ようこそ!アニマル商店街へ~愛犬べぇの今日思ったこと~

歩く、歩く。

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13頭目 サラブレッドのソニックバスターさん

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 今日も多くのお客様を迎え、少し疲れました。
 ご主人様が午後の準備をしている間、伏せて少しお昼寝をします。スープのいい匂いが鼻をくすぐり、自然と涎が出てきました。

 こつん、と鼻先に固い何かが当たります。フリスビーのような形をした、屋外用のお掃除ロボです。
 あにまる商店街では沢山のお掃除ロボが置かれていて、私達動物が粗相をしてもすぐに綺麗にしてくれるんです。
 手慰みにロボットを突いて遊んでいたら、ちゃこさんさんがやってきました。

「何ダレてるのよ、みっともない」
「おや、いらっしゃいませ。ちょっと休憩中でして」
「あんた働きすぎなのよ、動物なんだし無理して働かなくても」

 いいんじゃない、と言いかけて、ちゃこさんさんがロボットに運ばれていきます。丁度お掃除ロボに乗っていたようですね、そのままぐるぐる回っています。

「乗り心地はいかがです?」
「ちょっと楽しいかも」
「それは何よりです」

 私もホームセンターのカートに乗せられるの好きですし、気持ちは分かります。なんだか楽しいんですよねあれ。
 ……というより、ちゃこさんさんを見ていたらうずうずしてきました。なんでしょう、ボール遊びをしている時のようなわくわく感がしてきます。

「ねぇ、なんでちょっと前かがみになってるの? 狩猟犬みたいな恰好してるけど」
「私、先祖は狩猟犬だったので」
「どんくさいあんたに狩猟犬が務まるとは思えないけど」
「ボール遊びは得意なんですよ」
「あんた私を獲物だと思ってるでしょ? 今にも襲い掛かってきそうなんだけど」

 だんだん意識がクリアになってきます。私の血に秘められた、野生の本能が今呼び起こされようと―――

「べぇー、煮干し食べるか?」
「煮干し!? 食べます食べます!」

 んまいです。普段食べられないごちそうなだけに味わいもひとしおです。

「うん、あんたに野生の本能はないから安心しなさい」
「そうですね、野生じゃこうして煮干しも食べられませんし」
「悲しい性ね、私は煮干し程度じゃなんとも思わないわよ」
「ちゃこもいたのか、お前も煮干し食べるか?」
「食べる♡」

 ちゃこさんさんも煮干しを食べてご機嫌です。だって美味しいですもん。

「さて、煮干しも食べたし……もっかい乗ろ」

 ちゃこさんさんはまたお掃除ロボに乗りました。お気に召したようですね。

「勝手に移動してくれるから楽なのよね。それに結構楽しいし」
「なら、僕にも乗ってみるかい?」

 上から声がしました。気付かない間に、お店の前に馬車が止まっていたようです。
 栗毛が美しい、サラブレッドのソニックバスターさんです。
 あにまる商店街では、観光事業の一環として2人乗りの小さい馬車が運用されているんです。引退した競走馬の皆さんが引退後のお仕事として勤めていて、ソニックバスターさんは3年前にやってきたお馬さんなんです。

「お仕事お疲れ様です。いつも重そうな車を引いて、大変ですね」
「もう慣れたよ。競走馬やってた頃より気楽でいいしさ」
「競走馬時代は勝ってたの?」

「あるけど、あんまりさ。ソニックバスターなんてヒーローみたいな名前を付けられたけど、正直名前負け感半端なかったよ。頑張っても中位を取るのがやっとだったし、上位を取れたのも運が良かったって所が多かったし」
「でも、運も実力の内といいますし。謙遜なさらなくても」

「ありがとべぇ。けどレースじゃ勝てなきゃ意味がないんだ。埼玉の競馬場で細々とやってたけど、5歳ごろから思うように走れなくなってね。お腹もずっと痛かったし、辞め時だったんだろうな。もう未練はないさ」

 競走馬の皆さんは胃潰瘍が持病だとお聞きします。繊細な動物ですので、レース前の極度のストレスに負けてしまうそうですね。
 商店街に来た頃、ソニックバスターさんはいつも重苦しい顔をされていました。ですが今はのびのびとしていて、笑顔も見られます。

「べぇが居てくれたから体も心も楽になったんだよ。何しろ君が寄り添って散歩してくれて、励ましてくれたからね。あれにどれだけ助けられたことか」
「どういたしまして」

 私は単にお馬さんが好きだから、一緒に居ただけなんですけど。それは言わぬが花というやつですね。

「一緒に歩かないか? 次のお客が来るまで暇だしね」
「ではご一緒させていただきます。ご主人様、行ってきますね」
「おっ、出かけるんだなべぇ。気を付けろよ」

 ご主人様に撫でて貰ってから、ソニックバスターさんとお散歩に行きます。もちろんちゃこさんさんも、ソニックバスターさんの背中に乗ってご一緒します。

「おっ、おっ、おっ。程よい揺れがにゃんとも。視線も高くていいわね」
「落ちないでくれよ、僕から落ちたら猫でも痛いよ」
「猫のバランス感覚をなめてもらっちゃ困るわね、余裕よ余裕」

 なんて言った直後、落下しました。背中を強打したようで凄く痛そうです。

「背中、舐めましょうか」
「……お願い……」
「だから言ったのに。猫なのにうかつだなぁ」
「あんたが馬なのに大雑把な歩き方するからよ!」
「酷い言い分だな。ま、いいけどね」

 ソニックバスターさんは笑い飛ばします。本人曰く、商店街に来てからおおらかな性格になったそうでして。

「競走馬時代は荒れていたんですか?」
「まぁね。僕らサラブレッドは勝たないと存在価値がないから、必死だったよ。生まれた頃は沢山の仲間が居たし、競走馬時代も同期は沢山いた。けど気付いたら皆、居なくなっていた。この意味が分かるかい?」
「はい……」
「そう暗くなるなよ。まぁ、そんな理由もあって生き残るために必死だったよ。でもここはいいね、無理に走らなくても馬主は優しくしてくれるし、ゆったりした空気で殺伐としていないし。僕にとっては天国みたいな場所さ」
「ソニックバスターさんが幸せなら、よかったです」
「けど思い切り走りたいとか思わないの? 今の仕事って歩いてばかりだし、元競走馬なら物足りないと思うんだけど」
「それはあるよ。けど」

 ソニックバスターさんが言いかけた時、悲鳴が聞こえました。
 顔を上げると、おばあさんが倒れています。そして逃げ去る男の人も。

「ひったくりよ! 誰か、誰かー!」
「げっ、こっち来てるわよあいつ」
「犬ころが、どけ!」

 痛い! 泥棒に蹴飛ばされ、倒れてしまいました。

「ちょっと、大丈夫?」
「なんとか……」
「べぇ……あいつ、僕の前でべぇを、虐めたな」

 ソニックバスターさんの目つきが変わりました。
 直後、馬車を切り離して走り出します。素晴らしい速さです、あっという間に泥棒に追いついて、背中に体当たりしました。

「ぐえっ!」
「べぇは大事な友達なんだ。そいつを傷つけた奴は、誰であろうと許さないよ」

 ソニックバスターさんは泥棒の前で足を踏み鳴らし、威嚇します。すっかり泥棒は委縮して、へたり込みました。
 程なくして警察が来て、泥棒はお縄に付きます。それにしてもかっこよかったですね、走る姿は美しくて、思わず見とれてしまいました。

「怪我はなかったかい?」
「大丈夫ですよ、お医者様にかからなくてもよさそうです」
「もぅ、本当に鈍臭いんだから。心配かけないでよ。にしても、速かったわね」
「ふふ、確かに僕はもう競走馬じゃない。だけど、そのプライドがなくなったわけじゃないんだ。僕の大事な友達が傷つけられたのなら、遠慮なく走るとも」

 誇らしげに話すソニックバスターさんは、凛々しくて格好いいです。
 全然名前負けしていません。ソニックバスターさんは私にとって最高のヒーローです。
 こんな素敵な友人を持って、私も心から誇らしくなります。やっぱり、お馬さんは最高ですね。


※サラブレッド
 イギリスにて競馬用に交配された馬。走ることのみに特化して生み出されており、その速度は60~70km。2005年にアメリカのオハイオ州で行われた400mのレースでは84kmもの速度を記録した事もある。
 ただし走りに特化させすぎたせいで怪我をしやすく、物音や閃光に弱いなど、心身ともに非常にデリケート。競走馬の8割はストレスで胃潰瘍に苦しんでいる。
 競走馬としての役割を終えると、優秀な馬は種馬や乗馬クラブ等に転職するが、大抵の場合は食肉や飼料用に出荷されてしまう。
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