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118 マッチョさん、エルフ流の治療を受ける
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「エルフ族の勇者を出してもらったお礼に、なにかしてあげたいわね。何がお望みかしら?」
エルフの針治療を受けられることも決まった。うーむ・・・
私はお茶をすすって、お茶請けを口にした。・・・ん?
「このエルフ族に伝わるお茶菓子なのですが、特別な木の実を使っていると伺いました。」
「ええ。」
「この木の実を少しいただけないでしょうか?できれば人間国に帰った後にも定期的に送っていただけるとありがたいのですが・・・」
最長老は面白そうにお腹を抱えて笑った。
「あなたそんなお菓子が欲しいの?エルフの知っている知恵とか歴史じゃなくて?美しいエルフの従者なんて要らないのかしら?」
「この木の実について知りたいです。」
最長老はひっくり返って爆笑している。
「百年ぶりかしら。こんなに笑ったの・・・あらあら。殿方の前で涙まで見せてしまいましたわ・・・」
人間族がエルフ族に求めるもの、というのは他に多くあるのかもしれない。だがプロテインバーの可能性を目の前にしたら、私が求めるものはこれ以外には存在しない。
「あなたが食べる分だけならお菓子を送ってあげるわ。でも木の実はダメ。あとで見せてあげるから、それで満足してね。」
「私だけではなく、勇者の皆も食べられる許可がいただけたらいいのですが・・・」
最長老の顔つきが変わった。
「これがただのお菓子ではない、というの?あなたは。」
「木の実自体をきちんと調べてみないと分かりませんが、おそらく特別なものだと思います。」
「笑ったりしてごめんなさいね。でもあの木の実については私の一存では決められないの。エルフ王と相談した上で、調査用の木の実をエルフ国から出せるか検討させてちょうだい。」
勇者が強くなることが魔王への唯一の対抗策なのだ。タンパク質の出し惜しみなどしている余裕などこの大陸のどこの国にも無いはずだ。
案内されるままにエルフの鍼灸師の家に行き、寝台に横になって触診された。
「これほど大きな身体を触るのは初めてですね。」
「それ、人間国のお医者さんにも言われました。」
デカいと言われて悪い気はしないが、触られるところに痛みが走る。
「身体全体に針を打ちます。ほんの先っぽですし、痛みは感じないはずです。」
「肘だけではないんですか?」
「身体全体の調和をもって肘の回復力を上げるんです。」
なるほど。そういう所は筋トレと変わらない。全体的に美しくなければトレーニーの肉体とは言いづらいのだ。
「人間にも効くといいんですけれどねぇ。ネコやエルフにも効きましたし、たぶん大丈夫でしょう。終わった後にぼーっとしたり、ぽかぽかするかもしれませんが、それが効いている証拠です。」
私は鍼灸師のなすがままになった。
話を聞いてみると、肘を痛めるエルフというのもいることはいるらしい。たしかに木登りや弓というものは肘を痛めそうだ。
処置が終わったのちに、エルフの鍼灸師は語った。
「一日二日でこの治療法が効くかどうかは分かるものではないです。とりあえず一週間に一度、私のところに来てください。」
「人間国には来てもらえないでしょうか?」
「私はエルフですからねぇ。あんまり森から出たくは無いんですよ。」
こうして私のエルフ国の長期滞在が決まった。
エルフ王に許可をもらい、護衛をつけたまま三勇者とフィンさんはエルフ国の森へと入っていった。ミャオさんが言っていた通り、森の奥の巨木のうろから古い狩り弓が見つかったらしい。フィンさんが言うには、まだ十分に使えるものだったようだ。
「マッチョ殿と最長老殿が勇者を見つけてしまったのだから、我らもなにかを見つけないことには面目が立たないのでな。」
「一応警戒していましたが、魔王の罠も無くて良かったです。エルフ国ではしっかりと管理されていたようですね。」
「おっかニャくなくて良かったニャー。」
勇者が使っていたとされる狩り弓か。強弓では無いのだな。
「フィンさん、その弓から特別な力って感じますか?」
「力・・・そうですね・・・どんな的でも外さないような気がします。」
頼もしい弓使いだ。ルリさんですら二割は外すと言っていた。
「精霊の恩寵を受けた時、なにか話を聞きましたか?」
「戦い方と、それに・・・ごめんなさいと言われました。」
「やはりそうなのか。精霊が謝ったのか・・・我の時もそうだ。」
「オイラの時もそうだったニャー。」
やはり謝られるのか。謝罪と戦い方がセットというのは今までと同じだな。
「魔王についてなにか教えてもらいましたか?」
「いえ、特には・・・あの・・・精霊って弱まったりするんでしょうか?」
考えたことも無かった。強い弱いという話ではなく、人知を超えた力を持つ不変のもの、という認識だった。
「なぜ精霊が弱まっていると?」
「声というか口調が、今にも消え入りそうだったので。」
勇者の勘であるならば、無視して良い話ではないかもしれない。
「我の中の精霊は特に弱くなったという感覚は無いがな。」
「僕もです。」
「オイラも。おっかニャいけれど、魔王について少しでも知れれば良かったけれどニャー。」
「人間の勇者はまだ出てないですから。初代人間王のあとに出てくる勇者ですから、特別な勇者かもしれないですよ。」
ロキさん鋭いな。人間王は大精霊の恩寵が与えられると言っていた。
これで四精霊が揃った。
あとは大精霊さえ顕現すれば、魔王を倒すとか封印するという話が具体的になってくるだろう。
だがそれは勇者が行う仕事だ。
私はゆっくりとここで治療を受け続け、いつの日かまたトレーニーとなることを目指したい。
エルフの針治療を受けられることも決まった。うーむ・・・
私はお茶をすすって、お茶請けを口にした。・・・ん?
「このエルフ族に伝わるお茶菓子なのですが、特別な木の実を使っていると伺いました。」
「ええ。」
「この木の実を少しいただけないでしょうか?できれば人間国に帰った後にも定期的に送っていただけるとありがたいのですが・・・」
最長老は面白そうにお腹を抱えて笑った。
「あなたそんなお菓子が欲しいの?エルフの知っている知恵とか歴史じゃなくて?美しいエルフの従者なんて要らないのかしら?」
「この木の実について知りたいです。」
最長老はひっくり返って爆笑している。
「百年ぶりかしら。こんなに笑ったの・・・あらあら。殿方の前で涙まで見せてしまいましたわ・・・」
人間族がエルフ族に求めるもの、というのは他に多くあるのかもしれない。だがプロテインバーの可能性を目の前にしたら、私が求めるものはこれ以外には存在しない。
「あなたが食べる分だけならお菓子を送ってあげるわ。でも木の実はダメ。あとで見せてあげるから、それで満足してね。」
「私だけではなく、勇者の皆も食べられる許可がいただけたらいいのですが・・・」
最長老の顔つきが変わった。
「これがただのお菓子ではない、というの?あなたは。」
「木の実自体をきちんと調べてみないと分かりませんが、おそらく特別なものだと思います。」
「笑ったりしてごめんなさいね。でもあの木の実については私の一存では決められないの。エルフ王と相談した上で、調査用の木の実をエルフ国から出せるか検討させてちょうだい。」
勇者が強くなることが魔王への唯一の対抗策なのだ。タンパク質の出し惜しみなどしている余裕などこの大陸のどこの国にも無いはずだ。
案内されるままにエルフの鍼灸師の家に行き、寝台に横になって触診された。
「これほど大きな身体を触るのは初めてですね。」
「それ、人間国のお医者さんにも言われました。」
デカいと言われて悪い気はしないが、触られるところに痛みが走る。
「身体全体に針を打ちます。ほんの先っぽですし、痛みは感じないはずです。」
「肘だけではないんですか?」
「身体全体の調和をもって肘の回復力を上げるんです。」
なるほど。そういう所は筋トレと変わらない。全体的に美しくなければトレーニーの肉体とは言いづらいのだ。
「人間にも効くといいんですけれどねぇ。ネコやエルフにも効きましたし、たぶん大丈夫でしょう。終わった後にぼーっとしたり、ぽかぽかするかもしれませんが、それが効いている証拠です。」
私は鍼灸師のなすがままになった。
話を聞いてみると、肘を痛めるエルフというのもいることはいるらしい。たしかに木登りや弓というものは肘を痛めそうだ。
処置が終わったのちに、エルフの鍼灸師は語った。
「一日二日でこの治療法が効くかどうかは分かるものではないです。とりあえず一週間に一度、私のところに来てください。」
「人間国には来てもらえないでしょうか?」
「私はエルフですからねぇ。あんまり森から出たくは無いんですよ。」
こうして私のエルフ国の長期滞在が決まった。
エルフ王に許可をもらい、護衛をつけたまま三勇者とフィンさんはエルフ国の森へと入っていった。ミャオさんが言っていた通り、森の奥の巨木のうろから古い狩り弓が見つかったらしい。フィンさんが言うには、まだ十分に使えるものだったようだ。
「マッチョ殿と最長老殿が勇者を見つけてしまったのだから、我らもなにかを見つけないことには面目が立たないのでな。」
「一応警戒していましたが、魔王の罠も無くて良かったです。エルフ国ではしっかりと管理されていたようですね。」
「おっかニャくなくて良かったニャー。」
勇者が使っていたとされる狩り弓か。強弓では無いのだな。
「フィンさん、その弓から特別な力って感じますか?」
「力・・・そうですね・・・どんな的でも外さないような気がします。」
頼もしい弓使いだ。ルリさんですら二割は外すと言っていた。
「精霊の恩寵を受けた時、なにか話を聞きましたか?」
「戦い方と、それに・・・ごめんなさいと言われました。」
「やはりそうなのか。精霊が謝ったのか・・・我の時もそうだ。」
「オイラの時もそうだったニャー。」
やはり謝られるのか。謝罪と戦い方がセットというのは今までと同じだな。
「魔王についてなにか教えてもらいましたか?」
「いえ、特には・・・あの・・・精霊って弱まったりするんでしょうか?」
考えたことも無かった。強い弱いという話ではなく、人知を超えた力を持つ不変のもの、という認識だった。
「なぜ精霊が弱まっていると?」
「声というか口調が、今にも消え入りそうだったので。」
勇者の勘であるならば、無視して良い話ではないかもしれない。
「我の中の精霊は特に弱くなったという感覚は無いがな。」
「僕もです。」
「オイラも。おっかニャいけれど、魔王について少しでも知れれば良かったけれどニャー。」
「人間の勇者はまだ出てないですから。初代人間王のあとに出てくる勇者ですから、特別な勇者かもしれないですよ。」
ロキさん鋭いな。人間王は大精霊の恩寵が与えられると言っていた。
これで四精霊が揃った。
あとは大精霊さえ顕現すれば、魔王を倒すとか封印するという話が具体的になってくるだろう。
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