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120 マッチョさん、人間国に戻る
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人間国へはエルフの弓兵500と大臣もともに来ることになった。各種族から人員を出して再編成し、大陸軍として魔王軍と再び対峙するらしい。大臣はエルフ国への連絡要員兼外交官として人間国へと向かう。
エルフ国を出立する前にエルフ王へ挨拶をし、最長老にも挨拶をした。エルフ王は状況が飲み込めないまま人間王へのお見舞いを口にした。とりあえず人間国に行ってみなければなにが起こっているのか分からないということだ。
「断片的な情報を組み合わせると、このようになります。」
移動中にエルフの大臣が説明をしてくれた。
魔王軍はニャンコ族の森の近くから湧いて出て来たそうだ。ニャンコ族は領土を放棄。人間国との中間地点にある砦で庇護を求めた。おおよその敵数5000と推定。砦の指揮官であるタカロスさんは砦の防衛を不可能と見て撤退戦を開始。砦から人間国王都まで魔王軍は進軍し、人間王は対魔物災害用の王都の防壁で迎え撃とうとした。
王都の城門が破られそうになったので、やむなく人間王と人間軍、それに勇者が出陣。魔王の所在地をニャンコ族領土の先にある限界領域の向こう側と想定し、勇者と人間王を切り離し魔王に向かわせようとした。
ところが魔王軍と人間軍の混戦が激しく勇者と人間王が切り離せないまま膠着状態になり、そこへ魔王軍もろとも魔王の広域魔法が発動して人間軍と魔王軍双方が壊滅。勇者や人間王が怪我をした、という成り行きらしい。
「魔物もろともですか。味方ではなく道具として扱われていますね。」
魔物の王だというのに、統治するつもりは無いらしい。
「真に恐ろしいのはそこではありません。5000の魔物ごと人間軍を潰しても、魔王の戦力にはなんの痛痒も無いということなのでしょう。」
その数倍の代わりがいる、ということか。万の魔物を超えていかないと魔王にすら辿り着けないということなのかもしれない。
「・・・この状況でなぜ私が呼ばれたんでしょうか?」
「戦闘時に精霊の恩寵が出なかったという話もあります。実際に詳しく聞いてみないことには分かりませんが。それと、人間族の勇者がまだ出ていません。やはり精霊についての話じゃないでしょうか?」
人間王が勇者では無かったということなのか?
魔王に攻撃されてもなお大精霊が顕現しないというのか?
「現在は砦、ニャンコ国跡の集落から周辺に魔物の気配が無いと聞いています。魔王にとっては様子見だったのかもしれません。今なら無傷で我々も人間国王都に入れます。」
気になることがある。
「魔物が王都に来るまでは人間国の貴族の土地があったはずです。そこで魔物の被害は出てなかったんですか?」
「未確認ですが、進軍速度からすると王都に直接向かったと考えられます。魔物災害の時と同じですね。」
魔物災害と同じであるならば魔王軍の狙いは、王都にある大量の魔石だろう。
「マッチョさん、よく戻ってきてくれました!」
・・・誰だ?・・・アルクか!デカくなりすぎて誰だか分からなかった。人間王に似てきたな。
「アルク、なぜ私が呼び戻されたのですか?」
「父上が出陣の際に、もし自分になにかあったらマッチョさんを呼んで話をしろと言われたのです。」
そういう事か。
「マッチョ君。今はワシが補佐する形でアルクが人間王代理という立場にいる。状況の説明はおいおいするから、先にアルクの話を聞いてやってくれんか?」
ドロスさんの態度を見るに、現状把握以上にアルクの話が大切だということか。人間王の容体も気にかかるが・・・
「マッチョさん、こちらにいらしてください。」
アルクに連れられて、二人で王家のトレーニングルームに入った。
「マッチョさん、ちょっと動かすのを手伝ってもらえませんか?」
腹筋台を動かしたいようだ。私の肘もだいぶ良くなってきたとはいえ、かなり頑丈に作られた王家の腹筋台は重かった。よく見ると床に何度か動かした跡が残っている。アルクが床を触ると仕掛けが動き、地下への扉が開いた。必要以上に重い腹筋台はこれを隠すためのものか。一人で重い腹筋台を持ち上げる、というのが本来ここから先に行く資格なのだろうが・・・
「行きましょう。私も久しぶりに入ります。」
仕掛けは分からないが、壁がわずかに光を放っている。王家専用のトレーニングルームの、さらに隠された地下か。
「マッチョさん。対魔物用の予算が王家から出ていることは知っていますか?」
階段を降りながらアルクが質問してきた。
「考えたことも無かったですね。」
だとすれば尋常では無い。砦の構築から練兵の費用まで、すべて王家が支払っているのか?
「王家には税収以外の収入があるんです。この先です。」
アルクが足を止めた。
そこには脈動する巨大な心臓のようなものが目の前にあった。高さはゆうに10mはある。
そもそもこれはなんなのだ?
「これは今まで王家が集めて来た魔石です。」
これが?
まるで生物では無いか。
アルクがポケットから魔石を取り出した。私も何度か見たことがある。アルクの手のひらに置かれた魔石はその場で浮き、巨大な心臓に近づいて吸収された。よく見ると足元には貴金属のようなものが落ちている。私はなにを見せられているのだ?
「魔石は魔物を呼び寄せますが、その一方で一カ所に集めるとこのように巨大化し、貴金属を吐き出すのです。魔物が食べた人間のものとも言われますが詳細は分かりません。この金属は王家が管理し、王家はこれをもとにして資金を集めます。市中に魔物から出た貴金属を流すわけにもいかないので、あくまで王家に財力があると見せかけるための張り子です。」
魔石が生物のように集まったものになることにも、王家の資金源を見せられたことにも驚いたが、それらは私がここに居る理由にはならない。
「マッチョさん。父上は私とマッチョさんの二人にこの場所で祈りを捧げるようにと指示をしました。父上が言うにはこの魔石の下に、初代人間王が建てた石碑があるのではないか、ということです。」
つまり、私とアルクのどちらかが大精霊の恩寵を受け、人間族の勇者になるということなのか。
エルフ国を出立する前にエルフ王へ挨拶をし、最長老にも挨拶をした。エルフ王は状況が飲み込めないまま人間王へのお見舞いを口にした。とりあえず人間国に行ってみなければなにが起こっているのか分からないということだ。
「断片的な情報を組み合わせると、このようになります。」
移動中にエルフの大臣が説明をしてくれた。
魔王軍はニャンコ族の森の近くから湧いて出て来たそうだ。ニャンコ族は領土を放棄。人間国との中間地点にある砦で庇護を求めた。おおよその敵数5000と推定。砦の指揮官であるタカロスさんは砦の防衛を不可能と見て撤退戦を開始。砦から人間国王都まで魔王軍は進軍し、人間王は対魔物災害用の王都の防壁で迎え撃とうとした。
王都の城門が破られそうになったので、やむなく人間王と人間軍、それに勇者が出陣。魔王の所在地をニャンコ族領土の先にある限界領域の向こう側と想定し、勇者と人間王を切り離し魔王に向かわせようとした。
ところが魔王軍と人間軍の混戦が激しく勇者と人間王が切り離せないまま膠着状態になり、そこへ魔王軍もろとも魔王の広域魔法が発動して人間軍と魔王軍双方が壊滅。勇者や人間王が怪我をした、という成り行きらしい。
「魔物もろともですか。味方ではなく道具として扱われていますね。」
魔物の王だというのに、統治するつもりは無いらしい。
「真に恐ろしいのはそこではありません。5000の魔物ごと人間軍を潰しても、魔王の戦力にはなんの痛痒も無いということなのでしょう。」
その数倍の代わりがいる、ということか。万の魔物を超えていかないと魔王にすら辿り着けないということなのかもしれない。
「・・・この状況でなぜ私が呼ばれたんでしょうか?」
「戦闘時に精霊の恩寵が出なかったという話もあります。実際に詳しく聞いてみないことには分かりませんが。それと、人間族の勇者がまだ出ていません。やはり精霊についての話じゃないでしょうか?」
人間王が勇者では無かったということなのか?
魔王に攻撃されてもなお大精霊が顕現しないというのか?
「現在は砦、ニャンコ国跡の集落から周辺に魔物の気配が無いと聞いています。魔王にとっては様子見だったのかもしれません。今なら無傷で我々も人間国王都に入れます。」
気になることがある。
「魔物が王都に来るまでは人間国の貴族の土地があったはずです。そこで魔物の被害は出てなかったんですか?」
「未確認ですが、進軍速度からすると王都に直接向かったと考えられます。魔物災害の時と同じですね。」
魔物災害と同じであるならば魔王軍の狙いは、王都にある大量の魔石だろう。
「マッチョさん、よく戻ってきてくれました!」
・・・誰だ?・・・アルクか!デカくなりすぎて誰だか分からなかった。人間王に似てきたな。
「アルク、なぜ私が呼び戻されたのですか?」
「父上が出陣の際に、もし自分になにかあったらマッチョさんを呼んで話をしろと言われたのです。」
そういう事か。
「マッチョ君。今はワシが補佐する形でアルクが人間王代理という立場にいる。状況の説明はおいおいするから、先にアルクの話を聞いてやってくれんか?」
ドロスさんの態度を見るに、現状把握以上にアルクの話が大切だということか。人間王の容体も気にかかるが・・・
「マッチョさん、こちらにいらしてください。」
アルクに連れられて、二人で王家のトレーニングルームに入った。
「マッチョさん、ちょっと動かすのを手伝ってもらえませんか?」
腹筋台を動かしたいようだ。私の肘もだいぶ良くなってきたとはいえ、かなり頑丈に作られた王家の腹筋台は重かった。よく見ると床に何度か動かした跡が残っている。アルクが床を触ると仕掛けが動き、地下への扉が開いた。必要以上に重い腹筋台はこれを隠すためのものか。一人で重い腹筋台を持ち上げる、というのが本来ここから先に行く資格なのだろうが・・・
「行きましょう。私も久しぶりに入ります。」
仕掛けは分からないが、壁がわずかに光を放っている。王家専用のトレーニングルームの、さらに隠された地下か。
「マッチョさん。対魔物用の予算が王家から出ていることは知っていますか?」
階段を降りながらアルクが質問してきた。
「考えたことも無かったですね。」
だとすれば尋常では無い。砦の構築から練兵の費用まで、すべて王家が支払っているのか?
「王家には税収以外の収入があるんです。この先です。」
アルクが足を止めた。
そこには脈動する巨大な心臓のようなものが目の前にあった。高さはゆうに10mはある。
そもそもこれはなんなのだ?
「これは今まで王家が集めて来た魔石です。」
これが?
まるで生物では無いか。
アルクがポケットから魔石を取り出した。私も何度か見たことがある。アルクの手のひらに置かれた魔石はその場で浮き、巨大な心臓に近づいて吸収された。よく見ると足元には貴金属のようなものが落ちている。私はなにを見せられているのだ?
「魔石は魔物を呼び寄せますが、その一方で一カ所に集めるとこのように巨大化し、貴金属を吐き出すのです。魔物が食べた人間のものとも言われますが詳細は分かりません。この金属は王家が管理し、王家はこれをもとにして資金を集めます。市中に魔物から出た貴金属を流すわけにもいかないので、あくまで王家に財力があると見せかけるための張り子です。」
魔石が生物のように集まったものになることにも、王家の資金源を見せられたことにも驚いたが、それらは私がここに居る理由にはならない。
「マッチョさん。父上は私とマッチョさんの二人にこの場所で祈りを捧げるようにと指示をしました。父上が言うにはこの魔石の下に、初代人間王が建てた石碑があるのではないか、ということです。」
つまり、私とアルクのどちらかが大精霊の恩寵を受け、人間族の勇者になるということなのか。
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