最強ご主人様はスローライフを送りたい

卯月しろ

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十九章

本心の吐露②

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虫の良い話だ。
それは分かってる。

散々殺した。
自ら挑んできた物好きも、傲慢故に屈服させられると過信した馬鹿共も、敵味方関係なく入り乱れる戦火の中でも、そして全く関係の無い住民すらも。
誰一人例外は無かった。
全ては己の気分次第。
殺したい時に殺し、喰いたい時に魂を喰らった。
生き甲斐だったと言っても過言じゃない。

もちろん恨まれた。
憎まれ、蔑まれ、疎まれ、忌み嫌われ………。
あらゆる悪感情が向けられた。

しかし、その尽くを圧倒的な力で正面からねじ伏せ君臨し続けた。
他人にどう思われようが関係無い。
まさに天上天下唯我独尊。
己だけの世界。

これこそが幼き日に決めた自分の生きる道。
普遍の生き方。



──────そのはずだった。






「おおっ、らああ!!」
「ぐぬっ!?」


繰り出された渾身の右拳を反射的にガードして、それでも防ぎ切れず思いっきり殴り飛ばされた。
ドゴゴッ……!!と勢いよく地面を削りながら、体を起こしたツクモは激しい嫌悪感に見舞われていた。
"殺されても良い"。
そう言った直後にも関わらず、こうして思わず攻撃を防いでしまったからだ。


「っ、ご主人様!妾の話を────」
「問答無用!」
「のわぁっ!?」


わざと外した拳がツクモの足元に突き刺さり、粉砕された瓦礫と土煙が宙を舞う。
視界を遮ったそれらを貫いて、至近距離のインファイト。
一撃一撃がぶつかる度、もの凄い衝撃波が生まれて周囲を無惨な状況に変えていく。


「ぐっ……!!」


ついにマシロの横蹴りがツクモの脇腹にめり込んだ。
そのまま雑なシュートフォームで蹴り飛ばされ、地面に一度バウンド。
跳ね上がった瞬間に、いつの間にか追いついていたマシロが繋いで握った両手を振り下ろし、ツクモは地面に叩き付けられた。
突き抜けた衝撃が地面に亀裂を生み、またもや大量の瓦礫と土煙が巻き上げられる。


「カハッ………!?」


さすがのツクモもノーダメージでは居られない。
肺から強制的に空気を吐き出させられ、咳き込みながら開けた片目で目の前のマシロを見つめる。


「………確かに、誰かは"死ね"と言うかもしれない」


それはかつて殺した大勢の中の誰かか、はたまた無関係ながら恐れ疎んだ者か、それとも現代の何者か………。
誰かまでは分からない。
だが、誰一人"死"を求めないなんてご都合展開があるはずもない。
特に過去の人物………あらゆる悪意が渦巻いていた戦争の時代に、恨みつらみが無かったなんて絶対に言えるわけが無いだろう。
それでも………少なくともマシロは違う。
これは自分勝手な綺麗事だ。


「死んで許される罪なんてない………!生きて苦しむことこそ、咎人の罰だ!!」


死ねば一瞬。
しかし生きていれば、悔やむ心がある限り死ぬまで苦しみ続けることになる。
それが罪を犯した者への罰だ。


「罪という十字架は一生お前の背にのしかかる………!それでも足掻いて、藻掻いて、苦しんで生きてかなくちゃならない!」


贖罪とはそういうものだ。
死んで、はい終了。
それで許されるとでも?
出来る限り苦しんで生きなければ意味は無い。


「"悪"から"善"になる道が楽な訳がない………。険しい道のりだ。きっと背負うものが重すぎて、挫けそうになることだってあるだろう………!だから────!!」


再び始まったインファイトの最中、防御の隙間を縫った渾身のアッパーカットがツクモの腹を貫き、遥か上空まで打ち上げる。
容赦の欠片もない一撃に噎せながら上げた視線の向こうでは、月明かりを受けたマシロの右腕が膨大な魔力を纏ってバチバチとスパークしていた。
雷属性を付与されたそれは、腕全体を覆いながら手のひらへと集束し、一際強大な雷を周囲に撒き散らす。


「────その時は、俺が一緒に背負ってやる……!一緒に苦しんで、最後まで隣で見届けてやる!………!!俺にとってツクモは、もう大切な家族の一人だから………!!」

「────ッ!!」



大きく目を見開いたツクモに、莫大な魔力を迸らせる右の手のひらが押し付けられた。
天照雷轟てんしょうらいごう】。
雷属性最強の攻撃魔法である。
魔力の衣で強制的に圧縮されていた膨大な雷が溢れ出し、とてつもない雷鳴と共に夜空を染め上げた。







        ◇◆◇◆◇◆






未だにパリッ……!とあちこちで放電が絶えないクレーターの中央で、仰向けに倒れ衣服から黒い煙を立ち上らせているのはツクモだ。
何を考えているのか分からない瞳が、ぼーっと静かに星空を眺めている。

…………綺麗事も良いところだ。

俺は自分の発言を省みてそう思う。
結局は、俺が死んで欲しくないだけで。
世間的に見れば死んでも同然、むしろ死んだ方が世のためになると言われても仕方がないような存在………。
だけどそれじゃあ、あんまりだ。


「………"家族"と言ってくれたのは、素直に嬉しく思うのじゃ………。じゃが、なぜご主人様がそこまで妾を想う………?」

「……………」



ツクモの疑問も最もだ。
何せ相手はかつて自分を…………家族を殺す寸前まで追い詰めた女。
そんな奴を"家族"として扱うなんてありえない。
そう言いたいのだろう。


「…………いやそもそも、"お尻を叩かれて新しい扉開いちゃったから責任取って♪"………ってうちに押しかけてきたツクモの方がおかしいだろ………」
「………?」
「なぜ"ちょっと何言ってるか分からない……"みたいな顔をする」


ありえない度で言ったらそっちも中々じゃないか?
普通、さっきまで殺し合いしてた相手に、頭まで下げて「飼って欲しいのじゃ!」なんて言う人居ます?
ええまぁ目の前に居ますけど。


「変態がいきなりシリアスになるなよ………温度差で風邪引くだろ」
「さすがに酷くないか!?妾だって真剣に………いやでも、こんな扱いも捨て難いのじゃ」


俺の冷めた眼差しに、まだ体が痺れているであろうに少しいつもの調子を取り戻したようにくねくねするツクモ。
もうこいつはダメなのかもしれない。
おそらくもはや何をやっても手遅れであろう変態ツクモを前に、俺はため息をつきながら腰を下ろす。


「あのなぁ………一応言っておくけど、俺もイナリもツクモを恨んじゃいないさ」


ツクモがピタリと動きを止めてこちらを見つめる。


「確かにまぁ色々あったけど、結果的に俺達は誰も欠けることなく生きてるんだ。ツクモにボコられた借りはもう返したし、後は皆を傷付けた他の原初に対する怒りだけしか残ってない」
「あ、あれを色々で片付けて良いかのぅ……...」
「被害者の俺達が良いって言ってるんだから良いんだよ」


暴論が過ぎると言いたげだが、とりあえず無視して話を進める。


「過去に関しては、俺が何を言ってもその罪は無かったことにならない。だから知らん」
「ええ………ご主人様よ、もしや相当怒っとるのか?」
「そりゃね。せいぜい悩みまくるがいいさ。そして悩んでる間は死ぬことを許さん。主命令だ」
「ご、強引な………」
「強引な方が好きって言ってただろ?」
「それとこれとは訳が違うのじゃが!?」
「よし、帰るか」
「ご主人様!?」


もう聞く耳を持ちません。
動けないながらも抵抗するツクモを引っ張り上げて肩に担ぎ、俺はさっさと来た道を戻るように歩き始めた。


「ひ、酷いのじゃ、こんな荷物みたいな扱い…………興奮しすぎて濡れてしまうじゃろうが」
「俺、ツクモのブレなさは好きだよ。割とマジで」
「くふふ。嬉しいことを言ってくれるのぅ、ご主人様よ。じゃが他にも妾のお気に入りポイントはあるじゃろう?ほれほれ」
「救いようの無い変態のくせに、意外と頼りになるところとか」
「す、素直に喜びづらいのぅ………。もっとこう、使い勝手の良い体とか─────」
「そっちの方が普通は喜びづらいだろうが」
「あふんっ♡」


ツッコミ代わりに突き出されたツクモの尻を叩く。
…………やばいな、ツクモのせいでこれが癖になってたらどうしよう………。
ふと己の無意識の行動に戦慄した。
まさか、日頃から変態ツクモの相手ばかりしていたせいで、俺まで………。
こんなところ少なくとも娘には見せられないだろう。
それはそれとして。


「はぁ………まぁ何だかんだ言って、本気で俺を想ってくれてるのは伝わってる。意外と見えないところで気を使ってくれてるし、その見るに堪えない変態性を除けば聡明で頼りなる存在だよ」
「……………ご主人様よ」
「何?」
「パンツの変えはあるかの?」
「…………」
「ああっ!その汚物を見るような冷たい瞳っ、ゾクゾクするのじゃあ~♡」


無言でペいっと捨てたら、うごうご芋虫のように地を這って俺の左脚にしがみつくツクモ。
普通にキモイ。


「あっ、こら!離せツクモ………!」
「嫌じゃあ!もう妾決めたのじゃ、ご主人様からは死んでも離れんと!」



目尻に涙を浮かべたツクモと格闘すること数十分。
何をやってもしがみついて離れないツクモに諦めが勝ち、最終的に腕を組む形に落ち着いた。
そうしてそのまま本来の目的であるラモンの実を採取し、疲れから帰りは転移魔法で我が家に帰宅。
戸を開けた途端、汚れまみれの俺とツクモを見たアイリスに大層驚かれたのだった。




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