異世界マッチョ

文字の大きさ
24 / 133

24 マッチョさん、グランドマスターと手合せする

しおりを挟む
 練習場に行くとトレーニングをしていた人たちがザワつきだした。グランドマスターが練習場で直々に手合せをすることが珍しいのかもしれない。ソロウの練習場よりも広いが、設備はソロウとほとんど同じだ。というよりも、こちらが本元で他のギルドが本部を真似ているのだろう。
 「さてと。防具も無いようであれば、寸止めで力量を図るしかないか。木刀を使いなさい。」
 そう言われても、相手は老人で防具もつけていない。
 「あー、ワシのことなら大丈夫。キミくらいなら防具をつける必要もない。そこのアホのように万一も無い。安心してかかってきなさい。」
 急にドロスさんの圧が強くなった。やはり武器を持つとドロスさんは急に怖くなる。
 「いきます。」
 視線をぼやけさせ、袈裟切りからの小手を狙う。袈裟切りをしようと下ろそうとした瞬間に、腕が動かなくなった。ドロスさんの木刀が私の右手首を押さえている。モーションの途中で、筋肉が力を木刀に伝える前に押さえられたのか?気配すら感じられなかった。いつの間に動いていつの間に止められたのかすら分からない。
 「ふむ。技量的には素人が少し剣術を習った程度だな。力は強いのだろうが、相手に力を出させない抑え方をされたら結果はこうなる。」
 こういう技術もあるのか。研鑽を積んだ技術とは凄いものだな。
 「あまりこういう服は好ましくないな。筋肉の動きでキミがなにをやりたいのか丸見えになってしまう。魔物の場合はここまで読み切ることは無いだろうが、人間の武芸者相手ではやられてしまうぞ。マントを身に付けるだけでも相手はかなりやりづらくなるから、せめてマントくらい使いなさい。」
 そう言われても私は別に人類最強みたいなものを目指しているワケではない。
 「いや、そんな技が使えるのは師匠だけですって・・・」
 「ワシにできることなら、他の人間でもできるということだろう。」
 「筋肉の動きと呼吸から相手の動き方を察知して、まばたきした瞬間に脱力して懐に踏み込んで、敵に力を出させないように身体を木刀で押さえるなんて、できないですって・・・俺も練習しましたけれど察知までしかできませんでしたよ・・・」
 フェイスさん、読むことはできるのか。それだけでも凄いな。
 
 ふーむ、筋肉の動きと呼吸か。
 ということは、随意筋を動かせばフェイントとして使えるのではないだろうか?ちょっとだけ試してみたい。
 「もう一本お願いします。」
 「うん?なにか考えがあるみたいだな。よし、来なさい。」
 「はい!」
 さっき使った筋肉なら私も筋肉も憶えている。一息吐いて、呼吸を整える。息を吸って、止める。呼吸から読ませないためだ。まばたきも気合いで止める。役者は自分の意思でまばたきをコントロールできるという。随意筋であるならば、私にもできるかもしれない。一本目で動かした筋肉を動かす。
 来た。動きがかろうじて見える。相撲の立ち合い、いやこれはバスケットボールのドライブのような超低空姿勢だ。スピードも凄いが身長差も相まってこれでは見えないはずだ。気合いでまばたきを止めていなければ消えたように見えていたはずだ。
 懐に入ってくるであろうことは想定していた。最短最速ルートでまずは一本どうにか当てる。木刀の柄をドロスさんの身体に落とす。
 「あ、イカン。」という言葉とともに、ドロスさんは左手で私のみぞおちを強打する。呼吸が乱された。それと同時にドロスさんの右手の木刀で私の木刀は飛ばされた。
 「すまんの。大丈夫かねマッチョ君。」
 「大丈夫です。少し痛いですが。」
 急所を打たれて痛かったが、怪我をしたワケではない。しかしなんという判断の速さと手刀の速さだ。あっさり剣を捨てて、手刀で私の動きを止めに来た。こういうところが武芸者とただのトレーニーとの差だ。
 「いま、なにをやったんだ・・・というか、なんで師匠がマッチョに一発食らいそうになったんだ・・・」
 「フェイントじゃよ。腕を上げるときに使う筋肉を一瞬だけ動かして、ワシが誘導された。」
 「師匠が誘導?なんですかそれ・・・」
 「武芸というよりも、曲芸に近いものだな。久々に剣で怪我をするところだった。焦ってマッチョ君にも怪我をさせるところだったわい・・・」
 あながち間違った指摘ではない。前に居た世界では、余興がわりに大胸筋を動かしてくれなどと頼まれたりしていたからだ。やっていることは変わらない。
 「剣聖と言われた師匠でも初めて見るものですか?」
 「うむ。筋肉でああいう事ができるものなのだな。あえて筋肉だけを動かしてフェイントにするとは、この年でも学べることはあるわい。あー、マッチョ君。今日はここまでだ。きちんと防具をつけないと、キミが怪我をする。」 
 たしかにそうだな。
 「分かりました。ありがとうございました。」
 「うん、後日もっとやろう。なかなか面白そうだ。で、ここにはもう一人、きちんと防具をつけている弟子がいるワケだ。」
 フェイスさんがあからさまにビビっている。いやまぁドロスさん相手にビビらない人間などいないだろう。相当怖かったぞ。
 「じゃぁ少しもんでやろう。フェイス来い。」
 フェイスさん、死なないでくださいよ・・・
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

処理中です...