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78 マッチョさん、野望を共有する
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人間王の手配は完璧だった。畜産に関わる人間を育成するための建物、牛舎、牧草地、牛のための大量の水に当面の飼料。全てがリベリには揃っていた。たかだか十日間程度でよくここまでやれたものだと思うが、これがリベリという街の底力なのだろう。私とスクルトさんは、ロキさんの指示で数日ほど段取りを手伝った。
ロキさんはここで牛に関することを生徒に教え、牛を育てる人を育てつつ牛を育て、さらにギルドメンバーによって戦闘訓練を受ける。街の外に出る時の護衛も、ここのギルドの精鋭たちがやってくれるだろう。
・・・あれ?
ここまでしっかりと段取りが出来ているならば、私はこの街でやる事が無いのではないだろうか?
既にロキさんの自重トレーニングのメニューも決まっている。ロキさんのフォームチェックが終わったら、私は王都に帰ってしまってもいいのかもしれない。
勇者をリベリまでの道中一人で行かせるワケにはいかなかっただけだ。
しかしせっかく海の街に来たのだ。とっとと帰ったりはせずに、しっかりと楽しみたい。筋肉に使えそうなものがこの街にはたくさんある気がする。予想外に高い筋肉濃度がそれを裏付けている。
まずはスクルトさんに案内されて食事へと向かった。ずいぶんと高そうなお店だな。建物も調度品も格式をいちいち見せつけて来る。食堂ではなく立派なレストランだ。この世界に来て初めてドレスコードが気になったが、鎧兜も正装の扱いになるようだ。
「スクルトさんは、リクトンさんに会いに来るのが目的だったんですよね。」
「まぁそれもありますが、このお店の料理も楽しみでしたね。我々の仕事はほとんど終わりましたしゆっくりできます。それにしても贅沢な休暇の使い方ですよね。費用も王家持ちですし。」
食事が楽しみであるというのは、正常かつ健康な証だ。食欲もまた筋肉を育てる才能のひとつである。
私たちがなにも注文していないのに、蒸されたロブスターとカニが運ばれてきた。飲み物は食事が出た後に注文する。料理人が料理を選ぶという、なんだかちょっと変わったシステムのレストランらしい。テーブルにはやはり緑黄色野菜が無かった。この街の人たちはビタミンと食物繊維をどうやって補給しているのだろうか。
「海産物が私の好物なんですが、王都では食べられませんからね。マッチョさんも食べてください。」
「いただきます。」
ロブスターもカニもたしかに美味しいのだが、この食事は筋肉に効くのだろうか?いちおうタンパク質っぽいが、こういう食事で筋肉を支えた人の話を聞いたことが無い。どうにも不安なので、あとで手持ちのハムを補給しておこう。
しかしスクルトさんは美味しそうに食べるな。ビールとよく合いそうな組み合わせだ。私は常温のお茶にしてもらった。ありがたいことに水出しでもお茶を淹れてもらえるそうだ。
甲殻類もいいのだが、私はどうしても魚が気になる。まさかこの世界に魚がいないということがあるのだろうか?給仕の方に魚を出すことがないのか聞いてみたが、ものが良ければ出ることもあるらしい。そもそもこのお店にはメニューというものが無いそうだ。その日水揚げされた魚貝類の中で、もっとも美味しいものを料理長が厳選して出すとのこと。ふーむ、よほど腕に自信のある料理人なのだな。実際にそれだけの価値はあるし値段も張る。
「美味しそうに食べていますが、スクルトさんはお魚はあまり好みでは無いのですか?」
すごく嬉しそうにスクルトさんはロブスターとカニを平らげた。
「好物ですよ。海で獲れるものはだいたい好きです。今日はたまたま魚が出ませんでしたものね。人間王も魚はスキだったようですよ。干した魚を好んで食べたと言われています。にわかに信じがたいですが、鮮度がいいものを生で食べたという伝説がありますね。」
日本人だったら刺身も食べたくもなるだろう。ここを保養地とした理由も分かる気がする。
それに干物か。うーん・・・干した魚は、輸送するにも匂いがなぁ・・・
「王都で魚介が食べられるとしたら、スクルトさんも嬉しいですよね?」
「ええ、そりゃもう!・・・って、マッチョさんなにか考えがおありなのですか?」
「この街で獲れるものに依りますね。あと、こちらの武器屋さんや防具屋さんといった、ものを作る人たちの力も必要ですし、食品も輸送するために加工する必要があります。」
「それは・・・人間王からの依頼ですか?」
「いえ、私個人としてできれば王都でも魚を食べたいのです。」
「・・・マッチョさん。」
スクルトさんが真顔になった。
「私にできることなら全面協力させてもらいます。王都に魚を!」
スクルトさんが杯を上げた。
「王都に魚を!」
私もスクルトさんのノリに付き合った。
片や筋肉のため、片や好物のためではあるが、我々の結束は固まった。明日の早朝に漁港に行って調査することになった。とにかく漁港に行ってみないことには、なにが獲れるのか分からない。細かい話は後日にするとして、私はスクルトさんと別れた。スクルトさんはリクトンさんに稽古をつけてもらうそうだ。
お腹いっぱいになったら、次はタンニングである。
海の近くのお店で折り畳み式のリクライニングチェア兼ベッドを買い、私はそれを脇に抱えて海辺へと向かった。サングラスも欲しかったのだが、たかが数回の日焼けのためにちょっと気軽に買える値段では無い。さすが高級保養地である。
浜辺には私以外にも日焼けをするために寝ている人がけっこういた。やはり海の街ではきちんと日焼けをしていないと貧弱に見えてしまうのだろう。白い筋肉はやはり私の美的価値観にも合わない。
飲み物もタオルも用意し、さっそくタンニングを始める。
サングラスが無いにしても・・・ああ!・・・なんという贅沢な時間だ!
前に居た世界では屋内にあるお店の日焼けマシンを使っていた。日焼けによる火傷が怖かったからだ。
だが晴天の浜辺で日焼けをするのはまるで気分が違う。日差しの強さも程よい。
焼きあがった私の肉体の仕上がりを想像すると、期待感で胸がいっぱいになる。またトレーニングが捗ってしまうな。
表も裏もしっかりと焼き、途中で何度も給水をする。時折涼しさを運んで来てくれる潮風が気持ちいいな。異世界に飛ばされてから今まで、仕事に関わること以外でここまで筋肉のために時間を使った記憶は無い。
ロキさんはここで牛に関することを生徒に教え、牛を育てる人を育てつつ牛を育て、さらにギルドメンバーによって戦闘訓練を受ける。街の外に出る時の護衛も、ここのギルドの精鋭たちがやってくれるだろう。
・・・あれ?
ここまでしっかりと段取りが出来ているならば、私はこの街でやる事が無いのではないだろうか?
既にロキさんの自重トレーニングのメニューも決まっている。ロキさんのフォームチェックが終わったら、私は王都に帰ってしまってもいいのかもしれない。
勇者をリベリまでの道中一人で行かせるワケにはいかなかっただけだ。
しかしせっかく海の街に来たのだ。とっとと帰ったりはせずに、しっかりと楽しみたい。筋肉に使えそうなものがこの街にはたくさんある気がする。予想外に高い筋肉濃度がそれを裏付けている。
まずはスクルトさんに案内されて食事へと向かった。ずいぶんと高そうなお店だな。建物も調度品も格式をいちいち見せつけて来る。食堂ではなく立派なレストランだ。この世界に来て初めてドレスコードが気になったが、鎧兜も正装の扱いになるようだ。
「スクルトさんは、リクトンさんに会いに来るのが目的だったんですよね。」
「まぁそれもありますが、このお店の料理も楽しみでしたね。我々の仕事はほとんど終わりましたしゆっくりできます。それにしても贅沢な休暇の使い方ですよね。費用も王家持ちですし。」
食事が楽しみであるというのは、正常かつ健康な証だ。食欲もまた筋肉を育てる才能のひとつである。
私たちがなにも注文していないのに、蒸されたロブスターとカニが運ばれてきた。飲み物は食事が出た後に注文する。料理人が料理を選ぶという、なんだかちょっと変わったシステムのレストランらしい。テーブルにはやはり緑黄色野菜が無かった。この街の人たちはビタミンと食物繊維をどうやって補給しているのだろうか。
「海産物が私の好物なんですが、王都では食べられませんからね。マッチョさんも食べてください。」
「いただきます。」
ロブスターもカニもたしかに美味しいのだが、この食事は筋肉に効くのだろうか?いちおうタンパク質っぽいが、こういう食事で筋肉を支えた人の話を聞いたことが無い。どうにも不安なので、あとで手持ちのハムを補給しておこう。
しかしスクルトさんは美味しそうに食べるな。ビールとよく合いそうな組み合わせだ。私は常温のお茶にしてもらった。ありがたいことに水出しでもお茶を淹れてもらえるそうだ。
甲殻類もいいのだが、私はどうしても魚が気になる。まさかこの世界に魚がいないということがあるのだろうか?給仕の方に魚を出すことがないのか聞いてみたが、ものが良ければ出ることもあるらしい。そもそもこのお店にはメニューというものが無いそうだ。その日水揚げされた魚貝類の中で、もっとも美味しいものを料理長が厳選して出すとのこと。ふーむ、よほど腕に自信のある料理人なのだな。実際にそれだけの価値はあるし値段も張る。
「美味しそうに食べていますが、スクルトさんはお魚はあまり好みでは無いのですか?」
すごく嬉しそうにスクルトさんはロブスターとカニを平らげた。
「好物ですよ。海で獲れるものはだいたい好きです。今日はたまたま魚が出ませんでしたものね。人間王も魚はスキだったようですよ。干した魚を好んで食べたと言われています。にわかに信じがたいですが、鮮度がいいものを生で食べたという伝説がありますね。」
日本人だったら刺身も食べたくもなるだろう。ここを保養地とした理由も分かる気がする。
それに干物か。うーん・・・干した魚は、輸送するにも匂いがなぁ・・・
「王都で魚介が食べられるとしたら、スクルトさんも嬉しいですよね?」
「ええ、そりゃもう!・・・って、マッチョさんなにか考えがおありなのですか?」
「この街で獲れるものに依りますね。あと、こちらの武器屋さんや防具屋さんといった、ものを作る人たちの力も必要ですし、食品も輸送するために加工する必要があります。」
「それは・・・人間王からの依頼ですか?」
「いえ、私個人としてできれば王都でも魚を食べたいのです。」
「・・・マッチョさん。」
スクルトさんが真顔になった。
「私にできることなら全面協力させてもらいます。王都に魚を!」
スクルトさんが杯を上げた。
「王都に魚を!」
私もスクルトさんのノリに付き合った。
片や筋肉のため、片や好物のためではあるが、我々の結束は固まった。明日の早朝に漁港に行って調査することになった。とにかく漁港に行ってみないことには、なにが獲れるのか分からない。細かい話は後日にするとして、私はスクルトさんと別れた。スクルトさんはリクトンさんに稽古をつけてもらうそうだ。
お腹いっぱいになったら、次はタンニングである。
海の近くのお店で折り畳み式のリクライニングチェア兼ベッドを買い、私はそれを脇に抱えて海辺へと向かった。サングラスも欲しかったのだが、たかが数回の日焼けのためにちょっと気軽に買える値段では無い。さすが高級保養地である。
浜辺には私以外にも日焼けをするために寝ている人がけっこういた。やはり海の街ではきちんと日焼けをしていないと貧弱に見えてしまうのだろう。白い筋肉はやはり私の美的価値観にも合わない。
飲み物もタオルも用意し、さっそくタンニングを始める。
サングラスが無いにしても・・・ああ!・・・なんという贅沢な時間だ!
前に居た世界では屋内にあるお店の日焼けマシンを使っていた。日焼けによる火傷が怖かったからだ。
だが晴天の浜辺で日焼けをするのはまるで気分が違う。日差しの強さも程よい。
焼きあがった私の肉体の仕上がりを想像すると、期待感で胸がいっぱいになる。またトレーニングが捗ってしまうな。
表も裏もしっかりと焼き、途中で何度も給水をする。時折涼しさを運んで来てくれる潮風が気持ちいいな。異世界に飛ばされてから今まで、仕事に関わること以外でここまで筋肉のために時間を使った記憶は無い。
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