。
答えは否である。
単体では弱いスケルトン。
ならば多数ではどうだろうか。
例えば、五千体………とか。
「………っ、邪魔!」
「…………!」
盗賊のような装備にスカーフを首に巻いた幼女、クロの放った後ろ蹴りが的確にスケルトンの頭部を砕く。
さらに背後のスケルトンが膝を着くより前に、電光石火の勢いで別のスケルトンの背後に移動。
逆さに持った短剣で素早く切り分ける。
センリの予想通り、確かにクロは"谷の迷宮"に挑んでいた。
もちろん力を求め、胡散臭い伝承を信じてまでここに来た訳ではない…………いや、「力を求め」と言うのは間違いではないのだが。
かつて今は行方不明のクロの師匠が、話していたのだ。
"もしクロが壁にぶつかった時は、"谷の迷宮"の最奥を目指せ"、と。
当時、クロは気にも止めていなかった。
自分が壁にぶつかる事など想像していなかったし、何よりそんな不自由な生き方をするつもりなど無かったからだ。
けれど、まさか数年の時を経て役に立つとは。
クロがぶつかった壁。
それは誰しも一度は味わうであろう"挫折"に似たようなものだった。
たった一日とちょっと前のことであるため、忘れようにも忘れることは出来ないし、そもそも忘れる気はさらさら無い。
完膚なきまでに叩きのめされた。
あまつさえ殺されそうになった。
あそこまで手も足も出ないという言葉が相応しい戦いは、クロの中では初めてだった。
己の無力さを思い知らされた。
もっと力があれば、相手が原初だろうが負けることはなかった。
もっと力があれば、マシロを助けに行くことが出来た。
もっと力があれば、マシロがあんなに傷付くことはなかった。
もっと力があれば、あの憎たらしくも放っておけない残念キツネを、奪われることだって──────。
「んっ!!」
振り払った短剣で、雑念と共にスケルトンの群れをなぎ倒す。
今ので一気に十体ほどは持っていけただろうか。
相変わらず幼女にしては強すぎるクロだが、敵からすれば今の犠牲など塵芥にも等しい。
何せ敵のスケルトン。
その総数はなんと、約五千体。
部屋の広さ、おおよそ二十五メートルプール十数個ほど。
あれだけ広いと思った空間に、これでもかと大量のスケルトンがぶち込まれているのだ。
しかも、クロとは反対側に位置する大きな扉からはまだまだ追加のスケルトンが湧き出ている。
倒しても倒してもキリがない。
「ん、〈乱刃〉!」
スキルの発動と共に、クロの手が霞む。
圧倒的な速度による神速の斬撃。
シュパパパパッ!と密集していたスケルトン達は、ひとたまりもなく切り刻まれてガシャガシャ崩れ落ちた。
足元に転がった仲間の頭に躓いたスケルトンに、すかさず〈剛脚〉を使用したドロップキックをぶちかまし、そのまま後ろのやつも数体巻き込んで足場に。
奥の密集している地帯に飛び込み、〈剛腕〉と〈乱刃〉で片っ端から打ち砕いていく。
〈剛脚〉と〈剛腕〉。
この二つはどちらもタンクや戦士など、前衛系の役職が使うスキルだ。
その名の通り脚力や腕力が強化される。
なぜそれをクロが使えるのかと言えば、一重に彼女の師匠の影響だった。
クロの師匠は、拳による近接戦闘を得意とする拳闘士。
その中でも攻撃に極振りした、インファイターに分類されるような人物だった。
当然、格闘系のスキルはもれなく極めており、クロも同レベルとは行かずともそこそこ仕込まれていたのだ。
「うっ………!」
集団のど真ん中に突っ込んだため先程よりは多く仕留められたものの、その分、敵の反撃もものすごい。
数多く繰り出された片手剣の切っ先の一つが、クロの柔らかい肌にかすった。
切れた肩口から血が垂れる。
この部屋に入って、初めての傷だ。
さすがのクロでも、一対五千以上の勢力差を覆すのは簡単ではなかったようで。
しかも相手は復活するスケルトン。
光属性の適性がなく、しかも相手を粉々に殲滅するような高威力の技を持たないクロとの相性は最悪だ。
もし仮に、その相性さえ覆すイナリや九尾の狐のようなフィジカルがあれば別だが、クロにそこまでの化け物じみた身体能力は無い。
もちろんクロは強い。
そのフィジカルも一般人どころかSランクの冒険者ですら比較にならない。
だが、ここで求められるのは殲滅力だ。
クロには致命的にそれが無い。
元々、自ら前線に出て積極的に敵と交戦するようなタイプでは無いのだ。
仲間が一人でも居れば今より遥かに有利に立ち回ることが出来るが、一人ではどうしようもない。
ただ地道に、お互い削られるだけだ。
そうして勝つのは、大体の場合数が多い方に決まっている。
「ぐぅ………!んんっ!!」
再び、〈乱刃〉を発動。
周囲のスケルトンを切り、できた隙間から一時的に逃れることに成功した。
しかしその身に刻まれた傷の数は、先程までとは比べ物にならないほど多い。
血をかなり流しており、若干の貧血の症状が見られる。
身体強化での魔力の消費もあり、倦怠感が出始めてきた。
この迷宮、外と同じでどうも魔力の拡散効果があるらしい。
身体強化など体内で完結する分には問題ないが、おそらく体外に出して魔法を行使しようとすると、不発に終わるか通常の何倍もの魔力を持っていかれるか………。
どちらにしろ、魔法が使いずらいことに変わりは無い。
この迷宮の作者は、本当にクリアさせる気があるのだろうか。
魔法無しで、こいつらを全員消滅させろと?
「…………ん、それくらい出来なきゃだめ」
強くなりたい。
クロの願いは、それだけだ。
だからこんな場所では止まれない。
瞳に浮かぶのは、執念と焦り。
ぞろぞろと復活して集まってきたスケルトンを前に、クロは【ストレージ】から二本目の短剣を取り出す。
ここから三十分程後。
クロが居た部屋に静寂が訪れた。
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