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99 マッチョさん、翻訳作業を終える
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クールダウンの途中で人間王が思い出したように話し出した。
「サバスで思い出したが、これの改良をしたのはタベルナの村長だという話だったな。そのタベルナは正式に町に格上げされることになった。上下水道も作られるし、公衆浴場も作られるし、軍の駐屯も行われる。まぁ軍が駐屯するから町にせざるを得ないということなのだがな。」
特に町になることに問題は無かったかのような口ぶりだ。
公衆浴場か。あの村長さんの悲願だったな。そういえば王都の公衆浴場には行ったことが無かった。王城の中に風呂もあるし、仕事もトレーニングも補給も王城内で済んでしまう。それにしても・・・
「村長から町長にまでなりましたか・・・」
この世界に飛ばされてからずっとお世話になっていたのだ。感慨深いものがある。
「俺はその人物に会ったことは無いのだがな。軍の都合で村から町へと規模を変えるのだ。埋め合わせにこちらから町を運営できる人物を送ろうかと思ったのだが、大臣たちが言うには村から町へと規模が大きくなってもまったく運営に支障が無いほどの手腕らしい。なかなかの傑物が埋もれていたものだな。」
「裕福とは言えない村から、劇的に変化しましたからね。諸侯が料理を食べに行くと村の運営手腕の方が気になって、村長は引く手あまただったそうですよ。」
「ほう、そこまでの人物か。」
諸侯が欲しがるの組織運営手腕の持ち主だ。国が召し上げるということも考えられるだろうな。
「もし召し上げるおつもりであれば、できる限り町長さんの意志を尊重してください。」
「・・・国や俺に仕える気は無いと?」
「諸侯が引き抜こうとしたんですが、どれほど大金を積んでも動かなかったそうですよ。よほどタベルナという土地が気に入っているのでしょう。」
「そうか・・・村や町などで収まる人物には聞こえないのだがな。まぁ本人にやる気が無いのであれば、俺に仕えても仕方が無いだろう。初代王の高炉もタベルナの近くにあることだし、今後はタベルナが重要な土地となる。重要な土地に優秀な人物がいたということにしておくか。」
やる気。たしかにやる気は大事だ。
なんとなく一週間だけ筋トレをするということはできる。だが、やり続ける能力というのはまったく別のものなのだ。
やる気とそれを持続させる能力。トレーニーに必要な能力とはまさにこれであると私は思う。
ふぅ、これで終わりか。思っていたよりも早く終わったが、チームが予想を超えて優秀だったのだろう。
トレーナーとしての仕事を終わらせたのちに自分のトレーニングも終え、私は翻訳チームの部屋へと行き、詰めの仕事を終えた。
「マッチョさん、お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした。あとでまた食事に行きましょう。」
王家に残っていた手記の翻訳作業はこれですべて終わった。初代人間王が組織として魔物に対抗するための内容はほとんど終わっていた。残りは組織では解決できないものである。
固有種並の魔物軍団との決戦。精霊の恩寵の顕現とそれに伴う勇者の出現。魔王の影。魔物とは別格の広範囲で高威力の魔法ダメージによる軍の崩壊。勇者の探索と発見、他種族間パーティの結成。初代王が勇者となり、魔王を封印しに行くところまでが書かれていた。
王都に残っていた初代王の手記はここまでである。
「どれもこれも新発見ばかりでしたね!」
「おとぎ話みたいですが、ぜんぶ事実だったんですね!」
ペンスとイレイスは興奮している。が、私はちょっと困っていた。
うーん。魔王の封印について具体的な話が書かれていなかったのか。書いたら書いたでこの大陸のパワーバランスが崩れてしまうかもしれないから、もしかしたらわざとなにも書かなかったのかもしれない。こうなるとどうやって魔王を封印したのかまったく想像もつかない。
さらに魔王の居場所についての記述や見た目についての記述も無かった。あくまで影だけである。
あとトレーニングの方法などについても書かれていなかった。王家に伝わったものだけが現在分かっているトレーニング法というわけか。あの味でサバスが数百年も残っていたというのは驚きだな。それほど魔王が脅威だったということだろう。
要するに、魔王に関する記述が少なすぎるのだ。
私があまり喜んでいなかったので、ペンスとイレイスの二人は心配そうな顔をしている。
「あのー、マッチョさん。俺たちの翻訳イマイチでしたか?」
「いえ、期待していたものが書かれていなかったというだけです。」
「魔王が実際にいた、という記述は初めてですよ!しかも魔王を封印した勇者の数まで書いてあったんですよ!」
逆に言えばまだ魔王を封印するには勇者が足りないということでもある。
気がかりはまだある。魔王による広範囲高威力の魔法。
これは軍隊によって数で魔王を倒す事が不可能だということを意味する。せっかく筋トレによって軍の底上げができたとしても、これでは魔物を抑えることしかできない。
そのためのパーティであり、勇者なのであろう。少数精鋭で魔王を封印しなくてはいけない。しかもその魔王を封印するには、精霊の恩寵というふわっとしたものに頼るしかない。
私はこの世界で色々と見分を深めるにつれ、各種族を強くするために筋トレを広めることが異世界人としての役割だと思っていた。人々がトレーニングに勤しみ、具体的には分からないが筋トレの力で魔王を封印するのだろうと。
だが、どうも私の考えは間違っていたようだ。
いかに筋トレを広めたとしても、それは魔物に対して有効なのであって、魔王に対して有効なのでは無い。勇者を鍛えるのには役立つという程度のものである。
やはり異世界だからなのか?筋トレだけでは魔法には勝てないのか?
いや、飛躍しすぎだな。
トレーニングは今までと同様に続ける。
トレーニングの結果をすぐに求めようとしようとするなど、トレーニーとしてあまりにも稚拙である。
トレーニーであるなば時間をかけてただ肉体を鍛え上げていけばよい。結果など後についてくるだろう。
「サバスで思い出したが、これの改良をしたのはタベルナの村長だという話だったな。そのタベルナは正式に町に格上げされることになった。上下水道も作られるし、公衆浴場も作られるし、軍の駐屯も行われる。まぁ軍が駐屯するから町にせざるを得ないということなのだがな。」
特に町になることに問題は無かったかのような口ぶりだ。
公衆浴場か。あの村長さんの悲願だったな。そういえば王都の公衆浴場には行ったことが無かった。王城の中に風呂もあるし、仕事もトレーニングも補給も王城内で済んでしまう。それにしても・・・
「村長から町長にまでなりましたか・・・」
この世界に飛ばされてからずっとお世話になっていたのだ。感慨深いものがある。
「俺はその人物に会ったことは無いのだがな。軍の都合で村から町へと規模を変えるのだ。埋め合わせにこちらから町を運営できる人物を送ろうかと思ったのだが、大臣たちが言うには村から町へと規模が大きくなってもまったく運営に支障が無いほどの手腕らしい。なかなかの傑物が埋もれていたものだな。」
「裕福とは言えない村から、劇的に変化しましたからね。諸侯が料理を食べに行くと村の運営手腕の方が気になって、村長は引く手あまただったそうですよ。」
「ほう、そこまでの人物か。」
諸侯が欲しがるの組織運営手腕の持ち主だ。国が召し上げるということも考えられるだろうな。
「もし召し上げるおつもりであれば、できる限り町長さんの意志を尊重してください。」
「・・・国や俺に仕える気は無いと?」
「諸侯が引き抜こうとしたんですが、どれほど大金を積んでも動かなかったそうですよ。よほどタベルナという土地が気に入っているのでしょう。」
「そうか・・・村や町などで収まる人物には聞こえないのだがな。まぁ本人にやる気が無いのであれば、俺に仕えても仕方が無いだろう。初代王の高炉もタベルナの近くにあることだし、今後はタベルナが重要な土地となる。重要な土地に優秀な人物がいたということにしておくか。」
やる気。たしかにやる気は大事だ。
なんとなく一週間だけ筋トレをするということはできる。だが、やり続ける能力というのはまったく別のものなのだ。
やる気とそれを持続させる能力。トレーニーに必要な能力とはまさにこれであると私は思う。
ふぅ、これで終わりか。思っていたよりも早く終わったが、チームが予想を超えて優秀だったのだろう。
トレーナーとしての仕事を終わらせたのちに自分のトレーニングも終え、私は翻訳チームの部屋へと行き、詰めの仕事を終えた。
「マッチョさん、お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした。あとでまた食事に行きましょう。」
王家に残っていた手記の翻訳作業はこれですべて終わった。初代人間王が組織として魔物に対抗するための内容はほとんど終わっていた。残りは組織では解決できないものである。
固有種並の魔物軍団との決戦。精霊の恩寵の顕現とそれに伴う勇者の出現。魔王の影。魔物とは別格の広範囲で高威力の魔法ダメージによる軍の崩壊。勇者の探索と発見、他種族間パーティの結成。初代王が勇者となり、魔王を封印しに行くところまでが書かれていた。
王都に残っていた初代王の手記はここまでである。
「どれもこれも新発見ばかりでしたね!」
「おとぎ話みたいですが、ぜんぶ事実だったんですね!」
ペンスとイレイスは興奮している。が、私はちょっと困っていた。
うーん。魔王の封印について具体的な話が書かれていなかったのか。書いたら書いたでこの大陸のパワーバランスが崩れてしまうかもしれないから、もしかしたらわざとなにも書かなかったのかもしれない。こうなるとどうやって魔王を封印したのかまったく想像もつかない。
さらに魔王の居場所についての記述や見た目についての記述も無かった。あくまで影だけである。
あとトレーニングの方法などについても書かれていなかった。王家に伝わったものだけが現在分かっているトレーニング法というわけか。あの味でサバスが数百年も残っていたというのは驚きだな。それほど魔王が脅威だったということだろう。
要するに、魔王に関する記述が少なすぎるのだ。
私があまり喜んでいなかったので、ペンスとイレイスの二人は心配そうな顔をしている。
「あのー、マッチョさん。俺たちの翻訳イマイチでしたか?」
「いえ、期待していたものが書かれていなかったというだけです。」
「魔王が実際にいた、という記述は初めてですよ!しかも魔王を封印した勇者の数まで書いてあったんですよ!」
逆に言えばまだ魔王を封印するには勇者が足りないということでもある。
気がかりはまだある。魔王による広範囲高威力の魔法。
これは軍隊によって数で魔王を倒す事が不可能だということを意味する。せっかく筋トレによって軍の底上げができたとしても、これでは魔物を抑えることしかできない。
そのためのパーティであり、勇者なのであろう。少数精鋭で魔王を封印しなくてはいけない。しかもその魔王を封印するには、精霊の恩寵というふわっとしたものに頼るしかない。
私はこの世界で色々と見分を深めるにつれ、各種族を強くするために筋トレを広めることが異世界人としての役割だと思っていた。人々がトレーニングに勤しみ、具体的には分からないが筋トレの力で魔王を封印するのだろうと。
だが、どうも私の考えは間違っていたようだ。
いかに筋トレを広めたとしても、それは魔物に対して有効なのであって、魔王に対して有効なのでは無い。勇者を鍛えるのには役立つという程度のものである。
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いや、飛躍しすぎだな。
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