異世界マッチョ

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117 マッチョさん、予言される

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 「あなたという人がこの大陸に害をなす人では無いって分かったし、あなたが異世界人だということも確認できたわ。ごめんなさいね、こんなおばあちゃんにお付き合いさせてしまって。」
 「いえ。やはり過去に異世界人が来たことで混乱が起きたことがある、ということなのでしょうか?」
 「エルフの書物にはそう伝えられているわね。他の種族でも知っていることだと思うわ。でも、魔物が出て魔王が出たでしょう?そうなると魔物の対策に追われてしまうのよね。」
 この世界がそれなりに安定しているのは、魔物がいるからだということか。パワーバランスを崩すほどの異世界人が来たとしても、どこかの集団に属して目先の魔物をなんとかしない限りは、大陸の安定は揺るがないということなのか。
 「ああ、そうそう。あなたはエルフの医療を受けたいという話だったわね?」
 すっかり本題を忘れていた。
 「はい。自分の身体を自分で鍛えたいのです。人間国の医療だけではなかなか回復しなくて。」
 「ご立派な身体ですものねぇ。」
 美女に肉体を褒められるのは悪い気分ではない。
 「あれは初代王が当時のエルフ族に教えたと言われているの。私たちってあなた達に比べたら長生きでしょう?その分だけ時間をかけて、肉体のどこに針を刺せばいいのか知ることができたの。私たちも手首や指や肘を怪我しやすいから。」
 エルフ族を使って長い間人体実験を行ったということか。いや、実験という言い方は良くないな。エルフ族がその医療技術を必要として、探求したと言った方がいいだろう。
 「人間族にも効くんでしょうか?」
 「試したことは無いはずね。でもその医療を受けに来たのでしょう?」
 どうやら私は、この世界でエルフ流の鍼灸術を試す最初の人間になりそうだ。まぁ初代王が伝えてエルフが発展させたのだ。もとが人間の医療技術なのであったら、効果を期待してもいいだろう。

 最長老が私の目をずっと見つめている。深淵なる種の目というものは美しくも恐ろしいな。前に居た世界のことまで見通しそうだ。
 「・・・少しだけあなたの未来の話をしたいの。」
 未来。
 「あなたはきっと、連綿と続く運命にくさびを打ち込む人。この大陸に平和と繁栄をもたらす人。それは初代人間王でも無し得なかったこと。」
 「私は肉体を鍛えることが好きな男でしかありません。」
 「ふふっ。気づいていないところも魅力的ね。あなたはもうこの大陸で多くのことをやってのけたわ。きっともっと大きな変化すらいつも通りみたいな顔でやってしまう人よ。」
 私の肉体を値踏みするような眼で見つめられている。ただのトレーニーにそんな英雄じみたことができるとは私には思えないのだが。
 「あら。私の言葉を信じられないのかしら?」
 「ちょっと想像できることではないです。鍛えた肉体以外に私が特別だとは思えません。最長老様は予知でもできるのですか?」
 「予知というか、勘働きね。久しぶりに楽しめたわ。あなたは愉快な人ね。」
 楽しませたつもりは無いのだが、最長老が楽しんでくれたのならいいことだ。

 「お礼に面白いものを見せてあげる。こちらにいらっしゃい。」
 最長老は立ち上がり、壁をなにか操作し始めた。隠し扉を開いたようだ。
 私は中をのぞかせてもらった。
 ・・・これは・・・例の石碑か!
 「もっとも精霊が多く集まる場所に、代々の最長老が住んでいるの。少しでも精霊のことを知るため。エルフ族の王族以外でこの石碑を知っているのは初代人間王だけよ。」
 「なぜ私に見せようと思ったのですか?」
 「私の話を信じてもらうため。フィン!聞こえてたらこちらへいらっしゃい!」
 そんなに遠い場所にいなかったのだろう。先ほどの従者のエルフがやってきた。
 「もう人払いはよろしいのでしょうか?最長老様。」
 「ええ。ところでフィン。あなたはエルフ族の中でも強い子よね?」
 「上がいますが、それなりに腕が立たないと最長老様の護衛はできません。」
 「この石に向かって精霊に祈りを捧げてくれる?力を貸してほしいって。」
 フィンと呼ばれた従者は言われた通りに祈りを捧げた。
 フィンの肉体は美しい緑色に光りだし、その光を失った。同じものを何度も見た。
 精霊の恩寵の顕現だ。
 「私も長く生きたけれども、精霊の恩寵の顕現は初めて見たわ。綺麗ね・・・」
 精霊の恩寵の光の美しさに魅入られているようだ。
 「これで分かったでしょう?」
 「・・・なにがですか?」
 「あなたの存在が近くにあることで、精霊の恩寵が出やすくなるようなの。あなたはとても精霊に近い存在。」
 考えてみれば納得できる部分もある。そもそも私は他の世界からやって来たのだ。この大陸にとっては異分子とか異物という言い方もできる。
 「私が話した未来について、少しは納得してもらえたかしら?」
 「ええ。実感を持ってとはいきませんが・・・」
 なにかしら私の存在が精霊と関係しているということは分かった。エルフの長老が数百年単位で精霊の近くに居たのだ。精霊の気配とか気分といったものくらいは肌で分かるのかもしれない。
 フィンさんは少し疲弊しているようだった。これも何度も見た光景だ。精霊の恩寵に肉体がついていかない。だが普通の筋肥大を行うことは、樹上を飛び跳ねるエルフ族にとって難しいことだろう。樹上生活を行う以上、エルフの体重には上限があるのだ。
 「ふふっ。フィンのことを心配してくれているのかしら。優しいのね。」
 心配というよりも、フィンさんのトレーニングメニューを考えていた。
 異世界に来ようが美しいエルフの長老の目の前であろうが、私が考える先にあるものは常に筋トレになってしまうのである。
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