異世界マッチョ

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79 マッチョさん、サポーターを注文する

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 タンニングが終わった後に私は宿へ帰ってシャワーを浴び、武器屋へと向かった。
 私用のサポーターも急ぎで欲しいのだが、この街の技術レベルを知る必要がある。
 缶を作れるのであれば缶詰が作れるだろう。瓶を作れるのであれば瓶詰が作れるだろう。中身がサバ以外のものになるにしろ、これは筋肉にとって必要なことだ。

 宿の受付で地図をもらい、武器屋さんへと向かった。私もすっかり異世界に慣れてきたようだ。武器屋さんや防具屋さんは、工房が音を立てるのでだいたい街の外れにある。煙突が大きければだいたい間違いが無い。看板を確認して中に入る。
 「すいません。こういうものを私のサイズで作りたいのですが。」
 「へーい。あれ。お客さん、これってリクトンの旦那の腕当てじゃないですか。」
 「ええ。リクトンさんにいただきまして。」
 「へぇー、リクトンの旦那のやつでも入らないんですか。デカいですねぇ。」
 デカいと言われて悪い気はしない。だがこの身体の大きさを維持するために、私には自分の身体にあうサポーターが必要なのだ。
 「同じようなものを私の大きさに合わせて作れますかね?」
 「これはウチで作ったんですよ。採寸させてもらえれば作れますよ。」
 これでサポーターの問題は解決しそうだ。いつかのように別のものが出て来なければいいのだが。
 「あと、腰用にこういうベルトも欲しいのですが。」
 私は絵に描いて腰用の革のサポーターも注文した。
 「ふむふむ。やってみましょう。こちらも採寸させていただきます。」
 なんとかなりそうだ。
 「よく動く場所の革製品なので、どちらも二組作りましょうか?伸びると効果が落ちますよ。」
 「ああ、そうですね。二組でお願いします。」
 住所に名前に会計と。

 「ああそうだ。ビンってこの街で作れますかね?」
 「あーガラスですか?あれは王家の専売なのでウチでは扱えないですねぇ。それこそリクトンの旦那に聞けば分かるんじゃいでしょうかね?」
 この街はガラス窓が一般的だが、よく見てみると品質にバラツキがある。窓用のガラスを作る職人は居るのだが、腕はマチマチで値段もピンキリなのだそうだ。王家の専売を乱すようなものでも無いし、景観維持のためにこの街では例外的に窓ガラスだけは職人が作ってもいいのだそうだ。
 「じゃぁ缶って作れますかね?」
 「・・・缶ってなんですか?」
 「取っ手の付いた金属製のコップに、フタがあるようなものです。」
 「いや、コップなら作れますけれど、ありゃ丁稚が作るようなものですぜ。」
 武器屋さんは自分のコップを見せてきた。
 うーむ、これで缶詰は難しいかもしれない。全体的に肉厚過ぎて輸送には不向きだ。材料費もかかる。
 「このコップって、薄く均等に作れませんかね?できれば大量に。」
 「作れないことは無いですが、数を作ればやっぱりバラツキは出ると思いますよ。なんに使うのか知りませんけど。それに手間賃と材料費を考えればずいぶんと高くなっちゃうんじゃないでしょうかね。このコップだって余りものを利用して丁稚に作らせたんです。」
 よく見てみると、筒状の金属の下をフタで溶接や圧着をしたものではない。鍋のように一枚の金属板から延ばして作っているようだ。缶詰の線は早くも難しくなってきた。
 「それこそドワーフなら作れるかもしれませんねぇ。この街に来ているらしいですから聞いてみたらどうです?勇者らしいですよ。」
 それだ。武器屋さんナイスアイディアです。
 どうにも武器屋さんが乗り気では無いので、試作品の依頼もしなかった。
 缶詰の線はロキさんに聞いてみてからだな。次は瓶である。

 リベリのギルドに着くころには夕方になってしまった。受付で面会を依頼するとリクトンさんは会ってくれた。個人的な問題に付き合わせて申し訳が無いな。
 部屋に入るとスクルトさんも同席していた。まとめて説明するのにちょうどいいな。
 「おお、この街の住民っぽくいい色の肌になったな。どうしたマッチョ?なにか急ぎの用件かと思ったから通したんだが。」
 「実はガラスで容器を作れないのかと思いまして。できるでしょうか?」
 「ガラスが王家の専売ってことはマッチョも知っているんだよな?王家が許可をくれるんなら作れるだろうが、この街の職人に容器を作る能力があるのかまでは俺も分からないぞ。」
 「・・・マッチョさん、それってお魚の件でしょうか?」
 「ええ。私の故郷では瓶や缶というものに入れて食料を保存する習慣があるんです。」
 私は瓶詰と缶詰について説明した。
 「・・・ふーむ。産業用というよりも、軍事用の糧食として使えそうだな。あとは災害とか干ばつにも対応できるのか。」
 「瓶さえあれば作れると思うんですよねぇ。」
 ただし中身はまだ決まっていない。漠然と魚がいいと思っているだけだ。できればサバ缶がいい。
 「マッチョさん、ガラス瓶の件は私が軍の方から依頼してみます。長期での保存が可能な糧食となれば、干し肉やハムと並んで軍が喜んで買うと思いますから。」
 「ではスクルトさん、ガラス瓶の手配と調整はよろしくお願いします。」
 「我々の願いですからね。やる気が出てきましたよ。」
 人当たりのいいスクルトさんのことだ。上手い事やってくれるだろう。
 
 「スクルトさんと料理を食べに行ったんですが、お魚が出なかったんですよね。この街では獲れないとか食べないとかなんでしょうか?」
 「いや、食べるぞ。注文すればいいじゃないか。・・・あれ。星海亭に行ったのか?スクルト。」
 「んっ!ええ。マッチョさんと一緒に行ってきました。」
 「あそこに行くんなら俺も誘えよ。どうせ王家が勘定を持ってくれるんだろ?」
 「す、すみません。次は師匠も必ず誘いますから・・・」
 ずいぶんと値の張る店だと思っていたが、リベリの街では知らない者がいないレベルのレストランらしい。街のお偉いさんと会食するのだから、経費で落とせばいいじゃないか。
 「魚かー。この街で魚を食べるのはあんまりカネが無いやつかなぁ。煮るか焼くしかないからなぁ。」
 「初代王が生魚を食べたって本当なんですかね?」
 「さすがにハラを壊すだろう。だいたい生臭くて食えないんじゃないのか?こちらで獲れる魚は干してからドレスデン卿に買ってもらっているからなぁ。」
 ドレスデン卿の領地で干した魚など食事に出てこなかった。
 「来る途中で食べた憶えが無いんですが、干した魚って高級な食材なんですか?」
 一瞬困惑したあとに、リクトンさんはガッハッハと大声で笑った。
 「食い物じゃねぇよ。干した魚ってのはいい肥料になるんだよ。」
 私ははたと気づいた。
 ここは異世界であって、私がいた世界ではない。
 魚は舟で獲ったあとに、港に着くまでに痛んでしまうのだ。だから魚は焼くしかないし、鮮度の怪しい魚は干して肥料にするしかないのだ。
 うーむ。筋肉のためとはいえずいぶんと前途多難である。
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