勇者パーティを引退したのに、勇者が連れ戻そうと追いかけ回してくるんだが

歩く、歩く。

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47話 擬態する賢者

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 セピアは再びラドラの街へと繰り出していた。
 ペンダントに手を触れつつ、キングが居ないか警戒する。今の所は、大丈夫そうだ。

「あんまピリピリしてると勘づかれるぜ、ほら、笑顔笑顔」
「うむ……しかし貴公、いつのまにそんなスキルを」

 セピアは振り向き、ハワードの姿を見た。
 今の彼は、若い近衛兵団の姿になっている。はたから見れば二人は、市内を巡視している上司と部下にしか見えないだろう。

「この右腕は魔物からスキルを奪う力がある、それで【擬態】のスキルを手に入れたのさ」
「またしても強くなっているのか、貴公は……一体どこまで強くなれば気が済むんだ?」
「俺様の気が済むまでさ」

 欲張りな男である。ハワードとの距離がより遠のいていきそうで、セピアの胸がちくりと痛んだ。

「ま、ちょっと変わった形になるが、セピアちゃんとの念願のデートだ。君は王国内でも1,2を争う美女だもの、こうして一緒に歩けるのは光栄だねぇ」
「そ、そうか……いや、そう言われるとこちらも……悪い気はしないな」
「いやほんと、極上の桃尻がふりふり揺れる様を間近で見れるなんて最高のご褒美よ♪」

 ハワードが尻を撫でた直後、セピアの目突きが炸裂。哀れハワードは悶絶した。

「次やったら眼球破壊するぞ貴様」
「たった今破壊されたんですが……俺様でも目は痛いわよ……」
「悪ふざけもほどほどにしておけ。今の私と貴公は上司と部下だ。あまりなれなれしく接したらキングに感づかれるぞ」
「分かってますって。んじゃあ真面目に巡回行きますか」

 というわけでハワードとの巡視が始まったわけだが、彼が真面目に巡回をするはずもなく、行く先々で女を口説くわ、買い食いをするわ。自由気ままに動き回り、セピアは手綱を握れなかった。
 教会はよくまぁこんな問題児を抱え込んでいたものだ。セピアはつい感心してしまった。

「貴様なぁ! もっと真面目にやらんか真面目に!」
「怒ったら綺麗な顔が台無しだぜ、ほら、クロワッサン食べなよ」
「もがっ……直接口に突っ込む奴があるか!」

 それでも食べものを粗末にできない辺り、セピアの育ちの良さが伺える。きっちり食べきってから、人目に付かない場所でハワードに説教をした。
 でも全然堪えていない。右から左に聞き流して、まるで効果が無かった。

「はぁ……よくカインはこんな自由人と旅ができたものだ、無軌道すぎてついていけん」
「カインも結構自由人だぜ? 魔王討伐の旅でも俺様と一緒に悪ふざけしてたからな」
「似た者師弟め、心配していた自分が馬鹿馬鹿しくなる」
「ははっ、でも分かったろ? 俺様が右腕を失っても、なんも変わって無いってさ」

 ハワードは右手でサムズアップし、柔らかく微笑んだ。
 確かに、よく分かった。彼は右腕を失っても、一切後悔していないと。それどころか失ってから得た個性を喜び、人生を楽しんでいる事も。

「全く……腕を失って大人しくなってくれた方が、こっちも気が楽だというのにな」
「そうだな。俺様が落ち込んでいれば、互いの傷を舐めあえるもんな」
「そんな事は……」
「ほれほれ、足を止めたらいかんよ。巡回しなくちゃ、仕事仕事♪」

 ハワードにせかされ、セピアは歩き出した。今度は何をするのか警戒していたが、意外にもハワードは大人しくなり、真面目に巡回をしている。

「……急に静かになるのも逆に不気味だな」
「だろ? 俺様はいつでもどこでも、太陽のようにぎらついていないと魅力半減なんだ」
「そうだな。ハワード・ロックは確かに、太陽のような男だ。いつでも明るく、気高く、そしてブレない。……自分の大切な誇りを守れなかった私とは、大違いだ」
「卑屈になるのはもう止めな、弱音は心を錆びつかせる潮風さ」

 ハワードは目を細めた。

「君がそうまで弱っているのは、初めての挫折に戸惑っているからだろう?」
「…………!」

「図星のようだな。これまでの君は、近衛兵団の長として輝かしい活躍をしてきたんだろう。レベル100もある強者の自負もあったはずだ。だけど魔王を前に君は幾度も敗れ、俺様とカインに何度も救われ、何もできないまま全てが終わってしまった。そのせいで、自分が無力で弱い存在だと痛感してしまった。それが君のスランプの理由じゃないかな?」

「……貴公は、本当に鋭いな。その通りだよ。私は失敗などした事が無かった。自分がこの世で最も強いと思っていた。だが、魔王やカイン、そして貴公。私以上の力を持つ者たちが続々と現れ、目の前でついて行けない戦いを繰り広げた。それが未だに、衝撃的なんだ」

 セピアにとって、最初にして最大の敗北だった。その敗北から立ち直れずにいるのが、彼女の現状である。
 最強を自負していたのに、圧倒的な強者に簡単に覆され、仕えている主から「お前は役立たずだ」と言われ、彼女のプライドはズタズタだ。

「苦しいのなら、誰かに頼るといい。また立ち上がる為に寄りかかるのも強さの一つさ」
「今更誰かに頼るなんて、どうすればいいのか分からない……」
「簡単さぁ。君程の美女なら、こう言えばいいだけだよ」

 ハワードはいたずらっぽく笑った。

「意中の相手にすり寄って、「私を支えて」と甘えればいい。そうすりゃ、どんな男もすぐに君に手を貸してくれるとも。君には美女という特別切符がある、そいつを捨てるなんて勿体ないな」
「……それだけでいいのか? だが、下手に頼っては相手に迷惑が掛かるんじゃ」

「そんな事考えてたらショッピングなんてできないし、レストランにも寄れないぜ。店員さんに頼らなきゃ、俺達は服やバッグは勿論の事、ケバブだって買えやしないんだからよ」
「確かに、分かりやすい例えだ」
「でしょお?」
「……では貴公に甘えれば、私の頼みを聞いてくれるのか?」
「勿論。紐パンのリボンを解いてほしければ喜んで聞くぜ」
「くたばれ変態」

 最後の最後で台無しだ。こういうスケベな所さえなければ素直に尊敬できる男なのに。

「いや、スケベでアホなダメ賢者だからこそ、ハワードだものな」
「世の中完璧な人間なんかいないさ、欠点あるくらいが愛嬌あって丁度いいのよ」
「ふふ、貴公が言うと不思議と納得できる。……それで? この手はなんだ」
「Ouch!?」

 尻に伸びてきた手をつねり、セピアはハワードをにらんだ。
 油断するとすぐこれだ。全く、どうしてこんなエロ賢者を好きになってしまったのやら。

「けど、一緒に居ると落ち着く。本当に、不思議な男だな」

 なのになぜ、心のどこかで、不安を感じる自分が居るのだろうか。
 ハワードから離れたくない。彼から離れたら、胸が張り裂けそうになってしまう。

『無力な女め』

 キングの言葉が胸に突き刺さり、のどに閊えたように離れなかった。
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