ようこそ!アニマル商店街へ~愛犬べぇの今日思ったこと~

歩く、歩く。

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10匹目 冬のアニマル商店街

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 私にとって、過ごしやすい季節になりました。
 1月中頃、人々がもこもことした服に身を包む頃です。私は冬毛のおかげで程よく寒さが和らぐので、1年を通して一番心地よい時期なのです。
 特に今日は、なんとも嬉しい物が降り注いでいます。
 雪です。雪は私、大好きなんです。
 雪は最高の遊び道具でして、積もった雪を掘り返したり、齧って形を変えたり、寝転んで冷たさを楽しんだり。色んな楽しみ方が出来るんですよ。

「うわ、店長見てよ。雪降り始めたよ」
「こりゃ、明日は雪かきしないとダメだな。べぇも手伝ってくれよ」
「もちろんです」

 ご主人様と萌香さんのためにも、一生懸命雪を掘らせていただきます。

「うー寒い寒い……こういう時、べぇが居ると助かるねぇ」
「レトリバーの毛皮は温いからなぁ」

 お店を開く前に、ご主人様と萌香さんが抱きしめてくれました。この時期になるとこうしてスキンシップを取ってくれるので、より冬が好きになります。
 ただ、1年の中で最も退屈な季節でもあります。

「べぇー! 遊びに来たよ!」
「おやおや、クロさん。いらっしゃいませ」

 どしーんと、クロさんが突進してきました。彼女の毛は私よりもふかふかで温かく、触れてて気持ちがいいですね。

「流石はハスキー犬、日本の冬なんかへっちゃらか。よし、折角来てくれたお客さんだ。特別に奢ってやるよ」

 しばらくして、ご主人様が犬用どんぶりを持って来ました。
 苦心して作られた犬用ラーメンです。塩を使わず麺とスープを作り、たっぷりのお肉で出汁を取った、私達でも安心して食べられる逸品です。
 たまにしか食べられませんのでとても嬉しいです。思わずがっついてしまいました。
 スープは飲みやすいようにぬるめに温められていて、火傷の心配もありません。食べているとだんだんお腹が暖かくなってきました。

「美味しいねっ! 元気が出てきた!」
「やっぱりラーメンは冬に限ります」

 ラーメン屋の犬で良かったと思う瞬間です。無我夢中で食べ終わると、私達の周りに人だかりが出来ているのに気づきました。
「犬がラーメン食べてる、可愛い」
「ラーメンか……寒いし、丁度いいかも」
「よし、お昼はここで決まり!」

 開店と同時にお客様が殺到します。どうやら私達に触発されたみたいですね、あっという間に行列が出来ました。

「ふっふっふ、計算通りだぜ」
「店長って経営の才能あるんだね」
「じゃなきゃ自営業はやってられないからな。よーし仕事始めるか!」

 私もお仕事開始です。看板犬としてお客様をお迎えし始めます。今日はクロさんも手伝ってくれています。

「知らない人がいっぱいだー! 遊んで遊んで!」

 並んでいるお客様に片っ端からじゃれて回っています。遠くへ行きすぎると帰ってこれなくなるので、時々連れ戻しに行きます。
 クロさんのお手伝いもあってか、お客様が次から次へとやってきます。ご主人様の役に立ってると思うと、自分の仕事を誇りに感じます。
 お昼の営業時間はあっという間に終わり、ご主人様と萌香さんは夜の仕込みに移ります。散歩を終えた私は、次の営業時間まで自由なのですが……。

「うーん……」
「どうしたのべぇ」
「いや、今日もちゃこさんさんは来ないなぁと思いまして」

 12月に入ってから、ちゃこさんさんは来なくなりました。
 理由は寒いからです。猫さんは冬にとても弱いんです。寒くなってから彼女は一歩も外に出ていないようでして、久しく一緒にお散歩できていません。
 寒さに弱いのはちゃこさんさんだけではありません。

「クロさん、お散歩行きませんか?」
「うん行こ行こ!」

 私達は商店街の店々を回りますが、動物達はほとんど出歩いていません。モモイロインコのモモさんも、ケヅメリクガメのリクさんも、リスザルのリッキーさんも。どこにも居ません。
 冬はほとんどの動物にとって苦手な季節です。この時期になるとあにまる商店街は出歩く動物が少なくなり、どことなく寂しい景色が広がります。
 こうなるとお散歩の楽しさも半減です。過ごしやすい季節だからこそ、沢山の動物さんと会いたいのですけれど。

「なんだか物足りないねっ」
「冬ですから仕方ないですよ。お店に沢山のお客様が来てくれるのが幸いです」

 あにまる商店街に住んで5年になりますが、このもの寂しさは慣れませんね。
 しかし、1月ですか。思えば、ちゃこさんさんと出会ってもうすぐ1年になるんですね。

  ◇◇◇

 去年の2月、里琴さんがご主人様を訪ねてきました。
 彼女は衰弱した子猫を抱きかかえていまして、ご主人様にどうすればいいのか聞きに来られたようなのです。寒い中、ダンポールに放り込まれ、捨てられていたのだとか。
 すぐにお医者様を呼んで治療してもらい、回復するまで里琴さんが一生懸命看病していました。私はそのお手伝いに、毎日お花屋へ通って子猫に寄り添っていました。
 何を隠そう、その子猫こそちゃこさんさんなのです。
 ちゃこさんさんは1週間の闘病の末、元気になりました。それからは里琴さんがご主人様となり、お花屋さんの看板猫になったのです。

「それで4月からどうぶつ防衛隊を作って、私を隊員にしたんですよね」
「そうなんだー!」

 世間話ついでに、クロさんにちゃこさんさんとの出会いをお話ししました。
 あれから1年、時間の流れは早いですね。
 私も今年で6歳、人生の折り返しです。生きていられるうちに、沢山の思い出を作りたいのです。
 ですから春よ、早く来てください。
 そしたらまた、ちゃこさんさんとお散歩が出来るようになりますからね。
 
  ◇◇◇

「あー、やっぱ冬は部屋でぬくぬくするに限るわ」

 エアコンで暖かくなった部屋で丸くなる、これぞ至福のひと時よ。
 冬場、私達猫にとっては鬼門の季節。毛皮がふわふわな種類ならまだしも、私のように毛が短い猫じゃ外に出るのもままならない。それに、寒い季節は嫌な記憶もあるから出歩きたくないの。
 ただ、家に引っ込み続けるのも退屈だ。
 いつもはべぇと一緒にパトロールしてるけど、こう寒くちゃ出来ないし。

「ふぅ、ちょっと休憩」

 里琴が戻ってきた。肩に乗っかると、優しく抱きかかえてくれる。
 里琴に抱かれるのは大好きだ。顎を撫でて貰うのが一番気持ちいい。

「そういえば、うちに来てもうじき1年になるんだね。覚えてる? べぇが毎日看病しに来たの」

 勿論覚えている。弱った私に寄り添って、寂しくないよう舐めて、励ましてくれていた。
 嫌な記憶の中にある、数少ない良い記憶だ。その記憶があるから私は、べぇと一緒に居ようと思うようになった。
 犬と猫、種族こそ違うけど、私はべぇが好きだ。

「もしかしたら今年、べぇと一緒に居られるようになるかもしれないよ」
「えっ?」
「いや、まだ私の妄想のお話だけどね。ははは……もしかして私、拗らせすぎ?」

 まぁ……戸棚にぎっしり詰まった少女漫画を見ればね。
 ともあれ里琴も28歳。結婚適齢期なんだし、とっととラーメン屋の店長と結ばれなさい。
 そうすれば私もべぇと一緒に居られるからね。待ってるわよ。
 

※アメリカンショートヘアー
 猫の中でも根強い人気を誇る種類。ルーツは17世紀のピューリタンが船のネズミを駆逐するために持ち込んだ猫が始まりとされている。
 明るく好奇心旺盛な性格で、体も頑丈なので飼いやすい猫である。単独行動を好み、だっこされるなど過度のスキンシップは好まない。
 猫の中でもパワフルなので、時にやんちゃが過ぎる事もある。家具などを壊されないよう注意すべし。
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