ようこそ!アニマル商店街へ~愛犬べぇの今日思ったこと~

歩く、歩く。

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9匹目 リスザルのリッキーさん

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「じゃあまたねーべぇー!」
「いつでもおいでください」

 クロさんを見送り、私はぺたんと伏せました。
 朝ごはんの後でクロさんが遊びに来てくれたのですが、彼女と遊ぶのは楽しい反面疲れますね。私よりもエネルギーが有り余っている方ですから、どうしても振り回されてしまいます。
 それはそれでいいのですが、遊んだ後は眠くなってしまいます。

「お疲れのようね」

 ちゃこさんさんが屋根からひらりとやってきました。クロさんを認めたのですけれど、やっぱり苦手なようでして。彼女が居なくなった隙を狙ってやってくるんです。

「クロは散歩にでも行ったのね」
「はい。どうもこの時間がお散歩の時間のようでして」
「そう。じゃあ1時間以上は余裕があるわけね」

 クロさんは毎日2回、1時間ずつのお散歩をされています。私は朝と夜の30分ずつのお散歩で満足できるのですが、クロさんはそれだと物足りないみたいですね。

「クロが居ない今がチャンスね。いつもの見回りに行くわよ」
「わかりました」

 私がその程度のお散歩で満足できるのは、ちゃこさんさんとのお散歩があるからでしょうね。
 という事で、ちゃこさんさんを背負ってお散歩に行こうとした時でした。

「お久しぶりデースセニョール」
「ぎみょっ!」

 またしても屋根から誰かが下りてきて、私の背中に乗っかります。その拍子にちゃこさんさんが潰されてしまいました。

「おやおや、本当にお久しぶりですねリッキーさん」
「ワーオ、ミーを覚えていてくれたんデースね。感謝感激雨あられデース」

 ひらりと私の前にやってきたのは、リスザルのリッキーさんです。花柄のお洋服がとてもよく似合うお猿さんです。
 つい最近まで病院に入院されていたのですが、無事に退院できたようですね。

「セニョールのおかげでミーは一命を取り留めまーシタ、改めてお礼を申したくてこうしてはせ参じた次第デース」
「いえいえ、私は当然の事をしただけです」

 一ヵ月前、私は道中で行き倒れていたリッキーさんを見つけました。
 随分弱っていた様子だったので、ご主人様の下へ連れて行ったんです。そしたら病気になっていた事がわかったそうなんです。

「難病だったため、治療は大変だったのデースが……セニョールが早期に発見してくれたため、どうにか対処できたそうなのデース。セニョールは命の恩人デース!」
「そんな、お顔を上げてくださいリッキーさん」

 跪いてお礼を言われてしまうと恐縮してしまいます。

「不肖リッキー、この御恩は絶対に忘れまセーン。ミーに出来る事があったら何でも申してくだサーイ」
「だったら……私にのしかかった事をまず謝りなさい」

 ちゃこさんさんが怒っています。どうやら腰を打ったようで、痛そうに尻尾で撫でています。

「おやおや? ミーのせいで怪我をしたのデースか? それはすみまセーン。反省」
「本当に反省してんのかこの猿は……」
「セニョールはウォーキングのタイムでぃーすか? ミーもトゥギャザーしてもオーケー?」
「ええ、一緒に歩きましょう。入院している間のお話も伺いたいですから」

 という事でリッキーさんとお散歩する事になりました。私達の周りをちょろちょろ走り回っていて、クロさんのように元気のよい方です。

「入院中はずーっとケージにインされてまして、とても退屈デース。具合も悪くて動けまセーンし、最悪の1ヵ月デース」
「それは災難でしたね」
「それより猿、あんたはどうして行き倒れてたの? あんた飼い猿でしょ」
「ミーはあんなのを主とは認めまセーン」

 リッキーさんはぷいとそっぽを向いてしまいました。

「ミーが具合悪くなった時、連中はただおろおろするばかりで何にもしてくれまセーンでした。もう頼りにならないからミーでどうにかしようと脱走したのデースが、病には勝てず倒れてしまいマーシて」
「そこをこいつに助けられたわけね」
「もうあんな家なんかコリゴーリデース。今後はセニョールの主にお世話になりたいデースね」
「それは困りますね、ラーメン屋さんの看板動物は私だけでいいのですから」

 ご主人様から賜った重要なお仕事です、何人たりとも譲れはしません。

「ですがリッキーさん、本当にリッキーさんのご主人様は何もしてくれなかったのでしょうか。もしかしたら、お医者様が見つからなくておろおろしていたのではないでしょうか」
「そんな事はありえまセーン! 飼い主なら医者の1人や2人見つけていて当然デース! ミーの不調に対応できない奴なんて主と認められまセーン!」

 リッキーさんは随分とご立腹のようですね。お猿さんは頭が大変良い動物です、人の行動や表情を機敏に感じ取れるんです。
 ですが賢すぎるあまり、早とちりしてしまうことも多いようでして。

「あ、リッキー居た! 探したよー」

 リッキーさんのご主人様がやってまいりました、ジャージ姿の若い男性です。よっぽど一生懸命探していたのでしょうね、汗だくです。

「退院したばかりなんだから、大人しくしていないとダメだよ。ほら帰ろう」
「嫌デース! お前なんか主じゃありまセーン、ミーに触るんじゃありまセーン!」

 リッキーさんはあろう事か、ご主人様の指に噛みつきました。
 ご主人様の指が流血してしまいます。これは見ていられません。

「リッキーさん、なんてことをしたのですか!」
「セニョール?」

 思わず怒鳴り、リッキーさんをたたいてしまいました。しかし、今回ばかりは黙ってはいけません。

「貴方のご主人様をごらんなさい、汗だくになって、一生懸命貴方を探していたのですよ。素敵な飼い主様じゃありませんか。貴方は気を失っていて気付かなかったかもしれませんが、私のご主人様が貴方の病院を探す時も苦労されていました。お猿さんを診れるお医者様はとても少ないそうなんですよ。きっと病院に連れて行くのが遅れたのも、お医者様が見つからなかったからでしょう。本当に貴方が嫌いなら、脱走したリッキーさんを探すなんてしません。貴方を真剣に愛しているからこうして探しているのです。ご主人様への不満をこぼす前に、まず貴方自身がご主人様をよく見るべきです」

「せ、セニョール……」

 つい怒ってしまいました。ですが、こんなにもリッキーさんを心配してくれるご主人様なのに、自分勝手に傷つけたのが許せなかったのです。

「まずはお家にお帰りなさい。そしてご主人様を今一度見てあげなさい。まずはそれからです」
「……分かったノーネ」

 リッキーさんはご主人様に連れられ、帰っていきます。
 どうか仲直りをしてくれるといいのですけど。

「あんたも怒る事があるのね」
「時々は。でも怒るのは気分が悪くなりますね」

 どうかリッキーさんがご主人様を認めてもらえるよう、祈るばかりです。

  ◇◇◇

 あれから数日後のことです。
 ちゃこさんさんと看板のお仕事をしていると、お昼時のラーメン屋にリッキーさんがやってきました。ご主人様の肩に乗って。

「ハーイセニョール、先日はお世話になりマーシた」
「その様子ですと、ご主人様を認められたようですね」
「ハーイ。セニョールの言う通り、暫く主を観察しマーシた。毎日きちんとミーの家を掃除して、手間暇かけてご飯を用意して……思えば、病気になる前もずっとミーのお世話を懸命にしてくれてマーシた。セニョールの言葉は正しかったデース、主はミーを大切に思ってくれているようデース」
「でしょう? 動物が嫌いな人は動物を飼ったりしません。私達はご主人様を信じるべきなのです」
「目から鱗デース。今日は仲直り記念の食事会デース、ペット用ラーメン、楽しみにしてマース」
「ええ、どうぞご堪能ください」

 ペットも楽しめるよう、私のご主人様が苦心して開発したペット用ラーメン。試食担当の私が保証します、とても美味しいですよ。

「あんたの説教がよっぽど効いたみたいね」
「仲直りしてくれて本当に良かったです。私もほっとしました」
「普段怒らない奴が怒ったらそりゃ効果覿面よね。でも見直したわよ、もしあんたが動かなかったら私が怒ってた所だったもの」
「ちゃこさんさんもご主人様がお好きですものね」

 ご主人様が好きだからこそ、ご主人様の気持ちも分かるというもの。
 私達がご主人様を愛しているように、ご主人様も私達を愛してくれている。それがペットと飼い主の関係ですからね。



※リスザル
 ペットとしてポピュラーな猿。大人しく人懐こい性格をしており、とても賢く、叱ると自分が悪い事をしてしまったと理解する事が出来る。
 感情豊かで、心を許すと飼い主にべったりになって甘えてきたりと、全身で感情表現してくれる所も魅力的である。
 しかし飼育難度は数ある動物の中でもトップクラスに高い。
 飼い主を常に観察しており、自身に相応しくないと判断されると途端に反抗的な態度をとるようになったり、頻繁に噛みつくなどの攻撃を仕掛けてくる。トイレの躾は全く出来ないため、家のいたるところに糞をしてしまう。類人猿ゆえに人間と同じ病気(エイズやインフルエンザなど)にかかる可能性がある。希少な動物のために診れる医者が少ない等、気軽に飼育の出来る動物ではない。
 家族として迎える際は、きちんとリスザルについて調べ、きちんと責任を取る覚悟を決めるのが何よりも重要である。
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