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111 マッチョさん、リハビリをする
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「では包帯を外しますね。」
宮廷医師が慣れた手つきでジョキジョキと私の腕のギプスをとってゆく。
排泄物のような匂いの後に出て来た光景に私はギョっとした。
腕が細くなっている。
実際に小さくなった筋肉を前にすると心理的にクるものがあるな。しかし想像していたよりは筋肉は残っていた。筋トレを始めて腕周りが太くなって喜んでいた頃よりは、まだ筋肉はあった。下半身や腹筋や背筋はまだトレーニーとしての筋肉が残っているだけに、ギャップが凄い。
私よりも同席した人間王のほうがショックは大きかったようだ。私の腕を見た瞬間にうめき声を上げて退席してしまった。見たこともないような鍛え上げられた筋肉がこの世から失われたとなると、トレーニーとして涙なしではいられないのだろう。人間王はおそらく人気のないところに泣きに行ったのだ。
一カ月程度の休養というよりも、日常的にすら動かさない結果としてこうなったのだろうな。怪我なので仕方が無い。
ランドクルーザー岡田の言葉を思い出す。
”一回分のトレーニングをサボったら、取り戻すには三倍の時間がかかる。”
筋トレを継続する大切さを語った言葉だったが、これはリハビリにも当てはまる。
つまり、私が納得のゆく肉体に戻るまでは単純に三ヵ月はかかる。
「指先は動きますか?」
「動きますが、なにかぎこちないですね。指を動かすと肘に違和感はありますが、だいぶ良くなりました。」
「腱の固さが残ってますからね。なんとかくっついたようです。肘は動きますか?」
「・・・動きませんね。なにか接着剤のようなもので固められているようです。」
「うん、腱がくっついている証拠ですね。では勇者のお二人、お願いします。」
そういえばロキさんとジェイさんも来ていたな。お見舞いだと思っていたが違うようだ。なにが始まるというのだ。
「マッチョさん、すぐに終わらせますから。」
「マッチョ殿。手ぬぐいを噛んで、歯を食いしばってくれ。舌をかまれては大変だからな。」
「こういうデカい人相手に、私は施術をしたことが無いんですよ。力がいるので勇者の方に来ていただきました。やり方はお二人に教えていますが、今からあなたの肘を折りたたみます。痛いですが、必要な処置なので耐えてください。」
よく分からないが、医師が必要な処置だと言うのであればやらないというワケにはいかない。私は手ぬぐいを噛んだ。
「ではお願いします。」
ボキッ。
「ングワッ!」なにか出したことが無い声が私の口から出た。
関節を極められて、そのまま折れたような音だ。自然と涙が出て来た。いかに鍛錬をしたところで人体に関節がある以上、関節技というものは痛いのだ。
「マッチョさん、もう一回です。」
「ゆくぞ。」
ボキッ。
肉体の内側から音が出ると、痛みが大きく感じる。
肘の周辺に血流が流れているのが分かる。いや、これは炎症を起こしているだけなのだろうか?どちらなのか分からないが熱を持っているな。
「あとは時間をかけて。少しずつ筋肉をつけていくだけです。いや、これほどの肉体を作り上げた方なら、私よりも分かりそうなものですね。」
「自分でやり方を考えてみますので、至らないところがありましたら指摘をしていただけると助かります。」
「ゆっくりです。急激に負荷を与えると治りが遅くなりますからね。」
施術は終わった。だが納得はいかなかった。
こういう施術はふつう、痛み止めを打った状態でやるのでは無いだろうか?痛み止めが無いとしたら仕方ないが・・・
肘のリハビリメニューは自分で考えることにした。
とにかく自分の手で食事がしたいし、トイレにも行きたい。
介助が必要な怪我ではあったが、ああいうものには慣れることは無い。なによりも自分のトレーニングは自分で管理したい派の私にとって、肉体が自分の管理下に無いという状況はなかなか苛立たしいものがあった。
リハビリであろうが筋トレであろうが、肉体を鍛える時に最初にやるべきはストレッチと自重トレーニングである。肘関節を伸ばして縮める。痛いことは痛いが、これを続けることが重要なのだ。特にストレッチはこれでもかというほど念入りに行った。次に怪我をしたら、日常生活すら送れなくなるのかもしれない。
初日は5本1セット。これを一週間かけて3セットまで増やせれば良い。
私にはやる事が無いのだ。とにかくリハビリに励むしかない。
問題はトレーニングの強度である。もともと壊れかけていた肘に、どれほどの負荷をかけるのが適切なのか分からない。腱だけではなく肘関節も気になる。宮廷医師とも相談したが、やはり強度までは分からないそうだ。痛みの程度と相談しながら、探り探りでやっていくしかない。
一度壊れた関節周りは炎症を起こしやすいため、濡れタオルを巻き、うちわであおいでもらって気化熱で冷やす。原始的だが多少は効果があった。介助に人手がいるとこういう時には助かる。ハッカ油の包帯も眠る時に使うとなかなかいい感じだった。
どうやら腱の部分断裂で済んだようだな。完全に断裂していたら一カ月程度では済まなかっただろう。
実際にできるかどうか分からないが、私に新しい目標ができた。
改めて私はトレーニーでありたい。
このリハビリは、私がトレーニーに戻るための最初の一歩なのである。
宮廷医師が慣れた手つきでジョキジョキと私の腕のギプスをとってゆく。
排泄物のような匂いの後に出て来た光景に私はギョっとした。
腕が細くなっている。
実際に小さくなった筋肉を前にすると心理的にクるものがあるな。しかし想像していたよりは筋肉は残っていた。筋トレを始めて腕周りが太くなって喜んでいた頃よりは、まだ筋肉はあった。下半身や腹筋や背筋はまだトレーニーとしての筋肉が残っているだけに、ギャップが凄い。
私よりも同席した人間王のほうがショックは大きかったようだ。私の腕を見た瞬間にうめき声を上げて退席してしまった。見たこともないような鍛え上げられた筋肉がこの世から失われたとなると、トレーニーとして涙なしではいられないのだろう。人間王はおそらく人気のないところに泣きに行ったのだ。
一カ月程度の休養というよりも、日常的にすら動かさない結果としてこうなったのだろうな。怪我なので仕方が無い。
ランドクルーザー岡田の言葉を思い出す。
”一回分のトレーニングをサボったら、取り戻すには三倍の時間がかかる。”
筋トレを継続する大切さを語った言葉だったが、これはリハビリにも当てはまる。
つまり、私が納得のゆく肉体に戻るまでは単純に三ヵ月はかかる。
「指先は動きますか?」
「動きますが、なにかぎこちないですね。指を動かすと肘に違和感はありますが、だいぶ良くなりました。」
「腱の固さが残ってますからね。なんとかくっついたようです。肘は動きますか?」
「・・・動きませんね。なにか接着剤のようなもので固められているようです。」
「うん、腱がくっついている証拠ですね。では勇者のお二人、お願いします。」
そういえばロキさんとジェイさんも来ていたな。お見舞いだと思っていたが違うようだ。なにが始まるというのだ。
「マッチョさん、すぐに終わらせますから。」
「マッチョ殿。手ぬぐいを噛んで、歯を食いしばってくれ。舌をかまれては大変だからな。」
「こういうデカい人相手に、私は施術をしたことが無いんですよ。力がいるので勇者の方に来ていただきました。やり方はお二人に教えていますが、今からあなたの肘を折りたたみます。痛いですが、必要な処置なので耐えてください。」
よく分からないが、医師が必要な処置だと言うのであればやらないというワケにはいかない。私は手ぬぐいを噛んだ。
「ではお願いします。」
ボキッ。
「ングワッ!」なにか出したことが無い声が私の口から出た。
関節を極められて、そのまま折れたような音だ。自然と涙が出て来た。いかに鍛錬をしたところで人体に関節がある以上、関節技というものは痛いのだ。
「マッチョさん、もう一回です。」
「ゆくぞ。」
ボキッ。
肉体の内側から音が出ると、痛みが大きく感じる。
肘の周辺に血流が流れているのが分かる。いや、これは炎症を起こしているだけなのだろうか?どちらなのか分からないが熱を持っているな。
「あとは時間をかけて。少しずつ筋肉をつけていくだけです。いや、これほどの肉体を作り上げた方なら、私よりも分かりそうなものですね。」
「自分でやり方を考えてみますので、至らないところがありましたら指摘をしていただけると助かります。」
「ゆっくりです。急激に負荷を与えると治りが遅くなりますからね。」
施術は終わった。だが納得はいかなかった。
こういう施術はふつう、痛み止めを打った状態でやるのでは無いだろうか?痛み止めが無いとしたら仕方ないが・・・
肘のリハビリメニューは自分で考えることにした。
とにかく自分の手で食事がしたいし、トイレにも行きたい。
介助が必要な怪我ではあったが、ああいうものには慣れることは無い。なによりも自分のトレーニングは自分で管理したい派の私にとって、肉体が自分の管理下に無いという状況はなかなか苛立たしいものがあった。
リハビリであろうが筋トレであろうが、肉体を鍛える時に最初にやるべきはストレッチと自重トレーニングである。肘関節を伸ばして縮める。痛いことは痛いが、これを続けることが重要なのだ。特にストレッチはこれでもかというほど念入りに行った。次に怪我をしたら、日常生活すら送れなくなるのかもしれない。
初日は5本1セット。これを一週間かけて3セットまで増やせれば良い。
私にはやる事が無いのだ。とにかくリハビリに励むしかない。
問題はトレーニングの強度である。もともと壊れかけていた肘に、どれほどの負荷をかけるのが適切なのか分からない。腱だけではなく肘関節も気になる。宮廷医師とも相談したが、やはり強度までは分からないそうだ。痛みの程度と相談しながら、探り探りでやっていくしかない。
一度壊れた関節周りは炎症を起こしやすいため、濡れタオルを巻き、うちわであおいでもらって気化熱で冷やす。原始的だが多少は効果があった。介助に人手がいるとこういう時には助かる。ハッカ油の包帯も眠る時に使うとなかなかいい感じだった。
どうやら腱の部分断裂で済んだようだな。完全に断裂していたら一カ月程度では済まなかっただろう。
実際にできるかどうか分からないが、私に新しい目標ができた。
改めて私はトレーニーでありたい。
このリハビリは、私がトレーニーに戻るための最初の一歩なのである。
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