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121 マッチョさん、対話する
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禍々しい心臓を前にして、私とアルクは目を閉じてともに祈りを捧げた。
・・・アルクではなく私の方か。
頭の中に映像が入ってくる。斧を用いた戦い方、勇者の指揮の仕方、魔王の封印の仕方。
「マッチョと言いましたか?」
声が聞こえた。頭の中で音が鳴るように、随分と明確に聞こえる。
目を開くと地下室ではなく広々とした地平線の見える空間に私はいた。薄明りの中に女神のようなものが見えた。アルクの姿は無い。
「大精霊様、でしょうか。」
「ええ。」
対話ができるようだ。
「私が人間国の勇者なのですか?」
「ええ。」
「なぜ私が選ばれたのでしょうか?異世界人だからですか?」
「そうではありません。我々精霊は一途な人間を好むのです。仕事に一途なもの、修行に一途なもの、欲望に一途なもの、任務に一途なもの、そして鍛錬に一途なもの。」
「人間王はそうでは無かったというのですか?」
「彼のものには雑念がありました。責任感ゆえでしょうが、異世界人が勇者に選ばれるのではと思ってしまったのです。以前は異世界人を選びましたからね。」
私が来なければ人間王が人間国の勇者になっていたのかもしれないな。
「まずは私たちのふがいなさについて謝らなくてはいけません。」
私は大精霊の話を聞いた。
かつて神と悪魔が戦ったのち、彼らは私が今いる不可思議な場所で代理戦争を行うことにした。これ以上彼らが戦い続けることは時空を超えて大陸にまで影響し、勝者のものとなる大陸や大陸に生きるものを損なう可能性があったからだ。
神は大精霊と精霊を作り出し、悪魔は他の世界から魔物を召還した。
精霊たちと魔物はこの場所で長きにわたり戦い続け、ついに精霊たちの勝利は目前となった。
この事態を危惧した悪魔は神の隙をついて、より強い魔物を召還することにした。
それが魔王である。魔王自身もまた大陸に出現するようになった。
魔物までもが大陸に出現するようになってようやく精霊たちは自分たちだけでは魔王に勝つことができぬと悟り、大陸に生きる五種族に力を貸りて魔王を大陸に封印することにした。
封印は成功し、魔王がいない世界というものがようやくできた。
「ですが封印はもうすぐ魔王によって解かれてしまいます。申し訳ありませんがあなたの記憶を少し読ませていただきました。魔物を倒すと消えていくことは知っていますね。あれはかつてはそういう存在では無かったのです。」
どういうことだ?いや、確かに魔物をわざわざ処分したという初代人間王の記述はあった。
「精霊の力の元となるのはこの大地です。それを知った魔王は魔物の死体を大地に吸収させることによって、この大地を蝕み精霊の力を弱らせることを思いついたのです。」
じわじわと大地に毒を埋め込み、それが精霊の力を弱らせているのか。
「本来なら私たちが魔物をすべて倒すはずでした。あなたが今見ているこの世界からこぼれ落ちた魔物が大陸へと流れ、人を襲うようになったのです。それだけ精霊や私の力が弱まっているのです。」
精霊が謝ったという話がようやく腑に落ちた。魔物を倒す役割は本来なら精霊が担い、人間が魔物を倒すなどということはあり得ないはずだったのだ。あれほど強力な力である精霊の恩寵も、初代人間王の時代と比べたら弱まっているということか。だが精霊の力が弱まっているというのであれば、謎はさらに深まる。
「魔王の封印方法は頭の中に入ってきたので分かりました。ですが魔王の策略によって弱体化してしまったいまの大精霊様のお力で、魔王は封印できるのでしょうか?」
「なにがなんでもやらねばなりません。魔王を野放しにしてしまえば、あなたが知っているようにこの大陸など数日も持ちません。」
ゴーレムの恐ろしさは私が身をもって知っている。あれを超える存在こそが魔王なのだ。
トレーニーとして復活しようとした矢先だが、筋トレに必要なものがもう一つあったことを思い出した。
平和である。
平和でなくてはトレーニングもできないのだ。
「魔王に対抗する力として、魔法弱体化と身体強化を授けます。身体強化の方は既に見知っていますね。」
「ええ。立派な肉体になるやつですね。」
私は神が舞い降りたような肉体となるのか。あのインパクトは忘れようがない。あの肉体は私のトレーニーとしての信念が揺らいだほどの完成形なのだ。
気がかりなのは、私が私自身の手で肉体を作れなくなることと、トレーニーとして今後なにを支えとして生きたら良いのか分からなくなることだ。
しかし・・・あまり思い悩む必要もないか。
私が筋トレできなくなる平和な未来と、私がこの異世界で関わってきた多くの人たちが魔物に脅かされ私がトレーニング出来なくなる未来。選べる未来はひとつだ。
「おそらく、あなたという強大な精神と頑強な肉体を持つ人間を触媒にしなければ、私が大陸で力を発揮することはできないでしょう。あなたにしかできないことです。しかし同時に、あなたの命をお借りすることになります・・・」
命を借りる?
「魔王を封印したら私は死ぬということなのでしょうか?」
「死ぬというよりも、魔王を封印し続ける触媒として生き続けてもらいます。初代人間王もそういう人生を送りました。そしてもうすぐアラヒトはその役割を終えます。魔物の出現を抑えることができなくなってきたのはアラヒトの終わりが近い証拠です。」
・・・?
「今もまだ役割を果たしているということですか?」
「その通りです。アラヒトはまだ死んではいません。この大陸のためにおおよそ600年、魔王を封じ続けたのです。アラヒトの前にも、さらにその前にも。勇敢な人たちが何人も何人も・・・」
初代人間王は死んだのでも、消えたのでも無かった。
生きてこの大陸の人柱となっていたのか。
「私の力はあなたが生き続ける限りずっとあなたに流れ続け、魔王を封印し続けます。酷く勝手な話ですが・・・」
つまりずっとあの神の肉体のまま、私は生き続けるわけか。
どうせ前に居た世界で一度は死んだ身だ。
この大陸の未来のために生きるのも悪くは無いだろう。
それにあの肉体を体現できるというのであれば、そんなに悪い話でも無い。
「いや、もういいです。やってください。」
私は勇者になることにした。
・・・アルクではなく私の方か。
頭の中に映像が入ってくる。斧を用いた戦い方、勇者の指揮の仕方、魔王の封印の仕方。
「マッチョと言いましたか?」
声が聞こえた。頭の中で音が鳴るように、随分と明確に聞こえる。
目を開くと地下室ではなく広々とした地平線の見える空間に私はいた。薄明りの中に女神のようなものが見えた。アルクの姿は無い。
「大精霊様、でしょうか。」
「ええ。」
対話ができるようだ。
「私が人間国の勇者なのですか?」
「ええ。」
「なぜ私が選ばれたのでしょうか?異世界人だからですか?」
「そうではありません。我々精霊は一途な人間を好むのです。仕事に一途なもの、修行に一途なもの、欲望に一途なもの、任務に一途なもの、そして鍛錬に一途なもの。」
「人間王はそうでは無かったというのですか?」
「彼のものには雑念がありました。責任感ゆえでしょうが、異世界人が勇者に選ばれるのではと思ってしまったのです。以前は異世界人を選びましたからね。」
私が来なければ人間王が人間国の勇者になっていたのかもしれないな。
「まずは私たちのふがいなさについて謝らなくてはいけません。」
私は大精霊の話を聞いた。
かつて神と悪魔が戦ったのち、彼らは私が今いる不可思議な場所で代理戦争を行うことにした。これ以上彼らが戦い続けることは時空を超えて大陸にまで影響し、勝者のものとなる大陸や大陸に生きるものを損なう可能性があったからだ。
神は大精霊と精霊を作り出し、悪魔は他の世界から魔物を召還した。
精霊たちと魔物はこの場所で長きにわたり戦い続け、ついに精霊たちの勝利は目前となった。
この事態を危惧した悪魔は神の隙をついて、より強い魔物を召還することにした。
それが魔王である。魔王自身もまた大陸に出現するようになった。
魔物までもが大陸に出現するようになってようやく精霊たちは自分たちだけでは魔王に勝つことができぬと悟り、大陸に生きる五種族に力を貸りて魔王を大陸に封印することにした。
封印は成功し、魔王がいない世界というものがようやくできた。
「ですが封印はもうすぐ魔王によって解かれてしまいます。申し訳ありませんがあなたの記憶を少し読ませていただきました。魔物を倒すと消えていくことは知っていますね。あれはかつてはそういう存在では無かったのです。」
どういうことだ?いや、確かに魔物をわざわざ処分したという初代人間王の記述はあった。
「精霊の力の元となるのはこの大地です。それを知った魔王は魔物の死体を大地に吸収させることによって、この大地を蝕み精霊の力を弱らせることを思いついたのです。」
じわじわと大地に毒を埋め込み、それが精霊の力を弱らせているのか。
「本来なら私たちが魔物をすべて倒すはずでした。あなたが今見ているこの世界からこぼれ落ちた魔物が大陸へと流れ、人を襲うようになったのです。それだけ精霊や私の力が弱まっているのです。」
精霊が謝ったという話がようやく腑に落ちた。魔物を倒す役割は本来なら精霊が担い、人間が魔物を倒すなどということはあり得ないはずだったのだ。あれほど強力な力である精霊の恩寵も、初代人間王の時代と比べたら弱まっているということか。だが精霊の力が弱まっているというのであれば、謎はさらに深まる。
「魔王の封印方法は頭の中に入ってきたので分かりました。ですが魔王の策略によって弱体化してしまったいまの大精霊様のお力で、魔王は封印できるのでしょうか?」
「なにがなんでもやらねばなりません。魔王を野放しにしてしまえば、あなたが知っているようにこの大陸など数日も持ちません。」
ゴーレムの恐ろしさは私が身をもって知っている。あれを超える存在こそが魔王なのだ。
トレーニーとして復活しようとした矢先だが、筋トレに必要なものがもう一つあったことを思い出した。
平和である。
平和でなくてはトレーニングもできないのだ。
「魔王に対抗する力として、魔法弱体化と身体強化を授けます。身体強化の方は既に見知っていますね。」
「ええ。立派な肉体になるやつですね。」
私は神が舞い降りたような肉体となるのか。あのインパクトは忘れようがない。あの肉体は私のトレーニーとしての信念が揺らいだほどの完成形なのだ。
気がかりなのは、私が私自身の手で肉体を作れなくなることと、トレーニーとして今後なにを支えとして生きたら良いのか分からなくなることだ。
しかし・・・あまり思い悩む必要もないか。
私が筋トレできなくなる平和な未来と、私がこの異世界で関わってきた多くの人たちが魔物に脅かされ私がトレーニング出来なくなる未来。選べる未来はひとつだ。
「おそらく、あなたという強大な精神と頑強な肉体を持つ人間を触媒にしなければ、私が大陸で力を発揮することはできないでしょう。あなたにしかできないことです。しかし同時に、あなたの命をお借りすることになります・・・」
命を借りる?
「魔王を封印したら私は死ぬということなのでしょうか?」
「死ぬというよりも、魔王を封印し続ける触媒として生き続けてもらいます。初代人間王もそういう人生を送りました。そしてもうすぐアラヒトはその役割を終えます。魔物の出現を抑えることができなくなってきたのはアラヒトの終わりが近い証拠です。」
・・・?
「今もまだ役割を果たしているということですか?」
「その通りです。アラヒトはまだ死んではいません。この大陸のためにおおよそ600年、魔王を封じ続けたのです。アラヒトの前にも、さらにその前にも。勇敢な人たちが何人も何人も・・・」
初代人間王は死んだのでも、消えたのでも無かった。
生きてこの大陸の人柱となっていたのか。
「私の力はあなたが生き続ける限りずっとあなたに流れ続け、魔王を封印し続けます。酷く勝手な話ですが・・・」
つまりずっとあの神の肉体のまま、私は生き続けるわけか。
どうせ前に居た世界で一度は死んだ身だ。
この大陸の未来のために生きるのも悪くは無いだろう。
それにあの肉体を体現できるというのであれば、そんなに悪い話でも無い。
「いや、もういいです。やってください。」
私は勇者になることにした。
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