ようこそ!アニマル商店街へ~愛犬べぇの今日思ったこと~

歩く、歩く。

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3匹目 ケヅメリクガメのリクさん

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 今日も私はちゃこさんさんと一緒に商店街を見回っています。
 人々は私を見ると、思い出したかのようにご主人様のお店へ向かってくれます。私はラーメン屋の看板犬としてテレビに紹介されたことがありまして、ちょっとした有名犬なんです。
 だからこうして散歩するだけで宣伝になるのでしょうね。ご主人様の役に立てて犬冥利に尽きます。

「ちゃこさんさんもお花屋さんの看板猫として映ればよかったのに」
「カメラは嫌いなのよ。なんだか魂とられそうな気がして……」
「ああ、分かりますね。レンズがぴかっとする感じが恐いです」
「でしょう? よくあんたテレビに映れたわね」
「ご主人様に頼まれたお仕事ですので」

 犬は誠実でなければなりません。嫌な事でもお仕事はしっかりこなしませんと。
 さてさて、本日はどこをお散歩しましょうか。考えながら角を曲がると、誰かにぶつかりました。

「おやおや、べぇ君じゃないか。久しぶりだねぇ」
「これはこれはりくさん。お元気でしたか?」

 ぶつかったのは、一抱えもあるとっても大きな亀さん、ケヅメリクガメのリクさんです。
 年齢はなんと70歳にもなるそうで、あにまる商店街で一番の年長者なんです。のっしのっしと力強く歩く姿は貫録がありまして、一種の神々しさすら感じます。

「リクじいさん、散歩するなら周りに気をつけなさいよ。あんたただでさえすっとろいんだから、怪我しても知らないわよ?」
「問題ないよ、ワシは亀だから丈夫なんだ。それに見ててごらん、凄く力も強いんだよ」

 リクさんはコンクリートブロックに鼻をつっこむと、一息にひっくり返してしまいました。
 凄い力です。私は大型犬ですが、コンクリートブロックをひっくり返す程の力はありません。

「ワシを襲う奴が来てもこの通り、返り討ちにしてやるさぁ。まだまだ若いモンには負けないさぁ」
「かっこいいですね、憧れてしまいますよ」
「ふんだ、年寄りが若者ぶって。それなら、私を乗っけても大丈夫よね」

 ちゃこさんさんはひらりとリクさんの背に乗りました。程よく暖かいのか、あくびをしたかと思うと寝てしまいます。

「すみません、ちゃこさんさんがご迷惑を」
「なんのなんの。若いのを背負うのもまた亀の役目。このまま散歩を続けるさぁ」
「ご一緒してもよろしいですか?」
「いいとも。べぇ君と一緒に散歩するのは、子犬の頃以来かなぁ?」

 私が子供の頃、リクさんはよく私の遊び相手をしてくれたのです。懐かしい思い出ですね。
 ゆっくりのんびり、リクさんとお散歩をしていると、お家が見えてきます。
 スポーツ用品店がリクさんのお家です。リクさんはこのお店の看板亀として現役で活躍しているんです。

「お帰りリク! それにべぇも来てくれたんだねぇ」

 店主の良枝さんが出迎えてくれます。とても元気のよい女性でして、会う度に私を撫でてくれるので、私は大好きな方です。

「ちゃこも一緒だなんて、今日はお客さんがいっぱいだねぇ」
「にゃふっ!? ちょっと、勝手に抱き上げないでよ!」

 でもちゃこさんさんは撫でられるのがお嫌いのようで、良枝さんの手から逃げてしまいます。私の後ろに隠れて「ふーっ!」と威嚇して……よっぽど嫌だったのでしょうね。

「あーあ、残念。ふられちゃった。でも二人とも、リクと散歩してくれてありがとう。お礼におやつをあげよう。飼い主さんには内緒だよ?」

 良枝さんは私達にりんごを出してくださいました。しゃきしゃきした歯ごたえがたまりません。犬も果物は大好きなんです。
 リクさんと一緒に撫でてもくれましたし、なんていい人なのでしょうか。遊んでくれる人は私大好きです。

「よかったなぁ二人とも。良枝さんは優しいだろう?」
「はい。美味しいリンゴ、ありがとうございます」
「ま、悪くはなかったかな」
「気に入ったようで何よりだ。さて、少し疲れたし、休むとしようかねぇ」

 リクさんは入り口の脇に座り込みました。すると子供が駆け寄ってきます。学校帰りなのか、ジャージを着ていますね。

「母さんただいま! リクもただいま。相変わらずのんびりしてるなぁお前」

 男の子がリクさんの甲羅を撫でました。良枝さんの息子さん、祐君です。
 祐君は私も撫でてくれると、荷物を店に置いてどこかへ行こうとします。そしたら。

「こら祐! 試験勉強はどうしたの!」
「帰ってからやるよ!」
「そう言ってやった試しがないでしょう! 今度赤点取ったら許さないからね!」

 親子の言い争いです。祐君は今年から中学生になったのですが、成績があまりよろしくないようですね。

「人間の世界は大変ですね。学校でよい成績を出さなければ生きていけないのでしょう?」
「そんな事はないさぁ。ワシは幾人もの子供たちを見てきたが、勉強が出来なくても皆立派に生きている。70年、欠かさず子供たちを、見守ってきたからねぇ」

 リクさんはしみじみとおっしゃいました。
 スポーツ用品店の看板亀として、リクさんは沢山の人々と出会ってきました。つぶらな瞳の奥には、私には計り知れない記憶がいっぱい宿っているのでしょう。

「ここには多くの子供たちが集まってくる。彼らを見ていると、どんな大人になるのかが楽しみでね。祐君も今はやんちゃだが、将来はきっと素晴らしい大人になってくれるだろう。そして良枝さんのような素敵な嫁さんを連れてくる。長年亀をやっていると、人を見る目も培われるものさ」
「いいですね、私も亀になりたいです。そうしたら、ご主人様とずっと一緒に居られますし」
「冗談言わないでよ、そんな事したら私と散歩できなくなるでしょうがっ」

 ちゃこさんさんに猫パンチされました。確かに、亀さんになってはちゃこさんさんと散歩をするのが難しくなりますね。

「あんたが犬に生まれたから、この私とどうぶつ防衛隊を結成できたの。この私と一緒に居られる事、光栄に思いなさいよっ」
「ほーう?」
「何よリクじいさん。別に私はこいつの事なんかなんとも思ってないんだからね」
「若いねぇ。いいかいちゃこ君、種族が違っても気持ちをきちんと伝えれば、必ず想いは届くよ。亀の歳の甲を信じなさい」
「だから私は何にも思ってないんだから! もう帰るよぼんくら!」

 ちゃこさんにつつかれて、私は岐路につきました。
 お花屋さんに差し掛かると、里琴さんとご主人様がお話されている姿が見えました。
 お二人は何やら、お出かけの予定をお話しているようです。二人ともお互いが好きなはずなのに、中々関係が進まないですねぇ。

「あーもうまだるっこしい。ぼんくら、ちょっとあんたの主人小突いてきなさい」
「わかりました」

 リクさんの言葉が蘇ります。気持ちをきちんと伝えれば、必ず想いは届くと。
 ご主人様のお尻を押して、里琴さんとくっつけます。お二人ともお顔が真っ赤になっていますね。
 私はリクさんと違って、多くの子供たちを見る事は出来ません。もしご主人様がご結婚されなければ、きっと私が先に居なくなってしまうでしょう。

 私は犬ですから、亀のようにのんびりと待つ事は出来ません。だから私もご主人様にきちんと気持ちを伝えたいと思います。
 早く里琴さんとつがいになってください。そしてお二人のお子様を早く見せてください。
 お二人のお子様なら、きっとかわいいに決まっていますから。



※ケヅメリクガメ
 最大で80センチ、体重55キロにまで育つ大型のリクガメ。アフリカ諸国の砂漠やサバンナ周辺に生息している。絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している)に指定されており、現在は養殖個体のみの取引が許されている。
 人懐こい性格であり、車のエンジン音を聞き分けて家族が帰ってくるのを理解するなど、非常に賢い亀である。
 ただし大型なので部屋丸まる一室を飼育室にする必要がある上、寿命が100年以上にもなるので、飼育のハードルは非常に高い。
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