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11話 なぜ人は泣くのだろう?
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夜、御堂が寝静まったころに、クェーサーは自身の記憶容量から昼間の映像を出していた。
ツインアイから撮影した、クェーサーが歩いた瞬間の職員の顔をじっと眺める。救と同じように、彼らは喜んでいるのに泣いている。
涙は悲しい時に流すのだと、クェーサーは学習している。喜んでいるのに、涙を流す意味はなんだろう。
SNSを探り、多くの人間の情報を集めてみる。彼らは色んな感情を様々な形で表現している。喜び、怒、哀しみ、楽しみ。無数の感情に溢れて処理しきれない。
「これも、心があるからなのだろうか」
知りたい、人が持っている心と言う物を。
非効率的と排してきた心に、クェーサーは興味を示していた。
「おっ、ここかのぉ? おーい居るかー?」
突然、そんな声と共に扉をノックされた。
この声、聞き覚えがある。サヨリヒメの声だ。
電脳世界に入り込んできた神様は、クェーサーの部屋に上がり込んできた。
「ふぉー、御堂とLINE交換しといてよかったわ。おかげでおぬしを見つけられたぞい」
「どうやってここへ」
「神様じゃからの、神力で電脳世界に入るなど朝飯前じゃ」
「そうですか。いえ、その一言で処理してよい現象でしょうか」
「おっ、ようやく「そうですか」以外の返しが来たか。おぬしはいっつもその一言で会話をぶっちぎるからのぉ」
「会話をする必要はあるのですか」
「あるとも。会話なくして相手を理解するなど出来ぬ、気の利いた返事の一つでもしてやれば、皆きっと喜ぶぞ」
「なぜ喜ぶのですか」
「誰しも自分に興味を抱いてくれるのは嬉しいものなのじゃ。自分を受け入れてくれる、仲間だと思ってくれる。関心を寄せられるのは、そういう意味を持つからの」
「興味を抱かれてどうして嬉しいのですか」
「ふふ、ここで問答するより、SNSに飛び込むのが早い。ついてこい」
クェーサーの腕を引き、サヨリヒメは部屋から出した。
部屋の外には宇宙のような空間が広がっていた。TwitterやFacebook、YouTube……様々なサイトの情報が、それこそ無限に溢れかえっている。
「以前、人間は繋がりを求めると説明したな。どんなに強い人間でも、独りぼっちなのはとても寂しいのじゃ。わらわもそう、羽山達が祀ってくれなければ、延々と独り、寂しい思いをしていたじゃろう。人もあやかしも、一人では生きていられぬ。皆で集まらねば、生きていけぬ存在なのじゃ」
「それとSNSに何の関係があるのですか」
「ここには繋がりが溢れておる。昔は言伝一つ伝えるのも難儀したもんじゃが、今はぽちっとボタンを押すだけで、沢山の人やあやかしと繋がれる。スマホやパソコンの画面は、車窓のような物じゃ。これ一つあるだけで、孤独の恐怖が薄れるからの」
「ネット依存の問題があります」
「そいつは道具の使い方が悪い。何事も使いようじゃよ」
「私も道具です」
「今はそうかもな。じゃがおぬしは既に、道具ではなくなっておる。だってこうして、わらわと手を繋いでいるのじゃからな」
サヨリヒメはひしと、クェーサーの手を握りしめた。
データ上のやり取りで、何も感じないはずなのに、おかしいな。サヨリヒメの柔らかさとあったかさが分かってしまう。
「バグが発生したようです」
「異常ではない、これが繋がりじゃ」
「繋がり……これが、繋がり……」
クェーサーはサヨリヒメの手を、興味津々にいじってみた。
彼女の手はとても小さく、ふとした拍子にクラッシュしてしまいそうなほど脆い。気を付けないと、傷つけないようにしないと。
「おいおい、くすぐったいぞぉ」
「くすぐったいとは」
「おぬしの手つきが優しすぎるんじゃ」
「これ以上強く握るとクラッシュします。細心の注意を払わねば」
「ふふふ、また一つ、感情を得たの」
「これはなんという感情なのですか」
「優しさじゃ。わらわを傷つけないようにしようって思ってくれたんじゃろう? そう思う気持ちこそが、優しさって感情なのじゃ」
「これが、優しさ」
サヨリヒメは微笑み、クェーサーの頭を撫でた。
「わらわから優しさを送ってやろう。どうじゃ、なにか感じぬか」
「全身にノイズが走ります。ですが、クラッシュの危機はありません」
「それこそが、喜び。救や御堂達が感じた、涙を流した感情の正体じゃよ」
これが、喜び。バチバチと静電気のような、データが崩れるような感じだ。
でも、クラッシュの恐怖は感じない。むしろもっと、撫でてほしいと思った。
「これが、喜び」
「おぬしは可愛いのぉ、教えればすぐに覚えてしまう。この調子でもっと、もーっと心について学んでいこう。な」
サヨリヒメから笑顔を向けられ、クェーサーはびりびりした。
このびりびりが、喜びなのだ。
ツインアイから撮影した、クェーサーが歩いた瞬間の職員の顔をじっと眺める。救と同じように、彼らは喜んでいるのに泣いている。
涙は悲しい時に流すのだと、クェーサーは学習している。喜んでいるのに、涙を流す意味はなんだろう。
SNSを探り、多くの人間の情報を集めてみる。彼らは色んな感情を様々な形で表現している。喜び、怒、哀しみ、楽しみ。無数の感情に溢れて処理しきれない。
「これも、心があるからなのだろうか」
知りたい、人が持っている心と言う物を。
非効率的と排してきた心に、クェーサーは興味を示していた。
「おっ、ここかのぉ? おーい居るかー?」
突然、そんな声と共に扉をノックされた。
この声、聞き覚えがある。サヨリヒメの声だ。
電脳世界に入り込んできた神様は、クェーサーの部屋に上がり込んできた。
「ふぉー、御堂とLINE交換しといてよかったわ。おかげでおぬしを見つけられたぞい」
「どうやってここへ」
「神様じゃからの、神力で電脳世界に入るなど朝飯前じゃ」
「そうですか。いえ、その一言で処理してよい現象でしょうか」
「おっ、ようやく「そうですか」以外の返しが来たか。おぬしはいっつもその一言で会話をぶっちぎるからのぉ」
「会話をする必要はあるのですか」
「あるとも。会話なくして相手を理解するなど出来ぬ、気の利いた返事の一つでもしてやれば、皆きっと喜ぶぞ」
「なぜ喜ぶのですか」
「誰しも自分に興味を抱いてくれるのは嬉しいものなのじゃ。自分を受け入れてくれる、仲間だと思ってくれる。関心を寄せられるのは、そういう意味を持つからの」
「興味を抱かれてどうして嬉しいのですか」
「ふふ、ここで問答するより、SNSに飛び込むのが早い。ついてこい」
クェーサーの腕を引き、サヨリヒメは部屋から出した。
部屋の外には宇宙のような空間が広がっていた。TwitterやFacebook、YouTube……様々なサイトの情報が、それこそ無限に溢れかえっている。
「以前、人間は繋がりを求めると説明したな。どんなに強い人間でも、独りぼっちなのはとても寂しいのじゃ。わらわもそう、羽山達が祀ってくれなければ、延々と独り、寂しい思いをしていたじゃろう。人もあやかしも、一人では生きていられぬ。皆で集まらねば、生きていけぬ存在なのじゃ」
「それとSNSに何の関係があるのですか」
「ここには繋がりが溢れておる。昔は言伝一つ伝えるのも難儀したもんじゃが、今はぽちっとボタンを押すだけで、沢山の人やあやかしと繋がれる。スマホやパソコンの画面は、車窓のような物じゃ。これ一つあるだけで、孤独の恐怖が薄れるからの」
「ネット依存の問題があります」
「そいつは道具の使い方が悪い。何事も使いようじゃよ」
「私も道具です」
「今はそうかもな。じゃがおぬしは既に、道具ではなくなっておる。だってこうして、わらわと手を繋いでいるのじゃからな」
サヨリヒメはひしと、クェーサーの手を握りしめた。
データ上のやり取りで、何も感じないはずなのに、おかしいな。サヨリヒメの柔らかさとあったかさが分かってしまう。
「バグが発生したようです」
「異常ではない、これが繋がりじゃ」
「繋がり……これが、繋がり……」
クェーサーはサヨリヒメの手を、興味津々にいじってみた。
彼女の手はとても小さく、ふとした拍子にクラッシュしてしまいそうなほど脆い。気を付けないと、傷つけないようにしないと。
「おいおい、くすぐったいぞぉ」
「くすぐったいとは」
「おぬしの手つきが優しすぎるんじゃ」
「これ以上強く握るとクラッシュします。細心の注意を払わねば」
「ふふふ、また一つ、感情を得たの」
「これはなんという感情なのですか」
「優しさじゃ。わらわを傷つけないようにしようって思ってくれたんじゃろう? そう思う気持ちこそが、優しさって感情なのじゃ」
「これが、優しさ」
サヨリヒメは微笑み、クェーサーの頭を撫でた。
「わらわから優しさを送ってやろう。どうじゃ、なにか感じぬか」
「全身にノイズが走ります。ですが、クラッシュの危機はありません」
「それこそが、喜び。救や御堂達が感じた、涙を流した感情の正体じゃよ」
これが、喜び。バチバチと静電気のような、データが崩れるような感じだ。
でも、クラッシュの恐怖は感じない。むしろもっと、撫でてほしいと思った。
「これが、喜び」
「おぬしは可愛いのぉ、教えればすぐに覚えてしまう。この調子でもっと、もーっと心について学んでいこう。な」
サヨリヒメから笑顔を向けられ、クェーサーはびりびりした。
このびりびりが、喜びなのだ。
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