異世界マッチョ

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119 マッチョさん、リハビリの効果が出始める

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 エルフ国での治療が始まった。
 一週間おきに通ってくれという話だったが、だいたい治療方針が決まったので一日おきに集中的に治療を受けている。動かしている時の鈍痛も消えたことだし、綺麗に腱がつながったのだと思う。
 「私たちの治療で人間族も治って良かったです。」
 「凄いものですね、エルフ族の針治療って。」
 「なんでも治せるワケではありません。ただ、筋肉や腱といった場所の怪我には効くという程度のものです。不眠や内臓に効くこともありますが、個人差が大きいですね。病気に関しては人間国の宮廷薬師には及びませんよ。」
 サバス改良の時に思い切りやらかした印象が強かったが、ソフィーさんはこの世界では超一流の薬師のようだ。

 針治療が効いたようなので、私は自重トレーニングの回数を少しずつ増やしていった。下半身は問題なくできる。重量物を持つようなトレーニングや、腕立てやチンニングのような肘に負荷のかかるトレーニングはまだできずにいる。
 自重トレーニングで大雑把な部位はカバーできる。筋委縮もおそらく最低ラインに留められたと思う。もとの身体に戻るには、やはり三ヵ月はかかるか。
 「まったく・・・欲が出てきたらキリが無いな。」
 単純に小さくないという程度では満足ができなくなってきた。部位別にしっかりと鍛え上げ、より理想に近づきたいという欲がふつふつと胸のうちに湧いてきてたまらない。
 やはり私はトレーニー以外の何者かにはなれそうもない。

 一カ月近くも治療とリハビリに取り組んでいたが、私の事情とは関係が無く世の中というものは動いていく。
 人間国とエルフ国との軍事同盟は無事に締結された。エルフ国側は魔王という存在についてまだピンと来てはいなかったようだが、勇者の出現や他国での魔物の出現を鑑みて必要とあればエルフの弓隊を派遣するということになった。同時にエルフ国が魔物の脅威にさらされた時は人間国の軍隊が派遣される。
 初代人間王時代の高炉はドワーフ王自らが修復し、その後は正式にお弟子さんが受け継ぐことになった。そのソロウの武器屋さんとドワーフ王は、なんだか面白そうだからということでカイトさんと一緒にリベリの造船を手伝いに行ったそうだ。この三人によってリベリの造船業は活気づき、大型帆船は試験運転に入ったそうだ。
 タベルナでは防衛基地が突貫工事で作られ軍が駐屯し、龍国との交流も少しずつ始まっているそうだ。ソロウの武器屋のお弟子さんは軍の発注に応じてとにかく働きまくっているらしい。タベルナの町長はタベルナ周辺の土地をさらに開拓しようとしているそうだ。農産物の収穫量が上がるなり豚舎が大きくなるなりすれば、タベルナはさらに栄えるようになるだろう。
 ニャンコ族の集落ではあれだけ恐ろしい目に遭ったにも関わらず、私の斧を限界領域から持ってきて、人間国に返してくれたそうだ。恩義を感じてくれたというよりも、やっぱりもう一度限界領域まで行って遊んでみたかったような気がする。
 四勇者は相変わらずドロスさんに鍛えられているそうだ。フィンさんとミャオさんには別のメニューでトレーニングをするようにドロスさんに手紙を送った。あの二人は重くなってはいけないのだ。体幹トレーニングと長距離走、それに敏捷性上げる運動を中心としたトレーニングがいいだろう。
 筋肉量は体力ではない。
 それは長距離を走るランナーの肉体を見れば分かる。筋肉量の少なさは血中赤血球濃度を上げることによってカバーできるというのが私の考えだ。筋肉量×血中赤血球濃度が私の考える体力の定義である。
 
 エルフ国での滞在中、最長老にはちょくちょくとお茶をご馳走になった。なんでも異世界の話を知りたいそうなので、私は知っている知識をちょこちょこと話した。技術的な側面よりも文化的な側面に興味を持ったようで、絵画や彫刻、写真、映画、物語、音楽といったことについての話がお好みのようだった。
 「そういえばエルフ国には絵画や彫刻って無いですね。」
 「織物も質が良くてかたちが簡単なものを好むわね。美しく見せるために身につける彫金細工はあるわよ。」
 「それがエルフということなのでしょうか?」
 「うーん。知識とか技術という言葉はエルフはあまり使わないわね。あまり身の丈に合わないものを持ち続けると幸せにはなれないもの。ドワーフが好きになれないのはそういう理由もあってのことね。昔は戦争もしたことがあるらしいのよ。」
 「エルフ族とドワーフ族の戦争ですね。そういうものがあったと聞いています。」
 エルフ族の化粧も伝統的なものらしいが、そもそもエルフ族は化粧に拘りなどなくても十分に美しい。
 「私の身体の話なのですが、これって私がいた世界の知識がじょじょに増えて、やれる事も増えたから作れるようになったんですよね。最長老様が気に入っている音楽や映画や写真も、そういう技術が増えることで変化していったものだと思います。」
 「いまさらエルフが生き方を変えるなんてできないわよ。見たこともない美しい色、聞いたことのない音曲、動く絵が示す美しさの可能性。どれもすごく魅力的に聞こえるわ。でもね。そこには必ず琴線に触れる型というものがあるのよ。そこを外すようであれば長命種は無気力に生きてゆくだけね。」
 指で弾く四弦の楽器に手を伸ばし、弾きながら最長老は歌い始めた。
 聞いたことの無い言葉だが、どこか懐かしい響きのあるメロディー。情感は抑えめだが悠久を感じる歌。こういういつの時代に聞いても美しいと感じられる歌が数百年にもわたって歌い続けられていくのだろう。
 「やっぱりたまに歌うと面白いわね。まだまだお母さまのようには上手ではないけれども。」
 「綺麗な歌声でした。エルフの言葉ですか?」
 「ええ。神代から伝わるエルフの言葉。私たちは大陸共通語も話すけれども、この言葉はエルフの誇り。」
 日常を愛するというのはこういうことなのだろう。変化を好まないということではなく、ブレない軸があれば日常など愛せるということなのだ。それが言葉であれ、歌であれ、弓であれ、筋トレであってもだ。

 「失礼します。マッチョ様はこちらにいらっしゃいますか?」
 謁見の時に居た大臣だ。
 「います。なんでしょう?」
 「人間国から急報が入りました。至急人間国へ帰国してくれとのことです。」
 「私はまだ治療の途中なのですが・・・なにかあったのですか?」
 「魔王の軍勢が出現しました。人間軍も応対したのですが、魔王の広域魔法によって戦闘不能にされたようです。四人の勇者様も怪我を負ったそうです。詳細は分かりませんが・・・」
 勇者が揃わないうちに魔王の軍隊が来たのか。
 「日常なんてあっさり消えるものよ。お行きなさい、マッチョ。」
 「ただの怪我人になにができるんでしょうか?相手は魔王ですよ?」
 「ただ必要とされている、というだけではあなたは満足できない?」
 人間国に戻る分には構わない。だが、なにを求められているのか分からないのだ。
 「それと速報なのではっきりしたことは分からないのですが・・・」
 まだなにかあるのか?
 「人間王が第一陣として勇者の方々と出陣し、重体だそうです。」
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