77 / 133
77 マッチョさん、リベリに着く
しおりを挟む
牛たちが満足するまで牧草を食べ終えてから、私たちはリベリへと向かった。
保養地だというのにこの街には城門がある。なるほど、魔物災害への対策もしっかりしている。
「もともとは初代王が保養地として用いていたらしいです。だから防衛もしっかりしているんですよね。」
この気候といい風景といい、王族の骨休めにはちょうどいい土地なのだろう。
「ここの長の方というのはどういう方なのでしょう?」
「以前話したギルドマスターが街の長も兼任しています。まずは挨拶に行きましょうか。」
街の長とギルドマスターを兼任しているのか。どれだけ優秀な人なのだろうか。
城門をくぐると眼下にはレンガ造りの町、そして白い砂と海だ。
街の入り口で牛を預ける。この辺の連絡はしっかりと行き届いていたらしい。ロキさんはなにかを牛に語りかけながら別れていた。
街に入ると眼下には海と砂浜が見える。海など学生時代以来だな。なるほど程よい日差しと湿気だ。これならタンニングで火傷の心配も無さそうだ。潮風にさらされた白いレンガ造りの低層の建物が味わい深く、どれもガラス窓がはめ込まれている。色と高さとガラス窓が統一感を作り出し、街の美しさを際立たせているのだろう。
そして驚いたのは筋肉濃度だ。タベルナ村ほどではないにしても、なかなかいい筋肉を持った人たちをちらほらと見かける。ギルド本部の上級者と比べても遜色が無い。そして肌はしっかりと褐色に日焼けしていて精悍な印象を持たせている。うーむ、羨ましい。私も早く焼きたいものだ。
「まずはギルド支部に行きましょう。」
「師匠というお話でしたが、やはりスクルトさんと同様に片手剣を使うのでしょうか?」
「いえ、斧使いです。たぶんこの大陸で一番の斧使いですよ。」
ドワーフ以外に私と同じ武器を使う人がいたのか。
リベリのギルドも周囲の建物と同様に白いレンガ造りだ。規模はソロウよりやや小さ目というところだが、中の調度品はソロウよりも高そうだった。
ギルドマスターの部屋へ行くと、樽のような大きな男性が居た。
身長178cm、体重75kg、体脂肪率14%というところか。
「久しぶりだなスクルト。なんとかやっているみたいだな。」
「ご無沙汰しています、リクトン師匠。」
「そちらのデカいのがマッチョで、ややデカいのが勇者ロキ殿だな。リベリを代表して歓迎する。」
私とロキさんはリクトンさんに挨拶をした。
「牛を育てたいという王家の意向は聞いている。この街に来る前に牧草地があっただろう?あそこを人間王は使いたいのだろうな。見た感じどうだった?」
「なんとかなりそうです!牛たちも喜んで牧草を食べていましたよ。」
がっはっは、とリクトンさんは大声で笑った。
「そうかそうか!肉と魚が食えるなんて最高だな!街を挙げて全面協力をするからロキ殿が必要なものはなんでも俺に言ってくれ!」
肉と魚が食える街か。いい響きだが緑黄色野菜も欲しいところだ。
今後の畜産やロキさんの仕事の段取りについて一通り説明を受けたあとに、私の武器の話になった。リクトンさんもやはり斧使いとして気になるのだろう。
「で、それが噂の斧か・・・どえらい得物を使うんだな。マッチョ、ちょっと持ってみていいか?」
「はい、どうぞ。」
「ふおっ、重っ!」
とはいいつつも、両手持ちをした時のリクトンさんの姿は堂に入っている。
「これを片手で振り回すのか・・・」
感心しているというよりも、なにかが気になっているような口ぶりだ。
「マッチョ。お前、どこか身体がオカしくなってないか?」
関節のことか。さすがに分かる人には分かるだろう。
「最近は肘が気になりますね。」
「えっ!そうだったんですか!?」
「いや、そうだろうな。人間が片手で振り回していい重さじゃないぞ、これ。フェイスの手紙で聞いていたが、とんでもねぇことやってるな・・・」
リクトンさんの指摘の通りだ。このままではいつか筋トレに支障が出てしまうだろう。
「俺が引退したのも、関節の痛みが理由なんだよな。メシ食って安静にしていたらだいぶ痛みも減ってきたが、本格的な戦闘や冒険というのはもう無理なんだよな。」
関節が強い負荷に耐えられなくなって冒険者を引退してしまう人もやはりいるのか。リクトンさんが冒険者を終えたように、私にもいつかは筋トレを終える日が来る。そして今のまま戦闘を続けていたら、それはあまり遠くない未来の話だ。
「ちょっと待ってろ。たしかこの辺に・・・ああ、あった。大斧を使うやつが来るって聞いてたから、昔使っていたやつを探しておいたんだよ。」
肘と手首に巻き付ける、革のサポーターだ。それが意味するところに気づいて私は愕然とした。
「俺が冒険者を引退する前に使っていたやつだ。これを肘や手首に巻くことで関節を圧迫して負担を減らす。」
いやそれだけでは無い。可動域を減らすことによって関節への負担も減る。以前にいた世界でバーベルを用いる時に、私も腰に革のサポーターをつけていたではないか。なぜこんな初心者のようなことに気づけなかったのだ?
よくよく考えてみると理由はやや複雑だな。これは冒険者として戦うことと、トレーニーとして肉体を鍛えることを別のことをだと私が思い込んでいたためだ。私の場合は戦闘と筋トレにあまり差が無い。いや、じょじょにその差が失われていったことに私は気づかなかったのだ。マシントレーニングを行える環境にいたらこういう落ち度は無かっただろうが、やはり失態は失態である。
リクトンさんから手渡されたサポーターは明らかに私には小さすぎた。
「うーん、使えないか・・・俺よりデカいからなぁ・・・」
「いえ・・・よろしければこれ、いただけないでしょうか?」
「うん?いいけれど何に使うんだ?」
「お守りにします。」
「がっはっは、そうか!そりゃいいな!」
大きさは問題ではない。私は自分の筋肉を第一に考えているようで、いつの間にかトレーニングを優先してしまっていたのだ。
なぜ私は自分の筋肉を、関節を労わろうとしなかったのだ?
この異世界で私は私の身体に何度助けられた?
己を見失わぬためにも、これはありがたくお守りとして貰っておきたい。
私の慢心を戒めるには、この使い込まれた小さなサポーターが最適だ。
保養地だというのにこの街には城門がある。なるほど、魔物災害への対策もしっかりしている。
「もともとは初代王が保養地として用いていたらしいです。だから防衛もしっかりしているんですよね。」
この気候といい風景といい、王族の骨休めにはちょうどいい土地なのだろう。
「ここの長の方というのはどういう方なのでしょう?」
「以前話したギルドマスターが街の長も兼任しています。まずは挨拶に行きましょうか。」
街の長とギルドマスターを兼任しているのか。どれだけ優秀な人なのだろうか。
城門をくぐると眼下にはレンガ造りの町、そして白い砂と海だ。
街の入り口で牛を預ける。この辺の連絡はしっかりと行き届いていたらしい。ロキさんはなにかを牛に語りかけながら別れていた。
街に入ると眼下には海と砂浜が見える。海など学生時代以来だな。なるほど程よい日差しと湿気だ。これならタンニングで火傷の心配も無さそうだ。潮風にさらされた白いレンガ造りの低層の建物が味わい深く、どれもガラス窓がはめ込まれている。色と高さとガラス窓が統一感を作り出し、街の美しさを際立たせているのだろう。
そして驚いたのは筋肉濃度だ。タベルナ村ほどではないにしても、なかなかいい筋肉を持った人たちをちらほらと見かける。ギルド本部の上級者と比べても遜色が無い。そして肌はしっかりと褐色に日焼けしていて精悍な印象を持たせている。うーむ、羨ましい。私も早く焼きたいものだ。
「まずはギルド支部に行きましょう。」
「師匠というお話でしたが、やはりスクルトさんと同様に片手剣を使うのでしょうか?」
「いえ、斧使いです。たぶんこの大陸で一番の斧使いですよ。」
ドワーフ以外に私と同じ武器を使う人がいたのか。
リベリのギルドも周囲の建物と同様に白いレンガ造りだ。規模はソロウよりやや小さ目というところだが、中の調度品はソロウよりも高そうだった。
ギルドマスターの部屋へ行くと、樽のような大きな男性が居た。
身長178cm、体重75kg、体脂肪率14%というところか。
「久しぶりだなスクルト。なんとかやっているみたいだな。」
「ご無沙汰しています、リクトン師匠。」
「そちらのデカいのがマッチョで、ややデカいのが勇者ロキ殿だな。リベリを代表して歓迎する。」
私とロキさんはリクトンさんに挨拶をした。
「牛を育てたいという王家の意向は聞いている。この街に来る前に牧草地があっただろう?あそこを人間王は使いたいのだろうな。見た感じどうだった?」
「なんとかなりそうです!牛たちも喜んで牧草を食べていましたよ。」
がっはっは、とリクトンさんは大声で笑った。
「そうかそうか!肉と魚が食えるなんて最高だな!街を挙げて全面協力をするからロキ殿が必要なものはなんでも俺に言ってくれ!」
肉と魚が食える街か。いい響きだが緑黄色野菜も欲しいところだ。
今後の畜産やロキさんの仕事の段取りについて一通り説明を受けたあとに、私の武器の話になった。リクトンさんもやはり斧使いとして気になるのだろう。
「で、それが噂の斧か・・・どえらい得物を使うんだな。マッチョ、ちょっと持ってみていいか?」
「はい、どうぞ。」
「ふおっ、重っ!」
とはいいつつも、両手持ちをした時のリクトンさんの姿は堂に入っている。
「これを片手で振り回すのか・・・」
感心しているというよりも、なにかが気になっているような口ぶりだ。
「マッチョ。お前、どこか身体がオカしくなってないか?」
関節のことか。さすがに分かる人には分かるだろう。
「最近は肘が気になりますね。」
「えっ!そうだったんですか!?」
「いや、そうだろうな。人間が片手で振り回していい重さじゃないぞ、これ。フェイスの手紙で聞いていたが、とんでもねぇことやってるな・・・」
リクトンさんの指摘の通りだ。このままではいつか筋トレに支障が出てしまうだろう。
「俺が引退したのも、関節の痛みが理由なんだよな。メシ食って安静にしていたらだいぶ痛みも減ってきたが、本格的な戦闘や冒険というのはもう無理なんだよな。」
関節が強い負荷に耐えられなくなって冒険者を引退してしまう人もやはりいるのか。リクトンさんが冒険者を終えたように、私にもいつかは筋トレを終える日が来る。そして今のまま戦闘を続けていたら、それはあまり遠くない未来の話だ。
「ちょっと待ってろ。たしかこの辺に・・・ああ、あった。大斧を使うやつが来るって聞いてたから、昔使っていたやつを探しておいたんだよ。」
肘と手首に巻き付ける、革のサポーターだ。それが意味するところに気づいて私は愕然とした。
「俺が冒険者を引退する前に使っていたやつだ。これを肘や手首に巻くことで関節を圧迫して負担を減らす。」
いやそれだけでは無い。可動域を減らすことによって関節への負担も減る。以前にいた世界でバーベルを用いる時に、私も腰に革のサポーターをつけていたではないか。なぜこんな初心者のようなことに気づけなかったのだ?
よくよく考えてみると理由はやや複雑だな。これは冒険者として戦うことと、トレーニーとして肉体を鍛えることを別のことをだと私が思い込んでいたためだ。私の場合は戦闘と筋トレにあまり差が無い。いや、じょじょにその差が失われていったことに私は気づかなかったのだ。マシントレーニングを行える環境にいたらこういう落ち度は無かっただろうが、やはり失態は失態である。
リクトンさんから手渡されたサポーターは明らかに私には小さすぎた。
「うーん、使えないか・・・俺よりデカいからなぁ・・・」
「いえ・・・よろしければこれ、いただけないでしょうか?」
「うん?いいけれど何に使うんだ?」
「お守りにします。」
「がっはっは、そうか!そりゃいいな!」
大きさは問題ではない。私は自分の筋肉を第一に考えているようで、いつの間にかトレーニングを優先してしまっていたのだ。
なぜ私は自分の筋肉を、関節を労わろうとしなかったのだ?
この異世界で私は私の身体に何度助けられた?
己を見失わぬためにも、これはありがたくお守りとして貰っておきたい。
私の慢心を戒めるには、この使い込まれた小さなサポーターが最適だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる