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11頭目(前編)キリンのリーオー
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3月に入り寒さが和らぎ始める頃、商店街は梅の花の香りで包まれています。
冬の間は家にこもっていた動物達も、少しずつ外出してきます。寂しかった冬も終わり、もうすぐ春が始まります。
私はと言いますと、季節が変わり始めたためか、換毛期が始まりました。
私はいつもこのぐらいの時期から6月にかけて毛が生え変わり、暑い夏に備えているんです。なので気が付くと抜け毛が沢山落ちていまして、ご主人様にご迷惑をかけてしまいます。
「いつもすみません、ご主人様」
「はは、べぇのブラッシングをするのも楽しいもんだ。いつも萌香に取られてるからな」
今日はご主人様の定休日です。疲れた体を休めなくてはいけないのに、私のお世話で迷惑をかけていると思うと申し訳なく思います。
「換毛期も始まったし、ストレス発散にあそこへ行くか?」
「あそこですか? いいですね、行きましょう」
「わんわん」と鳴いて返事をすると、ご主人様は腿をたたいて立ち上がりました。
足早に、商店街の中央部へ向かいます。そこにはあにまる商店街の目玉スポット、スーパー銭湯ジラフがあるのです。
このスーパー銭湯は、ペット同伴で入れる嬉しい場所なのです。沢山の動物達がお風呂を求め、ご主人様と一緒にやってきています。
「あっ、大将さん?」
「里琴さん! 来ていたんですね」
なんたる偶然でしょう、里琴さんもお風呂にやってきたようです。それに、彼女を抱きかかえています。
「あんたじゃない、久しぶりね」
「ちゃこさんさん。お元気そうで何よりです」
何ヵ月ぶりでしょうか。ちゃこさんさんに会えたのが嬉しくて、思わず里琴さんにのしかかってしまいました。
「喜びすぎだよべぇ、尻尾がちぎれそう。ちゃこと会えなくて寂しかったんだね」
「それはもう、とても寂しかったですよ」
「へぇ、そう。私と会えなくて寂しかったかぁ。ま、来週から暖かくなるみたいだし。またパトロールでも再開しようかなー」
ちゃこさんさんも満更ではなさそうです。来週からお散歩再開、楽しみです。
「ちゃこさんさんもお風呂に来たんですね」
「本当は嫌なんだけどね。猫は汗をかかないし、いつも舐めてるから綺麗だし……でも私も換毛期に入って抜け毛が増えてね、軽く浴びに連れてかれたのよ」
ちゃこさんさんはため息をつきました。猫さんはどうして水浴びが嫌いなんでしょう、私は大好きなんですけど。
ともあれちゃこさんさんとのお風呂です、心行くまで楽しみましょう。
◇◇◇
動物の入浴コーナーは銭湯の奥にあり、ご主人様と同伴で入るよう義務付けられています。
お着換えしたご主人様と一緒に向かうと、様々なお風呂が出迎えてくれます。
大きくてプールのようなお風呂、緩い流れがあるお風呂、いい香りのするお風呂……どれから入りましょう、悩んでしまいますね。
「湯気でぬくぬく出来るわねぇ、これはこれで気持ちいいわ」
「ちゃこさんさんもお風呂行きませんか?」
「ここで眺めてるだけでいいわ、水浴びするのはやっぱ嫌」
うーん、残念です。では私は早速、流れるお風呂へ飛び込みます。
大きな飛沫を立てるのが爽快でたまりません。深さは私の膝にかかるくらいですので、安心して楽しめます。流れに乗って歩くと気持ちいいですね。
「べぇだ! べぇー!」
「わぷっ」
誰かが飛びついてきました。こんな事をするのは、クロさんしかいません。
「大丈夫かべぇ」
「クロちゃん、やりすぎだよぉ。すみませんねうちの子が迷惑を」
クロさんのご主人様がやってきました。クロさんは私にじゃれついています。お風呂で楽しいのと私に会えて嬉しいのとで、大興奮しているようです。
「わーいわーい! なんかよく分からないけど楽しいし嬉しいなー! でもなんで嬉しいんだっけ?」
「興奮しすぎです、落ち着きましょう」
「……なんか面白くない」
里琴さんの腕の中で、ちゃこさんさんがうずうずと動き始めます。
里琴さんから下りて走り出し、私達に向かってきます。
「とりゃあ!」
そして勢いよく、私に飛びついてきました。
あまりの勢いに私は倒れ込んでしまいます。そしたらクロさんも面白がって飛びついて、てんやわんやの大乱闘に。
「ちょっとちゃこ!? そんな暴れたら溺れちゃうわよ!」
「助けよう! べぇ、今行くぞ!」
大騒ぎした私達は、ご主人様たちに救助されました。
羽目を外しすぎましたね、反省しなければ。
気を取り直して、いい香りのするお風呂に移りました。
ここは浅くお湯が張られているので、伏せてお腹を濡らします。じんわりと体がぬくもって気持ちがよくなります。
「あらぁん、べぇちゃん達も来てたのねん」
「おや、ピン子さん」
ぶひぶひとピン子さんがやってきました。私達よりも先に入っていらしたのでしょう、体がうっすら濃いピンクになっています。
「わてくしは週一でこちらに来ているのねん。何しろブタだから綺麗好きなのねん、常にこの美しい体を保たなくちゃいけないのねん」
「このナルシストめ」
「本当の事を言ってるだけなのねん」
ピン子さんは誇らしげに鼻を鳴らしました。
それにしても、ピン子さんは程よくぬくもっていらっしゃるようで、良い香りが立ち上っています。温まったせいか体も柔らかくなっているようで……そう、まるで程よく煮あがったお肉のよう……じゅるり。
「ちょっとちょっと、べぇちゃん目が恐いのねん」
「はっ! 失礼しました角煮さん。じゅるり」
「そうそうタレでじっくり煮こんだから味が染みてって何を言わせるねん」
「前テレビでやってた東坡肉、おいしそうだったなー! じゅるり」
「そうそう皮はむっちり脂はとろーりお肉は柔らかホロホロって誰が中華料理なのねん」
「ところで今日のおすすめ部位はどこ? じゅるり」
「うーんイチボかなーっていい加減にするのねん肉食獣ども」
怒ったピン子さんに体当たりされました。痛いです。
理性を抑えないと本当に食べてしまいそうです、気を付けないと。
「そういえば、リーオーってそろそろでしたっけ?」
「ああ、確かそんな話をしてましたね。まだ外に居るのかな」
「リーオー……ああ、確かにそんな時期なのねん」
ピン子さんが鼻を鳴らしました。リーオーさんはこの銭湯の看板動物です。
暫くお会いしていませんが、元気にされているでしょうか。特に今はより気を付けないといけない時期ですし。
「露天に行ってみましょう」
ご主人様に連れられて、私達は露天風呂へ向かいました。
銭湯は四角形の建物で、中央には大きな中庭があります。その中でのびのびと暮らしている、二頭の動物さんがいらっしゃいます。
「リーオー! オーロー! 元気なのねーん」
「ピン子ー。今日も来てくれたんだ」
ピン子さんの呼びかけにやってきたのは、キリンさん夫婦です。旦那さんがオーローさん、奥さんがリーオーさん。いつもお二人で寄り添っている仲良しさんです。
「キリンなんて飼ってるのこの銭湯」
「おっきいー! 首長いー! 頭に乗ってみたいな!」
ちゃこさんさんとクロさんは初めて見るキリンさんに驚いています。私の知る限り、あにまる商店街の動物の中では一番大きな動物でしょうね。
リーオーさんとピン子さんは互いに顔をこすり合わせています。とても仲がよろしいようで、ほほえましい光景です。
「べぇ君も久しぶり。元気にしていたようだね」
キリンご夫婦が首を近づけてきました。近くで見ると迫力が違います。
「オーローさん、リーオーさんのお加減はいかがです?」
「妻を気遣ってくれてありがとう。私は心配で心配で……もう気が気じゃないんだ」
オーローさんはオロオロと中庭をうろつきます。かなりの不安症で、ちょっとした事でオロオロするからオーローと名付けられたそうです。
「ごめんなさいね、うちの人いつもあんな感じなの」
「頼りにならない男は放っておくのねん。リーオーは具合大丈夫なのねん?」
「さっきからあんた達、何を聞いてるの?」
「私ね、お腹に赤ちゃんが居るのよ」
「赤ちゃん! じゃあもうすぐ生まれるんだ!」
「そうなの。多分2、3日くらいかな」
リーオーさんは嬉しそうです。新しい家族が増えるのは喜ばしい事、私も尻尾が動きます。
「1年以上も待ったんだもの、会えるのが今から楽しみでしょうがなくて。でもあの人は」
「あああ大丈夫だろうか……彼女と子供にもしもの事があったらと思うと……やはり若気の至りでやらかしたのは失敗だっただろうか……いやしかし……」
「ここ最近はずっとああなの。オスの癖に意気地なしね」
「自分の事じゃないからこそ心配なのですよ」
オーローさんの不安が移ったのか、私達もソワソワしてしまいます。ちゃんと無事に生まれるといいのですけど。
「ほら、いい加減落ち着きなさいよ。お客様の前でみっともない」
「だけどねぇ……」
「こんな時こそ旦那らしく堂々としなさい。貴方それでもサバンナ出身なの?」
「私も君も神奈川県の動物園出身だろう?」
「気分の問題よ」
リーオーさんが主導権を握っています。お尻に敷かれているようですね。
「でも出産は気を付けるのねん。特にリーオーは初産なのねん、万一の事もありうるのねん」
「皆心配性なんだから。出産の時はオーナーも立ち会ってくれるし、何の問題もないわよ」
「でもねぇ……」
「楽しみにしていて。子供が生まれたら皆に紹介するからね」
リーオーさんは元気よく言われました。後ろではオーローさんがずっとオロオロしっぱなしです。
◇◇◇
「リーオーはわてくしのお友達なのねん。もう3年の付き合いになるのねん、ちゃんと生まれるといいのだけどねん」
帰り道に、ピン子さんは心配そうにお話されました。
私達にできる事は全くないので、もどかしいですね。
「あと2、3日って言ってたのねん、その日に立ち会いに行ければいいのねん」
「無理でしょ。出産日は厩舎も施錠されるでしょうし、お祈りするしかないわ」
「ご主人もお手伝いされるそうですし、私達は吉報を待ちましょう」
キリンの赤ちゃん、とても可愛らしいのでしょうね。会うのが楽しみです。
「キリンの出産、私達もなんだかそわそわしてきますね」
「そうですね。特に一昨日、キリンの赤ちゃんが死んだってニュースが流れてましたしね」
『えっ?』
「生まれてから数時間立てなかったんですよね。結局衰弱しちゃって、可哀そう……」
「子供が中々出てこれなくて、母子ともに亡くなった事もあるみたいですね。出産の時は人も手伝えませんし、どうなることやら……」
ご主人様と里琴さんの会話が、私達を不安にさせました。
キリンさんの出産は難しいようです。しかも人の手伝いが出来ないとなると……。
「ねぇ、本当に大丈夫なのかしら?」
「人のお手伝いがないなんて大変だね」
「嫌なのねん、リーオーが死んじゃうのは嫌なのねん!」
「これは、ちょっと様子を見に行った方がいいかもしれませんね」
私達に何ができるかは分かりません、ですが何もしないよりいいに決まっています。
リーオーさんが出産される際、お手伝いをしに行きましょう。
冬の間は家にこもっていた動物達も、少しずつ外出してきます。寂しかった冬も終わり、もうすぐ春が始まります。
私はと言いますと、季節が変わり始めたためか、換毛期が始まりました。
私はいつもこのぐらいの時期から6月にかけて毛が生え変わり、暑い夏に備えているんです。なので気が付くと抜け毛が沢山落ちていまして、ご主人様にご迷惑をかけてしまいます。
「いつもすみません、ご主人様」
「はは、べぇのブラッシングをするのも楽しいもんだ。いつも萌香に取られてるからな」
今日はご主人様の定休日です。疲れた体を休めなくてはいけないのに、私のお世話で迷惑をかけていると思うと申し訳なく思います。
「換毛期も始まったし、ストレス発散にあそこへ行くか?」
「あそこですか? いいですね、行きましょう」
「わんわん」と鳴いて返事をすると、ご主人様は腿をたたいて立ち上がりました。
足早に、商店街の中央部へ向かいます。そこにはあにまる商店街の目玉スポット、スーパー銭湯ジラフがあるのです。
このスーパー銭湯は、ペット同伴で入れる嬉しい場所なのです。沢山の動物達がお風呂を求め、ご主人様と一緒にやってきています。
「あっ、大将さん?」
「里琴さん! 来ていたんですね」
なんたる偶然でしょう、里琴さんもお風呂にやってきたようです。それに、彼女を抱きかかえています。
「あんたじゃない、久しぶりね」
「ちゃこさんさん。お元気そうで何よりです」
何ヵ月ぶりでしょうか。ちゃこさんさんに会えたのが嬉しくて、思わず里琴さんにのしかかってしまいました。
「喜びすぎだよべぇ、尻尾がちぎれそう。ちゃこと会えなくて寂しかったんだね」
「それはもう、とても寂しかったですよ」
「へぇ、そう。私と会えなくて寂しかったかぁ。ま、来週から暖かくなるみたいだし。またパトロールでも再開しようかなー」
ちゃこさんさんも満更ではなさそうです。来週からお散歩再開、楽しみです。
「ちゃこさんさんもお風呂に来たんですね」
「本当は嫌なんだけどね。猫は汗をかかないし、いつも舐めてるから綺麗だし……でも私も換毛期に入って抜け毛が増えてね、軽く浴びに連れてかれたのよ」
ちゃこさんさんはため息をつきました。猫さんはどうして水浴びが嫌いなんでしょう、私は大好きなんですけど。
ともあれちゃこさんさんとのお風呂です、心行くまで楽しみましょう。
◇◇◇
動物の入浴コーナーは銭湯の奥にあり、ご主人様と同伴で入るよう義務付けられています。
お着換えしたご主人様と一緒に向かうと、様々なお風呂が出迎えてくれます。
大きくてプールのようなお風呂、緩い流れがあるお風呂、いい香りのするお風呂……どれから入りましょう、悩んでしまいますね。
「湯気でぬくぬく出来るわねぇ、これはこれで気持ちいいわ」
「ちゃこさんさんもお風呂行きませんか?」
「ここで眺めてるだけでいいわ、水浴びするのはやっぱ嫌」
うーん、残念です。では私は早速、流れるお風呂へ飛び込みます。
大きな飛沫を立てるのが爽快でたまりません。深さは私の膝にかかるくらいですので、安心して楽しめます。流れに乗って歩くと気持ちいいですね。
「べぇだ! べぇー!」
「わぷっ」
誰かが飛びついてきました。こんな事をするのは、クロさんしかいません。
「大丈夫かべぇ」
「クロちゃん、やりすぎだよぉ。すみませんねうちの子が迷惑を」
クロさんのご主人様がやってきました。クロさんは私にじゃれついています。お風呂で楽しいのと私に会えて嬉しいのとで、大興奮しているようです。
「わーいわーい! なんかよく分からないけど楽しいし嬉しいなー! でもなんで嬉しいんだっけ?」
「興奮しすぎです、落ち着きましょう」
「……なんか面白くない」
里琴さんの腕の中で、ちゃこさんさんがうずうずと動き始めます。
里琴さんから下りて走り出し、私達に向かってきます。
「とりゃあ!」
そして勢いよく、私に飛びついてきました。
あまりの勢いに私は倒れ込んでしまいます。そしたらクロさんも面白がって飛びついて、てんやわんやの大乱闘に。
「ちょっとちゃこ!? そんな暴れたら溺れちゃうわよ!」
「助けよう! べぇ、今行くぞ!」
大騒ぎした私達は、ご主人様たちに救助されました。
羽目を外しすぎましたね、反省しなければ。
気を取り直して、いい香りのするお風呂に移りました。
ここは浅くお湯が張られているので、伏せてお腹を濡らします。じんわりと体がぬくもって気持ちがよくなります。
「あらぁん、べぇちゃん達も来てたのねん」
「おや、ピン子さん」
ぶひぶひとピン子さんがやってきました。私達よりも先に入っていらしたのでしょう、体がうっすら濃いピンクになっています。
「わてくしは週一でこちらに来ているのねん。何しろブタだから綺麗好きなのねん、常にこの美しい体を保たなくちゃいけないのねん」
「このナルシストめ」
「本当の事を言ってるだけなのねん」
ピン子さんは誇らしげに鼻を鳴らしました。
それにしても、ピン子さんは程よくぬくもっていらっしゃるようで、良い香りが立ち上っています。温まったせいか体も柔らかくなっているようで……そう、まるで程よく煮あがったお肉のよう……じゅるり。
「ちょっとちょっと、べぇちゃん目が恐いのねん」
「はっ! 失礼しました角煮さん。じゅるり」
「そうそうタレでじっくり煮こんだから味が染みてって何を言わせるねん」
「前テレビでやってた東坡肉、おいしそうだったなー! じゅるり」
「そうそう皮はむっちり脂はとろーりお肉は柔らかホロホロって誰が中華料理なのねん」
「ところで今日のおすすめ部位はどこ? じゅるり」
「うーんイチボかなーっていい加減にするのねん肉食獣ども」
怒ったピン子さんに体当たりされました。痛いです。
理性を抑えないと本当に食べてしまいそうです、気を付けないと。
「そういえば、リーオーってそろそろでしたっけ?」
「ああ、確かそんな話をしてましたね。まだ外に居るのかな」
「リーオー……ああ、確かにそんな時期なのねん」
ピン子さんが鼻を鳴らしました。リーオーさんはこの銭湯の看板動物です。
暫くお会いしていませんが、元気にされているでしょうか。特に今はより気を付けないといけない時期ですし。
「露天に行ってみましょう」
ご主人様に連れられて、私達は露天風呂へ向かいました。
銭湯は四角形の建物で、中央には大きな中庭があります。その中でのびのびと暮らしている、二頭の動物さんがいらっしゃいます。
「リーオー! オーロー! 元気なのねーん」
「ピン子ー。今日も来てくれたんだ」
ピン子さんの呼びかけにやってきたのは、キリンさん夫婦です。旦那さんがオーローさん、奥さんがリーオーさん。いつもお二人で寄り添っている仲良しさんです。
「キリンなんて飼ってるのこの銭湯」
「おっきいー! 首長いー! 頭に乗ってみたいな!」
ちゃこさんさんとクロさんは初めて見るキリンさんに驚いています。私の知る限り、あにまる商店街の動物の中では一番大きな動物でしょうね。
リーオーさんとピン子さんは互いに顔をこすり合わせています。とても仲がよろしいようで、ほほえましい光景です。
「べぇ君も久しぶり。元気にしていたようだね」
キリンご夫婦が首を近づけてきました。近くで見ると迫力が違います。
「オーローさん、リーオーさんのお加減はいかがです?」
「妻を気遣ってくれてありがとう。私は心配で心配で……もう気が気じゃないんだ」
オーローさんはオロオロと中庭をうろつきます。かなりの不安症で、ちょっとした事でオロオロするからオーローと名付けられたそうです。
「ごめんなさいね、うちの人いつもあんな感じなの」
「頼りにならない男は放っておくのねん。リーオーは具合大丈夫なのねん?」
「さっきからあんた達、何を聞いてるの?」
「私ね、お腹に赤ちゃんが居るのよ」
「赤ちゃん! じゃあもうすぐ生まれるんだ!」
「そうなの。多分2、3日くらいかな」
リーオーさんは嬉しそうです。新しい家族が増えるのは喜ばしい事、私も尻尾が動きます。
「1年以上も待ったんだもの、会えるのが今から楽しみでしょうがなくて。でもあの人は」
「あああ大丈夫だろうか……彼女と子供にもしもの事があったらと思うと……やはり若気の至りでやらかしたのは失敗だっただろうか……いやしかし……」
「ここ最近はずっとああなの。オスの癖に意気地なしね」
「自分の事じゃないからこそ心配なのですよ」
オーローさんの不安が移ったのか、私達もソワソワしてしまいます。ちゃんと無事に生まれるといいのですけど。
「ほら、いい加減落ち着きなさいよ。お客様の前でみっともない」
「だけどねぇ……」
「こんな時こそ旦那らしく堂々としなさい。貴方それでもサバンナ出身なの?」
「私も君も神奈川県の動物園出身だろう?」
「気分の問題よ」
リーオーさんが主導権を握っています。お尻に敷かれているようですね。
「でも出産は気を付けるのねん。特にリーオーは初産なのねん、万一の事もありうるのねん」
「皆心配性なんだから。出産の時はオーナーも立ち会ってくれるし、何の問題もないわよ」
「でもねぇ……」
「楽しみにしていて。子供が生まれたら皆に紹介するからね」
リーオーさんは元気よく言われました。後ろではオーローさんがずっとオロオロしっぱなしです。
◇◇◇
「リーオーはわてくしのお友達なのねん。もう3年の付き合いになるのねん、ちゃんと生まれるといいのだけどねん」
帰り道に、ピン子さんは心配そうにお話されました。
私達にできる事は全くないので、もどかしいですね。
「あと2、3日って言ってたのねん、その日に立ち会いに行ければいいのねん」
「無理でしょ。出産日は厩舎も施錠されるでしょうし、お祈りするしかないわ」
「ご主人もお手伝いされるそうですし、私達は吉報を待ちましょう」
キリンの赤ちゃん、とても可愛らしいのでしょうね。会うのが楽しみです。
「キリンの出産、私達もなんだかそわそわしてきますね」
「そうですね。特に一昨日、キリンの赤ちゃんが死んだってニュースが流れてましたしね」
『えっ?』
「生まれてから数時間立てなかったんですよね。結局衰弱しちゃって、可哀そう……」
「子供が中々出てこれなくて、母子ともに亡くなった事もあるみたいですね。出産の時は人も手伝えませんし、どうなることやら……」
ご主人様と里琴さんの会話が、私達を不安にさせました。
キリンさんの出産は難しいようです。しかも人の手伝いが出来ないとなると……。
「ねぇ、本当に大丈夫なのかしら?」
「人のお手伝いがないなんて大変だね」
「嫌なのねん、リーオーが死んじゃうのは嫌なのねん!」
「これは、ちょっと様子を見に行った方がいいかもしれませんね」
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