異世界マッチョ

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131 マッチョさん、厳しく指導する

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 ミャオさんは現状を報告するために一度人間国へと戻った。
 目を覚ました魔王は、勝手にパソコンをいじったことに激怒していた。魔王よりも極悪非道な真似をしたなどと、どの口が言うのか。魔物を召還したせいで多くの人が死んだり困窮していたというのに。狂ったようにわめき散らしてまったく議論にならなかった。仕方が無いので私はまた魔王をぶっ飛ばし、また気絶させてしまった。魔力切れの魔王を大精霊の恩寵で強化されたトレーニーの肉体でぶっ飛ばして気づいたが、魔王は病気や怪我をしないのではなく、たんに死なないとか死にづらいだけなのだろう。
 魔王に筋トレをさせる方針は決まったが、いまこの体重では何をやってもダメだな。どこか必ず故障する。
 魔王が二度目の気絶をしているあいだに私は魔王の肉体を色々と触ってみた。ふむ。全体的に下半身はわりとしっかりとした筋肉が皮下脂肪の下にある。全体が重いから結果として下半身の自重トレーニングになったのだろう。あとこの感触だと肩こりは常態化していて何度か腰も痛めているな。怪我も病気もしないのではなく、センサーの部分が壊れているのではないだろうか。
 とにもかくにも体脂肪を落とさなくてはトレーニングにはならない。まずは食事制限と有酸素運動である。糖質は朝食時のみ摂取、昼食は緑黄色野菜とタンパク質を中心にフルーツを添えて。夕食は抜こう。寝る前に余計なカロリーを摂取するから太るのだ。飲み物は水とノンカロリーのスポーツ飲料を中心にして脱水を防ぐ。
 有酸素運動はジョギングでも難しいだろうな。まずは徹底して歩かせる。魔王の森から魔王の城まで何度も往復していたら数ヶ月後には痩せるだろう。

 他の勇者たちは私が寝ている間に魔王が余計なことをしないように(食事管理も含めて)見張ってくれた。急に食事管理をされるようになったので、深夜に魔王が狂ったように食事を求めるようになったのだ。不摂生とは恐ろしいものだな。
 ミャオさんが目印をつけてくれていたおかげで、ウォーキングは道に迷う事もなくずいぶんと捗った。怪我防止のために魔王の膝の周辺をガチガチに固めて可動域を狭くさせた。私は人数分の食料と水を持ち馬車を引いた。
 ウォーキングを始めて数日後には魔王からは不平不満の言葉も出なくなり、夜にはぐっすりというかぐったりと眠るようになった。剣呑な雰囲気も消え、諦めに似た雰囲気が漂い始めた。私は容赦なく指導した。背筋を伸ばし、ストライドを広げ、できるだけ早く歩く。膝への負担を最小限に抑え、有酸素運動と同時に体幹もしっかりと鍛えあげるのが目的だ。
 魔王の森と魔王の山を勇者たちと何度も往復しているうちに二ヶ月が経った。魔王の歩みはのっぺりとしたものからシャッキリとした動きへと変わり、歩く速度も速くなった。
 そして魔王の体脂肪率はついに25%を切るようになった。
 24時間監視の食事制限と起きている間の有酸素運動でやっと成果が出て来た。ようやくこれで筋トレの下地ができた。ここからが本番である。

 魔王と戦った場所は魔王のトレーニングルームへと変えた。機材は魔王のパソコンから買わせた。ミャオさん以外の勇者には模様替えを手伝ってもらって助かった。仲間には拷問器具と勘違いされたが、あくまでトレーニング用の機材である。
 そして私はネットで検索した中で最もハードそうなサーキットトレーニングを魔王にやらせたのだが、一周目が終わる前に魔王が崩れ落ちた。
 「もう封印してください・・・お願いします・・・なんでもしますから・・・」
 地べたをはいずって泣きながら魔王に懇願されたが、私は心を鬼にしてやらせた。なんでもするというならどんなフォームになっても構わないからトレーニングを続ければいいのだ。たまに魔王は嗚咽を漏らしたが、魔王の筋トレはこの世界の平和のために必要なことなのだ。こういうスパルタは私の流儀では無いが、魔王が筋トレで変われば世界は救われるのだ。
 なんとかサーキットトレーニング一周目が終わった時に、我々と魔王との間に気妙な一体感が生まれた。
 私は今後は魔王にも夕食を提供することにした。魔王は涙を流して喜んでいた。この辺から既に魔王の言動には変化が起き始めていた。トレーニングはちゃんとやるようになってきたし、食事内容についても文句を言わなくなってきた。肉体に痛みが出たらちゃんと休息を取らせたし、筋肉痛がある日はウォーキングに切り替えた。湿布だってネットで買える。

 さらに数ヶ月後。
 サーキットの回数も増やし、マシントレーニングも追加した。魔王は本当によくついて来ている。
 魔王に買わせた姿見を見せたら、自分の変化に驚いていた。前に居た世界のテレビコマーシャルのような驚き方だった。ああいう驚き方をする人って本当にいるんだな。
 魔王に筋トレを続けさせるのはかなり大変だったが、人間であるならば肉体は変われるのだ。
 ボディーソープとかシャンプーといったものを魔王は積極的に購入するようになった。小汚かった引きこもりが自分の身だしなみに気を使うようになったことに、私は少し感動した。
 筋トレというものは内面だって変えてゆくのだ。
 魔王の言葉にも謙虚さと自信が見えるようになってきた。うむ。順調な仕上がりだな。

 私のほうにもひとつ朗報というか問題が起きた。 
 魔王のトレーニングに付き合った結果として、私の肉体がわずかにデカくなっていた。これ以上の筋肥大は無いと思っていたのだが、まだ大きくなっているようなのだ。
 まだ私にも成長の余地がある。
 これはトレーニーとしてとても嬉しい誤算だった。だが、どういう肉体をイメージするべきか悩んだ。人生でこれほど深く悩んだことは無かった。
 今の肉体はほとんど完成形なのだ。
 ここから先へと進めるには、トレーニングの質以上に私がどういう肉体をイメージできるかが重要になってくる。これ以上の理想的な肉体とはどういう状態なのかを真剣に考えなければいけなかった。
 その上、この肉体にどういう負荷をかけるべきか分からない。既に人間の領域は超えている。指一本でバーベルを使ってやじろべぇとして遊べるレベルの肉体に負荷をかけるにはどうしたらいいのだろうか?大精霊の恩寵が鬱陶しく思ったのはこの時だけだ。
 この魔王の山の周辺にはなにも無い。ネットで購入できるようなものでは負荷にはならない。
 ・・・ん?
 魔王の山?
 ・・・あるではないか!私の筋肉に負荷をかけられる方法が。
 いま私たちが拠点としているこの山を持ち上げたらいいのだ。
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