勇者パーティを引退したのに、勇者が連れ戻そうと追いかけ回してくるんだが

歩く、歩く。

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48話 セピアの歪み

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 ほの暗い部屋にて、党首はキングを迎えた。

「キングよ、首尾はどうだ?」

 キングはザナドゥの本拠地に戻り、党首に計画の進展を話した。
 レグザの石を持つセピアには仕込みをした。賢者ハワードと言えど、彼女の仕込みは解除できない。
 心が弱い愚か者は、王たる者に従うべき。魔王に誇りをすり潰されたセピアなど、キングにとっては文字通りの奴隷。ザナドゥに隷属する哀れな下僕に過ぎない。

「セピアは所詮、先の戦いで牙を折られた獣も同然。弱者に堕ちた女など、このキングの掌で滑稽に踊るしかありませぬ」
「どうやら心にくさびを打ち込めたようだな」
「容易く。いずれ奴は、自らレグザの石を差し出すでしょう。さすれば、ハワード・ロックも恐れるに足りず。党首様の足元にひれ伏す事になります」

「そうか。いよいよだ、待ち望んだぞ。塔の魔人を復活させるこの時を。ザナドゥはこのために作り出した組織なのだ」

 党首は振り向き、鎖につながれた魔人を見やった。
 魔人の傍らには、ハワードとカインの血に濡れたナイフが納められている。この二振りのナイフとレグザの石。これこそが塔の魔人を復活させるカギなのだ。

「魔王と同等の力を持つ存在。この魔人を復活させれば、賢者と勇者を屠る事が出来よう。邪魔者二人を排除した時こそが、俺による支配の始まりでもある」

 党首は顔を上げ、薄明りに素顔を映した。
 神を肩まで伸ばした、精悍な顔をした男である。年齢はハワードとそう変わらず、野心に満ちた瞳を持っていた。

「キングよ、この俺に忠誠を誓うな?」
「はっ、無論でございます」
「ならばその命、ザナドゥのために使うがよい。レグザの石を手に入れても、ハワード・ロックが全力で阻止しにかかるだろう。塔の魔人が復活するまで」
「わが命に賭けても、貴方様を守護いたします」
「よろしい。ザナドゥに忠実なる僕よ、俺の悲願を果たすため、全力を尽くすがいい」

 キングは恭しく首を垂れると、レグザの石を手に入れるべく出て行く。
 党首は窓に歩み寄り、外を眺めた。
 窓の外は深く、暗い闇が広がっている。すると目の前に青白い光が浮かび、禍々しい姿の魚が横切った。
 すると、塔の魔人が微かに動いた。まるで復活の時を待ちわびているかのように、全身の赤い刻印がドクンと蠢いた。

「そうか、そんなに勇者と賢者の血肉が欲しいか。待っていろ、すぐに極上品を用意してやる。まずは、賢者の肉をくれてやろう」

 遊びのつもりで誘いに乗った大賢者を、最初に殺す。その次は勇者カインの番だ。
 この世界はザナドゥの物。勇者と賢者に野望を邪魔されてなるものか。

「ハワード・ロック、まずは貴様だ。いくら魔王を倒した賢者と言えど、塔の魔人には勝てんよ。精々首を洗って待っていろ、ザナドゥに刃を向けた事、後悔するがいい」
 
  ◇◇◇

 巡回してみたはいいが、キングのヤローは出てこなかった。まぁ俺様が好き勝手暴れていたせいで出てこれなかったんだろうけどね。
 一旦兵団支部に戻って、【擬態】を解除する。セピアちゃんはため息をついて、

「今回は外れだったな。だが必ず奴は現れる、その時こそ、必ず捕縛する」
「まぁ、気負いすぎちゃだめだよ。リラックスして挑みな」
「そうはいかない。私は近衛兵団長だ、任務は必ず完遂しなければ」

 んー、なんだろうねぇ。妙に気負いすぎているなぁ。
 というか、俺様と一緒に居たら悪化したような気がする。随分とまぁ俺様の顔をちらちら見ていてな、確かに俺様はイケメンだが、そんな顔色をうかがうように眺めないでもらいたいぜ。
 呪いをかけられた様子もないし……あのヤロー、セピアちゃんに何しやがったんだ?
 こんな状態でキングに会わせたら、彼女が潰れかねないぜ。

「ハワード氏、お疲れ様です」

 クロノアを先頭に、ハワードガールズが出迎えてくれた。

「どうだった、キング出た?」
「うんにゃ、引きこもったままさ。どうせアジトに戻ってエロ本でも読んでるんだろうよ」
「ハワードではないのですから有り得ないでしょう。しかし、アジトですか」
「なんか気になる事でも?」

「はい。ずっと前から思っていたのですが、ザナドゥはどうやってラドラまで来ているのでしょうか」
「どゆこと?」
「ザナドゥはハワードをラドラに誘いました。それはつまり、この付近に本拠点、塔の魔人を保管している場所があるということです。ですが、そんな目立つ場所をこの近辺の、どこに隠しているのかと思いまして」
「確かに、ラドラ周辺は何度か調査しているが、ザナドゥの痕跡は一度も見つかってないな」

「どうせ移動式の拠点でも構えてんだろ」

 俺様の鶴の一声に、全員が顔を上げた。

「ラドラは交易が盛んで、人の多い場所だ。そんな場所に本拠地用意するのはデメリットしかない」
「そうでなくてもザナドゥの活動は活発ですし、人の出入りも激しいはずです。ラドラにあるなら、すぐに見つかっていてもおかしくないですね」
「場所を特定されても問題が無く、フレキシブルに組織を運用できる拠点。ここまでくれば、おのずと答えは出る。飛空艇でも改造してアジトにしているんだろうさ」

「なるほど……あんた、本当に頭いいわよね」
「賢者ってどう書くかご存じ? 賢い者って書くんだよ。まぁ移動式だろうが建物の壊し方は変わらねぇよ。わかるかな?」
「大黒柱を破壊すればいいんだろう?」

「ついでに廃材業者も頼んでおかないとな。まー、そんな話はどうでもいいとして、大事な話をしなくちゃならねぇ。アマンダたん、リサちゃん。今夜どこに泊まろうか」
「あっ、そう言えば宿取ってなかった!」
「気づけばもう夕刻にさしかかりますか。到着早々慌ただしくて、宿探しもしていませんね」
「なら、この支部に泊まればいい」

 セピアちゃんからの思わぬ提案だ、俺様まで驚いちまったよ。

「それっていいのかい? 俺達としてはありがたいが、立場上問題あるんじゃねーの?」
「一般人相手なら問題だろうが、貴公は勇者パーティの賢者だ。それなら多少目を瞑る事はできる。無理に事件に協力させている詫びだと思ってくれ」
「ハワード氏が滞在してくれるなら、俺も賛成です。英雄の冒険譚、一度でいいから聞いてみたかったんです!」
「クロノアもこう言っている。隊員たちにも上手く説明しておくさ」

 はしゃぐ弟を止めないか。言い訳みたいな説明だし、どうも時間を追うごとに悪化しているな。
 今の彼女は、言いようのない不安や焦りに支配されている。無意味に焦燥が強まっているのがその証拠だ。
 こりゃ、近くで見守っていた方がよさそうだな。

「んじゃまぁお言葉に甘えましょうかね、がるるを寝かせられる場所もある事だしな。ところで、酒とかはあるのかい? お客を迎えるってんならそれ相応のもてなしが必要だと思うんだけど」
「残念ながらそこまで面倒は見れん、酒は自分で買ってこい。クロノア、彼らの部屋を用意してやれ」
「了解しました! ハワード氏、あとでお邪魔しにいきますのでよろしくお願いします!」
「おいこら、人の許可なく勝手に話進めんな。何度も言うが、俺様は野郎と乳繰り合う趣味はねぇんだよ」
「ではまた後程!」

 って話聞いてねぇし。カインと同じ匂いのする奴だぜ、ったくよぉ。

「ハワード。巡回中にした話なんだが……」
「ん? 困った時は俺様を頼ってちょーだいって奴かい」
「あ、ああ……いや、なんでもない。あまり甘えすぎては、自分がダメになりそうだから……だけど、もし、もし貴公が必要になったら、その……本当に頼って、いいんだな?」
「いつでもおいで。ベッドの上でも最強の賢者だって証を体で教えてあげるよ」
「……恩に着る」

 俺様の口説き文句を聞き流すか、こいつは重症だな。
 アマンダたんとリサちゃんも、セピアちゃんの様子に気付いたようだ。

「ねぇハワード、団長さん変じゃない?」
「そうさなぁ。けどキングの奴が何かを仕掛けたようでもないんだ」
「呪いとかならあんたがすぐに分かるだろうし、アマンダはどう思う?」
「そうですね……何やら、焦っているように感じます。特にハワードに対してです。まるでハワードが消えてしまうのを、心から怖がっているような感じです」
「ふぅん、俺様が消えるねぇ……ま、キングの仕掛けなんざ気にしてもしゃあないさ。出たとこ勝負で対処するとしよう」

「そんなんで大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。ハワードが関わって、ハッピーエンドにならなかった試しがありますか?」
「分かってるねぇアマンダたん。そう言い切れるだけの実績が俺様にはあるだろう?」
「そだね。結局あんたが勝つって決まってるんだし、私達は見てるだけでいいもんね」
「ご理解いただき、感謝しますよっと」

 何があろうと問題ねぇよ。ハワード・ロックが居るんだからな。
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