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122 マッチョさん、デカくなる
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私の肉体の内側から燃えるような熱さを感じる。これが大精霊の恩寵か。
気づいたら私はアルクがいる地下室に戻っていた。
「これは・・・マッチョさんが精霊に選ばれたのですね。」
「ええ。大精霊と少しだけお話することができました。」
アルクの態度から推測するに、精霊の恩寵の時のように一瞬で多くのことが起こったらしい。
「・・・凄いとしか言いようがない肉体ですね。これが人間国勇者の肉体ですか。」
エルフ国で着ていた普段着が筋肥大のため全て破けてしまった。大事なところはかろうじて隠せている。
私からは一部分しか見られないため分からないが、どうやら凄い肉体のようだ。うっすらと白く光っている。早く鏡を見てポージングをしたい。
「人間国の勇者が出たことで戦略が変えられるはずです。ドロスのところに戻りましょう。」
「マッチョ君!その肉体は・・・」
作戦本部らしきところに詰めていたドロスさんが、私の変化に驚いている。
「私が勇者だったようです。」
「そうかそうか。まぁマッチョ君の奇妙な強さも勇者であったら頷けるな。」
まともに戦えるようになるまでけっこう大変だったのだが。
大精霊のおかげで私の肘の怪我まで治ったようだ。魔王と戦うのだから、このくらいのサービスはありがたくいただいておこう。
現状を聞いてみるとだいたいエルフ国の大臣が整理した内容で正しかったようである。
「人間王の容体は・・・」
「戦場に立つことすらままならん。四勇者もかなりの傷を負っている。魔王の魔法の威力があれほどのものだとはな・・・」
魔法が直撃してしまったのか。まさか私一人で魔王と戦うなどということにはならないだろうな・・・
「失礼します。・・・あれ?マッチョさん裸でその筋肉って・・・まさか勇者になったんすか?」
ツイグは何をしているんだ?
「さっき勇者になりました。ツイグはなにをしてるんですか?」
「なにって・・・仕事っすよ。斥候と伝令っす。」
どうにもツイグと仕事という単語が結びつかないのだ。
「ツイグ。伝令はなんだ?」
「あ、すんません。先ほど城内から発した正体不明の光は治癒の効果があったようです。勇者の方々と魔法でやられた人たちはかなり状態がよくなりました。」
「朗報だな。勇者の皆は魔王を倒す大陸の剣だ。医療班にしっかりと確認してもらってから、次の作戦に移る。」
「うっす。医療班にも伝えておきます。城門は予備部品があったので今日中に新しいものをつけられるようです。」
「そうか。王家の用心深さに助けられたな。」
「マッチョさん。マッチョさんが勇者になったってみんなに言ってもいいっすか?勇者が目の前でやられちゃったんで、みんなガックリ来てるんすよ。」
「マッチョ君、構わんか?ツイグの言う通り戦意高揚になるものがあるならなんでもやっておきたい。」
「構いません。」
いずれ私が異世界人だということも多くの人にバレるようになるだろうな。
ドロスさんが大きなため息をついた。なかなか大変な状況にあったようだ。
「魔王の魔法の傷というのはちょっとふつうの傷とは違うようでな。我々の治療では回復しなかったのだ。」
「では人間王も・・・」
「人間王の傷は魔物にやられた傷じゃよ。撤退時に自らしんがりを務めようとしてな。やはりあれは王の中の王じゃよ。」
「父上はまだ意識不明のままのようです。ソフィーが付きっ切りで治療をしています。」
私は自分の心がざわつくのを感じた。異世界で唯一、筋肉を語り合える最高の友人が瀕死だというのに、私にはどうすることもできぬのだ。
「まぁあれも頑丈な男だ。そのうち戦線復帰してくるだろう。ところでマッチョ君。大精霊からもらった力というのは、どういった類のものかな?」
「他の勇者の人たちと同じく身体強化です。あとは魔法を弱体化するものみたいです。それに魔王の封印方法と勇者の指揮の仕方も教わりました。あとはこの戦いの歴史みたいなものを教わりました。」
ドロスさんの目の色が変わった。
「・・・その魔法を弱体化する能力というのは具体的にどういうものなのかね?」
・・・あれ?
「具体的には聞いてませんでした。」
ドロスさんがガックリ来ている。
「・・・効果が分からんものを軍略に組み込むワケにもいかんのう・・・」
「ちゃんと聞いておけばよかったですね。」
なにやら情報が多すぎて、対話の途中で面倒くさくなったのだ。
私が人柱になる話は誰にもしないでおこう。さらにややこしくなりそうだ。
「仕方ない。当初の作戦通りに行くぞ。エルフの弓兵を軸に戦う。前回同様に城門で足止め。そこにエルフ族の弓をたっぷりくれてやれ。魔法が発動する前に空が曇ったらエルフ族は退却じゃ。城門内にはワシと勇者を配置。指揮はタカロスがやってアルク様を補佐しろ。城門が破られたらワシらだけで敵を落とす。何体かワシらから抜けた魔物は、ニャンコ族と一般兵で倒してくれ。」
「勇者を切り離さないんですか?」
「マッチョ君の能力が分からん。魔王にあえて魔法を打たせて、マッチョ君の魔法弱体化能力とやらがどの程度のものか分かってから勇者を送り出したほうがいい。輜重の計画もその後で構わんじゃろう。」
「マッチョさん、今日のところは休んでください。エルフ国から帰って早々にありがとうございました。ドロス。僕も休んでおく。なにかあったらすぐに呼んでくれ。」
「はっ。」
アルクに労われた。なんとかこの場に立っているというよりも、アルクは少しずつ王としての片鱗を見せかけているというところか。
久しぶりの王城の自室だ。
「うおっ!」
鏡に写った自分の姿を見てビックリしてしまった。
デカい。私が見たことのある筋肉の中で一番デカい。
そうか。私はもう人間でもトレーニーでも無いのだな。私は勇者になったのだ。
しかしこの鏡に写る私の姿、もはや筋肉にわずかに人間性が残っただけのものだな。精霊の恩寵がかかりっぱなしなので、ちょっと動いただけで吹っ飛んでいきそうになる。
鏡を前にしてポージングをしてみる。
理想的どころか、想像を超えた姿だ。ここまでとは・・・
喜ぶ場面だと思うが、私の心に達成感は無かった。もらった肉体というところに、一抹のトレーニーとしての良心が痛む。私が見ているこの肉体は私の努力の成果では無い。
ところで服はどうしたらいいのだろうか。
気づいたら私はアルクがいる地下室に戻っていた。
「これは・・・マッチョさんが精霊に選ばれたのですね。」
「ええ。大精霊と少しだけお話することができました。」
アルクの態度から推測するに、精霊の恩寵の時のように一瞬で多くのことが起こったらしい。
「・・・凄いとしか言いようがない肉体ですね。これが人間国勇者の肉体ですか。」
エルフ国で着ていた普段着が筋肥大のため全て破けてしまった。大事なところはかろうじて隠せている。
私からは一部分しか見られないため分からないが、どうやら凄い肉体のようだ。うっすらと白く光っている。早く鏡を見てポージングをしたい。
「人間国の勇者が出たことで戦略が変えられるはずです。ドロスのところに戻りましょう。」
「マッチョ君!その肉体は・・・」
作戦本部らしきところに詰めていたドロスさんが、私の変化に驚いている。
「私が勇者だったようです。」
「そうかそうか。まぁマッチョ君の奇妙な強さも勇者であったら頷けるな。」
まともに戦えるようになるまでけっこう大変だったのだが。
大精霊のおかげで私の肘の怪我まで治ったようだ。魔王と戦うのだから、このくらいのサービスはありがたくいただいておこう。
現状を聞いてみるとだいたいエルフ国の大臣が整理した内容で正しかったようである。
「人間王の容体は・・・」
「戦場に立つことすらままならん。四勇者もかなりの傷を負っている。魔王の魔法の威力があれほどのものだとはな・・・」
魔法が直撃してしまったのか。まさか私一人で魔王と戦うなどということにはならないだろうな・・・
「失礼します。・・・あれ?マッチョさん裸でその筋肉って・・・まさか勇者になったんすか?」
ツイグは何をしているんだ?
「さっき勇者になりました。ツイグはなにをしてるんですか?」
「なにって・・・仕事っすよ。斥候と伝令っす。」
どうにもツイグと仕事という単語が結びつかないのだ。
「ツイグ。伝令はなんだ?」
「あ、すんません。先ほど城内から発した正体不明の光は治癒の効果があったようです。勇者の方々と魔法でやられた人たちはかなり状態がよくなりました。」
「朗報だな。勇者の皆は魔王を倒す大陸の剣だ。医療班にしっかりと確認してもらってから、次の作戦に移る。」
「うっす。医療班にも伝えておきます。城門は予備部品があったので今日中に新しいものをつけられるようです。」
「そうか。王家の用心深さに助けられたな。」
「マッチョさん。マッチョさんが勇者になったってみんなに言ってもいいっすか?勇者が目の前でやられちゃったんで、みんなガックリ来てるんすよ。」
「マッチョ君、構わんか?ツイグの言う通り戦意高揚になるものがあるならなんでもやっておきたい。」
「構いません。」
いずれ私が異世界人だということも多くの人にバレるようになるだろうな。
ドロスさんが大きなため息をついた。なかなか大変な状況にあったようだ。
「魔王の魔法の傷というのはちょっとふつうの傷とは違うようでな。我々の治療では回復しなかったのだ。」
「では人間王も・・・」
「人間王の傷は魔物にやられた傷じゃよ。撤退時に自らしんがりを務めようとしてな。やはりあれは王の中の王じゃよ。」
「父上はまだ意識不明のままのようです。ソフィーが付きっ切りで治療をしています。」
私は自分の心がざわつくのを感じた。異世界で唯一、筋肉を語り合える最高の友人が瀕死だというのに、私にはどうすることもできぬのだ。
「まぁあれも頑丈な男だ。そのうち戦線復帰してくるだろう。ところでマッチョ君。大精霊からもらった力というのは、どういった類のものかな?」
「他の勇者の人たちと同じく身体強化です。あとは魔法を弱体化するものみたいです。それに魔王の封印方法と勇者の指揮の仕方も教わりました。あとはこの戦いの歴史みたいなものを教わりました。」
ドロスさんの目の色が変わった。
「・・・その魔法を弱体化する能力というのは具体的にどういうものなのかね?」
・・・あれ?
「具体的には聞いてませんでした。」
ドロスさんがガックリ来ている。
「・・・効果が分からんものを軍略に組み込むワケにもいかんのう・・・」
「ちゃんと聞いておけばよかったですね。」
なにやら情報が多すぎて、対話の途中で面倒くさくなったのだ。
私が人柱になる話は誰にもしないでおこう。さらにややこしくなりそうだ。
「仕方ない。当初の作戦通りに行くぞ。エルフの弓兵を軸に戦う。前回同様に城門で足止め。そこにエルフ族の弓をたっぷりくれてやれ。魔法が発動する前に空が曇ったらエルフ族は退却じゃ。城門内にはワシと勇者を配置。指揮はタカロスがやってアルク様を補佐しろ。城門が破られたらワシらだけで敵を落とす。何体かワシらから抜けた魔物は、ニャンコ族と一般兵で倒してくれ。」
「勇者を切り離さないんですか?」
「マッチョ君の能力が分からん。魔王にあえて魔法を打たせて、マッチョ君の魔法弱体化能力とやらがどの程度のものか分かってから勇者を送り出したほうがいい。輜重の計画もその後で構わんじゃろう。」
「マッチョさん、今日のところは休んでください。エルフ国から帰って早々にありがとうございました。ドロス。僕も休んでおく。なにかあったらすぐに呼んでくれ。」
「はっ。」
アルクに労われた。なんとかこの場に立っているというよりも、アルクは少しずつ王としての片鱗を見せかけているというところか。
久しぶりの王城の自室だ。
「うおっ!」
鏡に写った自分の姿を見てビックリしてしまった。
デカい。私が見たことのある筋肉の中で一番デカい。
そうか。私はもう人間でもトレーニーでも無いのだな。私は勇者になったのだ。
しかしこの鏡に写る私の姿、もはや筋肉にわずかに人間性が残っただけのものだな。精霊の恩寵がかかりっぱなしなので、ちょっと動いただけで吹っ飛んでいきそうになる。
鏡を前にしてポージングをしてみる。
理想的どころか、想像を超えた姿だ。ここまでとは・・・
喜ぶ場面だと思うが、私の心に達成感は無かった。もらった肉体というところに、一抹のトレーニーとしての良心が痛む。私が見ているこの肉体は私の努力の成果では無い。
ところで服はどうしたらいいのだろうか。
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